EVENT | 2018/06/27

日本企業も出資する米スタートアップが世界初の「3Dプリンタ製自転車」を発表

製造業に地殻変動を起こすと言われる3Dプリンタは、着々とモノづくりの現場に普及しつつある。日用品はもとより、住宅や橋など...

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製造業に地殻変動を起こすと言われる3Dプリンタは、着々とモノづくりの現場に普及しつつある。日用品はもとより、住宅や橋などの建築物までもが3Dプリンタを活用する時代へと突入している。

ご多分に漏れず、こうした最新技術のもとには優秀な人材、投資による多額の資金、最先端の素材や関連技術などが集結するものだ。

文:6PAC

世界初のカーボンファイバー(炭素繊維)製フレームの自転車を発表したアレボ

米カリフォルニア州サンタクララに本社を構えるアレボ(Arevo。以下、同社)は、米中央情報局(CIA)が運営するベンチャーキャピタルのIn-Q-Telなどが出資する、3Dプリント関連技術に特化したスタートアップだ。「A REVOLUTION IN MANUFACTURING」という同社のスローガンの最初の5文字(「AREVO」)が、そのまま社名になっている。

同社は今年5月17日、新最高経営責任者(CEO)の就任、シリーズBの資金調達、世界初のカーボンファイバー(炭素繊維)製フレームの自転車と、3つのニュースを公表した。新しいCEOには、GoogleやAmazonの物流部門出身のジム・ミラー(Jim Miller)氏が就任した。

同社に1,250万ドル(約13億7,500万円)の出資をしたのが、旭硝子の米国子会社であるAGC ベンチャーズ、住友商事の米国法人であるSumitomo Corporation of Americas、レズリー・ベンチャーズ、コースラ・ベンチャーズの4社。この資金を元に、同社は航空宇宙、防衛、物流、自動車、家電、スポーツ、医療、エネルギーといった産業向けの研究開発を進めていきたい考えだ。

同社は技術力のデモンストレーション用として、世界初となる3Dプリンタで成型したカーボンファイバー製フレームの自転車を公開した。ロボットアーム式3Dプリンタ、3Dプリントソフトウェア、カーボンファイバー素材を使い、300ドル(約3万3,000円)という低価格での販売を実現することに成功。カーボンファイバー製フレームは金属製フレームと比較して軽量かつ高強度なので、ツール・ド・フランスなどの大会に参加するロードバイクのほとんどがカーボンファイバー製フレームを使っている。自転車に乗る人の体に合わせたカスタマイズも可能な同社のカーボンファイバー製フレームの自転車は、他社と提携して来年にも販売開始を予定しているそうだ。

3Dプリンタ製自転車のノウハウを自動車産業や航空宇宙産業へ

同社は3Dプリンタ製自転車の開発・製造過程で得たノウハウを、ベビーカー、ヘルメット、ボート用スクリュー、航空宇宙部品といった分野で応用していきたい考えだ。その中でも特に軽量で高強度のカーボンファイバー製部品に対するニーズが高く、取引ボリュームや利益率が高そうな自動車産業や航空宇宙産業向けの技術開発に注力していくようだ。

素材としてのカーボンファイバーは、実は東レ、帝人、三菱ケミカルの日本企業3社で世界シェアの7割を占めており、3社合わせた生産能力は年間6万トンにも及ぶ。現在、自動車産業や航空宇宙産業ではCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plasticの略で、炭素繊維を用いた繊維強化プラスチックのこと)の市場が急速に拡大している。

今回のシリーズBに出資したAGC ベンチャーズの親会社である旭硝子は、日本の大手自動車メーカーの多くを顧客に抱えている。また、住友商事はグループに航空・宇宙・防衛分野の専門商社である住商エアロシステムが存在する。CFRPの市場が急拡大している中、大手3社に対抗するための出資だったことが透けて見えてくる。

また、米軍の戦闘機や軍艦にも使われているカーボンファイバーは、同様に軍事利用される危険性が高いため、日本から諸外国へ輸出する際には様々な規制がかけられている。実際、輸出規制に違反し、逮捕者が出ていたりもする。In-Q-Telが出資している背景には、米軍の優位性を維持する大義名分のもと、アメリカ企業による軍事利用可能な素材開発をコントロールしたいという思惑がありそうだ。

3Dプリンタ製自転車の先には・・・

ドローン型無人戦闘機、ステルス艦、自動運転車といった最先端技術の結晶を作り上げるには、低価格で高品質のカーボンファイバー製部品が不可欠だ。同社の3Dプリント関連技術を使った、低価格で高品質のカーボンファイバー製部品を供給していきたいというところが、出資者に共通する狙いであるのは間違いなさそうだ。世界初となる3Dプリンタで成型したカーボンファイバー製フレームの自転車の延長線上には、軽量化によって驚くほど移動スピードの早い軍事用のドローン型無人機やヘリコプター、軽量化によって燃費効率が飛躍的に向上した自動運転車などが控えているのは想像に難くない。

カーボンファイバーという素材と3Dプリントの技術とを組み合わせると、どこかの段階で軍事利用につながるわけだが、利用方法はそれだけではない。人工知能と3Dプリントの技術を組み合わせてみたりと、3Dプリントの世界はまだまだ発展の余地が色々とありそうだ。