コロナ禍の契約は「仕方がない」がキーワード
企業が交わす契約書には、地震・水害などの天変地異が生じた場合を「不可抗力」とした上で、不可抗力によって債務の履行ができない場合は損害賠償責任を負わないという「不可抗力免責条項」が置かれていることが多いです。
不可抗力の典型例として地震や水害などの災害を挙げているケースはよく見かけます。戦争が発生した場合なども規定する契約書もあります。と言うと、「え、戦争?そこまで契約で書かなくても……。まぁ、普通は起きないからあまり関係ないね」「戦争が起きる程のよっぽどの非常事態であれば仕方がないよね」ということで読み流してしまうことが多いと思います。でも、ここでの「仕方がない」が、実は肝の部分なのです。
そうした中で、「感染症」や「感染拡大」を不可抗力の例にあげる契約書はそれほど多くないようです。明治以降の近現代の日本について言えば、戦争こそ幾度も経てはいても、ここまでのパンデミックは約100年前のスペイン風邪以来、私たちは経験していませんから、当然といえば当然でしょう。
それでは、契約書上、「地震及び水害等の不可抗力によって債務を履行できない場合は免責される」とだけ規定されていて、新型コロナウイルスのような感染症の感染拡大が例示されていない場合はどうなるのでしょうか。
今回の新型コロナウイルスによる影響が、「地震及び水害等の不可抗力」による免責事由にあたるのかどうかが問題となります。
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「不可抗力」とは?
「不可抗力」の解釈では民法が参考になります。民法では419条3項にて「不可抗力」という用語が使われています。ここで「不可抗力」とは、「外部からくる事実であって、取引上要求できる注意や予防方法を講じても防止できないもの」と解釈されています。
「単に過失がないというだけでなく、よりいっそう外部的な事情」とも言われており、帰責事由がないこと(=「無過失」)よりもさらに狭い概念です。端的にいうと、無過失であることを前提として、さらに外的要因によるものであるということになるでしょう。
具体的には、「大地震・大水害などの災害や、戦争・動乱などが代表的な例」とされ、これは契約の解釈にあたり参考になります。
「不可抗力」の判断枠組み
「不可抗力」という概念が「無過失」(=帰責事由がないこと)を前提とするものであることから、契約条項の「不可抗力」の解釈でも、帰責事由の有無の判断枠組みが前提となります。
帰責事由とは、「債務者の故意・過失または信義則上これと同視される事由」であるとされます。そしてその判断は、「問題となった債務に係る給付の内容や不履行の態様から一律に定まるのではなく、個々の取引関係に即して、契約の性質、契約の目的、契約の締結に至る経緯等の債務の発生原因となった契約に関する諸事情を考慮し、併せて取引に関して形成された社会通念をも勘案して判断」すべきとされています。
新型コロナウイルスの感染拡大や自粛要請強化が、外部的な事情であることは明らかです。これを理由にサービスや商品を提供しないこと(=不履行)が、帰責事由がないといえるか。この部分が個々の取引関係に即して個別具体的に判断されるのです。
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