文:岩見旦
直木賞作家として知られる志茂田景樹さんが2月24日、自身のTwitterに投稿した1通のハガキが大きな反響を呼んでいる。送り主は、志茂田さんのお兄さんだ。
出征前のお兄さんが教えたカタカナ
志茂田さんには、15歳年上のお兄さんがいた。1944年に大蔵省税務講習所(現在の税務大学校の前身)を卒業し、渋谷税務署に勤めていた。お兄さんは結露したガラス窓にカナカナを書いて、当時5歳だった志茂田さんに教えていたという。
1945年春に、お兄さんは軍に召集され旧満州に渡った。志茂田さんは戦地のお兄さんに向け、ハガキを送付。すると返信があり、ハガキにはお兄さんが志茂田さんに教えたカタカナで埋められていたのだ。
忠男というのは志茂田さんの本名。弟の志茂田さんへの愛情が伝わってくるハガキだ。軍事郵便と検閲の印が押されており、異国の地から幾多の関門を乗り越え届いたことがわかる。
戦死したお兄さんと心がひとつに
ソ連の国境近くに駐屯していた志茂田さんのお兄さんは、終戦の1週間前に日ソ不可侵条約を破ったソ連軍に攻め込まれた。そして終戦後もそれを知ることなく戦い続け、8月22日か23日に戦死した。
志茂田さんはこのハガキを見るたび、自身の心とお兄さんの心がひとつになると感じるという。志茂田さんは「74年前に身は滅んでもその心は滅びずに折りに触れ息づく。これが生きるということなのか」と締めた。
「涙が止まらない」兄弟の絆にSNSで反響
志茂田さんのこの投稿は、現在1万2,000を超えるリツイートを記録し、「涙が止まらない」「胸が詰まって言葉にならない」「住所にフリガナを振ってくれる優しいお兄さん」「素敵なお手紙を見せていただき、ありがとうございます」など、心を揺さぶられた人から多くのコメントが寄せられている。
死んでもなお人の心の中で生きていく。綺麗事ではなく、兄弟の絆がそれを実現していることにハッとさせられた。