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フワフワした「イノベーションっぽい何か」を追うのはもうやめよう。変化の時代に本質を見抜く力とは|西村真里子(HEART CATCH)【後編】
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  • 2019.01.09
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フワフワした「イノベーションっぽい何か」を追うのはもうやめよう。変化の時代に本質を見抜く力とは|西村真里子(HEART CATCH)【後編】

前編はこちら

IBM、Adobe、バスキュールを経て、現在はHEART CATCHの代表を務める西村真里子氏。クリエイティブの知識と最新テクノロジーのマーケティング力を強みに、プロデュース業、企業のマーケティング支援、プロモーションなどを手掛ける。

後半は西村氏が世界中を回り見聞きした、テックカンファレンスのシーンについて聞いていく。同氏はこうしたイベントに「仕事」ではなく自費で行くこともしばしばあるという。それは、以前在籍していたIBMやAdobeが当たり前のように最先端のテクノロジーの情報が入る環境だったからこそ、自分で会社を作った際は積極的にテクノロジーの情報を取りに行く必要があると感じているためだ。

さらに多くのイベントを主催し、「人のハートを掴む」ことが仕事だという西村氏に、コミュニティのあり方について伺っていく。メディアがイベント化・ソーシャル化し、社会自体がメディア化していく中で、人とつながる手段はイベント、eコマース、ミートアップ、リクルーティングなど多岐に渡る。過渡期である今、コミュニティに重要なこととは何だろうか。

聞き手:米田智彦 文・構成:石水典子 写真:神保勇揮

西村真里子

株式会社HEART CATCH代表・プロデューサー

国際基督教大学卒。IBMでエンジニア、Adobe SystemsおよびGrouponでマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブ企業バスキュールでプロデューサーに従事。2014年にHEART CATCHを設立。テクノロジー×クリエイティブ×ビジネスをつなげる様々なプロジェクトを手がけるプロデューサー / Art Thinking Improbable Workshop Executive Producer

海外のテックフェスに行きまくった結果

―― 西村さんは海外のテック系のカンファレンスやフェスに頻繁に行かれていますよね。2018年はどんなものに行きましたか?

西村:「CES」、「サウス・バイ・サウスウェスト(SXSW)、「ミラノデザインウィーク」、「ビバテック(Viva Tech)」、「ハイプフェスト(HYPEFEST)」、そして10月は「コンプレックスコン(ConplexCon)に行きました。テックカンファレンスの中で「CES」はナンバーワンだと思っているので、大きな産業を含むテクノロジーの世界的な流れを見るためにも、会社の重要業務として毎年行っています。

―― それらの中で一番面白かったのは何ですか?

西村:5月にフランスで開催された「ビバテック」ですね。フレンチテックのポリティカルな側面が深く理解できました。フランスではエマニュエル・マクロン大統領がイベントに出演したり、デジタル空間に対しても積極的に国が介入を進めています。スタートアップ、IT起業大国であるアメリカ、中国に対してフランスは、人工知能分野のハブとしてのポジションが取れるようにマクロン大統領がイベントの基調講演でプレゼンし、資金を出し、投資家やスタートアップが入りやすい措置を取っています。日本でもJ-Startupが始まりましたが、政府も民間もクロスするイベントをもっと起こしていき議論の活性化、新しい産業のあり方への意識づけを行なっていくのが大事だと思います。

ビバテックで見られたもう一つの気になる動きが、アフリカです。「フランスがアフリカのスタートアップを支援する」という姿勢を見せ、ブースを多く出していました。

―― 僕も数年前に行ったのですが、アフリカには今、ナイロビにものづくり系ベンチャーが集まったクリエイティブスペース「アイハブ(iHub)」もあって面白いですよね。

西村:実はまだアフリカに行ったことがないので、ビバテックでアフリカのスタートアップシーンに興味がわいたので、アフリカビジネスへの意識づけをしてもらったことも良いきっかけだと思っています。

あとは10月6日、7日にニューヨーク・ブルックリンで開催された「ハイプフェスト」も面白かったです。ストリートカルチャーやストリートファッションのメディア「ハイプビースト(HYPEBEAST)」の代表ケビン・マによるフェスで、フランスのセレクトショップ「コレット」のクリエイティブ・ディレクターのサラ・ アンデルマン氏と藤原ヒロシ氏がボードメンバーとして参加しています。ストリートファッション、ストリートカルチャーのアイテムが買えて、DJや伝説のグラフィティアーティストのライブパフォーマンスなどもありました。

会場はアメリカ海軍の造船施設だったネイビーヤードで、集合場所からシャトルバスが出ているのですが、ブルックリンに詳しい友人も、どこで開催しているかを知りませんでした。このシークレット感はたまらなくて、来た人だけが味わえる高揚感がありました。

「ハイプフェスト」についてテック的な要素で面白かったのが、イベントの一区画でしか買えない限定グッズを「Frenzy」と提携したアプリを活用して販売していたことです。ジオフェンシング(位置情報をつかったサービスの一種)に似たテクノロジーなのですが、今、中国でもオンラインとオフラインがマージするといったことが起きていて、ジオフェンスはこれから使われてくるテクノロジーだと思っています。

ハイプフェストの模様

―― それは会場でイベント限定グッズを販売するのと、どのような違いがあるんでしょうか?

西村:一番のメリットは在庫を会場に用意しなくても済むということです。売る側としても参入しやすいですし、受注生産にすれば売り切れも回避できます。加えて、イベントの熱量をコントロールするようなタイムセールを仕掛けることも可能です。これは小さな限定された場所でも、つまり高い会場費をかけなくてもいきなり「ハイプ」を起こすことができる可能性があるということです。参加者みんながイベント中にスマホを見ているのは異様な光景ですが、会場内ではステージやフードブース、DJブースを集中して設置できますし、売る側のいろんな障壁を避けながら山を作れるところが、通常のグッズ販売と違うところです。

シークレットパーティにプラスしてオンラインで限定のモノを買うというシステム自体は非常にシンプルですが、来場する意味のある特別感が生まれていて良かったです。日本でもやってみたいですね。

フワフワしたコピーではフワフワした人間しか訪れない

―― 西村さんはコミュニティのプロデューサーとして、日々膨大な数のイベントやミートアップに参加している印象もあります。今は猫も杓子もコミュニティを作りたいと言っている状況ですが、すべてのコミュニティが面白くなるわけはなく、運営している人は誰なのか、どういう人が来る場所なのかということが問われてくる時代だと思います。より良いアウトプットが生まれる場所や、良いコミュニティを作るための条件とは何でしょうか?

西村:良いコミュニティの首謀者は、とても丁寧に熱量のある参加者を選んで呼んでいます。来て欲しい人に対して、ちゃんと来て欲しい理由を伝えて呼んでいますね。イベント自体の設計や声がけを丁寧にしていくと、「この人たちが来るなら行こう」と相乗効果で、情報がどんどん広まっていきます。単純なことのようですが、丁寧に作っているところはコミュニティ全体の熱量も高い良い人が集まるので、メンバー同士で良いプロジェクトができるようになります。ですから、「コミュニティを作った」という旗を立てるだけではダメです。

また私自身、本当に腹落ちしていないようなキャッチコピーでイベントを作るのはやめようと思っています。企業向けのイベントをやっていると、「イノベーションを起こす新しい何かが欲しい」みたいなことをよく言われるのですが、結局フワフワした言葉でやると、フワフワとした考えの人しか来ないというのが実感としてあります。ですから、タイトルは地味なものになるかもしれないですが、ちゃんと地に足のついた内容のコミュニティ作りを真摯な態度でやっていくことが大切です。

今、みんなが「変わらないといけない」という方向に意識が向いています。そういう時には浮ついた言葉よりも、具体的な旗を何種類か立ててあげることが大事なのではないでしょうか。

主体的な問いの視点を持つためのアート思考

―― 今、アートシンキング(アートやアーティストの思考法をビジネスに取り入れ、課題を解決するプロセスを身につけるメソッド)にも関心を持っているそうですね。

西村:これまでテクノロジーの先端でいろいろな活動していると、企業の方に頼まれて話をする機会も多いのですが、中には「この情報を実際のビジネスで活用してくれるんだろうか…」と心配になるようなことも正直あります。単に「いい話を聞いたな、勉強になったな」で終わらせていてはもったいないですし、インプットをするにも事前の予習が、そしてインプットしてからはアウトプットを意識すべきだと思います

―― 聞き手側も、コンテクストを理解する必要があるということですね。

西村:そうです。そういったことを感じていた時に出会ったのがアートシンキングです。私のいうアートシンキングとはフランスで10年前に生まれたもので、アーティストがものを生み出すための思考パターンを学び、ビジネスパーソンはどういう視点を持って社会と向き合うべきか、どういうパッションを持ってものを生み出すのか、という問いの視点を作るためのワークショップです。

―― フランスではアートに対する捉え方が幅広いですよね。

西村:はい。その点、日本ではアートが「鑑賞するもの」という意味合いが強いですよね。日本にアート思考を持ってくる時には、「アートは社会に対する問題提起の視点も持っている」といったことも伝える必要があると思っています。

結局、情報や視点を与える側だけじゃなく、受け取り手にもそういう人たちが増えていかないとこの国はマズいのでは、という焦りもあります。一人一人が社会に対する見る目を持ち、自分は何者なのかという哲学的な視点を持つためにも、役立つ思考法だと思います。

―― アートシンキングには、ものごとを深く読み取る力をつけるという意味合いもあるんでしょうか?

西村:それもありますね。例えば、バンクシーがイスラエルに作ったホテル「The Walled Off Hotel」をご存知でしょうか。バンクシーはグラフィティアーティストでありながら、紛争している地域にホテルを作って、世界的に有名な現代アーティストがホテルを作ることで、観光としてお金が回るようになる。それはバンクシーなりの皮肉でもあります。なぜバンクシーが紛争地帯にホテルを作ったのかということも含めてアートピースを考えていくことが、アートシンキングの手法です。

マルセル・デュシャンが便器を「泉」と呼んだのは、それまでの美術では美しいものがアートであるという思い込みがある世界へのカウンターであり、新しいアートを生み出す現代美術のメルクマールにもなったわけです。

これは今のスタートアップ文脈とも同じですよね。例えばAirbnbも「宿泊するのはホテルだけである」という固定概念へのカウンターです。空いているスペースを貸せる側も、ローカル体験ができる借りる側もハッピーだからやるというのは、ある意味アーティストの思考で生み出されたものです。そうした視点を持つことはスタートアップやビジネスの分野でも、これまでの会社にはないものを生み出すためには大事だと思います。

今、アートシンキングはアルス・エレクトロニカやMOMAでもやっていて、スタンフォード大学でも2018年の秋から取り入れられています。世間的にもアップカミングで、来年以降に広まっていくのではと思っています。私自身も広めていきたいし、そうした楔を打ちこむことで社会貢献したいと思っています。ずっとビジネス畑にいて、そういうものが必要だと思った自分の実感でもあります。

―― FINDERSも「クリエイティブ×ビジネス」をテーマにしているメディアです。アートシンキングは「アート×ビジネス」ですよね。ここで連載をしませんか?

西村:書きますよ!(笑)。情報を持っていて、アウトプットしないといけないと思っていたので。

―― 決まった。じゃあ今年からお願いします。

西村:はい、ぜひ!


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