CULTURE | 2019/09/12

『クロノ・クロス』20周年ライブ開催の光田康典「作曲に大事な構成力は、小説から学んだ」

映画、ゲーム、漫画、小説、音楽に、自分がなぜこんなに感動するのか。感情が揺さぶられるのか。作り手は、受け手の感情をどう想...

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映画、ゲーム、漫画、小説、音楽に、自分がなぜこんなに感動するのか。感情が揺さぶられるのか。作り手は、受け手の感情をどう想像し設計をしているのか? それが知りたくて『感情のロジカルデザイン』と題してクリエイターにインタビューを続けている。

第1回は文筆家の海猫沢めろんさんに小説の創作法を聞いた(私個人のnoteで公開)。前回、特徴的だったのはシーンとシーンをつなげ、勢いが下がらないようカタパルト式に感情を上げていく物語設計。Aメロ、Bメロ、サビ……とつなげる音楽的なアプローチにも、それは通ずるように思えた。今回は、11月に発売20周年記念ライブが開かれるゲーム『クロノ・クロス』の音楽を中心に、作曲家・光田康典さんにお話を聞いた。

『CHRONO CROSS 20th Anniversary Live Tour 2019 RADICAL DREAMERS Yasunori Mitsuda & Millennial Fair』

光田康典

作曲家、編曲家、プロデューサー

1992年スクウェア(現スクウェア・エニックス)入社、1995年「クロノ・トリガー」で作曲家デビュー。「ゼノギアス」等の作曲を担当した後、1998年に独立。フリーランスで活動後、2001年プロキオン・スタジオを設立し、同社の代表を務める。主な楽曲代表作に、「クロノ・クロス」「ゼノサーガ エピソードI」「新・光神話 パルテナの鏡」「イナズマイレブン1~3」「黒執事 Book of Circus」「FINAL FANTASY XV エピソード イグニス」他多数。

インタビュー・文:平田提 写真:野田真

曲作りはコンセプトの理解から始まる

― ― 光田さんはどういうプロセスで楽曲を作られているんですか?

光田:作品によってまちまちなんですけど、例えば映像作品だったら、何度も何度も見返しているうちに映像が持つテンポ感とか、世界観が何となく見えてくるんですよ。それに曲のテンポを合わせていくんですけど、映像が表現したいものがメロディとして浮かんでくる場合もあるし、こういうサウンドが必要なんだろうなってことは、自然と分かるんですよね。これって多分、小さい頃に大量の映画を観ていたから、というのがあると思うんです。

― ― 映画の影響なんですね。

光田:ゲームの場合、シナリオを何度も何度も読み直します。テーマに対して必要な音楽性と、ゲーム画面のイメージは結構違ったりします。例えば『クロノ・クロス』の場合、話はダークなんですけど、海がメインのビジュアルで穏やかな感じだったり。シナリオの流れと、映像に対しての音楽のバランスは、一番難しいところだったりするんです。

『クロノ・クロス』は1999年に発売されたPlayStation®ゲームソフトで、『クロノ・トリガー』(スーパーファミコン/1995年)の続編。パラレルワールドがテーマ。キャラクターデザインは鳥山明氏から結城信輝氏に変更、世界観も違っているように見えるが、前作との強い「クロス」が物語を進めると明らかになっていく。光田さんが作曲を担当。現在は「ゲームアーカイブス」でプレイできる。

その時のゲーム画面がどんな状態かによっても、音楽の作り方は全然違いますね。例えば、南国の町に出店がたくさん出ていて、街の人が何人も画面上にいる場面なら賑やかな音楽になりますし、藁葺き屋根の家だけがぽつんと見えて自分一人が動いている場面なら、寂しい感じの音楽になります。色彩はすごくポップで南国の雰囲気でも、キャラクターが何人その画面に現れているかで、人の感じ方は変わりますよね。

ゲーム画面ができてシナリオを全部読んで、それから曲を書き始めて……というのがベストなんですけど、なかなかスケジュール的に難しいことも多いので。なるべくそういう情報を聞きつつ曲を書いていくというプロセスです。

画だけをもらって「これに合わせて曲を書きます」という書き方は、よっぽどの事がないかぎり僕はやりませんね。

― ― それはやっぱり演出ありき、ということでしょうか。

光田:はい。演出ありきですし、前後関係の流れですよね。

例えば、ゲームの場合は町に入る前のフィールドがあるのかどうかとか、ワールドマップはどうなっているのか。プレイヤーが動いていく流れは重要だと思うので。

―― プレイヤーの体験全体を考えていらっしゃるんですね。実際にデモでゲームをやって音楽を合わせた時に、やっぱり違ったなとか直そうかなということはあるんですか?

光田:当然あります! 曲を入れてみて、雰囲気は合ってるんだけど、テンポが合わないからちょっと上げてみようとか、音数が足りないからもうちょっと楽器を増やしてみようとか。こだわりだすとキリがありません。ゲームの音楽はそう言った意味で奥が深いと思います。

ゲーム会社さん側から「バトル曲1」「バトル曲2(中ボス曲)」……みたいな作ってほしい音楽リストが上がってくることがありますけど、これだけだと本当は書けないんですよね。

そのシーンに至るまでの流れはどういうものか、その前後関係や画面構成、そこに出てくるキャラクターの数など、細かな情報が本当は必要なんですけど、それを分かっている制作者の方意外に少ないですね。

―― ゲームディレクターの方もそこまで考えきってないと光田さんにディレクションできないですね。

光田:そうですね。そこで例えば曲を提出して、仮にボツになったとします。その理由が「なんとなく合わないから」とか、その曲の良し悪しでしか判断していない場合、こちらは受け入れづらい。僕は前後関係を考えた前提で「多分こうだろう」と曲を書いているので、僕が考えている以上の理由づけが無ければなかなか……。その曲がゲームの場面に合ってないかは自分でも分かりますから。

ディレクターさんのやりたい世界観を一番最初にしっかりと聞いてやりますので、大きくそこから外れてNGが出るっていうことは今まで一度も無いですけどね。

― ― 最初にやりたいコンセプトがはっきりしているかどうかが大事ってことですね。

光田:大事ですね。例えば僕が『クロノ・クロス』のライブをやるときでも、「やりたいライブはこういうものなんです」っていうのが明確になっていないと、他の協力してくださる方々がどんなに技量があっても、どうすることもできないんですよね。だからディレクターさんがどういう作品にしたいのか、どういうメッセージをユーザーに届けたいのかが明確になってなくて「ただ面白いゲームを作りたいんです」だけじゃダメだと思うんです。逆にコンセプトがしっかりとしているゲームは、当然ですけど、面白いゲームに仕上がる場合が多いですね。

『クロノ・クロス』OP曲に残る、『トリガー』の「かけら」

―― 『クロノ・クロス』のオープニング曲「CHRONO CROSS~時の傷痕~」を最初に聞いた時、「やばいなこの曲!」と衝撃を受けました。鳥肌が立つくらいガーッと感情が上がっていったんですけど、この曲はどういう曲想から作られていったんですか?

光田:最初にゲームのオープニングの絵コンテを見せてもらったんです。そうしたら『ラジカルドリーマーズ』(※注1)っていうゲームのオープニングに似せてあるな、と感じたんですよ。

※注1:1996年に配信されたスーパーファミコンの周辺機器サテラビュー(衛星データ放送)専用ソフト。サウンドノベルタイプのゲームで、『クロノ・クロス』と近しい設定が見受けられ、BGMも『クロノ・クロス』に引用されている。残念ながら、現在はプレイできない。

光田:日記のシーンではしんみりと『ラジカルドリーマーズ』を彷彿とさせるモチーフを使いながら、なおかつ前作『クロノ・トリガー』の雰囲気も出しつつ始まる。で、そこからデモ映像に入るんで、そこで曲がガラッと変わった方がいいな……というのは絵コンテを見ながら感じていたんですよね。なら、もっと激しくガーンと曲を変えて2曲構成にしようかな、と思いつきました。

― ― なるほど。実は、僕なりにこの曲の構造を分析して、こんな表を作ってみたんです。

光田:おおっ!! すごいじゃないですか(笑)。何ですかこれは!

対旋律的に動く弦の刻みが途中で合流する展開は、「Home」ワールド「Another」ワールド、2つの並行世界を行き来し収束へ向かう物語展開とシンクロしている?『CHRONO CROSS 20th Anniversary Tour 2019 RADICAL DREAMERS Yasunori Mitsuda & Millennial Fair』PVに使用されているのが「CHRONO CROSS~時の傷痕~」。

―― 開始57秒からの「テレレレレレレ…」っていうヴァイオリンとヴィオラの高音パートと、ベースとチェロの低音パートは並行・交差をしながら進んでいくんですけど、途中1分31秒の『クロノ・トリガー』テーマ曲Cメロのアレンジ部分では弦楽器と尺八が全部一緒のフレーズを奏でています。1分50秒から弦だけになりパーカッションも抜けて、最後はまた盛り上がって『トリガー』アレンジは第1ヴァイオリンだけで他の楽器は別々のフレーズを弾いていますよね。その「分かれていた2つが1つになり、また分かれる」構成が、「Another」と「Home」2つのパラレルワールドを行き来する『クロノ・クロス』の物語展開とシンクロしてるんじゃないかな……と思ったんですよ。

光田:そうですね! 弦楽器は対旋律(注2)的に動いていますね。

※注2:対旋律……主旋律をより引き立たせるために同時に演奏されるパートのこと。

―― もう一つ思ったのが、オープニングムービーとの連動です。日記のシーンの後、パラレルワールドの分岐点「オパーサの浜」で主人公セルジュがワームホールに吸い込まれるところから、弦の刻みのフレーズがスタートしますよね。曲中で『トリガー』のCメロのみになるのは、前作と一番濃くつながる重要人物・キッドが手を差し出してくるシーンになっています。これはゲームの展開にもシンクロしていて。この表を勝手に自分で作ってそれに気づいた時、「光田さん、ここまで考えていたのか!」と鳥肌が立ちました。

光田:オープニング映像の後半部分は、いろいろなパターンがあったんですよ。実は一番最初のテイクは、オパーサの浜ではなくてセルジュが船に乗ってスタートするシーンがあったんです。でも、そのシーンから始めると『クロノ・クロス』の「パラレルワールドの世界観」が伝わらないということで、最初に次元を行き来するシーンを入れてはどうかという意見がでてきたんです。曲もそこでガラッと変わって、印象付けるっていう。

今回は『クロノ・トリガー』のようなタイムトラベルモノではなくて――一部それもあるけど――次元を行き来する「パラレルワールド」モノなんだよっていうのを強くここで印象付ける意図があったんですよね。

―― オープニングは、プレイヤーの方が一番「おっ!」と奮い立つし、プレイして初めて観る映像でもありますよね。

光田:非常に重要だと思うんですよ、オープニングって。『クロノ・クロス』のオープニング曲でメロディが入ってくるまでは、少ない楽器で持たせないといけないんですけど、ブズーキっていう弦楽器も一緒に刻みのユニゾンをしていて、それも重要なポイントだったりして。要らない楽器が一つもない曲です。

―― 『クロノ・トリガー』をプレイした人が『クロノ・クロス』を買って初めてオープニングを観たら、全体的に画面やモチーフは青いし、デザインも変わっているぞっていう印象がありますよね。

光田:そうですね。キャラクターデザインも違いますし、雰囲気も違うし、まったく別物のゲームに思われるじゃないですか。せめて音楽だけでも『トリガー』の「かけら」みたいなものを感じてもらえたらな、というのがありましたね。

― ― それで『トリガー』メインテーマのCメロが入ってたりするんですか?

光田:そうですね。イントロには『ラジカルドリーマーズ』のフレーズが入って、途中で『トリガー』と『ラジカル』が合体したようなメロディになるんですよ。そういうのはすごく考えましたね。 

音楽制作に一番大事なのは、構成力

― ― 曲の構成は、どう設計されているんですか?

光田:僕は音楽の良し悪しって構成力だと思っているんです。すごくいい8小節のメロディが書けたとしても、それをただ何回も繰り返されると印象に残らないんです。逆に、そうでもないメロディも、構成次第で良く聞こえてくるんですよ。

よく「プロとアマの違いは何ですか?」と聞かれるんですけど、明らかに構成力だと思うんですよね。メロディもすごく素晴らしいし、コード進行も素晴らしいし、アレンジも悪くないのに、なぜか印象に残らない。というのは、構成力の問題なんですよね。

僕は本を読むのが好きで、特に小説とかも好きで読むんですけど、構成力は本から学んだんです。僕の師匠が「光田、お前は本好きだな。いいよ。音楽やるヤツが小説をたくさん読まないのはダメだ」と言っていて、当時は何が良いのか分からなくて。でもそれは構成力ってことなんですよね。

―― なるほど! このシリーズの第1回目の小説と音楽の構成のお話がつながって、僕的にはめちゃくちゃ嬉しいです。

光田:やっぱり本から得られる構成力って大きいですよね。例えば、宮部みゆきさんや東野圭吾さんとか、売れてるミステリー作家は、構成力が素晴らしいんですよ。他愛もない生活ぶりが描かれていても、構成力でハッとさせられる。これとこれがつながっていて、それでこういう行動をしていたのか……という。宮部さんの『模倣犯』なんかは最初に犯人が見えていて、この犯人がどう犯行に及んで、どうやって捕まるのかっていう推理小説だとなかなかない展開ですよね。音楽で言うなら、いわゆる「サビ始まり」みたいなものです。お客さんにどういう風に見せて聞かせていくか、というのは音楽でも重要なポイントだろうなと思いますね。

― ― どのシーンにも意味があるってことですよね。

光田:そうですね。結局意味のないものが入っていないので、聞いていて、読んでいて楽しいじゃないですか。

僕の場合、例えばゲームのバトル曲でも途中で一旦ふっと落ちるところが入っていたりするんです。ずうっとうるさい曲じゃないんですよね、僕のバトル曲って。飽きさせないためには色々な方法があります。楽器の音色(おんしょく)をガラッと変える構成力もあれば、楽器を足していくっていう構成力もある。逆に引くっていうのもありますし。

― ― 映画がお好きとおっしゃっていましたが、どこか映画の編集にも近いですね。

光田:そうですね。「ここでこのカットを見せておかないと、後が盛り上がらないね」というのにも似ていて、言ってしまえば編集力ですね。

ある程度パーツを組み立てて曲を作ること自体は実はそれほど難しいことではないんですけど、飽きさせないように構成していくことの方が難しいと思います。

――なるほど。ちなみにそういう構成を考える時、「盛り上げる」「しんみりさせる」とか波状のグラフを書いたり、箇条書きでメモしたりすることはあるんですか?

光田:紙に書くことは無いですね。感覚なんでしょうね。やっぱり曲を作ってる時って何度も自分が聴くじゃないですか。それでその曲に飽きちゃってる自分がもしいたとしたら、それはもう多分ダメな曲なんですよ。

例えばAメロ、Bメロ、サビ、と作って、途中で聴いて「つまんないな」と思ったら大幅に構成をぐっと変えてみたり、転調してみたり。色々な方法を試して「ここでいつも感動するな」「鳥肌が立つな」っていうのが出てくると、それは良い曲ですよね。

― ― いじくりながら構成を考えることが多いんですね。

光田:そうですね。もう自分の感覚と感情に委ねていますね。自分で聴いてみて面白くないものはボツにしていきますし。シンプルだけどこの一瞬のコード感が良いよね。とかやっぱりあるんですよね。

ここまで平坦に来たからこそ、ここで出てくる一瞬の音に感動する、みたいな。何もないようでちょっとずつ実は動いていて、最後にこの音が来た瞬間に全部がつながるというか、ゾワっとするような……そんな感覚を心がけて作っています。

ディレクションに必要なのはイメージを伝える力

―― 光田さんが曲想を他の演奏者の方などに伝える際、どのようにディレクションされるんでしょうか。

光田:結構、説明しますよ。譜面にタイトルをなるべく書くようにしています。例えばキャラクターの曲なら、キャラクターの名前とそれっぽい副題みたいなものをなるべくつけて渡します。それを読んだ瞬間に「これはキャラクターのテーマだな」と分かるように。その上で「このキャラクターはこういう立ち位置で、こういう状況に追い込まれています。なので、ここはそのシチュエーションをイメージして演奏して下さい」とか、出来るだけ話して。限られた時間で録音していかないといけないので、ポイントだけかいつまんで、ですけどね。

面白いのが、音楽的な話をしてもあまり良い結果にならないことが多いんですよ。

「なんか演奏が硬いな……」「透明感が無いな…」って時があるんです。皆さん、初見で演奏をされるわけですから、譜面に追われて当然なんですけどね。そんな時、一つのイメージを伝えることによって、音色が全然変わるんですよ。

例えば、ホール録音していてすごく音が硬い時に「ここはすごく綺麗な青空が広がっていて、自分の音を空の彼方に投げるような感じで」とか「浸透させるような感じで演奏してください」って言うだけで全然違うんですよ。「この音符はこう、Aの構成はもうちょっと柔らかく弾いて下さい」って言うよりも風景を伝えた方がうまくいくケースが多いですね。

― ― その違いは面白いですね!

光田:「皆さん、チーターに追いかけられてるイメージで演奏して欲しいんですけど」って言う方が場も和みますし、イメージしやすいじゃないですか。本当は音楽家なので音楽的なことを話した方が上手くいくはずなんですけど、意外に音符って抽象的なもので、一音あってもそれをどう弾くかはミュージシャンに委ねられていますし。イメージの方がベクトルが一つの方向に向くというか、そういうのはありますね。

―― それって、光田さんがゲームディレクターの方からゲームの場面やビジョンの説明を聞かないと曲が作れないっていうのと同じことですよね。

光田:そうですね。僕が仕事を受ける時も一緒で、音楽用語を使ってもらわなくて良いんですよ。その人が感じている風景や、似たような作品が何かとか。音楽的な話をしなくちゃという風に思われがちですが、実はそうではなくて。もっと分かりやすい言葉で良いんですよね。

― ― 「この感じ」を上手く言語化して伝えるっていう。

光田:そうですね。ビジュアルでもいいですし、それを言語化したものでも良いですね。

― ― とにかくイメージを伝えるのが大事なんですね。

光田:そう、イメージが無いと0から1の生み出しは無理ですね。紙に曲リストだけ書かれて、「バトルの時に使用」なんて書かれてもまったく分からない。多分、それはゲームの作曲家さん全員が「そこじゃないんだよな~」って感じていることだと思います。

質の高いものを、妥協せずつくっていきたい

―― 光田さんはプロキオン・スタジオの代表でもありますが、メンバーの皆さんにはスタジオとしてのコンセプトやイメージをどう共有しているんですか?

光田:特に、皆にこうしなさいと言ったことはなくて、とにかく面白いこと、誰もやったことのないことを少ない人数でできればいいなって思います。『クロノ・クロス』のライブにしても、CDの売り方や音楽の売り方もそうですし。良いアイデアを考えついたのに、予算が下りなくてできなかったなんてナンセンスですよね。会社が赤字にならない範囲なら好きなことやっていいよというのが基本スタンスで、今までやってきました。USBメモリで音楽を売る、なんてのもそうなんですけど。

48kHz / 24bitのwavデータの5時間半近い音源をUSBメモリに収めた『ゼノブレイド2』のオリジナル・サウンドトラック。作中のキーアイテム「コアクリスタル」の形状をしている。

光田:会社としては、とにかく質の高いものを作りたい。印刷にしても、デザインにしても中身についてもそうですけど、とにかく妥協しないものを作っていこうというのが、会社のポリシーでありテーマでもありますね。

―― 11月から東京・大阪・名古屋そして台湾で行われる『クロノ・クロス』のライブもそうですよね。衣装にこだわっておられたり、グッズもファンのツボをついたものを作られていたり。ライブ中、ペンライトを使った仕掛けも考えられていると聞きました。これは原作のラスボス戦のアレですか?

光田:それはライブでのお楽しみですが、面白い演出になるんじゃないかな。期待して欲しいです。

― ― ゲームをプレイしているとより楽しめるライブになりそうですね。

光田:『クロノ・クロス』の音楽に注目いただいている方も多いんですが、ゲームをプレイした方がより楽しめると思うので、ぜひおさらいしてもらえたら嬉しいです。

ゲームでも非常に大切になってくる色の順番がありますが、ライブのウェブサイトでもおさらいできるんです。スマホからもできます。画面左下にある「たまご」をクリックするとサウンドがオンになります。その後、サイトのメニューを正しい色の順番に押していくと、左上のロゴが虹色になるんです。ロゴから、隠しページに行けます。

『クロノ・クロス』20周年ライブのウェブサイトの仕掛け。「黄」「赤」「緑」「青」「黒」「白」は作中の技・魔法にあたるシステム「エレメント」の属性。あるモブキャラによれば遺伝子の「ATCG」と「リズム」「ハーモニー」を指すらしい。ある順番でラスボスに攻撃し、最後に「虹」属性のエレメント「クロノクロス」を使わないとグッドエンディングを見ることはできない。実質のラスボス戦前のダンジョンにヒントが隠れている。

― ― この仕掛けはニクいですね!

光田:ここで流れる曲は、僕たちからの最初の贈り物です。2000年当時、完全限定生産、シリアルナンバー入りで100個ぐらい、4万円のオルゴールを作ったんです。ゲーム中の「Radical Dreamers ~盗めない宝石~」が流れるんですが、サイトの音源は「000番」のものなんです。買ってくださった方のオルゴールより、若干テンポが早いんですよ。相当レアな音源です。

― ― これだけでも、誠実なものづくりをされているのが伝わります。

光田:そう言っていただけるとありがたいですけど、なかなか儲からないんですよ、本当に(笑)。でも、買ったら買っただけの価値をお客さんに届けることが一番大切で。

僕たちは、プロフェッショナル集団として良いものを世に出していきたい。「ああしとけば良かった」というのはなるべく無くしたいなと。一生残るものですからね。

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