LIFE STYLE | 2020/12/01

日本人に足りない「自分で考える力」を育むオランダ式教育。オンラインスクール「Serrendip」の挑戦【連載】オランダ発スロージャーナリズム(30)

友達と庭でランチを食べている次男。コロナ禍でも子どもの生活は、一時のロックダウン後はギリギリ通常どおり
まだまだ収まる...

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「何も教えない」のに子どもが自分で考え成長するサッカークラブ

今年の夏に行われたサッカークララのサマーキャンプ。ここでもコーチは全然教えないのに、子どもたちのことを良く見ているなあ、と保育士視点から感心しました

オランダに来て、子どもがサッカークラブに入った時は衝撃でした。なぜなら、まったく「教えない」のです。サッカーを。ご存知ない方もいるかもしれませんが、オランダといえば、サッカーの強豪国です。歴史的にも、サッカーのプレースタイルそのものを作ってきた国でもあります。こんな国ですから、「日本では知られていない、何か特別な練習があるに違いない!」という気持ちで、自分自身もワクワクしていたのですが、秘密の練習なんか何にもありませんでした。それどころか、そもそもサッカー自体、まったく教えてくれないのです。間違いなく日本のサッカークラブの方が、進んだ練習をしていると思います。

というのは、子どもがクラブに入団時、コーチの数が足りなかったために、なんとオランダ語もまったく喋れないサッカー未経験者の日本人(=筆者)がコーチをすることになったのです。つまり、そんな人間でもコーチが務まるくらい、なんにもやらなかったのです。今は子どもの年齢も上がり、多少は教えてくれる年代になりましたが、日本的には小学校2年生に当たる学年だった初年度は、ユルユルでまったく何も教えることはありませんでした。ここで相当な肩透かしを喰らったわけですが、要は学校も、こんな感じなのです。日本と比べると、かなりのユルユルなのです。

そして、このユルユルが、いかに素晴らしい効果を生み出しているのか?ということに気づき始めたのは、オランダ移住して3、4年目くらいでしょうか。ある時を境に、長男のサッカースキルが急に上がってきたのです。

何も教えてくれないので、上手くなるためにはなんとか自分で練習するしかない。もちろん、親も未経験者だから上手く教えてあげることはできません。練習内容もいろいろと試行錯誤を繰り返し、自分で考えるしかありません。上手くなったら、やっぱり楽しい。だから上手くなりたい、という気持ちが自然に湧いてくるのです。

ただ、これが「完全放置ではない」というところがポイントです。自分で考えて練習してみて、出来ないこと、疑問に思ったことを質問すると、今度はこれでもか?というほど懇切丁寧に教えてくれます。

質問には丁寧に答えてくれて、時に褒めてくれて、そして時に一緒に考えてくれる。もっと良い方法を提案してくれる。寄り添ってくれる。こういう状況なのです。学校も、かなりこれに近いです。なので、自分が興味を持ったことは、とことん追求できる環境ではあります。そもそも時間的な余裕もたっぷりありますし。

こういうことを日本のお子さんにも体験してもらいたくて、始めたのがこのセレンディップでもあります。

そこで、このオランダ式の「教えない」スポーツ&アートスクールを始めてみたところ、なんと、日本の子どもたちがグングン伸びているのを感じます。もちろん、これを担当してくれている、サッカーの都倉賢コーチ、野球の吉村裕基コーチ、そしてピアノの中村天平さんの子どもへの寄り添い方が素晴らしいからです。が、本当にびっくりするほど子どもたちが伸びているのです。

子どもの「思考力・質問力」が身につけば、自然と技術も上達する

野球コースの吉村コーチと、サッカコースの都倉コーチ。二人とも、毎回驚くほど子どもたちのことをよく見てくれています。個人によりそった的確なアドバイスによる子どもたちの上達ぶりに毎回驚きます。

セレンディップに参加してくれている生徒さんは週に1回、自分の都合の良いタイミングで練習風景などの動画と質問を送るだけ。コーチはそれを観て、返信動画でアドバイスをしてくれます。参加者のレベルは初心者(セレンディップがきっかけでその種目を始めてみる生徒さんも多い)から、上級者までまちまち。でも、週にたった1回のアドバイスのやりとりだけで、みんなメキメキと上達しています。憧れのコーチに教えてもらったことを1週間一生懸命練習する過程で、おそらくいろいろなことを考えて練習しているのだと思います。

当初はここまですぐに結果が出るとは思っていませんでした。というか、技術的な上達よりも「自分で考える」ことを通じて、結果的に自立できるようになったり、自分の考えをコーチに伝えられるようになったりする、コミュニケーションが取れるようになる、といった要素を重視していました。子ども自身の質問力次第で、コーチから引き出せるアドバイスの内容や質が変わってくるからです。子どもたちが、大人になった時に世界で活躍するためには、この能力が非常に大事であると我々は思っています。そして、日本の子どもたちは、この能力が世界に比べると劣っているとも感じていました。

また、皆さんも実感があると思いますが、子どもはある程度大きくなると、親の言うことは聞きません。一切聞かない、と言っても良いかもしれません。ですから、全くの他人、親でも先生でもない、第三者であるコーチのアドバイスを通して、コミュニケーションをすることに意味があると考えています。

ここは特に気を遣ってサービスを設計した点でもあり、そのためにコーチの人選はもっとも大事にしているところです。実は筆者は保育士の資格を持っているのですが、その保育士の視点から、コーチの人選をしています。それが、子どもを自立させるという意味で、子どものため、そして保護者のためにもなると思っているからです。

参加者は、初めに10週分(約3カ月)の練習目標を立てます。自分で立てた目標に沿って練習計画を作るのです。もちろん、この計画はあくまでも事前計画であって、コーチとのやりとりの中で常に変化していきます。それで良いと思っています。これにも意味があるんです。

子どもは「今」を生きているので、将来のことを考えるのが非常に苦手です。でも、大人になると先のことを考えるのは非常に重要なスキルになってきます。なのでこうした練習計画を立てて、目標から逆算して、「今、何が自分に足りないのか?」「そのためにどんな練習をしたら良いのか?」といったことを考えてもらっています。これが上達の秘訣でもあるのはもちろんですが、それと教育効果の一石二鳥を狙っているのです。

その他にも、子どもの成長を促す仕組みをいろいろと組み込んでいるのですが、我々自身、想像以上にこのオンラインでのコミュニケーションの可能性を感じています。繰り返しますが、なんせ、子どもたちの成長が素晴らしいのです。

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