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中国でのドルガバ炎上で注目すべき「SNS運用ミス」以外の側面。「社会信用システム」が完成してからは愛国心もスコア化される?
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  • 2018.11.28
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中国でのドルガバ炎上で注目すべき「SNS運用ミス」以外の側面。「社会信用システム」が完成してからは愛国心もスコア化される?

ドルチェ&ガッパーナ公式Instagramより(現在は削除済)

伊藤僑

Free-lance Writer / Editor 

IT、ビジネス、ライフスタイル、ガジェット関連を中心に執筆。現代用語辞典imidasでは2000年版より情報セキュリティを担当する。SE/30からのMacユーザー。

微博やInstagramで公開した動画に批判が集まる

騒動の発端は、ドルチェ&ガッバーナ(D&G)が中国のSNS「微博(ウェイボ)」やInstagramに投稿した動画の表現に問題があり、「我々の文化や中国人女性を侮辱している」と中国の人々の怒りを買ったことだった。

この動画は、上海で11月21日に開催予定だった大規模イベント「The Great Show」に向けて同社が実施した広告キャンペーン「#DGLovesChina」の一環として制作されたもので、中国人モデルが、ピザやパスタなどのイタリア料理を箸で食べるという内容。ハッシュタグには「D&Gは中国を愛している」というメッセージが込められていたのだが……。

しかし、その表現には、箸を左右の手で別々に持ったり、ピザに箸を突き立てるなど、中国の食文化や礼儀を理解しているとは思えない内容が含まれており、「棒の形をした食器(箸)を使ってピザ、マルガリータを食べる方法について」という茶化したような解説まで付けられていた。

批判が相次いだために、この動画は投稿後24時間も経たないうちに削除されたが、騒動はそれだけでは収まらなかった。

SNS上におけるデザイナーの発言が騒動に火を注ぐ

騒動に火を注いだのは、D&Gのデザイナー、ステファノ・ガッバーナ氏のSNS上における発言だった。InstagramのDM上で行われたユーザーとのやりとりの中で、中国や中国人を侮辱する暴言を吐いた画面のスクリーンショットが、ネット上に拡散してしまったのだ。

21日にD&Gは、それらのやり取りは、ガッバーナ氏とD&Gのアカウントを何者かがハッキングして書き込んだもので、同氏は関与していないとInstagramに声明を出したが、反発の声が収まることは無かった。

ガッバーナ氏とD&GがInstagramに出した声明。

The Great Showには、チャン・ツィイーやリー・ビンビン、チェン・クンなどの有名スターが多数参加予定だったが、相次いで不参加を表明し、ショーは中止に追い込まれる。

さらに、D&Gのアジア・太平洋地区におけるアンバサダーに就任していたワン・ジュンカイやディリラバも契約解消を発表。不買運動も拡がって、多数の店舗やネットショップが同社の商品の取り扱いを停止している。

D&Gは、わずか数時間で中国という巨大市場を失う危機に見舞われた。

23日には微博のD&G公式アカウントで、「世界中の中国人に対して謝りたい」とドメニコ・ドルチェ氏とステファノ・ガッバーナ氏が中国語で謝罪する動画を公開しているが、失ったブランド価値を取り戻すことは簡単ではないだろう。

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ドメニコ・ドルチェ氏とステファノ・ガッバーナ氏が中国語で謝罪する動画

過去にも物議を醸す差別的な表現を行っていたD&G

実はD&Gには、以前から差別的な表現を行う傾向があり、たびたび批判を受けてきた。

昨年4月に北京で開催されたイベントの広告では、最新ファッションに身を包んだD&Gのモデルの背景に、まだ貧しかった頃の中国の街並みを使い「中国が貧しく遅れている」ように見せたと、多くの人々が不快感を示していた。

批判が巻き起こったのは中国だけではない。

2015年には、ドメニコ・ドルチェ氏とステファノ・ガッバーナ氏が、ゲイの養子縁組や体外受精を批判する発言を行って物議を醸し、英国の歌手エルトン・ジョンがD&G製品の不買運動を呼びかける騒ぎになっている。

スタイリッシュなブランドイメージの形成には、多少の「毒」はアクセントになると狙っているのかもしれないが、今回ばかりはそれが裏目に出たようだ。

浸透しつつある社会信用システムの影響も

今回のD&G騒動は、中国市場のデリケートさを改めて浮き彫りにしたともいえる。

中国の人たちが不快な表現に怒りを感じることは理解できる。しかし、日本や欧米諸国だったら、一瞬にしてブランド販売が終了するほどの大騒動に発展することはなかったかもしれない。なぜ、中国の人たちはD&Gが配信した動画やSNS上の発言に、過剰と思えるほどに嫌悪感を表明したのだろうか。

その背景には、中国政府が2014年に計画を発表し、2020年の完成を目指している「社会信用システム(social credits system)」の存在を感じてしまう。

社会信用システムとは、政府が国民のさまざまな個人情報をデータベース化して管理するもので、そのデータから各人の信用度が算出される。2018年5月には、社会信用の低い国民に対し、高速鉄道や航空機の利用を最長1年間禁止にする措置も発表されている。

QRコードを使ったスマホ決済が普及している中国では、その決済情報を基に信用調査と査定を行っている民間事業者と政府が協力してブラックリストを作成する動きもある。

国内からのインターネット利用を制限する「グレート・ファイアウォール(金盾)」や、顔認識技術と組み合わされた1億7,000万台の監視カメラなど、国民を監視・統制しようという政策は、国民生活のあらゆるシーンで浸透しつつある。

中国を侮辱するような表現をする企業と関係を続けることは、自らの社会信用を損なうことに繋がりかねない。著名人が相次いでD&Gとの協業関係を破棄するのも致し方ないことだろう。

ブランドの価値を高めるには多くの努力と長い時間がかかるが、失うのは一瞬である。特に中国においては。

中国でビジネスを展開するためには、そのことを肝に銘じておいた方がよさそうだ。

関連記事:良い「炎上CM」と悪い「炎上CM」を分けるものとは何か?【連載】幻想と創造の大国、アメリカ(6)
https://finders.me/articles.php?id=406


ステファノ・ガッバーナ氏のInstagram

ドルチェ&ガッバーナ(D&G)のInstagram

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