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つまらない会議の改善方法は「オランダの国交省」が知っている【連載】オランダ発スロージャーナリズム(6)
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  • 2018.10.17
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つまらない会議の改善方法は「オランダの国交省」が知っている【連載】オランダ発スロージャーナリズム(6)

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皆さんは、会議についてどんなイメージをお持ちでしょうか。「時間ばかりかかって、結局何も決まらない」「誰かが原稿を読んで発表するが、他には一切発言者がいない」「元々決まっていたことを形式的に承認するだけ」など、ちょっとネガティブなイメージがあるかもしれません。

でも、これ実は日本に限ったことではありません。合理性をとことん重視し、コミュニケーション能力に長けていると言われているオランダであっても、会議に対するイメージはだいたい同じです。

もちろん、生産的な会議も存在するでしょうし、前向きな議論が出来るワクワクするような会議もあるでしょう。思っていたよりもスムーズに合意に達する会議もあるかもしれません。

でも、このようにうまくいく会議と、うまくいかない会議の違いってなんでしょうか? 参加メンバーの違い?会議への準備の違い?事前の根回しの差でしょうか?

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

「オランダの国交省」内にあるフューチャーセンターがスゴい!

どうしたら会議がうまくいくのか? つまり、人と人のコミュニケーションは、どうしたらうまくいくのか? この辺りを徹底的にリサーチしているのが、実はオランダでは道路や橋、そして運河などのインフラや治水周りの管轄省庁“Ministerie van Infrastructuur en Waterstraat”なのです。さしずめ日本で言うところの国土交通省といったところでしょうか。

オランダ版国土交通省。ユトレヒト郊外にありインフラ・治水などを管轄する。

ということで、今回はオランダ随一の国家予算を扱う、オランダ版国土交通省庁内にある組織“LEF”というフューチャーセンターに行ってきました。そう、実はこの省庁内に、世界でも最大規模のフューチャーセンターがあるのです。

今回ご一緒したのは、福岡を拠点に組織開発などを行っている「合同会社こっから」のメンバー。それではさっそく、そのフューチャーセンターの中をご案内します。

なぜ省庁内にフューチャーセンターが?

周りを取り囲むモニターに色々な映像が映し出されることで、人間がどのような影響を受けるのか、実体験できるスペース

写真を見てもらえると分かるのですが、「これがお役所?」って感じではないでしょうか。はい。これはお役所です。しかも、オランダ一扱う予算が多いお役所です。

この省庁では、洪水や渋滞、道路整備など、コントロールの難しい課題に対応しなければなりません。しかし、かつてここで行われている会議の実態は、全然議論がまとまらなかったり、まったくうまく進行しないといったものでした。ヨーロッパの、いや世界の物流国家オランダの、道路や治水など国のインフラ周りを管轄する同省庁。当然、これは由々しき問題だったのです。

ですが、そこは効率的な働き方をとことん追求し、今や世界一ワークシェアが進んだオランダ。「こんな無意味な会議ばかりしていては時間がもったい無い!」「お金だってもったい無い!」「何より国民の生活を改善することにも役に立っていない!」「場合によっては、世界の物流に悪影響を与えてしまう!」と、どこまで思ったかは不明ですが、外部のコンサルタントに相談したのが事の始まりだったとか。かくしてフューチャーセンターLEFが誕生した、というのです。

ところで、一体フューチャーセンターとはなんなのか? ということで、Wikipediaから引用してみると、『企業、政府、自治体などの組織が中長期的な課題の解決、オープンイノベーション、ソーシャルイノベーションによる創造を目指し、さまざまな関係者を幅広く集め、対話を通じて新たなアイディアや問題の解決手段を見つけ出し、相互協力の下で実践するために設けられる施設である』とあります。まあ、分かったような、分からないような…。

これをもっと端的に表現すると「未来を創造するための対話ができる場所」といった感じでしょうか。

日本でも10年ほど前からメーカーや自治体、大学などが開設していますが、まだあまり馴染みがない人も多いかもしれません。

もっとも、日本でも最近盛んな企業内外に広がるオープンイノベーションを目的とした場づくりなどは、このフューチャーセンターの思想を受け継いでいると思われます。

議論がうまく行かないのは、その場の環境を見れば一目瞭然?

ということで、フューチャーセンターでは、「場」そのもの、つまり「場づくり」が大切にされるということは分かったと思いますが、さて一体LEFでは何が行わてれいるのでしょうか? 

実は、オランダ在住の筆者はLEFに何回か訪問しているのですが、行く度に毎回、新しい発見があります。発見というより衝撃に近いかもしれません。まず驚いたのは、会議室によって、議論がうまくいく会議室と、うまくいかない会議室があるというのです。そして、筆者も今では会議室を見ただけで、ダメな会議室と、良い会議室の違いが分かるようになりました。

「議論の収束」に適している空間。ちょっと薄暗くして、膝をつけ合わす感じが、ちょうど良いようです。

あ、でも、この言い方は、ちょっと語弊があるかもしれません。正しくは、「議論の拡散に向いている会議室」と、「収束に向かったり、結論を出すことに向いている会議室」があるというのです。仮に、結論を出すことが求められている会議にも関わらず、議論の拡散向きの会議室で会議をしてしまったら、どんなに優秀な人が集まってもおそらく結論にはいたらない、というのです。

これには会議室の雰囲気、大きさ、そして何より大切なのは人と人の距離が関係してくるそうです。さらには、たとえその距離が同じであっても、間にテーブルやイスの背もたれなどといった障害物があると違ってきますし、並び方や向きによっても変わってくるというのです。つまり、コミュニケーションには、そして、そのコミュニケーションを基に行うイノベーションには、人との距離や、環境の影響がとてつもなく大きいということなのです。

また言葉より雄弁なのが、ジェスチャーなどのボディランゲージ。例えば、頷きや、表情なんかも言葉より早く、相手に自分の思いを伝えてしまうことになるのです。そしてこれは、両者の関係が近くなればなるほど、わずかなボディランゲージでも相手に伝わってしまうようになるというのです。ほら、奥さんが外出先から家に帰ってきたときの足音だけで、機嫌が良いか、悪いか? 分かったりするでしょう?

これらはすべて人間の脳の反応によるもの、だというのです。

脳の模型を使って説明してくれる、ファシリテーターのロバート。

「脳の働き」からアプローチするから結果が出る

ということで、逆に人間の脳のこうした性質を利用すれば、意見の収束が難しいと思われる会議でも有効な方法があります。例えば、あえて全員がホワイトボードに向かって何か書きながら行う会議が有効です。なぜなら、みんながホワイトボードに向かっているので、他人のボディランゲージが見えないからです。ボディランゲージから伝わる情報に惑わされることなく、議論を進めることができるはずです。

また一人一人が、適正な距離を保てるとすると、それは物理的に自分の安全を確保できていることになります。いわば縄張りです。この縄張りが保たれることで、安心して反対意見が言えるようになり、議論が建設的に進むというのです。

LEFでは「こうしたことがすべて脳の自然な反応である」という仮説から、人間の脳の働き方や感情は、どう形成されるのか?ということなどに立ち返り、脳の進化の過程を研究したのです。そして、例えばワニなどの原始的な生物と人間を比べても、実は脳の中心の部分では同じ働きがある、ということを突き止めました。

では、果たしてその脳を、人間関係作り、グループ作り、つまり上手なコミュニケーションを取るためには、どう働かせたら良いのか? それ以前に、環境が脳に対してどういう影響を与えるのか?こうしたことをレクチャーしてくれるのが、このLEFなのです。

ロバートのファシリテーション。実際にスクリーンに映し出される画像によって人はどういう気持ちになるのか? また立ち位置を変えてみたり、他人との距離を変えてみたりしながら、いかに人間の感情に影響を与えるのか?といったことを体験します。

世界中に拡散するLEFのノウハウ

このLEFでの研究成果を利用することで、オランダのインフラ・治水省では会議が劇的に改善されたと言います

オランダの面白いところと言うべきか、あるいは商魂逞しいところと言うべきか、LEFでは、研究成果を基にしたファシリテーションと施設をセットにして、社員研修施設として世界中の企業相手に売り込んだり、ここで行われるファシリテーション自体を世界に売ったりしています。そして今では、LEFはイノベーション創発装置となり、世界中から研修や見学ツアーに訪れる人であふれています。

ということで、例えばオープンイノベーションをする場として、LEFの施設を使ってもいいですし、逆にファシリテーションに入ってもらって、イノベーションプラットフォームを立ち上げる、なんてことも面白いかもしれません。

ファシリテーターの話を聞く、こっからの大谷さん、黒川さん。

最後に、今回同行させてもらった「合同会社こっから」メンバーの大谷直紀さんの感想を聞いてみます。

「空間の使い方が贅沢で、余白自体も理にかなってデザインされています。実施するファシリテーションもプロセス化されており、議論の本論まで遠回りしているように見えるのですが、実はプロセスに乗って進めるのが一番腹を割ってお互いの本音を持ち出し合えるという仕組み。まさに「急がば回れ」。うーん、僕たち日本企業は学ぶことが多くありそうですね」とのこと。

黒川公晴さんは「人が本能的・感覚的に行っている行動・言動をここまで精緻に理論に裏付けて、物理的な環境づくりに流し込んで実践しているのは純粋にすごいなと。ファシリテーターとしても、実践を振り返って帰納的に学べることが多く、刺激的な訪問になりました。体験を通じて気づくことが多いので、日本でもこれを味わう場と機会が増えたらいいなと強く感じました」と語ってくれました。

わずか2週間前に完成した、Googleと一緒に作ったという新たなスペースも見せてもらいました。またまた新たな発見が生まれそうです。

オランダのフューチャーセンターLEF。会議がうまくいかないと悩む、日本のビジネスマンに強くおすすめします。ぜひ訪れてみてください。


次回は11月15日頃、公開の予定です。

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