LIFE STYLE | 2021/02/18

コロナ禍でも価格上昇!?アメリカ住宅価格が値上がりを続ける「特殊事情」【連載】幻想と創造の大国、アメリカ(23)

Photo by Shutterstock

渡辺由佳里 Yukari Watanabe Scott
エッセイスト...

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「高すぎて買えないので地方へ」の動きも加速

この現象で注目を集めるようになったビジネスがある。

アメリカで住宅購入をする時に最も重要なルールは「ロケーション、ロケーション、ロケーション」だ。犯罪が少なく、公立学校のランキングが高く、住民の平均年収が高い町の住宅はそうではない地域の物件よりもかなり高い。だが、そうした地域の物件の方が価格の上昇率も高く、不動産投資として価値がある。私たち夫婦が家を購入した時にも仲介のエージェントが「同じ値段を払うのであれば、裕福な町で、豪邸が並んでいる通りの最も安い家を買うべきだ」と教えてくれた。

この「ロケーション、ロケーション、ロケーション」の原則を打ち破るのが「Cheap Old Homes(チープ・オールド・ホームズ)」という不動産紹介サイトだ。長い不況に苦しんでいるアメリカ中西部に行けば、東海岸や西海岸の大都市近郊で数億円もするようなお屋敷が1000万円以下で手に入る。それらの地域では人件費も低いので、多少問題があっても増改築が安くできる。都市部の近郊で「スターター・ホーム」が買えないミレニアル世代にとっては非常に魅力的な発想の転換なのだ。このサイトがオープンしたのは2016年なのだが、パンデミックが始まってからインスタグラムのアカウントフォロワー数が毎週倍増しているという。

2020年にニューヨークの大都市圏を離れた人は7万人におよぶそうだ。人々が都市部から郊外と地方に流出しているために先述の「特に郊外と地方で購入可能な住宅が不足している」状況になっている。

それを加速させているのは、外出制限で旅行や外食ができなくなった人々が持つ「ここではない、どこかに行きたい」という欲求ではないだろうか。それが別荘購入などの動機付けにも繋がっている。それを説明しよう。

「ここではない、どこか」に行きたい欲求は爆発寸前

著者撮影

パンデミックは旅行や娯楽産業などに大きな経済的ダメージを与えたが、かえって売上を上げた産業もある。アメリカの主要株価指数は過去最高値を更新しており、裕福な者はさらに富を増やし、貧富の差はさらに広まっている。富を増やした者は、「ここではない、どこかに行きたい」という欲求を、「米国各地の観光地やリゾートに別荘を買う」という行為を通じて実現している。

ウォール街でコーポレート・ファイナンス会社を経営する私の義弟もその1人だ。2019年に家族5人でアフリカ大陸横断サファリに行くなど、毎年豪華な家族旅行をしてきたが、パンデミックで海外に行けなくなってしまった。先日も息子の1人が「暖かいところに行きたい」と言ったことをきっかけに、ニューヨークから飛行機で通いやすいフロリダのパームビーチ近辺の海沿いの家を購入したというEメールを受け取ったところだ。

このような人が増えたが、先述の通り今では売り出される家はほとんどなく、売り出しから数日以内で売り切れる慢性的な供給不足になっている。友人夫婦が毎年スキーをする場所の近くで古い家をみつけて買おうとしたところ、根本的な問題があって修理に1000万円ほどかかることがわかった。すでに通常より高めの価格を下げてもらうよう交渉しようとしたら、提示価格に3000万円ほど上乗せした別の人に入札合戦で負けてしまったという。

しかし、誰もが低い住宅ローン金利を利用して大きめの家に住み替えたり、何億円、何十億円もする別荘を購入したりできるわけではない。大部分のアメリカ人は「ここではない、どこかに行きたい/住みたい」という気持ちはあっても実現するお金はない。だから、買うつもりがないのに不動産サイトをサーフィンするようになっている。最近はほとんどのサイトで家の中をバーチャルに歩き回れるようになっていて、見始めると癖になる。先日米人気テレビ番組のサタデー・ナイト・ライブ(SNL)が不動産検索サイト「Zillow」の番組内広告を流していたが、100万ドル(約1億円)以上の高級住宅を検索する者が増えているのには、こういった理由もあるだろう。

私たち夫婦の場合はというと、パンデミック中にNetflixでBBCの『World's Most Extraordinary Homes(世界の摩訶不思議な家)』という番組にかなりはまり込んだ。美しい風景の異国を訪問して興味深い家に泊まる幻想を与えてくれるこの番組は、心の栄養だった。

パンデミックが沈静化したら、多くの人が自宅で膨らませている「ここではない、どこかに行きたい」という欲求が一斉に爆発することは明らかだ。その時には、再び「これまでなかった」現象が起きることだろう。そして、それがあらゆる業界に影響を与えることは間違いない。

鋭いビジネス感覚を持つ者は、すでにそれを見込んで計画を進めていることだろう。


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