ノルウェーのスヴァールバル世界種子貯蔵庫(Photo by Shutterstock)
文:山田山太
人類だけでなく多くの動植物を含めた生物たちは、いつまで地球上で生きることができるのだろうか。さまざまな問題点やリスクが顕在化し、この疑問も決して非現実的ではならなくなってきた。
そんな中、米アリゾナ大学工学部にて航空宇宙学、機械工学の研究を行うジカン・タンガ助教授ら研究チームが、今年3月に開催されたIEEE Aerospace Conferenceで行った発表で明かした構想が大きな注目を集めている。
地球上での大災害が起きた時に備えて
研究チームが提唱する「現代のグローバル保険」と呼ばれるそのプロジェクトは、地球上で大災害が起きた時に備えて、約670万種の動植物の種子、胞子、精子、卵子のサンプル、計3億3500万個を、月に作った施設で冷凍保存しておくというものだ。
月の地下に約200もの溶岩洞があり、直径100mほどの洞窟が30〜40億年もの間手つかずの状態で存在している。太陽からの放射線や隕石、地表の温度変化の影響を受けにくく、研究チームはサンプルを保管する施設を建設する場所としてはピッタリだと考えている。サンプルは施設内でマイナス約180℃で保存し、月面に設置されたソーラーパネルから電力を供給する。
このアイデアは決して真新しいわけではなく、現在でもノルウェーのスヴァールバル世界種子貯蔵庫には、100万種を超える植物の種子がすでに保存されている。しかしタンガ教授によると、地球上での保管は、海面上昇を伴う気候変動の他、世界的パンデミックや大規模な核戦争のリスクがあり、非常に高リスクだという。一方で、月ではこのような懸念がない。
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