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カルチャーの極致?“神々の酒場”を創造した男 草なぎ洋平(東京ピストル代表/編集者)【連載】テック×カルチャー 異能なる星々(7)
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  • 2018.12.18
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カルチャーの極致?“神々の酒場”を創造した男 草なぎ洋平(東京ピストル代表/編集者)【連載】テック×カルチャー 異能なる星々(7)

加速する技術革新を背景に、テクノロジー/カルチャー/ビジネスの垣根を越え、イノベーションへの道を模索する新時代の才能たち。

これまでの常識を打ち破る一発逆転アイデアから、壮大なる社会変革の提言まで。彼らは何故リスクを冒してまで、前例のないゲームチェンジに挑むのか。

進化の大爆発のごとく多様なビジョンを開花させ、時代の先端へと躍り出た“異能なる星々”にファインダーを定め、その息吹と人間像を伝える連載インタビュー。

この冬、青山の裏路地に神々の後光あふれる前代未聞の空間が誕生した。その名も「GOD BAR by スナックうつぼかずら」。仕掛け人は、日本文学からアダルト産業まで、あらゆるカルチャーを縦横無尽にマッシュアップし続ける東京ピストル代表の草なぎ洋平氏。

彼はそこに何を見いだしたのか? その先に浮かび上がる光景とは? マーケティングと陳腐化がいや増す世の中に怪気炎を上げる“偏愛編集者”、最新の到達ビジョンを開陳する。

聞き手・文:深沢慶太 写真:増永彩子

草なぎ洋平(くさなぎ・ようへい)

1976年、東京都生まれ。株式会社東京ピストル代表取締役、編集者。インテリア会社のIDÉEを退社後、2006年に東京ピストルを設立。書籍やWeb媒体をはじめ、企業広告、ブランディングから場のプロモーションまでを幅広く手がける次世代型編集者として活躍中。代表作に、ももいろクローバーZの公式ツアーパンフレットの編集長(2012年〜)、日本近代文学館内の文学カフェ「BUNDAN COFFEE & BEER」(2012年)、京王線井の頭線高架下のイベントパーク「下北沢ケージ」(2016年)のプロデュース&運営など。
東京ピストル http://tokyopistol.com/

八百万の“神グッズ”が織りなす恍惚空間「GOD BAR」

―― 草なぎさんは自身のクリエイティブカンパニー「東京ピストル」の代表を務めながら、“編集者=紙やウェブ媒体の制作に携わる職能”というイメージを超えて、グラノーラ専門店「GANORI」や、ホストが書店員を務める「歌舞伎町ブックセンター」(移転のため休店中)のプロデュースを手がけるなど、イベントから場づくりまで幅広い仕事に携わっています。さる11月末には世界各地の宗教グッズを集めたバー「GOD BAR by スナックうつぼかずら」がオープンしました。今日は草なぎさん自ら、ベトナムの新興宗教であるカオダイ教の信者が身にまとう純白のアオザイ姿でカウンターに立っていただいたわけですが…。

草なぎ:世界各地で気になった神様の像を見つけては購入していたら、家の中がいっぱいになってしまって。「GOD BAR」はもともと、そうやって集めた“神グッズ”だらけの僕の部屋で酒を振る舞うという形で始めた企画で、それが満を持してお店になったということです。

ーー そもそもどんなきっかけで、“神グッズ”を集め始めたのでしょう?

草なぎ:下北沢の井の頭線高架下のイベントスペース「下北沢ケージ」を作っている時に「下北沢ってアジアっぽい町だね」という話が出て、ベトナムへ買い付けに行くことになったんです。現地で道に迷ってしまい、キリスト教の教会へ入ったところ、電飾が付いた極彩色のキリスト像が置いてあって。「こんなのは見たことがない!」と感動して、十字架などを購入させてもらった。それが2016年のことですね。

「下北沢ケージ」。京王井の頭線・下北沢駅の高架下に3年間限定で出現したイベントパークと、アジア屋台酒場「ロンヴァクアン」の運営&プロデュースを東京ピストルで担当。

―― タイやミャンマーには、日本のデコトラ以上に電飾やブラックライトなどで飾り立てられた、目にもドサイケな寺院がありますね。

草なぎ:そう、金ピカの仏像に電飾を組み合わせる独特の感覚で、仏教やキリスト教をアップデートしまくっていて。日本だと不謹慎だと言われますけど、東南アジアでは自分たちが愛する神や仏をもっと美しくしようと思うその一念が、こういう表現に結び付いている。一目見てこのデザインセンスは最高にカッコいいと思って、それ以来、海外へ行くたびに仏具屋や教会の土産物屋などを探すようになりました。そういう店を僕の言葉で“神ショップ”って呼んでるんですけど、最初は「何をしに来たんだ?」って怪しがられて。それが一度に大量に買うもんだから「こんなのもあるぞ!」って、海外の神ショップの間でも話題になって、どんどん情報が集まるようになって……それで家が大量の神グッズだらけになっていきました。

ベトナムの新興宗教へ入信! “酒とつまみと神”の関係を問う

――それで、宗派ごちゃ混ぜの神グッズによる、前代未聞の超絶インテリア空間ができあがっていったわけですね。しかもその異空間で祈るのではなく酒を楽しむというのは、無宗教を自認する日本人ならではの発想かも。

草なぎ:今日着ている服にしてもそうですが、僕自身が今年カオダイ教に入信したんですね。

ここにはいろいろな宗教のものがあふれていますが、もし仮に自分が全部の宗教に入信したら、僕の中に異なる宗教が共存する形になるわけで、これはまさしく世界平和だなと。だからこれからは平和のために人生を捧げて、受け入れてくれる宗教にはどんどん入信していこうと考えています。

それに、宗教と酒の関係には深いものがあって、お酒というものは元々、神様と交流するためのものだったわけですよ。日本の御神酒(おみき)だってそうですし、お酒で神様をもてなしたり、神様と交流したりする祭りは世界各地で見られます。僕がオーナーを務める日本近代文学館内の「BUNDAN COFFEE & BEER」では、文学の魅力を新しい形で体験してもらうべく、芥川龍之介が飲んだコーヒーや、林芙美子の小説『放浪記』の主人公が食した牛めしを現代的な感性で再現して提供していますが、「GOD BAR」はいわばその宗教版で、神と酒の関係を現代の感性で空間化したわけです。

「BUNDAN COFFEE & BEER」。駒場の日本文学館内、名著から希少本まで約2万冊の書籍を手に、日本文学史を彩る作家や名作にちなんだドリンク&フードメニューを楽しめるカフェ。

―― 「BUNDAN COFFEE & BEER」をはじめ、草なぎさんは「下北沢ケージ」「歌舞伎町ブックセンター」などさまざまな場づくりに携わってきましたが、中でも今回は個人の趣味にグッと寄せてきましたね。

草なぎ:これまでは場所が持つ意味からコンセプトを作り上げていくことが多かったのは事実です。場所と内容がバラバラな店を見るたびに「ここでそれをやらなくてもいいじゃん」と感じてしまうので。でもこの店に関しては、元々ここで「スナックうつぼかずら」を運営していたオーナーさんから「リニューアルのアイデアが欲しい」と言われて、ぜひ「GOD BAR」をここでやりたいという話をしました。だからこれまでのようなプロデュースというよりも、僕の趣味がそのまま具現化した形ですね。

ホスト書店、アダルト画廊――未踏の地を行くカルチャー行者

「歌舞伎町ブックセンター」。“LOVE”をテーマにセレクトされた本を取り揃え、新宿・歌舞伎町のホストたちが接客する書店として2017年10月にオープン。移転のため現在は休店中。

―― 草なぎさんの最近のお仕事のうち、「歌舞伎町ブックセンター」は“LOVE”にまつわる本がテーマでしたし、前回このインタビューでキュレーターの小高久美子さんに取材させていただいた際の話(※1)にも関連しますが、DMM.comの成人向け事業である「FANZA」(旧「DMM.R18」)のリニューアル事業にも携わっています。どんどんタブーすれすれの領域へと攻めていっているように思えますが、何か心境の変化があるのでしょうか?

草なぎ:確かにホスト、アダルト、宗教って、もはやカルチャーの「役満」ですよね。攻めに攻めまくってますよ。中でも宗教は好きなジャンルで本もいろいろ読んできましたが、とはいえ自分自身が帰依することはなかった。特に日本だとオウムの地下鉄サリン事件の影響もあって、宗教的なものに対する根強い嫌悪感がある。でも僕としては、宗教そのものの美しさや、神から生まれた造形美に注目をしたいという思いがあった。例えば、伊勢神宮や出雲大社を訪れれば、誰もが圧倒的な美に心打たれるわけでしょう。鳥居にせよ仏像にせよ、古代から受け継いできた美意識が生み出したデザインだと思うんです。

だから、そのデザインをもっと現代的にアップデートしたらカッコいいだろうなと思ったんです。例えばこのカウンターに置いてあるヒンドゥー教のシヴァ神ですが、インドで購入した1980年のアンティークです。すべてが手作りの木製で、首や手がたくさん付いていて取り外しができる、めちゃくちゃカッコいい“大人のフィギュア”ですよね。あと、この台湾で購入した1950年のアンティークの関羽の頭は、バネ仕掛けで目が動くんです。お祭りの時に被って使用するための木製の神像です。そういうものを集めたのがこの空間ということで、決して宗教論争をするための場ではないんです。

(※1)参考記事:「アダルト産業×現代アート」で占う人間性の未来 小高久美子氏(アートキュレーター)【連載】テック×カルチャー 異能なる星々(6)
https://finders.me/articles.php?id=462

草なぎ氏が世界中で蒐集した“大人のフィギュア”が店内ところ狭しと並べられている。

写真中央上にある、オレンジ色のヒゲが特徴な頭像が「目の動く関羽」。

FANZAの特別企画として「下北沢ケージ」で12/1〜25まで公開されている「TOKYO・LOVE・TREE」。フジテレビのリアリティーショー番組『テラスハウス』出演で知られる建築家の半田悠人をプロデュースに迎え、「一緒に体験することで互いに惹かれ合うクリスマスツリー」を実現させた。
https://special.dmm.co.jp/fanza/project/tokyo-love-tree

―― そういえば、草なぎさんのTwitterアカウントの名前がいつの間にか「草彅洋平_GOD HUNTER」になっていましたね(12月18日現在は「草彅洋平_GOD BAR」になっている)。草なぎさんが20代前半の頃、インテリア会社のIDÉEで野村訓市さんとともに現代版「Whole Earth Catalog」ともいうべき雑誌『Sputnik』の編集に参加していたのを思い出しましたが、その頃から着々と深めてきたサブカル嗜好が極まって、ついに神々との戯れに至るとは…。とはいえ、中沢新一や松岡正剛のようなアカデミックな方向とも全然違うところに、草なぎさんならではのこだわりを感じます。

草なぎ:そう、要はサブカル的にイケてるかどうかなんですよ。こんなのばっかり買ってるから、ついに世界中の業者から連絡が来るようになりました。神ショップを訪ねる時も「ゴッドハンターが来たぞ!」みたいな(笑)。

陳腐化するこの世界で「偏愛せよ、汝の欲することをなせ」

―― でも一方で、日本人のほとんどは「自分は宗教に関係ない」と思っているものの、日本の文化風習には神道をはじめとする宗教的な世界観が非常に根深く関係していることもまた事実です。僭越ながら同じ編集者としては、古めかしいもののように扱われていた文学の世界と若い人々との接点となった「BUNDAN COFFEE & BEER」のような社会的なメッセージが、今回のケースにも込められているのでは? と勘ぐってしまうのですが…。

草なぎ:個人的に、昔は古本屋をひたすら回ってレアな本を見つけると、頭の中でドーパミンがドバドバ出たんですよ。でも今やそういう本もネットで検索すれば買えてしまう時代になって、熱が一気に冷めてしまった。本が売れなくなったのは、レアな本を発見する労力と感動がネットという手段によって結びついたからだと思うんです。そんな状況で、“本を買う”という行為を通してどうすればドーパミンが出るかを考えて思い付いたのが、ホストが接客する「歌舞伎町ブックセンター」でした。同じように、今僕がモノを買うことで盛り上がれるものが宗教だということ。なぜなら、ネットで面白い宗教グッズは全然買えないからですね。この世界はまさに、まだ誰も掘っていないブルーオーシャンです。

それに、これだけの神グッズを購入する以上、その背景にある宗教については当然、本を読み漁って調べまくってますよ。例えばここに置いてある聖書は古本屋を探し回って見つけたものですが、すべてのページに神父さんの手でギッシリと書き込みがされている。こんなふうに、人の心に訴えかけるようなストーリーが感じられるものが好きですね。

古今東西の“神グッズ”とともに、大量の書き込みがなされた聖書がうやうやしく鎮座している。

―― いかに自分だけの偏愛を注ぐことができるかどうか……悟りとは真逆の、煩悩まみれの道ですね。その上で、日本人と宗教モチーフというと、澁澤龍彦が責任編集をしていた雑誌『血と薔薇』のようなアングラカルチャーやフェティシズムにもつながる独自の世界観がありますが、こうした文脈との接続性についてはどうでしょう?

草なぎ:う〜ん。というよりも僕の場合、デザイン的にイケてるかどうかなんですよ。カオダイ教に心惹かれたのも、総本山の礼拝堂とかが圧倒的にキッチュで美しくて、思わず「入信したい!」と思わせるものがあった。次に入ろうと思ってるのは、人間は宇宙人だと信じているブラジルの宗教団体。これが超絶イケてるんです。僕はビカビカしてるものが好きなので、その視点でイケてる神にしか帰依しません。そこがポイントですね。

愛なきマーケへの隷従に喝! 真似のできないドーパミン編集術

―― いわば、サブカル的な目利きの基準があるわけですね。でも、東京ピストルの業務を突然投げ出して、出家するようなことがないといいのですが…。

草なぎ:それはないですね。この店なんて神グッズをはじめ内装や什器に総額で1,000万円以上かかっていますから、完全に道楽です。普通の飲食店は器にお金をかけたりしませんが、うちの場合、仏壇やお寺でチーンってやる「お鈴(りん)」で「神(ジン)トニック」を出そうとしていたり、香港で真鍮の線香立てを買ってきてそれでビールを出したりと、道具の経費が半端ない。仏具屋に「お鈴を20個くれ」って言ったら「巨大な法事があるんですか!?」って驚かれましたよ(笑)。

写真中央右のコンパクト布団に乗った「お鈴」に「神トニック」がなみなみと注がれる。

お酒も神や宗教に関連するものだけを厳選して提供するというこだわりよう。

東京ピストルとしては、誰かがやってることの後追いはしない、作るからにはオンリーワンの超絶面白いものにしたいと思ってるんです。世の中的にはすぐ「こういうのが流行ってるらしいよ、うちでもやろうぜ!」という安直な話になるじゃないですか。そんな愛がないやり方は好きじゃない。まあ、この店に関していえば神グッズはとにかく高くて、安易に真似されるものではないので安心していますが。

ソーシャル経済メディア「NewsPicks」発のタブロイド判フリーマガジン「HOPE by NewsPicks」第2号(11/22発行)。創刊号に続いて東京ピストルが編集・制作を手がけた。
https://newspicks.com/news/3442747/body/

―― それにしても、あらゆるものを対象に新たな価値を提示するのが編集者の仕事とはいえ、草なぎさんとは何者か、ますます一言では説明が付かなくなっていきますね……そのあたり、どう考えているのでしょう?

草なぎ:そうですね、僕としても東京ピストルとしても、あくまで軸足を置いているのはカルチャーとコミュニティです。紙媒体やウェブコンテンツなどの仕事もバリバリやっていますが、心がけているのはまだ誰もやっていないことをやり、それを面白いと思ってくれるセンスの良い同好の志を集めること。これに尽きます。パクるのが一番つまらない。僕にとってこんなにドーパミンが出るのは、今やサウナか宗教ぐらいのものですよ。

「下北ケージ」でもサウナのイベントをやりますが(※2)、元々おじさんのものだと思われていたサウナをオシャレにデザインして、現代的にアップデートしています。その視点から見れば、宗教の世界はまさにイノベーションの可能性にあふれている。ぜひ、この領域でデザインやリブランディングをやってみたいですね。「GOD BAR by スナックうつぼかずら」もどんどん進化していく予定なので、今後果たしてどうなるのか? ぜひ期待してください。

(※2)「下北沢ケージ」にてコロナビール協力のもと、2019年1月19日(土)〜3月17日(日)までアウトドアサウナイベント「CORONA WINTER SAUNA SHIMOKITAZAWA」を開催。フィンランド式テントサウナをはじめ、サウナで身も心も「ととのう」体験を演出する。
http://corona-extra.jp/event/corona-winter/escape-01/


過去の連載はこちら

GOD BAR by スナックうつぼかずら
住所:東京都渋谷区渋谷2-7-14 volt青山102
電話:03-6450-5821
営業時間:20:00〜2:00
定休日:土、日
Facebook:https://www.facebook.com/godbarshibuya
Instagram:https://www.instagram.com/godbarshibuya
Twitter:https://twitter.com/godbarshibuya

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