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文:今野直倫
パソコンで速く文字を打つのに適切とされるブラインドタッチ。10本の指をそれぞれのキーに割り当て、モニターを見ずに文字をタイピングする方法だ。
そんなブラインドタッチと、両手の指を一本ずつ使ってタイピングする「一本指タイピング」が、同等のタイピングスピードを出すことができるとSNS上で話題となっている。
「多くの指を使うこと」はタイピング速度に影響しない
これはフィンランドで行われたタイピングの研究で、10本指でのブラインドタッチを学んだ被験者と独学でタイピングを習得した被験者を対象に、モーションキャプチャーを利用してタイピングの際の手の動きを記録したもの。これによると、独学でタイピングを学んだ被験者たちは各々独自の方法でタイピングをしたが、10本指でのブラインドタッチを学んだ被験者と同等のスピードで入力できる者もいたという。
このことから、この研究を記録した論文『How We Type: Movement Strategies and Performance in Everyday Typing』では、タイピング速度を上げるのに必ずしも10本指のブラインドタッチが必要というわけではないと結論付けている。
タイピング速度に影響する3つの要素
実験を行った結果、タイピングの速度に最も影響のある要素は「常に同じキーに同じ指を使用すること」「次に打つキーに近いところに指を置くこと」「手の動きを最小限に留めること」の3つだったという。
独学でタイピングを学んだ被験者は各々独自の方法でタイピングをしたが、速くタイピングできる人には上記の共通点が認められたという。また、タイピング速度を上げるのに多くの指を使うかどうかは関係ないことも判明した。つまり、10本指でのブラインドタッチは必ずしも修得する必要はないということである。
こちらの画像は、独学でタイピングを学んだ被験者(上)と10本指でのブラインドタッチを習得した被験者(下)を比較したもので、それぞれの指を使っている割合と、使用しているキーを表したもの。独学の被験者は両手の人差し指だけでタイピングしているが、どちらも1分間に75単語のスピードで文字を入力していることが分かる。
これに関連して、かなり特殊な事例だが一本指タイピングで1分間に119単語を入力できる人も実在するようである。
ブラインドタッチを学ぶことは無意味なのか
この研究ではタイピングの速度を上げるのに必ずしも10本指でのブラインドタッチは必要でないとしながらも、ブラインドタッチを学ぶこと自体は無意味でないとしている。
ただし、日常的なパソコンの使用範囲ではブラインドタッチを使わなければ出せない速度が求められることはほとんどない。つまり、何百時間もの時間を費やしてブラインドタッチを習得することは、費用対効果が釣り合わないということだ。
そして、ブラインドタッチを学ぶことなく、タイピングの速度を最大化するコツは、「手を固定して指だけを動かすこと」「指を見るのではなく画面を見てタイピングする」「使っていない指で次のキーへの準備をする」と論文では結論付けている。
10本指でのブラインドタッチは、文字を高速でタイピングするには確かに有効なメソッドだ。ただ、多くの人にとってはブラインドタッチを学ぶよりも、これまでのタイピング方法のまま少しのコツを身に付ける方が効率は良いだろう。