EVENT | 2018/10/15

イノベーション不在の日本メーカーに新星! 世界初の全自動洗濯物折りたたみ機「ランドロイド」の セブンドリーマーズがイノベーションを起こせる理由

近年、世界に通用するモノやサービスを生み出そうと社外から新たな技術やアイデアを集めて、オープン・イノベーションに注力する...

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近年、世界に通用するモノやサービスを生み出そうと社外から新たな技術やアイデアを集めて、オープン・イノベーションに注力する企業も多く見られるが、国内ではこれといったイノベーションが起きないのが現状。

スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した2018年の「世界の競争力ランキング」では、日本は年々順位を下げ、25位という結果に。

そんな中、経済産業省が進める、世界で戦えるグローバル企業を創出するプロジェクト「J-Startup」企業の1社として選ばれたのが、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズだ。

同社が開発した「ランドロイド」は、世界初の全自動洗濯物折りたたみ機。2018年7月に東京・表参道に「ランドロイド・ギャラリー」をリニューアルし、ついに来春、商品がリリースされるとあって、話題を呼んでいる。

喉から手が出るほど“イノベーション”を生み出したい企業は数あれど、なぜ同社は抜きん出ることができたのだろうか?同社代表取締役社長の阪根信一氏に直撃した。

聞き手・文・構成:庄司真美 写真:菅井淳子

阪根信一

セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ株式会社 代表取締役社長

1999年アメリカ・デラウエア大学 化学・生物化学科 博士課程修了(Ph.D.)。同校「グレン・スキナー・アワード」で学部最優秀賞を受賞。 卒業後は株式会社I.S.T取締役、CEOを経て、2008年スーパーレジン工業株式会社社長に就任。2010年、株式会社I.S.TのCEOを退任し、2011年Seven Dreamers Laboratories, Inc. を設立。2014年より現職。

“世の中にないモノ”を作るために会社を設立

―― 会社設立の経緯について教えてください。

阪根:もともと私は化学物理学の研究者で、日本の先輩経営者たちである、松下幸之助さん、盛田昭夫さん、本田宗一郎さんといった技術畑出身の方々が戦後の日本でB to Cの製品を次々と生み出しながら、世界にはばたいて行く姿に憧れがありました。一方で、現在の日本は製造業が衰退し、イノベーションを起こしたくても起こせないでいます。なぜ先輩たちにできたことが、今の日本ではできないのだろうという思いがありました。私に技術系のバックグラウンドがあったこと、今の日本から世界で戦えるような会社を作りたいと思ったのが、会社を設立したそもそものきっかけです。

―― 前身の会社でカリスマ社長であったお父様から2003年に社長交代したとき、古参の社員との軋轢もあったということですが、当時の失敗談やそれを乗り越えたエピソードについてお聞かせください。

阪根:前身の会社としては、父が創業したベンチャー企業に2000年に入社しました。父は創業社長であり、当時まだ30歳そこそこだった私が社長に交代したのですが、当然、社員としては「なぜ急にこんな若造について行かなければならないのか」ということになるわけです(笑)。しかも張り切って最初に立ち上げた事業が大失敗してしまいました。古参の社員たちからは「ほら、見たことか」という反応をされましたが、やりきるしか認められる方法はないので、最終的にはがんばって事業を軌道に乗せることができました。

―― イノベーターでもあったお父さまからはどんな影響を受けましたか?

阪根:父は「人のモノマネをするな」と言うのが口癖で、いつも人と違うことをすること、新しい技術にこだわりがありました。私自身も影響を受けているのか、人と同じことをするのが昔から好きではありません。たとえば、子どもの頃、熱狂的な阪神ファンでしたが、バース、掛布、岡田の3連発により阪神タイガースが21年ぶりに優勝した1985年、にわかファンが増え始めたのです。その瞬間にファンを辞めていましたね。大勢の人が行く方向には行きたくないという天邪鬼なんですよ(笑)。

イノベーションには、正しいテーマ設定が不可欠

―― 2014年に会社設立後、現在に至るまで100億円近い出資を受け、急成長を続ける御社ですが、国内外のベンチャーキャピタルから評価されるポイントについてはどのように捉えていますか?

阪根:やはり、人があっと驚く技術のとんがり方が評価のポイントだと考えています。革新的なイノベーションを起こすメーカーは多々ありますが、元々ある商品の性能を上げたものなど、二番煎じが圧倒的に多いと思います。誰も思いつきもしなかった商品開発が評価されたのではないかと自負しています。

―― 看板商品である、10年がかりで実現した世界初の自動洗濯物たたみ機「ランドロイド」の開発経緯について教えてください。

阪根:開発当初、3人のチームから始まりましたが、技術者は見たこともないものを作りたがりませんでした。何から手をつけていいかわからないし、どうしていいかわからないからです。だからこそ重要なのは、まずはゴールを明確にビジュアライズすることだと考えました。開発当初から、洗濯物を識別する「画像解析」や「AI」、畳む操作をする「ロボティクス」の3つの技術を前提に開発を進めました。目標に向けて1歩ずつ開発を進めていく流れです。それができて初めて、ゴールに向けて着実に進むことができたと思います。

―― 御社の3大看板商品である、自動洗濯物たたみ機「ランドロイド」、いびき防止器具「ナステント」、独自のゴルフ製品の売上の比率は今後どのように想定していますか?

阪根:それぞれ特性の違う製品開発を手がけているのが弊社の特徴ですが、「ランドロイド」が当面もっとも大きい比率となる見込みです。次に「ナステント」、ゴルフ製品の順ですね。「ランドロイド」も「ナステント」も市場規模は同じぐらいありますが、「ランドロイド」は現状、富裕層向けで単価が200万円くらいになる予定なので、その分売上も大きなものになると考えています。

世界初のいびき防止器具「ナステント」。緊急救命時の気道確保の手法を応用し、シリコン製の器具を鼻に挿入することで睡眠時の呼吸をサポート。

自分のスイングを知り、自分に合ったクラブを選べるよう、それぞれのスイングデータ解析に基づくカーボンシャフトを提供。

――「世の中にないモノ」「人々の生活を豊かにするモノ」「技術的なハードルが高いモノ」の3つを軸にイノベーションを起こすのが御社の企業理念としてあります。それを基軸に商品化する流れについて教えてください。

阪根:世の中にないものやサービスを作り、“イノベーションを起こしたい”ということは世界中で広く言われていますが、そもそもそれを成し遂げるには、テーマ選びが重要なのです。テーマを正しく選べばイノベーションは起こりますが、正しくなければそれはイノベーションにはなりません。だから弊社では、テーマ選びはかなり手をかけて実施していて、「ランドロイド」の構想も2年がかりででき上がりました。でも、当時、2年がかりで必死にテーマを探しても、残念ながら思いついたものはどれもすでに世の中にあるものでした。

あらためて未来の需要を考えた時に「これからの時代は、老人、子ども、女性の時代が来るだろう」とターゲットを想定し直しました。技術系の分野はまだまだ男性社会なので、生活目線でのテーマが上がりにくいのです。そこで女性に聞いてみようということで、身近な妻に聞いたところ、出てきたテーマが「洗濯物を自動で畳んでくれる機械」ということで、目から鱗でした。

クリエイティブな発想の源は、世の中のニーズにある

―― あらゆるものが溢れている現在、“世の中にないもの探し”が一番難しいのではないかと思いますが、社内でアイデアのブレストはどのように行われているのですか?

阪根:ビジネスである以上、世の中のニーズからテーマを探していくイメージです。一消費者として欲しいものは何か?というところが基本です。B to Cビジネスは日常生活の中にその答えがあるので、会議室からは生まれません。人々の「何が欲しいか」「どんなことに困っているか」を追求することが重要だと考えています。

情報収集のため、市場リサーチを重ねたり、あらゆるジャンルの人から「あんなものがあればいいな」といった話を聞いたりしています。まったく会ったこともない方から、「御社ならこんなものを作れませんか?」というご要望をいただくこともあります。集まったテーマは蓄積させておいて、商品化できそうなものは、特許や論文のリサーチをかけて、世界中でまだ誰も手がけていないかをチェックします。そこで誰もやっていないことがわかれば、そこから初めて市場リサーチをかける流れです。

弊社では、テーマ出しや企画開発に特化した部署は特になく、誰もが手を挙げられます。今日の取材に同席している広報の佐保も昨年、ファッションに関連したアプリを提案してくれて、事業として審議した経緯があります。

―― クリエイティブな発想やアイデアを活発化させるための社員教育や制度といったものはあるのですか?

阪根:新しいものを発想する力は、短期間で育まれるものではないと考えています。クリエティブな発想法は、もっと論理的に、世の中のニーズからテーマを拾って、それをスクリーニングしていくことに尽きます。会社の中でクリエイティブ脳を開発するような教育を意図的にできるぐらいなら、日本の大企業は今頃イノベーションだらけになっているはずです(笑)。

―― 確かにそうですね(笑)。ニーズは時代ごとに移り変わります。むしろ、そういうことに敏感になるのが重要だということでしょうか?

阪根:そうですね。新しいテーマを見つけたければ、会社の外に出て、視野を広げることが大事だと考えています。弊社ではテーマを選ぶということに特別なプロセスはありません。「常にアイデア募集中」というゆるい感じでやっています。

―― 世の中にはないものを生み出せる人材として、あらゆるジャンルをつないでビジネス商材としてまとめられる人が重要とも言われていますが、御社で今、一番欲しい人材はどんな能力を持つ人でしょうか?

阪根:定義の仕方はさまざまですが、スーパーエンジニアですね。弊社には、あらゆる分野のエンジニアが揃っています。ランドロイド関連ですと、家電やAIのエンジニアがいますし、ナステント関連ではメディカルドクターもいれば、高分子樹脂科学の専門家もいます。私自身も、物理化学を専門に勉強していました。具体的に欲しい人材は、現在弊社にはいない分野のエンジニアということになりますね。

未知のモノに対して「諦めない」組織作りがイノベーションには不可欠

――これまでになかったものを作るには、ディレクションやチームビルディングといった能力も重要だと思いますが、イノベーションを起こすため、ビジネスを進めるために阪根さんが重要視する点は?

阪根:大学の研究領域ではなく、ビジネスでイノベーションを起こすために重要なのは、テーマを選び、そのテーマを明確にすることだと考えています。ここまでできたら、あとはチームビルディングになるわけですが、なにしろ、これまで誰も作ったことのない商品を作るので、必ずみんな諦めようとするのです。人は諦めることと批判することがなぜか大好きなんですよね(笑)。批判があっても、前向きに諦めさせないチーム作りをするのが、イノベーションを起こすための秘訣です。それからビジネスを進める上で重要なことは、ビジネスはある意味戦争だと心得えて、勝つために常に戦略を考えて行動すること。戦略なき戦いなら負けるのは当たり前だと考えています。

―― 政府が手がけるプロジェクト「J-Startup」を通じて、具体的にどのようなグローバル戦略を考えていますか?

阪根:同プロジェクトを管轄する経済産業省の世耕大臣も公言していますが、「J-Startupで公式に選出された企業はえこひいきします」ということで、国のお墨つきを得て、具体的には投資家や大企業とのマッチングを支援いただいています。海外進出する時の展示会の支援プログラムなど、スタートアップが求めるさまざまな後押しがあります。弊社としては、世界を視野に挑戦する上で、成功確率を少しでも上げるためのひとつの戦略と考えています。

「ランドロイド」についても最終的に海外進出を考えていますが、イノベーティブな商品がゆえに、初期は開発コストが乗って値段が高くなってしまうことがあり、新興国よりも先進国を優先に展開することになると考えています。現状で進めている進出先は、アジア、アメリカ、ヨーロッパの3つです。また、アメリカはサンフランシスコ、ヨーロッパはパリ、アジアは中国・上海などにハブとなる拠点として子会社を設けて、現地で社長を採用するかたちをとっています。

―― いよいよ来年春に出荷予定となる「ランドロイド」について、「ランドロイド・ギャラリー」開設の意図を含め、国内での今後のビジネスチャンス、ターゲット、展開について教えてください。

阪根:ランドロイドは50億円規模で開発している商品なので、初期はどうしても価格を上げざるを得ません。現状、200万円前後で設定している商品です。価格帯からしても、現実的に富裕層向けの商品になってしまいます。世界初の商品として、世界的なコーポレートブランドを作りたいという思いも含め、ヨーロッパ家具のような高級感のある商品を高値でリリースするのはインパクトがあると考えていますが、将来的には価格を下げて一般家庭にも普及させることを想定しています。なにしろこれまでにない商品なので、ネットで気軽に買える商品ではありません。実際に見て体感いただける自社店舗が必要だと考えて、「ランドロイド・ギャラリー」をオープンしました。

表参道に出店したショールーム兼カフェレストラン「ランドロイド・ギャラリー」

―― ランドロイドの反響はいかがですか?

阪根:大きく分けると、経済的に裕福な方と最新技術の商品に興味のある方々を中心に、全世界から反響があります。まだ数は少ないですが、共働き夫婦の姿も目立っています。

―― 最後に、現在興味を持っている、あるいは想定している開発分野について教えてください。

阪根:現在、弊社では「ランドロイド」「ナステント」「ゴルフシャフト」の3つのカテゴリーで商品を展開していますが、すでに4つ目、5つ目の開発は進んでいます。4つ目については具体的にテーマが決まっていますが、残念ながらまだ公表できません。まだ開発要素が残っている段階なので、発表時期についても未定です。もちろん、「世の中にないモノ」「人々の生活を豊かにするモノ」「技術的なハードルが高いモノ」の3つを踏襲した商品です。「ランドロイド」同様、5〜10年後には一般にも普及し、グローバル展開を考えた商品として開発を進めているところです。

* * *

そもそもイノベーションを起こすために創立されたセブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ。テーマ設定をはじめ、最初からグローバル展開を視野に入れて開発が進められていたのが印象的だった。すでに国内はもとより、世界中のメディアからも注目を集める同社。これまでにはない、革新的な第4、第5の発明の発表が待たれる。


セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ