EVENT | 2019/02/26

PVから滞在時間へ。ネットのバズからリアル空間へ。松浦シゲキさんと語るこれからのウェブメディア(そしてFINDERSはどうする?)【前編】

2018年4月10日にローンチしたFINDERSも、そろそろ開設1周年。
「クリエイティブ×ビジネス」をテ...

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2018年4月10日にローンチしたFINDERSも、そろそろ開設1周年。

「クリエイティブ×ビジネス」をテーマに「みんなネット記事はスマホで読んでいるから、短く・わかりやすくすべし」という時代の流れに反するような、ハイコンテクストかつ長文記事を大量にアップしてきたものの、メディア全体として周りからどう見られているのかがいまいちよくわからない。

というわけで、編集長米田の長年の友人でもある、スマートニュースの松浦シゲキ氏をお呼びし、ウェブメディア業界の現状、そしてFINDERSは今後どうあるべきかとたっぷり議論。反響があれば「米松対談」として定期化する、かも!?

聞き手:米田智彦、神保勇揮 文・構成:神保勇揮 写真:立石愛香・神保勇揮

松浦シゲキ

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コミュニケーションディレクター。スマートニュース所属。AbemaTV「AbemaPrime」水曜レギュラーやTOKYO MX「モーニングクロス」コメンテーターなど。札幌出身。趣味の一つにクイズ(アタック25優勝経験あり)。 詳しいプロフィールは https://note.mu/shigekixs/n/n802614fcbf4b をご覧下さい。

「ネットで読まれる記事はゴシップと実用ばっかり」だけど…

松浦シゲキ氏

米田:松浦さんとは『ハフポスト日本版』の初代編集長をされていた頃から親交がありますが、スマートニュースに入って5年目だそうですね。ネットメディアを取り巻く環境の変化をどのように感じますか?

松浦:今日はスマートニュースの中の人の意見というよりは、いちネットメディア人みたいな立場で話をさせてください。もちろん中の人だからこそ分かる数値、感覚みたいなところもあるんだけど、ネットの全体的な方向性としては「感情」が強くなっているなという気がしますね

米田:感情?

松浦:喜怒哀楽を押し出すコンテンツが強いというか。

米田:いわゆる「エモい」というやつですか。

松浦:いや、もっとシンプルな感じ。よりシンプルに喜び、怒り、悲しみとかを押し出しているコンテンツが多い印象はありますね。

米田:それは、スマートニュースのアルゴリズムによって選別された結果として?

松浦:いや、それは関係ない話。

米田:僕が『ライフハッカー[日本版]』の編集長の時に肌身に感じたのは、ネットでめちゃくちゃ読まれるのは「ゴシップ」か「実用」の2つだけいうことだったんです。でも、『FINDERS』に移ってからはもう少し違うことをメインにしたかった。すぐには役に立たないけれども、その人の血となり肉となり教養となりみたいな、もうちょっと人の深い部分にリーチできる記事をたくさん作っていきたいと思って新しいメディアを立ち上げたということがあります。

『ライフハッカー』の時は「ゆで卵を早く剥く方法」とか、そういうのが多かったからね(笑)。そこも僕が編集長だった頃はビジネスマンの仕事術なりアイデアの発想法とかに変えていったんだけど。

松浦:ただ、そういった記事がコンテンツと呼ばれないかというとそんなことはなくて。

米田:うん。確かにそんなことはないですよ。ただそれだけが俺の仕事じゃないだろうという。

松浦:それはそれであってしかるべきだと思う一方、そうじゃないコンテンツを求めていった時に検索でヒットするなりして、『FINDRES』はこういうことをやっているんだということを知ってくれている読者がいれば、週に1回来てくれるユーザーが徐々に増えてきて、その想いはきっちり届けられる。僕はそれでいいと思うんです。

それでいいと思うんだけど、やっぱり今はコンテンツの洪水が止まらない。でもそれで何の感情を得られるかという話じゃないですか。

米田:うん。

松浦:米田さんが今言ったような、ネットで読む記事って、そもそも大半がスマホで読まれる、のぞき見の快感で駆動するものであり、次につながるアイデアその他諸々につながるものではないじゃないですか。

米田:快感というよりも、はっきり言って暇つぶしだよね。

松浦:そういう消費がやっぱり多いですよね。

米田:まさに情報と時間の消費ですよね。でも、僕はその価値を転換できるとずっと思っているんだけど。

松浦:うん。人間は毎日食事をするけど、何気なしに食べている物は、ただ体の中に吸収されて消化されていくものと、体づくり、健康づくりに寄与するものがあるじゃないですか。でも、体づくりまで含めた消費は、自己反省も含めて言うと、そんなになかなか3食できているかというと、話は別じゃないですか。

「すぐ忘れられるけど100万人にリーチ」と「目の前の100人にリーチ」の差

松浦:最近思うんだけど、人はすべからくヒマな瞬間があるじゃないですか。電車を待っている数分、タバコを吸う数分とかも含めて。ヒマだから何かしらの感情消費に走っちゃうところがあって。

米田:それはそうですよね。僕だって今、たとえばスマホに「剛力彩芽」ってワードに出たらやっぱりタップするもん(笑)。でもその直後に「結局、その時間の消費の仕方ってどうなの?」って後悔しちゃう。

松浦:そうなるじゃない(笑)。ただ、ヒマな時間があった時に、自分のために使いたいというマインドセットがそもそも無いと伝わらないと思うんだよね。そう思って行動してくれる人を増やさないと意味がないし、このままだと本当にゴシップと瞬間的な消費だけの情報のフローの消費がすべてになっちゃうなという危機感は、最近はさらに強い。

米田:そこに関して、スマートニュースとしては何か手は打つの?

松浦:だから今回はその話は抜きだって(笑)。まあ、仕事としてそれをやっている話もあるっちゃあるけど、僕は去年、僕自身の立ち位置を変えたのね。僕の今のメイン業務はマーケティングなので、個人での発信も含めて、そうじゃない消費をどうすればいいですかねというのは、記事にして「こういう風にしろ!」って大声でアピールするのもやり方としてはアリだと思うけど、一方で僕はそのキャラじゃないのを重々承知しているのね。

これまでの自分のインタビュー記事をkindleに切り出してもらうこともそうだし、イベントに登壇してしゃべるとか、ある程度記事にしてやれば、極端な話、コンテンツのインプレッションが100万とかいく時もある。でも今は目の前のイベントに、例えば10人でもいいし100人でもいいけど、そこのコンバージョンを取れた方がいいなと個人的には思っていて

米田:それは、すごく今っぽい話ですよね。コミュニティというかサロン的な流れをつくるっていうのは。うちも毎月イベントをやっているんだけど、今は、100人の圧倒的熱量を持った、愛情を持ってくれている読者コミュニティを形成することが1万人の通りすがりの読者を持つよりも、メディアにとってはすごく心強いと思うのね。

松浦:そういう輪をちょっとずつでもいいから、接点を持って広げていくのは大事なんじゃないかと。たとえそれがメディアの本質とはちょっと違っていても、引っ掛けるフックがないと、「すごくいいことをやっているんだよ」と言われても気付かれなければ意味がないし。

それは記事の企画面だけじゃなくて、流通、パッケージングの部分でも考えてしかるべきだと思っていて。例えば特集でも連載でも、全部読もうとすると正直PCでもスマホでもしんどくて、ある程度区切りがついたところでKindleで読みたかったりする。自分の好きな時間・好きなペースで読むほうが絶対に気持ちがいいから。

米田:例えばFINDERSの連載で『世界の都市をパチリ』は終わっちゃったから、これでやってみるとかかな。

松浦:別に出版コードも何も要らないんだから。今の時代、Amazonがkindleの個人出版をサポートするとかやり始めているから、連載を頼むにしても最終的にKindle化を前提としてお願いするのもありだろうし。

なぜ「フック(接点)」の話をここまで重要視するのか

米田:あとはユーザー、読者の「可視化」だよね。自分たちでも知りたいし、周囲にも「これだけFINDERSのファンがいるんだ」ということを見せられるようにしたい。

松浦 そう。そこはある意味で俗なことも含めてやるべき。僕は個人活動をする上においてよく「どうも、赤メガネです」みたいな自己紹介をするんですよ。これだって、ある意味で僕自身の本質からは全然関係ないとも言える。

米田:僕の帽子と一緒だね。一目で覚えてもらう工夫。

松浦:そうそう。それでも引っ掛かれば儲けもので、意識的にやっていかなきゃいけない。

例えば某有名メディアがいい記事を毎日1本に絞って出している。ものすごくいいことですよ。ものすごくいいけど、でも、認知も取りに行くべきじゃないかと。まったくフックの部分がなさ過ぎたりするんだよ。

神保(FINDERS編集部):フックの話で言うと、Googleアナリティクスってリアルタイムでざっくりどの地域の人がアクセスしているかということが出るじゃないですか。でも本当にびっくりするぐらい関東圏と大阪圏しか表示されなくて。たまに福岡が出るぐらいで、それ以外はまったくヒットしないんです、ずっと。

友達にもそういう話をしたんですけど、「電車通勤で少なくない時間、スマホをいじる機会が強制的にあるのは大都市圏だけだよね」みたいなことを言われて、なるほどそうかと思ったんです。とはいえ「だからしょうがないよね」と諦めたくもなくて。

松浦:「じゃあ自動車通勤メインの人たちはどこのタイミングでスマホとの接点があるんだろう」というのは、自分で現地に行って感じてみなきゃ分からないこともある。

前に知床でテレワークを1週間ほどやってみたんだけど、やっぱりスマホと接する時間ってあんまりないんですよ。そうなるとやっぱりネットメディアとの接点はPCがメインになる。それを「一世代前」という表現をすると語弊があるけど、事実として認識しておく必要はあるはず。

米田:うん。

松浦:そうすると「今のウェブメディアへの流入はやっぱりSNS、TwitterとかFacebookがメインだよね」という風潮も事実ではある一方、相変わらずYahooの検索とかテレビ番組からやって来る情報のウエイトも高いよね、ということがわかる。

FINDERS編集長・米田はもう旅には出ないのか

米田:去年の4月10日に『FINDERS』を公開して10カ月が経ったんだけど、外野から見ていてどう感じている?

松浦:そうだな。さっきまで話してきた理由から、もうちょっとフックがあった方がいいんじゃないかなとは思う。良いコンテンツがあることは僕も十分承知しているけど、米田さんが少しおとなしく見える。

米田:まだね、まだ暴れてないからね(笑)。

松浦:僕の知る僕の好きな米田さんは、やっぱりスーツケースをガラガラ引いてさ。

米田:『NOMAD TOKYO』ね。もう8年前の話だよ(苦笑)。

松浦:『NOMAD TOKYO』で東京中をぐるぐる回っていて、当時は常に視界に入っていた米田さんがいたので、そこかな。あれと同じことをやってくださいとは言わないですけど。

米田:もう、年齢的に無理だよ(笑)。これからは「定住の時代」が来るの!(笑)。

松浦:定住って当たり前じゃん!(笑)。もちろん考え方によって、『FINDERS』=いい編集者は米田だけみたいなイメージが強過ぎるのもアレだけど、初期段階は目立つアイコンがいた方がいいんじゃないかなとはすごく個人的には思うし。別に自分のことを持ち上げて言うわけではないけど、1年目の『ハフポスト』編集長時代はとにかく相当がんばったよ。

米田:ただ、『FINDERS』になってからはプロデューサー的な立場でちょっと後ろに控えているかもしれないね。単なるプレーヤーじゃなくて、野球で言うとかつての野村とか古田みたいなプレイングマネージャーみたいな感じになってきてはいると思う。それは会社を立ち上げて自分の会社で自分のメディアで、というところもあって、『ライフハッカー』の時とは立ち位置がだいぶ違う部分はあるし、あとはチームで戦っているという意識がすごく強いので。だから、チームプレーで何とかしのいでいるという感覚は強いね。

松浦:だから難しいんだけど、最初に話した「読まれるコンテンツが喜怒哀楽に直結したものばかり」っていうのがあるじゃないですか。「あんまりやらないようにしよう」と決めていても、結局、多く目に入る現状もあるので。ただ外部から「だからやってください」とは口が裂けても言えないし、その辺を越えるためには愚直にやるしかないのかな。

PVではなく「滞在時間」を奪い合う時代へ

米田:本当、コツコツやるしかないですよ。『FINDERS』は大手みたいなPR予算があるわけでもないし、まだ月間で200万PVぐらいしか出てないし。

松浦:でも、もはやPVが唯一絶対の価値観じゃない。音楽ビジネスだとCDの時代からダウンロードへ、そして今はSpotifyみたいなサブスクリプションが伸びてきてるじゃない。で、これまではレコード会社もユーザーも、所有=売れ行きには興味があっても、買ってから何回・何時間聴いたのかというデータは取れなかったし興味もなかった。

でも、サブスクリプションが普及した今は時間とか回数に対して、クリエイターにお金がきっちり落ちていくじゃないですか。再生時間が伸びれば伸びるほど、その分の曲の価値が出る。

それで言うと、PVもそうなってくるかなと。PVも結局「見出しをクリックしただけの価値」に過ぎない。だからこそPVも地道に伸びているとは思うんだけど、滞在時間が大切

米田:うちは滞在時間は異常に長いよ。毎月の平均で3分とか4分とか出てるし、記事によっては12分とかだったりする。

松浦:すごいね。僕も『ハフポスト』時代というよりその前からPVだ、PVだと言われてきたけど、どんどん広告的な価値も所有から共有の世代になってきたからこそ時間の価値が高くなる。1日の時間は24時間と決まっているけど、PVは滞在時間0.1秒でも1PV。PVの在庫は無限だけど、有限な時間の在庫もちゃんと奪い合いができているかどうかがカギですよ。

米田:よく、『FINDERS』は記事が長い、長いと言われるんだけど、別に長いとも思っていなくて。伝えるべきことを十分に書ききったら5,000字を超えたとか、そういう結論であって、そこにファクトとエビデンスとストーリーとオピニオンがちゃんと入っていればOKを出しているわけです。もちろん冗長なだけの記事はダメだけど、「意味がある長さ」にはこだわっている。

松浦:さっき話した特集とか連載をkindleパブリッシングで300円とかで出してもらってまとめて読めるようにしてほしい、っていう話もここにつながってくるし。

米田:なるほどね。

松浦:どうしてもウェブメディアは「今日この時間に新しい記事がアップされました!」っていうようなフロー体験の連続になっちゃっているところがあるから。

米田:そう。まだフロー型で、目指すべきストック型まで行ってないんですよ。

松浦:PVにもう価値がないと言いたいわけじゃなくて、価値あるコンテンツをどうやって届けるかという方法論を考えるにあたって「所有してもらう」という手段もあるはずという話で。

僕らが学生の頃、憧れの雑誌があったじゃないですか。本屋に行って「カッコいい表紙だな」というきっかけで買ってみたりとか、音楽もそうじゃないですか。ジャケットも含めてフックする場があると思うんだけど、ネットのコンテンツはソーシャルでぐるぐる回ってるように見えるけど、ネットの外に出たらまったくタッチポイントがなかったりする。インターネットは書店とかCDショップみたいな完全に偶然な出会いをするのはなかなか難しいじゃないですか。だから意識的にそれができる場所にも出向くべきだと思う。

「PR目的の書籍」をウェブメディアが出すということ

米田:まずは、今はある種、筋がいいお客さん、いわゆる好事家に見つけてもらう。こんないいサイトがあったんだ、読んでみようと。Twitterでそういう投稿がたまにあるのね。『FINDERS』というのを見つけた、いい記事が多いという、その好事家に、いかに見つけてもらうかに注力しようと思っている。

松浦:ただ、あとは、それぞれのインタビューしている人たちのソーシャル・グラフに『FINDERS』がどこまで刺さったかという、外の世界にちゃんと刺せたかどうかというのはPVじゃなくて、そういうものも含めて見ていってもいいのかなと。

米田:Twitterの反応を見ているよ。執筆者がツイートした反応に対する動きは見ているわけで、それは全然悪くはない。

松浦:だから、そこかなという気がする。

米田:あとは全体的な底上げと本数を増やすところはやらなきゃいけないなと。

松浦:メディアの価値の部分で、在庫の問題は避けて通れないので。

米田:そうそう。それは少ない人員でやっているからしょうがないけど、一本一本の記事の価値は高まっていると思うし、それぞれの連載に関しても業界のスペシャリストを起用しているので、そこそこ面白いものになってきていると思っている。

松浦:あとは、いいスタッフを増やすなら、その原資みたいなかたちの部分で広告なのか課金なのか。個人的には、さっきも言ったみたいに課金にチャレンジしてほしいな。

米田:その視点はなかったね。それでがっぽり儲かるとは思わないですけど、そんなことをやっているウェブメディアはある?

松浦:ほとんどないはず。

米田:そういえば『NewsPicks』はアプリ内で特集を本に近いイメージでまとめ読みできるようにしてたり、紙の雑誌やフリーペーパーを出したり、近いことをやっている印象かな。

松浦:やっていますね。加えてNewsPicks Booksとして書籍も出しているので、いわゆる本好きにもリーチする可能性がある。この日本において、Amazonランキングを気にしながら買っている本好きな人は、ある意味で好事家じゃないですか。そういう視点でも入っていくのは大事なことじゃないかなと思う。

米田:課金もゆくゆくは考えつつあるけど、やってみることの価値はあるかなと思うね。

ローコンテクストとハイコンテクストのバランス

米田:あと、あれはどう思う? YouTuberとかVTuberとかライバーとか、今って動画礼賛の時代じゃないですか。ONE MEDIAとかも含めて。

松浦:結局のところ、テレビを観ている人と新聞を読んでいる人の差だと思う。昔から文字より動画の方が分かりやすかったわけだし。とはいっても、これまでテレビがあれだけの覇権を握ってもテキストメディアが全滅しなかったわけでさ。

テキストメディアは動画にチャレンジしてしかるべきだろうし個人的にもいろいろ研究したけど、全てのテキストメディアがが今すぐ本格的にやらなきゃいけない、というほどではまだない

米田:でも、活字を読めないという若者が明らかに増えているよね。実際に僕の周りにも多いよ。

松浦:ただ、「逆に今までのメディアがハイコンテクスト過ぎたんじゃないの?」という見方もある。実際のところ、我々は日本語をこうやって使いこなしているけど、結構難しい言語だからね。

米田:確かに。加えてこれだけいろいろなレイヤーの中の文脈があるわけでしょう。この対談も相当ハイコンテクストな日本語だと思うけど(笑)。それに乗っかる、乗っからないとか、面白い、面白くないという各自の判断もあって記事が流れてツイートが流れているわけだし。

松浦:だから、アメリカとかの動画を観ていると、ローコンテクストにうまくまとめて観てもらっている。

米田:アメリカは人種がいろいろあり過ぎるもん。ローコンテクストが基本。

松浦:でも、日本だって人種がいろいろ増えてるじゃない。小学校に行けば、クラスの3人ぐらいはお父さんかお母さんが外国人、みたいなことも聞く。そういうところも含めて、意識しておいた方が僕はいいと思う。その多様性が受け止められるようなローコンテクストのコンテンツが増えてくるのは、僕は必然かなと思っています。

米田:うーん。でも、コンテンツってやっぱりハイコンテクストなところに面白味があったりするからなあ。

松浦:だから、それをやりたいかやりたくないかの話。ハイコンテクストは僕も好きだし、そっちもやりたいなというのはあるけど、一方でみんなに届くコミュニケーションをしようと考えると、ローコンテクストなフックを入れないとそもそも無理。

米田:そうだね。ちなみに『FINDERS』は相対的にハイコンテクストかな。ガジェット紹介とかローコンテクストのものもたくさん出してるけどね。

松浦:それはそれでいいと思うんだ。別にローコンテクストだけをやってほしいなんて微塵も思わないし。

米田:ローコンテクストのコンテンツも、もっと増やそうと思えば作れると思うけどね。それが、面白いのか面白くないのかという話もあるし。

神保:批評家の宇野常寛さんがデビュー直後から、彼は高校が北海道だったかで、「自分が10代を過ごしていた頃のイオンとかショッピングモールの本屋には絶対に自分の本があってほしい」みたいなことを言っていたのを今でも覚えています。僕は千葉出身なので地方ってほどじゃないですけど、ネットのコンテンツもどんどんマスカルチャー化していく中で、それにノレない人のためのオルタナティブな、あるいはハイコンテクストな受け皿を常に用意しておける存在にはなりたいなと。

そのためにこそ、松浦さんが何度もおっしゃっている「流通・フック」の部分をきちんとやらなきゃなんですけどね。

米田:僕が書いた本を故郷の福岡のTSUTAYAで見かけた時は嬉しかったし、それを見て、「こんなハイコンテクストな本を地方でも置いてくれるんだ」って思ったなあそう言えば。

松浦:そこはフックの掛け方のやり方の一つなのかな。マスを目指そうと考えた時に、ハイコンテクストでもある程度のリーチを取れる手段はあると僕は思う。だから届けるためのルートがTwitterとFacebookとInstagramだけというのは、ちょっと寂しいかなと。

「良いコンテンツ」を広めるためにこそ実名顔出しもする

右端に座っているのはFINDERS編集部の神保

神保:フックの話でもう一つしたいのが「SNS時代の編集者はどう前に出るか」というところです。これまでだったら雑誌内の編集後記で登場とかはありましたけど、「編集者もまたSNSで表に顔出しして発言する、みたいなことが必要なのか」ということを、自分と同世代かそれ以下の編集者とか若いライターと最近よく話します。フリーライターの宮崎智之さんが「ライターの読モ化」と呼んでいたやつです。

一応、去年自分のTwitterアカウントを実名表記にして、Facebookの投稿も公開にしてはみてるんですが、個人的には適正があるともあんまり思えないですし、正直辛いなという気持ちもあるんですが、『FINDERS』は新興メディアなので自分でもガンガン宣伝しないといけないよな、と悩んでます。

米田:ウェブメディアを本気でやっていたらやるでしょう、当然。タダの宣伝・拡散ツールとしてあれだけ便利なものはないわけだし。編集者の佐渡島庸平さんと対談した時に彼が言っていたのは「これから編集者になる人は最低1,000人フォロワーがいないといけない」っていうことだったのね。僕もほんとそう思う。

松浦:というだけの話かな。自分を拡散するツールの一つだから。

米田:自分が書いているメディア、自分が編集しているメディア、自分が仕事をしているメディアをより多くの人に知ってほしいって本気で思うかどうかだけだと思うよ。だから無料の宣伝ツールという意味合いでもTwitterをやるという、それだけですよ。それに躊躇しているようじゃプロじゃないと思うよ。今の時代は。何を躊躇しているんだ、どんどん出て行けと。

神保:少なくとも、自分としては炎上する未来しか見えないんです(笑)。

米田:炎上したっていいんだよ。中の人の顔、制作者の顔が見えた方がいいに決まっている。そこにファンがつくこともある。ネットとテレビ、出版の違いで、特にテレビの人は絶対に表に出たがらないわけ。裏方に徹するというか。

でも、ネットは全然違っていて、裏方の人が表の人とコミュニケーションして、みたいなことがある種のエンタメになるというかコンテンツになるというか。

松浦:インターネットのいいところは「可視化すること」。何でも表に出て全部わかることに価値がある。これからもどんどん可視化しようぜ、みたいな流れは強まっていく。

米田:そうそう。だから、記者や編集者は実名顔出しでSNSをやるべきなんだよ。もうとっくにそういう時代。

神保:じゃあ、今回のインタビューの模様写真に俺も入れてください(笑)。

米田:そうだよ。入って撮って。数年後に見返して自分がいかに老化したかを突きつけられてぐったりするから(笑)。

神保:写真を撮ると、「マジで俺、太ってるな」というのを突き付けられますね(笑)。

米田:そういうのを乗り越えて今の自分があるんだよ(笑)。

松浦:米田、松浦の名前でググったら、ここ5年、10年どころじゃない劣化が可視化されてしまっている(笑)。

米田:太ったなとか年取ったなとかさ。

松浦:10年分の顔のインデックスが出てくるわけ。

米田:顔写真がぶわっと出てくるからさ。それに耐えられなければ、ウェブ編集者はこれからできないから、本当に。

神保:なるほど…。

松浦:芸能人でも何でもないのに、出るようになっちゃったじゃないですか。

米田:いつの間にかテレビも出まくってるし。自分が出ているのを観ると何度も落ち込むよ

神保:テキストならまだいいですけど、テレビはキツいですね(笑)。

米田:けどね、観ないとダメなんだよ。観ないとね、次から修正できないんだよ。

神保:反省会をしなきゃいけないんですね。

米田:そうそう。1回は観ないと。観て反省して修正して次に出てというのを繰り返す。タレントみたいにルックスがいいわけじゃないから、なんとかひと目でわかるアイコンを作ろうということで我々は帽子と赤メガネなんだよ(笑)。

松浦:これだけ情報があふれていると埋もれるからさ。

神保:そうしたら、俺は眼鏡デブになっちゃいますね(笑)。

米田:眼鏡デブで、ドイツ軍のこのジャケットを着ているというのでいいじゃない、いつも(笑)。あいつ、ネオナチか、みたいな(笑)。

神保:違いますからね!ちゃんと否定しないと「お前まんざらでもないのか」とか思われそうなので(笑)。


後編へ続く