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スマートプランターで、“食と農”の本質を再定義する プランティオ共同創業者/CEO・芹澤孝悦氏
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  • 2018.04.20
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スマートプランターで、“食と農”の本質を再定義する プランティオ共同創業者/CEO・芹澤孝悦氏

業務効率化を促す「IT化」の流れを経て、昨今はAIやロボティクスを取り入れた「新事業開発」も盛んに試みられている。各社がリーダーを競い合うなか、いまだ手付かずの領域も眠っている。「PLANTIO(プランティオ)」は、まさにその一角と呼んでいいだろう。

彼らのビジョンは「みんなで野菜を育てる世界へ」。野菜や草花を育てるプランターに、人工知能や各種センサー、通信モジュールなどを組み込んでバージョンアップさせた「スマートプランター」を開発中だ。ハードウェアスタートアップのように思えるが、彼らの構想はさらに大きな地点を目指している。言葉を借りれば、「人と植物との関わりかたをリデザインする事業」である。

その将来性は、あの孫泰蔵氏が共同創業者として名を連ねることからも注目に値する。今回は同社の共同創業者でありCEOの芹澤孝悦氏に、話を伺うことができた。発表前の情報も多くあり、まさにネクストステップを踏み出さんとしている、1月末のことだ。


聞き手・文・構成:長谷川賢人 写真:神保勇揮

芹澤孝悦

プランティオ共同創業者/CEO

大学卒業後ITのベンチャー企業へ。エンターテインメント系コンテンツのプロデューサを経て、日本で初めて“プランター”という和製英語を発案・製品を開発し世に広めた家業であるセロン工業へ。男性から女性に花を贈るフラワーバレンタインプロジェクトの立ち上げや2012年業界最大の国際園芸博覧会フロリアードの日本国政府スタッフとして参画。60年前に開発された元祖“プランター”をその当時の熱い開発マインドと共に今の時代にあった形で再定義し、次世代の新しい”人と植物との関りかた”を模索する三代目。

「本物」のプランターをバージョンアップさせる

六角形のハニカム構造の「Smart Planter™」。土壌水分計、土壌温度計、日照計、外気温計、観察用のカメラを備え、都市生活者の住居のベランダに置きやすいように設計されている。

プランティオが目下開発を進める「Smart Planter™」は、芹澤氏の祖父が開発を手がけ、実用新案の特許を取得した「本物」のプランターが基になっている。実は、市場で流通する多くのプランターはいわゆる模造品であり、本来的には水と空気が循環する仕組みを備えていなければならない。

かいつまんで言うと、プランター内の土と、底部に溜まる水の割合が、おおよそ10対1になるように設計されていなくてはならない。芹澤氏によれば「これは日本の地層と水脈の割合とほぼ同じ。そもそもの自然環境を小さくしている姿こそが本物のプランター」だという。プランターが世に出たのは1955年。それからおよそ60年近くが経ち、芹澤氏は家業であったプランターに着目し、バージョンアップを試みたのだ。

「Smart Planter™」はプランターが備えるべき仕組みに加え、現代の狭小なベランダ環境に合わせ、六角形のハニカム構造を採用。太陽の向きに合わせて回転させやすく、複数個を並べてもデッドスペースが生まれにくいようにした。また、拡張ユニットを縦に積めば、ごぼうやにんじんといった大型の野菜も育てられる。

電力はソーラーパネルを用いた太陽光発電でまかない、6時間の充電で20日間稼働する。人工知能に加え、土壌水分計、土壌温度計、日照計、外気温計、観察用の192度のカメラといった計測機器類を備えており、それらから採取データをBluetoothやWi-Fiで送信する。他にも、水分が不足すると自動で給水するユニットや、LEDによる補光機能も計画している。

また、使用する土も新たに開発した。火力発電所から捨てられる炭やココナッツの殻などの廃棄物を合わせ、微生物のチカラで土状にしたものだ。一定期間を使用した後に、微生物を含むバイオカプセルを投与すれば土質が蘇り、リサイクルも可能という。芹澤氏は「園芸用で売られている土は、言い換えれば地球を削って売られている。サスティナブルな未来を考える自分たちとしては、土からつくる必要があった」と話す。「Smart Planter™」に土を搭載すると、およそ13kgほどになる。

採取データによる栽培のアシストもあるため、家庭菜園のビギナーでも容易に始められる。都市開発を手がける不動産デベロッパーと提携し、オフィスビルやマンションでの栽培計画も進行しているという。利用は「月額2980円の24回払い」などを想定し、野菜の種は無料でもらえる予定。

芹澤氏の言葉を借りれば、「Smart Planter™」は「世界最小最軽量のすぐに使える農園」なのだ。ちなみに、すべての東京都民がマイクロファーミングを実践すれば、東京都の食糧自給率は大幅に向上するだろう。

“食と農”にまつわるライフスタイルを再定義する

農家に頼りきりだった従来型の農業から、都市生活者を含めた一人ひとりがアグリカルチャーに携わるスタイルを目指す。しかしそれは、既存の農家を脅かすわけではなく、あくまで共存が前提だ。

しかしながら、プランティオが目指す先は「Smart Planter™」の完成ではない。見据えるのは“食と農”にまつわるライフスタイルの再定義だ。

農耕民族であった日本人にとって、土を触ること、野菜を作ることは日常の中にあった。ところが、野菜がいわば「工業製品」となってしまってからは、対価を支払い、野菜の生産を誰かに任せてきた。結果として、食産業の工業化、安心・安全の不明瞭化、大量生産大量消費によるフードロスといった問題も起きていった。プランティオは、それらは“食と農”がライフスタイルのなかにあった時代には起きていなかったと考えている。

その機会を再び取り戻すことで、行き過ぎた資本主義を見つめなおし、「供給供足しあうことで人類が生活できる世界を創る」ことを目指しているという。

その一歩こそが「Smart Planter™」を活用した、いくつかの仕掛けなのだ、大きくは、エンターテインメント要素やゲーミフィケーションを採用したコミュニティアプリサービスと、飲食店との連携が挙がる。

「STORY」では、野菜のトリビアや背景を楽しみながら学べる。たとえば、「ミントの語源は、ギリシャ神話に登場する絶世の美女メンテ」といった小話をはじめ、話題を提供してユーザーアクションの活性化を図る。

たとえば、野菜を楽しく育てられるよう、アプリ内にはゲームのクエストのように、野菜の育て方やトリビアを楽しめる「STORY」機能を用意。これらを知ったり、栽培に必須な水やりなど一連の流れをミッション化していき、推奨された正しい方法で育てることでポイントが貯まっていく。

他にも、野菜の生育状況を常に把握できるため、「Smart Planter™」を活用している人を地図上に表示して、野菜の物々交換ができるようなC2Cプラットフォームとしてのコミュニティも備える。その際、既存の農家へのリスペクト、種や野菜は自然からのギフトである、という哲学から、野菜はあくまで既存貨幣との交換ではなく、物々交換をベースにするという。

飲食店との連携も行う。たとえば、実店舗で使われている良質なバジルの種を配布し、それを育てるプロセスを店舗ごとのコミュニティで共有する。

また、「大豆から育てる味噌作り」などのワークショップも開催し、ユーザーのアグリアクティビティを促す。飲食店との連携では、すでに店舗で使われている野菜の種を分けてもらえたり、それぞれの店舗でのコミュニティに参加したりもできる。

これらの活動で貯まったポイントはブロックチェーンで管理された「Growth Coin」となって機能し、それを使って新たな野菜の種をもらうことができる。 つまり、植物を育てるという行為が、また新たな植物を生むという連鎖を生んでいく。

芹澤氏は「従来の大規模農業をマクロファーミングとするならば、僕らは分散型のマイクロファーミングを都心部から世界に発信したい。農家だけに負荷をかけ続けるのではなく、自分たちでも楽しく育てるという、新しいアグリスタイルの発明だ。今までの農業にまつわる考え方をアンラーンして、ゼロから“農の本質とは何か”を考え直した上でアップデートする」と意気込む。

アンラーン(脱学習)することで本質を見る。

現在でこそ目指すべき世界観は固まったものの、ここまでの道筋はまっすぐではなかった。芹澤氏は当初、コンテンツ制作会社のプロデューサとしての経験を活かし、栽培過程を楽しむアプリゲームのようなプロダクトを構想していたという。

これに待ったをかけたのが共同創業者の孫泰蔵氏だった。彼は「現代の食のあり方を変えるんだ。そこまで見通せるプランでなければ起業する意味がない」 と芹澤氏を一喝。この言葉で、それまでの構想をすべて白紙に戻し、本質に戻って考え直したことが契機になった。芹澤氏は、体に染み付いていて気づきもしないような常識を疑い、アンラーン(脱学習)することで、考えるべき「本質」が見えてくることを孫泰蔵氏から教わったという。

「たしかにアグリテックは20世紀型のパラダイムを考えると必要だった。ただ、行き過ぎている面も大きい。現在は形や味にバラつきがないように、遺伝子異常の植物をあえて作り出す『雄性不稔(ゆうせいふねん)』という方法も台頭していまるが、これも人間への影響が叫ばれている。現在、農業は危機的状況にある。忘れてはならない農の本質を、僕らはエンターテイメントを入り口に思い出してもらい、気付きを与えていきたい」

「Smart Planter™」で使用する土に欠かせないバイオカプセル。この1粒を追加で投与するだけで土の機能が蘇るという。

だからこそ、芹澤氏は野菜を一から育て、その種についても正しく作られたものにこだわる。さらに気付きを与えるだけでなく、既存の農業を発展させる可能性も見据えている。「Smart Planter™」での栽培は、まだ解明されていない農法へのヒントも多く秘めているという。

「バジルがどれだけの水分をイン・アウトするのかは、定量的にわかっていない。この分野ではオランダなどが大規模農業で実験を試みているが、本来的には生育環境のデータが多く採取できるマイクロファーミングでやらなければわからないはず。 音楽を聞かせると美味しくなるのか、といった現時点では科学的エビデンスに乏しい話も『Smart Planter™』を通じて実証実験ができれば、農業界にとって大きな財産になる」と芹澤氏。

さらに、この事業を展開するのに日本はうってつけだという。世界で最も野菜の品種の流通量が多く、もともと農耕民族であり、「丁寧に育てる」という気質も理解できる。数多くのデータが蓄積された「植物栽培特化型AI」が完成すれば、日本発の技術として価値が高まるのだ。

芹澤氏からは1時間ほどの取材中、15回の「本質」という言葉が聞かれた。ビジネスが細分化し、多様化していくなかで、いかに“本質へ立ち返れるか”は、次代をつくる視点としても必要になってくると感じさせた。

渋谷のオフィスで生まれた絶品野菜を食べながら、次なる「本質」の議論を交える日。次代のビジネスシーンを変えるのは、そんな食卓かもしれない。


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