CULTURE | 2018/04/13

これはメディアアートか!?テクノロジーを駆使して「女の子の東京をつくる」アイドル|小林+古村(・・・・・・・・・運営)

ドットが9個並ぶ名称のアイドルグループ「・・・・・・・・・」。呼称はドッツでもドッツトーキョーでもてんちゃんズでも何でも...

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ドットが9個並ぶ名称のアイドルグループ「・・・・・・・・・」。呼称はドッツでもドッツトーキョーでもてんちゃんズでも何でもいいらしい。写真の通り、メンバーはみなサングラスのようなもので顔が隠れており、誰が誰なのかはよほどのファンでない限り見分けがつかず、しかも各メンバーの便宜上の呼び名も定期的に変わるという、匿名性の塊のようなグループだ。

2017年にリリースした初の全国流通シングルが「72分46秒・1トラック」という前代未聞の形態であったり、その内容がロックファンをも唸らせる本格的シューゲイザーサウンドだったりと、新しいモノ好きのアイドルファンや、推せるアイドルグループを探していたロック・ポップスファンなどの間で徐々にファン層を拡大してきた彼女たちだが、「LINE Beaconを持ったアイドルを探し回るイベント」「アイドルとオタクがBitcoinで永久に消えないメッセージを刻む」といった、ほとんどメディアアートのようなテック系イベントもかなりのハイペースで開催している。

だが、こうした要素はアイドルメディア、音楽メディアで深く触れられることは少ないため、FINDERSでまとめて聞いてしまおう!というのが今回の趣旨である。

今回はグループ運営陣のうち、プロデューサー兼テクノロジー担当の小林氏、コンセプト担当の古村氏を招き、結成時から2018年1月までの主なプロジェクトとその意図を振り返ってもらった。

今までアイドルグループを推した経験がない人でも、「こんな面白いグループがいるんだ!」と興味を持ってもらえれば幸いだ。

・・・・・・・・・

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正式な呼び方はなく、人それぞれ「ドッツ」や「ドッツトーキョー」「てんちゃんズ」などと呼んでいる、「都市」をコンセプトとした原宿発女性アイドルグループ。メンバーの名前も全員「・」、サングラスのようなもので顔が隠れており、ファンには「・(てん)ちゃん」と呼ばれる。楽曲はシューゲイザー的な「エモさ」とアンダーグラウンドパンク的な「ヤバさ」をテーマとし、ノイズ生演奏や変拍子、インスト曲やボーカロイド曲なども扱う。他にも先端テクノロジーを使った演出やイベント、独自ガジェットのリリースなどヘンテコさが目立つ一方、ぶっ倒れるまで歌い踊る熱量ある王道ライブパフォーマンスも大きなウリとなっている。グループの詳細は https://dots.tokyo/aboutにまとまっている。

小林

プロデューサー兼テクノロジー担当

AI関連のエンジニアとして活動する傍ら、・・・・・・・・・のプロデューサー兼テクノロジー担当として運営に携わる。学生時代にHeartSyncなどアイドル×テクノロジーの試みに感銘を抱く。古村のコンセプトをベースにテクノロジーで新しいアイドル体験を創出すべく、古村らと共にアイドル運営を始める。

古村

コンセプト担当

従来より批評や思想・哲学を趣味として愛好している。ふとしたことで参加したアート系スクールの講義で初めて地下アイドルに出会い、卒業制作展でアイドルをモチーフにした作品を発表し観客投票で1位となる。思想・批評・公共性と身体・恋愛・ビジネスの交点としてのアイドル文化が持つ可能性を信じ、コンセプト担当として・・・・・・・・・を運営する。

聞き手・文・構成・写真:神保勇揮

アイデアの原型は「アートでいかに幽霊を生み出せるか」

―― まずはお二人自身についてと、出会ったきっかけを教えてください。

古村:僕は昔から思想や哲学、カルチャー批評が趣味で好きだったんです。アイドルについて言えば、中学生の頃はSPEEDが好きだったりしたんですが、がっつり文化的に興味を持つようになったのはこの7年くらいですね。2010年代初頭に、批評家の宇野常寛さん、さやわかさんや、漫画家の小林よしのりさんなど、いわゆる批評系の界隈でもアイドル論が盛り上がっていたことで自然と触れていったのが最初のきっかけです。

その後にアイドルの運営自体にも興味が移り、「オトトイの学校」(※1)で、ゆるめるモ!さんのプロデューサー・田家大知さんが講師を務めた「アイドル・グループのつくり方~超実践編~」という講座にも通っていました。そうした中で共通のアイドルグループを好きだった小林と出会って「自分たちもやってみよう!」ということで動き始めました。

(※1)オトトイの学校:音楽配信・情報サイト「OTOTOY」が主宰するカルチャースクール。ちなみにグループアイドルのBiSが誕生したのもこのサイトでの企画がきっかけ。

プロデューサー兼テクノロジー担当の小林氏

コンセプト担当の古村氏

―― 次にドッツのコンセプトについてお聞きします。公式HPのプロフィールやOTOTOYに掲載されたデビュー直前のインタビューなどでは「ポスト・ポケモンGO!時代のアイドル」、「個性を剥ぎ取ろうと思っている」、「アイドルをお天道さまのような存在に戻す」といった謎めいたワードが並んでいますが、これはどんな風に決まっていったんでしょうか?

古村:実はこのアイデアの大本となるものは結構前からあったんです。僕は思想家の東浩紀さんが主宰している「ゲンロン」界隈の人間でもありまして、2014年にゲンロンで開かれた、美術家・批評家の黒瀬陽平さんが講師をする「ポストスーパーフラットアートスクール」という講座に通っていました。ここでの卒業制作としてつくった「会いに行け アイドル(2035年)」という作品がグループの思想の先駆けと言えますね。

展示の様子。なお「砂利が敷かれている」という環境は別の作家の作品の一部でもある。

―― どんな作品だったんでしょうか?

古村:展示スペースに砂利が敷かれていて、その下に木の板と箱が埋まっています。板と箱にはそれぞれに架空の女の子の名前と生年月日が書かれていて、箱はアイドル音楽に合わせて振動している。板に書かれている女の子の生年月日はすべて2011年3月11日以降で、これは「東日本大震災が発生しなければ(親が亡くなっていなければ)産まれていたかもしれない女の子」を表していて、彼女たちがアイドルグループを作って踊っているという想像力です。

一方、箱には生年月日だけではなく没年月日として2011年3月11日という文字が刻み込まれており、”墓標化”することで板と箱の性格に差異をつけました。加えて、板の方にはアロマオイルで香りを塗り込み、それをアイドルと見立てて板を手に持って一緒にチェキを撮ることができるようにしました。多くの地下アイドルグループがやっている特典会の再現です。ちなみに没年月日まで刻まれた箱の方には触れることはできません。

女の子の名前と生年月日が記された木の板と埋められた箱

会場に展示された説明文

僕はこの作品を通じて「未来の幽霊」ということを表現したかったんです。細かいコンセプトを話し始めると長くなってしまうので割愛しますが(※2)、「アイドル」をテーマとして用いる上で念頭にあったのは次のようなことです。もともとモーニング娘。さんぐらいまでのアイドルはテレビ番組や雑誌といった大メディアや広いライブ会場でしか触れられない存在でした。しかしAKB48さん以降の地下アイドルはライブ後の握手会やSNSでのやり取りなどを通じて、生きている人間として物理的に触れたりリアクションをもらったりすることが可能な存在になった。

(※2)細かいコンセプト:古村氏は作品のコンセプト解説として、33ページ・約9万字にも上るテキストを執筆しているが、残念ながらネットには上がっていない。ちなみにこの作品およびテキストについてはドッツのファンブログ「アイドル批評空間」にてレビューが記されている。

その中でも「生(なま) 」の感覚をもたらすもの、例えばライブで女の子が目の前で歌い踊る際の熱量や空気の震え、握手する際の手触り(触覚)といった要素からインスピレーションを受けました。今作品ではそれに加えて嗅覚まで利用し、「地下アイドル的コミュニケーション(であると見なせるもの)」を人工的につくりだすことを目指しました。いないとわかっている、絶対に存在しえないはずの女の子(幽霊)を、地下アイドル的な強烈なリアリティによって存在しているように感じさせること――そんなことができればそれは新しい表現じゃないか、と。

日常生活のあらゆるシーンにまとわりつく「女の子の東京」

―― そのお話自体も非常に興味深いのですが、引き続きドッツに焦点を絞って話をうかがっていきたいと思います。

古村:アートスクールの作品がまず、「抽象的なものや存在を、アイドルという媒体を介して感覚可能なリアリティを持つものとして表現する」というグループ思想の原型となりました。その上で、新しくアイドルグループを運営するのであればコンセプトをさらに進化させたいと思っていて、つまり「抽象的なもの」の部分に何か面白いものを入れたいと考えて辿り着いたのが「都市」という概念でした。東京そのものを擬人化したようなアイドルグループがあったら面白いんじゃないか」という発想から、オーディション時に「女の子の東京をつくろう!!」というプロジェクト名をつけて周知を図っていました。

オーディションページは今でも閲覧できる。詳細なQ&Aや学業とも両立できることを示した想定スケジュール表など、懇切丁寧に記されているが、これは「どれだけ募集ページを丁寧に作れるかが他のアイドルグループとの差別化にもつながる、という田家大知さんの教えを忠実に守りました」(古村氏)とのこと。

本稿ではドッツの音楽性について全く触れられなかったが、ForTracyHydeやmy letterといった日本のインディシーンで活躍するシューゲイザー~ドリームポップバンドによる曲提供、sajjanu、にせんねんもんだい、Massacreといった国内外のアンダーグラウンドバンドのカバーなど、これまで数多のジャンルを取り込んできたアイドル楽曲のなかでも異彩を放っている。ここでMVを張り付けた「ねぇ」という楽曲のショッキングピンクなアートワークはシューゲイザーの大名盤、My Bloody Valentine『Loveless』のジャケットへのオマージュか。

加えて、アイドルファンというかエンタメのファンによくある「平日は辛いこともあるけど、土日にライブハウスに行ったら癒されて回復し、また平日をがんばれる」みたいなことはやりたくなかったんです。

そうではなくて、平日の昼間から楽しませる、日常自体を底上げするアイドルがいいなと。もしそんなことが可能であれば、それは「ライブハウスでコンテンツを見せました」という話ではなくて、日常生活そのものにアイドルがまとわり付くようなものになるんじゃないかと考えました。

それは、単に女の子をプロデュースするというより、我々が住んでいる日常空間、都市そのものをプロデュースする、つまり都市計画みたいなアプローチになるのではないかと。

―― これまで都市の存在が表現の核になっているアーティストだと、例えばピチカート・ファイヴの野宮真貴(※3)しかり、きゃりーぱみゅぱみゅしかり、「東京の女の子」だったわけですよね。でもドッツはそうではなくて「女の子の東京」を目指すのだと。

(※3)ピチカート・ファイヴの野宮真貴:2001年に解散した小西康陽との2人組ポップスユニットで、「渋谷系」を代表するグループのひとつ(野宮は三代目ボーカル)。代表曲はリオオリンピックの閉会式で椎名林檎も歌った「東京は夜の七時」。

古村:そこはこだわっています。東京に住む女の子じゃなくて、女の子化された東京なんです。・・・・・・・・・のワンマンライブや定期公演にはすべて「Tokyo in ○○」というタイトルが付いているんですが、「○○ in Tokyo」ではないことがすごく大事なポイントです。

あと、AKB48さんのキャッチコピー「会いに行けるアイドル」の次を考えたかったのもあります。それで生まれたのが、「常にまとえるアイドル」というフレーズです。

―― それらを表現するために、これからお聞きしていくさまざまなテクノロジーが使われているわけですね。「まとえる」でいうと代表的な取り組みは、ウェアラブルデバイスを使って人間の心拍数を計測し、スマホの振動と同期させるアプリ「HeartSync」があります。

Heart Syncの大まかな仕組み

小林:これはアップアップガールズ(仮)さん(※4)の武道館ライブでも使われたものですが、・・・・・・・・・のコンセプトを体現するのにすごく親和性が高いと感じました。・・・・・・・・・ではライブ中だけではなく、日常生活でもできるだけ計測デバイスを身に付けてほしいとメンバーにお願いしています。

(※4)アップアップガールズ(仮):2011年に結成された5人組アイドルグループ。武道館ライブが行われたのは16年11月。

具体的に誰の心拍数なのかはわからないようにしていますが、昼間でも寝る前でも、・ちゃん(※5)たちの鼓動を感じて纏えているということですね。

(※5)・ちゃん:メンバーの呼称。メンバーひとりを指すこともメンバー全員を総称的に指すこともある。「・ちゃん」という表記などもあり、グループ名と同様に自由に発音してよいが、「てんちゃん」と発音されることが多い。便宜上その時々のニックネーム的なものも設けられているが、これも1カ月おきに変わり、固定された名称ではない。

―― このインタビュー中にもアプリを起動してみましたが、本当に常に動いていてびっくりしました(笑)。

小林:実はこのインタビューの収録中、まさにいま別の場所でメンバーが某テレビ番組のオーディション真っ最中なんです(笑)。もちろんそこでもつけてもらっているので、結構変化もあると思います。ファンの方には普段から「今頃何をしてるんだろうな」と思いを馳せてもらえるとうれしいです。

ドッツのテック系イベント(1)「LINE Beaconを持ったアイドルを探し回るイベント」(2017年1月)

―― ここからはドッツのこれまでの主なテック系イベントを振り返っていきたいと思います。最初は2017年1月の「LINE Beaconを持ったアイドルを探し回るイベント」です。これはどんな経緯でやることになったんですか?

イベントの模様

小林:2016年にLINE上でチャットボットが作れるようになったんですが、併せて優勝賞金1,000万円の「LINE BOT AWARDS」というコンテストが開催されていたのもあって、何か応募できるものがつくれるかもしれない、ということが念頭にありました。実際に応募した作品はもう少し後に作成したものですが。

古村:これまでにも、街を舞台にした地下アイドルのイベントは結構あったんですよ。エリアを限定した鬼ごっこみたいなかたちで、メンバーを見つけたら一緒にチェキが撮れるだとか。他のグループといかに違うことができるかということを考えたうえで、テクノロジーを絡めようということになりました。

―― このイベントは、LINE Beaconという信号を発信する装置をメンバーが持っていて、エリア内のどこかにいる彼女たちの10m圏内に近づくと「近くにいるよ」という通知がスマホに送られ、それを頼りにメンバーを探すという内容でした。

古村:これを・・・・・・・・・のコンセプトとつなげると、鬼ごっこで人を探し回るのは人間対人間の話じゃないですか。ここにLINE Beaconを絡ませた途端、テクノロジー対人間になるというか、アルゴリズムというか非人格的なものが介在するというのが、ちょっと都市に近付けた感じで良かったんです。人格的なものから非人格的なものへというのが・・・・・・・・・を貫く大テーマで、それを人格的なものをウリにするアイドルがやるから面白いだろうという、その組み合わせが念頭にありました。

ドッツのテック系イベント(2)「アイドルとオタクがBitcoinで永久に消えないメッセージを刻む」(17年2月)

―― 次は「アイドルとオタクがBitcoinで永久に消えないメッセージを刻む」です。これはビットコインの送金時に全角26文字(半角52文字)のメッセージを上乗せできる技術を使って、ファンがドッツへの愛を書き込む、というものですね。

イベント当日に参加者へ配布した説明書き

小林:ビットコインを支える技術の1つとしてブロックチェーンがありますが、このブロックチェーンが世界各地のコンピューターによって管理されていて、改ざん不可能ですし誰でも記録を閲覧できます。この改ざん不可能性を利用して、世界中のコンピューターが同時に止まらない限りは半永久的に残り続けるメッセージを残そうと。これはアイドルとものすごく親和性が高いというか、アイドルとの思い出を永久にこの世界に刻み続けられるものです。

古村:これは初めて大阪に遠征した時のファンミーティングというかオフ会企画の一環でやったんですが、当時ファンの総数が20人とかっていう規模で、お客さんが来てくれないと大赤字になってしまうと。そこで東京でも味わえないような新しいイベントができないかということで考えました(笑)。

大阪でのイベントということで、・ちゃんたちとたこ焼きを食べながらビットコイン送金時に刻むメッセージを考えるという、シュールな光景が繰り広げられた。

―― 「この世界に刻み込む」というのが壮大な感じがしていいですね(笑)。

古村:これらの情報は、発電環境とコンピューターさえ残っていれば、たとえ核戦争が起こっても残るわけじゃないですか。考えてみると、それはもはや「地球に刻み込んだ」ということと同じなんじゃないかと。

「自分が心から愛する物事への熱い感情が、今生きているこの大地に刻まれているんだ」という感覚を1回信じたら、生活が愛しくなると思いませんか?「俺が今歩いているこの地球は、・ちゃんへのメッセージが刻まれているんだ」というふうに感覚される。それは「生活そのものを愛しくする」という話につながっていきます。

実際に送信されたメッセージ

―― 自分もそうなんですが、文化系男子が妄想しがちな、なつかしのセカイ系的というか「『セカイの終わり/僕と君の恋』が直接リンクする物語の主人公になる」みたいな感覚がついに現実でも味わえる、というワクワク感があります(笑)。

古村:このメッセージは、僕(ファン)と君(メンバー)がたとえ死んでしまった後も地球が残っていれば残り続ける、ということも想起できるんですよね。運営の自分が言うのもなんですが、いろんな想像力を働かせてエモい気持ちになってもらえればと思います。

小林:ちなみにLINE BOT AWARDに応募したのはこの時の技術を応用した「Ѻ(「オン」を変換した初期キリル文字のひとつ)」という作品です(LINE Beacon+Bitcoinで君と僕がそばに居たことが永久に記録されるLINE BOTを作った)。

 

これはこちらが用意したLINE@IDに友達登録をしたうえでライブに来てもらうと、「・ちゃんと○○(自分のLINEの表示名)が10m以内にいる」というメッセージがLINEに届くと同時に、同じメッセージを書き込んだビットコインも送金されて記録が残るという立て付けです。今後はイベント時だけではなく、日常でたまたま・ちゃんたちとすれ違った際にも、メッセージが送られてくる…そんな運用ができるのが理想です。

―― ちなみにLINE BOT AWARDSの結果はどうだったんですか?

小林:残念ながら受賞はできませんでした(苦笑)。

古村:この作品のキモは、・ちゃんたちの安全性も考慮したうえで、あえて「すれ違った瞬間にリアルタイムで送信しない(毎日22時に1日分をまとめて送信)」とした部分です。この時差は“現在”を、「後にあの子と出会っていたと告げられるかもしれない」時間へと変化させます。

1日の間に、あの子とも、あの人ともすれ違っていた。今その出会いに気付いていないことは、出会っていないこととはイコールではない。知らず知らずのうちにいろんなアイドルに囲まれすれ違って生活していることを実感できたら、その会っているのに会っていない感じが「都市の幽霊」というコンセプトにもマッチしていると思います。

ドッツのテック系イベント(3)「過去にアイドルが居た場所に近づくとスマホが震えるアプリ」(17年10月)

―― 次は17年10月の「過去にアイドルが居た場所に近づくとスマホが震えるアプリ」です。これはAndroid端末限定の「都市の幽霊観測装置」というアプリですね。

古村:「東京そのものを擬人化したようなアイドルグループ」と標榜している以上、当然活動範囲もライブハウスだけに収まっていてはいけないわけで、・・・・・・・・・を始めた直後から絶対にリリースしたいと思っていたアプリでした。内容は、アプリを入れて例えばJR五反田駅のホームに行くと「何年何日何時何分の・ちゃんを観測」という、ある日のある時間に・ちゃんがここ五反田駅にいました、という通知が来る。ただそれだけです。HeartSyncが・ちゃんのリアルタイム情報を送るツールである一方、都市の幽霊観測装置は過去の情報を送るツールで、通知が来る場所は今後どんどん増やしていく予定です。

この経験を繰り返すと、東京は歩いているだけで(過去の)・ちゃんと偶然に出会うことができる場所だと感覚されてきて、これまたある種の幽霊感というか、土地・場所そのものにうっすらと「ここは・ちゃんがいた場所だ」という記憶、イメージが積み重ねられてくる。アニメや映画の聖地巡礼で、ファンだけが何でもないベンチを見て「ここはあの登場人物が座っていた場所だ!」と興奮する、という話に近いです。あるいはポケモンGOをやっている人だけが、街中に生息するポケモンを発見できるというか。

―― これはどんな仕組みで通知が来る場所を記録しているんですか?

小林:GPSロガーを使っています。基本的に僕が管理していて、ライブがある日は移動しながら・ちゃんたちがどこにいたかの情報を追跡して、それをデータベース上に送るという仕組みです。

GPS情報の記録は、電源を入れたあとはテープレコーダーのようにずっと記録し続けるイメージですね。記録した情報をアプリ内に送る時だけ、パソコンに接続する必要がありますが。

ドッツのテック系イベント(4)「自宅の照明をアイドルの家の光量に連動させる装置」(17年10月)

―― 次は17年10月「自宅の照明をアイドルの家の光量に連動させる装置」です。

古村:・ちゃんの自宅の光量と同期して明るさが変わるウェブサイトをつくりました。

これはファンの愛着の対象を、アイドルそのものから「アイドルが暮らしている日常」へと拡張できたらなという思いからの試みです。「アイドルを好きでいたら、いつの間にか彼女が生きている世界すらも愛するようになっていた」というような感じです。

これはHeartSyncの話にもつながります。アイドルのTwitterなんかでは、アイドルの「今からランニングしてくるね」に対してファンが「がんばってね」と言い、「さっき帰ってきたよ」みたいなツイートに対して「おつかれさま」とリプライするわけですが、・・・・・・・・・の「常にまとえるアイドル」というコンセプトからすると、ファンも一緒に走ってアイドルと同じ振る舞いの中を一緒に生きる方が新しい面白さだなと。

ライブでアイドルの動きをファンがトレースすることを「振りコピ」と言いますが、ライブ以外の時間帯も振りコピの対象として見なされたら新しい文化圏ができます。実際メンバーが筋トレの様子をHeartSyncで鼓動を送りながら動画配信すると、ただ見るだけじゃなく実際に体を動かしたくなりやすいと思うんですよね。その意味で、「アイドルが暮らしている日常」を愛好するという文脈でもHeartSyncは先駆けです。

小林:いずれはIoT機器などを駆使して、家の電気やお風呂の湯沸かしなんかも同期できるようにしていければ面白いなと思っています。まさに「幽霊と一緒に住んでいる」というような感覚になれたら楽しいなと思っていて。

―― ドッツがそもそも匿名のグループであり、さらにどのプロジェクトも「具体的にどの子のものかはわからない」という点が一貫していることで、どれも人間の生々しさというか、女の子に対する性的な目線みたいなものが取り払われていますね。

古村:心拍数にしろ位置情報にしろ、人間の生のデータを扱ってはいるものの、具体的な女の子としての◯◯ちゃんの像・イメージを同時に送ることは基本的にしないので、あくまで概念だけというか絶対的な距離があるんですよね。匿名にする、正確には固有名を持たない「・」にすることで、例えばHeartSyncなら最終的には人間の鼓動というより都市そのものの鼓動のように感覚されたいんです。直接的だけど抽象的にして、いやらしくないようにすることにはすごく気を付けています。

ドッツのテック系イベント(5)「被写体の心拍にあわせてスマホが震える動画 Haptic Video」(18年1月)

―― 最後が18年1月の「被写体の心拍にあわせてスマホが震える動画 Haptic Video」です。このURLをクリックしてライブ映像を流すと、メンバーの心拍と同期してスマホが震えます。

古村:HeartSyncではリアルタイムの情報を伝えていたので、同じことを過去にまで広げたいというのと、触れられる、触覚的な楽しさのある新しいミュージックビデオを作ってみたいといったところから発想しました。ビデオを再生すると心拍データが画面上に表示されます。

―― これまでに「画面をフリックするとGoogle Earthのように360度見渡せるMV」みたいなものはありましたが、こうしたインタラクティブ性もすごく面白いですね。ここまでかなり駆け足で解説してもらいましたが、こういった取り組みに対するファンの皆さんの反応はどんなものなんでしょうか?

小林:みんな「とりあえずやってみるか」という感じで楽しんでくれていると思います。

古村:ファンの人の中にもテック系の仕事をしていたり、そこに興味を持ってライブやイベントに来るようになってくれた人もいます。こういったイベントの実践を積むことで、メディアやテック界隈など外部の人と接しやすくなっているところもありますね。例えばブロックチェーン技術を使っている企業さんとコラボの話もあったりします。

「アイドル界隈」の枠を飛び出した盛り上がりをどれだけ作れるか

―― ドッツの魅力はこうしたテック系イベントに留まりませんが、これはこれで最早メディアアートみたいな面白さもあると思うんです。次はこんなことをやってみたい、あるいはこんな技術があるからやってみようよ、というアイデアがあれば教えてください。

小林:今はまだ・・・・・・・・・のファンに楽しんでもらっている、あるいはテクノロジーをフックにファンになってもらうというところが大きいので、いつかはそれとは別に「テックを使ったすごく面白いことをやってるじゃん」というような、作品のファンみたいな層を作れるとうれしいですね。

古村:いつ実現できるかは別として、アイデアはたくさんあります。例えば・ちゃんを模した球をつくって、さっきも話した部屋の光量に同期するだとか・ちゃんの加速度に同期して動くだとか、そうした機能を一通り盛り込んだ、部屋で一緒に暮らす“モノ”を作りたいだとか。

あとは都市計画と言いながら都市に関連したことがまだ全然できていないと思っていて。例えば原宿の竹下通りを歩いていることをGPSが検知したら、その場でだけ聴ける曲が流れるという感じで、「あなたが空間を歩くことを・・・・・・・・・が彩ってみせる」というようなアプリも作ってみたいですね。この辺りは結構応用が効くと思っていて、飲食店でQRコードを読み取ると・ちゃんがオススメメニューを紹介してくれるだとか、実際に食べている時の動画が観られるみたいなこともやりたいです。今回はお話できていないですが、過去の定期公演では「地理×テクノロジー」をテーマにしたイベントを上野公園で半日かけてやっていて、そういうものを都市に常設したいなと。

「地下アイドルグループの企画はサプライズがナンボ」みたいなところもあるので(笑)、なかなか明確な今後の方針を伝えるのは難しいですが、生身の・ちゃんに触れ合おうという意志を持って行く場所以外で偶然に・ちゃんと出会うということをより実装したいし、小林も言ってましたがファンイベントに留まらないものにしていきたいですね。

ただ誤解されたくないのは、アイドル界隈の外に訴求したいとは思っているけど、アイドルではない存在、例えばアーティストになりたいとか、アイドルの枠を壊したいとか思っているわけではないということです。・・・・・・・・・は王道アイドルでありたい。あらゆるテクノロジーも一見変な試みも、根っこにはその思いがあります。そう受け取られないことも多々ありコンセプト担当として反省しきりなのですが、何度もこのことは強調したいです。

あくまでそういった思いがある上で、ライブに来ない、アイドルファンですらない人も含めて巻き込めるような文化が興せたらいいなと思います。

―― そのためにはもっともっと有名になって、いろんな人に届けなければですね。

古村:抽象的な言い方になってしまううえに表現が難しいんですが、最終的にはあらゆるものが・・・・・・・・・、・ちゃんと交わる、入れ替わるような、プラットフォームのようなものになればなと考えています。

小林:究極的には僕たちが制御・管理しなくても、それが勝手に起こってくれる世界というか。

古村:・ちゃん自体が、アルゴリズム的になっていくというか。

―― ただ、そうした考えはアイドル文化の熱量と真逆の方向性というか、メンバーの卒業みたいなものが定期的にあるとはいえ、「俺は他の誰でもない、あの娘だから推したんだ!」という思い入れが原動力になっていることの逆を行くことにもなりませんか?

古村:確かにそうなんですけど、例えば歌舞伎の「何代目○○」みたいな、アルゴリズム的なものと熱量の両立ができる仕組みがあるんじゃないかなと。代が入れ替わっても推し続けるみたいな形もありうるんじゃないかとも思っているんですよね。「思い入れ」を否定するのでは全くなく、「他の誰でもないあの娘」というフレーズが意味するもの自体に、いろんな可能性や多様性があっていいなと。

僕らの目標の1つは「・・・・・・・・・を通じて東京での暮らしを愛してもらうこと」ですが、・ちゃんを好きになることによって、・ちゃんじゃない女の子を好きになる、みたいなことがあるととても良いと思っているんです。現場の外で彼女をつくって生活しつつ、同時に・ちゃんはなくしちゃいけない大切な存在として想っていてくれる世界というか。

―― それこそ最初期からコンセプトのひとつとして掲げている「お天道様のような存在」ですよね。ところで、こうしたコンセプトや目的に関して、メンバーはどのぐらい理解しているものなんでしょうか? 「わかっていないフラットな状態こそが良いんだ」みたいな観方もありますよね。

古村:最近はかなり掴んでくれているなと感じます。すごくうれしいですね。

―― わからないものを提示した際の反応が面白い、ある種のリアリティショーみたいな楽しみ方もあるんでしょうが、メンバーの自発的なアイデアが入ってくると、アウトプットもより良くなってくる気がします。

古村:そうですね。最近ではコンセプトを掴んだ上で、彼女たち自身が「こういうコンテンツが面白くないですか?」と提案してくれるんです。今後の動きも楽しみにしていてほしいですね。


【ワンマンライブ情報】

・・・・・・・・・ 6th ワンマンライブ「Tokyo in Break」地下深く眠る少女からの脱出

謎解き制作団体メルエ × ・・・・・・・・・

リアル謎解きゲーム × ワンマンライブ

2018年4月19日(木) @マイナビBLITZ赤坂

開場 18:00 開演 19:00 終演 21:00予定 (うち謎解き約1時間)

前売チケット 4000円 (+1D) / 当日4,500円 (+1D)

※謎解きイベント中にスマートフォン、LINEアカウントを使用します、予めご了承ください。

※アイドルイベントが初めての方、謎解きが初めての方、ともに楽しめる内容となっています。

チケット購入・詳細はこちら


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