EVENT | 2021/03/10

時価総額1000億円超えも輩出する「東北スタートアップ」の躍進。10年間起業支援を続けたMAKOTO創業者が語る最前線【特集】3.11 あれから10年

MAKOTOキャピタルが主催したイベント「東北グロースアクセラレーター」での一幕。写真右が竹井氏
東日本大震災から今年...

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MAKOTOキャピタルが主催したイベント「東北グロースアクセラレーター」での一幕。写真右が竹井氏

東日本大震災から今年で10年。津波・原発事故がもたらす甚大な被害を受けた、農業・漁業を中心とした一次産業の苦境はしばしば語られる一方、その他の産業、特に新規産業=起業の動きは断片的な個別企業の動きを伝えるにとどまっている印象もある。

今回話をうかがった、株式会社MAKOTOの創業者(創業時は一般社団法人として設立)で代表取締役の竹井智宏氏は、震災発生を受けてそれまで務めていたベンチャーキャピタルを退職し独立。各種ファンドを通じてこれまで20社強への投資実績があり、創業支援に関わった企業は数百社に上る実績を誇る。

今回は同社の10年の歩み、そしてこの10年の「東北スタートアップ事情」をうかがった。

聞き手・文・構成:神保勇揮

竹井智宏

株式会社MAKOTO代表取締役

1974年生まれ。東北大学生命科学研究科博士課程卒。仙台のベンチャーキャピタルに勤務していた際に東日本大震災を経験。2011年7月にMAKOTOを設立し、東北の起業家・経営者の支援を開始。 日本初の再チャレンジ特化型ファンド「福活ファンド」を組成。また東北のスタートアップに投資する「ステージアップファンド」を組成し、投資育成活動を展開。起業環境作りにも力を入れ、仙台市と「東北グロースアクセラレーター」、JPモルガンと「Tohoku Rebuilders」など育成プログラムを実施。東北大学の起業家育成にも取り組んでいる。 2011年、米国カウフマン財団のカウフマンフェローに選出。2015年、日本ベンチャーキャピタル協会より「地方創生賞」を受賞。2016年、日本財団より、日本で10人の「ソーシャルイノベーター」に選出。 2017年Forbesより、日本を元気にする88人に選出。2019年、全国イノベーション推進機関ネットワークより「堀場雅夫賞」受賞。東北大学特任准教授(客員)。

起業支援だけでなく「倒産した福島の社長」への再チャレンジファンドも運営

竹井智宏氏

―― まずMAKOTOの設立の経緯と、当初の思いを改めて教えてください。

竹井:設立は2011年7月で、東日本大震災を契機としているのですが、私自身、震災の数年前に妹を自殺で亡くしてしまったという経験がありました。そこから「世の中がだんだん悪くなっちゃっているな、どうにかしなきゃいけないな」というような危機感がずっとありました。

そうして「何をどうすればいいんだろう?」とモヤモヤ考えていたところに東日本大震災が起こりました。これを契機に経済的に困窮してしまう家庭もたくさん出るだろうなと思ったんです。

その時に私たちが妹を亡くした時に感じたような、非常に悲しい不幸な状態がまた広がってしまうのではないか、それを何とか阻止するために世の中をより良く変えていこうと立ち上げたのがMAKOTOです。

震災の後、志を持った起業家がたくさん生まれ、皆が「自分たちが東北をどうにかしていくんだ」といった強い思いを持っていました。彼らをいかに力づけるか、という考えのもとで起業家支援からスタートした会社なんですけれども、今ではもう少し概念を広げ「事業を創造する会社」だとに位置付けています。起業家支援をやるとともに自分たちでも事業をどんどん作っていこうということです。

現在は起業家支援事業だけではない、複数の会社が寄り集まってグループを形成しておりまして、直近の売上で言うと19億円ぐらいの規模になっています。

―― グループの中で「この会社のこの事業が収益の柱になっている」というものはあるのでしょうか?

竹井:それぞれ独立採算的に収益を上げているので、「特にこれが」という事業は無いですね。また、グループと言っても必ずしも資本関係がないパターンも6社中3社あります。例えば株式会社BIZVALというM&A支援の会社は、社長・社員の皆さんともどもとても良好な関係を築いておりまして、東北でのM&A、事業承継のアドバイスはぜひこの会社に、というかたちで一緒にやっていこうという意味での「グループ」という表現を使っています。

今ではMAKOTOキャピタルという会社でやっているベンチャーキャピタル事業でファンドを初めて立ち上げたのは創業4年後の2015年です。やはりいきなりファンドを立ち上げようと思っても実績も信用もない状態で、初めは給料を切り詰めて手金を作って、それを起業家に使ってくれと言って投資するというところからスタートしました。

―― それまでの4年間というのは、どんな事業をやられていたんですか。

竹井:コワーキングスペースを運営したりとか、クラウドファンディングのプラットフォームと立ち上げて起業家を支援する、ということをしていました。

そうした取り組みがある程度評価されまして、2015年に福島銀行さんと一緒に「福活ファンド」を立ち上げることができました。このファンドは非常に変わっていまして、一度倒産を経験した福島の会社の社長さんだけに投資するという、再チャレンジに特化しており、これまでに10社ほどに投資をしています。

また2017年には株式ではなくTK出資によって一定期間のレベニューシェアをいただく「シェアファンド」も立ち上げたのですが、これは福活ファンド以上に実験的な取り組みで、まだ表立っては動いていません。

現在、最も活発に動かしているのは2018年に立ち上げた「ステージアップファンド」で、東北のスタートアップに投資しています。ステージアップファンドではKDDIさんとパートナーシップを組んで、非常に大きな出資もいただいています。

ーー ステージアップファンドでは、どのような企業に投資をされてきたのでしょうか?

竹井:現在では10社に投資しています。

ステージアップファンドの投資先一覧

いくつか例を挙げると、仙台の「Adansons」という東北大学発のスタートアップは、アルゴリズム段階から革新性のある独自技術「参照系AI (AI-R) 」を活用したAIスタートアップ。あとは花巻の「ポケットマルシェ」という会社も全国的に知名度が高まっていますね。全国の農家・漁師が消費者とコミュニケーションを取りながら販売できるアプリを運営しています。

加えて、仙台市さんと組んで東北全域からスタートアップを発掘する「東北グロースアクセラレーター」を複数年、運営しています。こちらは年40件以上の募集があり、うち平均6件を採択、資金調達実績も平均して年間2億1000万円ほどあります。

同じように東北大学さんとも「東北大学スタートアップガレージ」という取り組みもやらせていただいていまして、「2030年前に東北大発ベンチャーを100社に!」を目標に学内に相談・支援がいつでもできる拠点を作り、ビジネスプランコンテストも毎年実施しています。私自身も起業教育の授業を学内で受け持っており多い年は100人以上生徒が集まりました。また、「東北大学VEX」という起業部の支援もしており、すでに資金調達を果たしたスタートアップも生まれました。

大学発スタートアップに勢い。国内ユニコーン企業7社のうち3社に東北が深く関連

経産省HP「大学発ベンチャー実態調査とチームビルディング事例集を取りまとめました」より

ーー 統計を読んでも農業・漁業など一次産業の苦境はこの間ずっと伝わってきましたが、当たり前ながら「何もかも全部ダメ」というわけではなく、こうした新しい動きも出てきているんですね。

竹井:「東北は起業不毛の地だ」なんて言われることもありましたが、「J-Startup」という経産省のスタートアップ支援プログラムで2019年に追加認定された49社のうち、9社が東北発の会社なんです。首都圏以外の割合ではトップだと思います。東北大学発のスタートアップも、2017年度は86社だったものが2019年度には121社と35社増えました。経産省の調査によると、この数は全国で4位ということです。

そして現在、日本には7社のユニコーン企業(時価総額1000億円以上)があるのですが、そのうち新水素エネルギーの実用化を目指すクリーンプラネット(東北大学発の技術を基に起業)、紙やプラスチックの代替となる新素材「LIMEX(ライメックス)」を開発したTBM(全ての工場が東北にある)、「人工クモの糸」を開発したSpiber(本社が山形県)の3社が東北にゆかりがあるんです。

ーー 時価総額の高いメガベンチャーというと、ITプラットフォーム系や金融系あたりが多い印象がありましたが、いずれも素材・エネルギー系なんですね。

竹井:そうですね。新技術をベースにした起業が多いという特徴はあるかもしれません。東北の人はあまり声高に自分たちのことを言わない傾向があるのでそこまで目立たないんですけれども、私たちが代わりにアピールしなければと思って意識的に言うようにしております。

―― 御社が関わり始めてから、少なくとも東北大学発のスタートアップは顕著に増えたということですが、これは何が要因だったとお考えでしょうか?

竹井:当社が関わっていない領域も含めて、まず震災の直後、1~2年頃の東北の開業率は全国平均よりも高かったりするんです。いつ終わるか分からない命の中で「この仕事は本当にやりたかったんだっけ?」みたいなことで考えさせられて、「だったらやりたいことをやろう」と飛び出してみるような人が非常に多かったんですね。加えてUターンもしくはIターンで東北にどんどん若い人が入ってきており、そのまま居ついて起業したという人も結構います。

―― 「東北」と一括りにするにはあまりにも広いすぎるかとは思いますが、いわゆる「○○バレー」というような、起業家が集まっている地域などはあったりするのでしょうか?

竹井:投資ができるようなスタートアップが多いという意味で言うと、東北大学の周りとか、あとは山形には慶應義塾大学の最先端バイオテクノロジーの研究所である鶴岡タウンキャンパスがあるんですけど、その周りにバイオベンチャーがいくつか生まれていたり。あとは会津大学がIT系に強いので、その周りに生まれたりということはあります。

加えて「投資を呼び込んでガンガン成長する」ということだけを志向しないスタートアップであれば、沿岸部の津波被害が多かった地域にもすごく多いですし、東北全域で起業家が生まれている実感はあります。

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