シンガポールのチャイナタウンで市民が作った張り紙。「コロナにかかった馬鹿野郎ども、おとなしく家にいろ、外に出たら罰金だ、だんだん増えるぞ!」
人権は、人間が社会を作り始めてから、ずっと拡大してきました。一方で、ひとりの破産が社会全体を巻き込まないように、社会全体で個人を守る保証も拡大しています。
たとえば、何を食べるかは自由です。食べ物の選択肢は増え続けています。一方で食べ過ぎて体を壊し、他人の世話になることはありえます。どんな自由を保障し、どんな自由を規制するかに、絶対的な答えはありません。
本連載のテーマである「テクノロジー」と、上で書いた「個人の自由」を考える際、「大企業がテクノロジーを独占して個人を搾取する」みたいな意見をよく耳にします。実際に自分でプログラムを書く、協調してシステムを作ったことがある人とそうでない人の間で、この部分の感覚はだいぶ違うようです。
高須正和
Nico-Tech Shenzhen Co-Founder / スイッチサイエンス Global Business Development
テクノロジー愛好家を中心に中国広東省の深圳でNico-Tech Shenzhenコミュニティを立ち上げ(2014年)。以後、経済研究者・投資家・起業家、そして中国側のインキュベータなどが参加する、複数の専門性が共同して問題を解くコミュニティとして活動している。
早稲田ビジネススクール「深圳の産業集積とマスイノベーション」担当非常勤講師。
著書に「メイカーズのエコシステム」(2016年)訳書に「ハードウェアハッカー」(2018年)
共著に「東アジアのイノベーション」(2019年)など
Twitter:@tks
個人の権利と社会の保証
産業革命、農業革命(近代的な農業が世界中で行われるようになって飢えがなくなった)、流通の革命、そしてついにはインターネットの普及により、個人の選択肢は増えつづけています。個人の発展と社会の発展はセットです。高等教育を受ける人が増え、仕事の選択肢が増えたことで、職業選択の自由が一般的なものになりました。親と違う仕事をすること、生まれた場所と違うところで働くことも、珍しい事ではなくなっています。前回の記事でも紹介した『進歩 人類の未来が明るい10の理由(著 ヨハンノルベリ)』では、ひとりひとりが生まれながらに持っている権利である人権、男女平等や職業選択の自由といった権利でさえ、社会に出てきてから100年も経っていないことを伝えています。
個人の権利が拡大するのと歩調を揃えて、社会保障も変化・拡大しています。
大きな病気やケガで働けなくなると、周りの人が助けます。しかしその結果、助けた人の商売がうまくいかなくなることがあります。ビジネス上の失敗で1社が破綻すると、関係する会社が巻き込まれるのに似ています。それでも「失敗のツケを払うのは個人の自己責任だろう」と見捨ててしまうと、結果として失敗していない周りの人が巻き込まれ、社会全体では損失が増えるので、ある程度は社会全体で支えることで、全体の損失を減らすのが社会保障です。個人が多様化することと社会の保障は、螺旋状に紆余曲折しながら、同じ歩みで発展してきています。