毎年2月、9月に東京ビッグサイトで開催される雑貨系の展示会「ギフトショー」に出展した石川県の合同ブース。県内企業の出展を募り、九谷焼、輪島、金箔などが紹介されている
展示会のブースデザイン及びブース装飾に特化した「空間デザイン会社」スーパーペンギンの代表を務める竹村尚久氏が、執筆に6年かけたという500ページ超えの大著『「ビジネス空間デザイン」で考える 集客できる展示会ブースづくり PENGUIN METHODと店舗への活用』を今年4月に出版した。
同書は1冊まるごと「多数の競合ひしめくビジネス展示会において、確実な集客が見込めるブースデザイン・展示・接客方法とは何か」をテーマに具体的な手法を解説する実用書であり、民間・自治体問わずリアル空間でのイベントに携わる人間なら誰もが「何それ、読みたい!」と感じるはずだ。
書籍では「展示会出展時においてすべきこと」はこれでもかというほどまとまっていることもあり、今回の竹村氏へのインタビューでは、その逆に「すべきではないこと」をテーマに話をうかがった。
取材・文・写真(竹村氏のみ):神保勇揮(FINDERS編集部)
竹村尚久
SUPER PENGUIN株式会社代表取締役/展示会デザイナー/一級建築士
展示会ブースデザインを専門に手掛ける空間デザイン会社、SUPER PENGUIN(スーパーペンギン)代表。独自の集客手法により、人が集まる「戦略的な展示会ブース」を常に工夫・試行錯誤しながら提案し続けている。
年間約100件のブースをデザインし、そのほとんどの出展者の出展成功に寄与。長く継続的に依頼のある出展企業も多く、どの企業も年々出展ブースサイズが大きくなるなどの成長を遂げている。
とりわけ、中小企業が参加する様々な展示会において自治体ブースの出展成功に携わり、商談件数が数倍アップするなど飛躍的な成果を生み出す。
ブースデザインだけでなく、出展者の立ち方や待ち方にまで及ぶデザインの姿勢は「デザイナーというよりむしろコンサルタント」との評価もあり、出展者の信頼は厚い。
さらに独自でブースデザインセミナーを開催し、集客できるブースの作り方について、広く展示会業界内部へも公開。全国の企業が展示会で「確実な成果」を出すために徹底的なサポートを行う。
独自の集客メソッドは、自社名にちなみ「PENGUIN METHOD(ペンギンメソッド)」と呼称される。
「展示会に出るべきでない状態の会社」もある
―― 展示会に出展するには出展料やブース制作費などを含めて1回に数百万円かかりますが、1度の出展でどれだけの売上を上げるのが成功と言えるのでしょうか。
竹村:理想的には「1年ぐらいは関係値ゼロからの営業をしなくて済む」だと思いますが、それは無理だとしても出展費用の5倍、10倍ぐらいは稼いでやるぐらいの気持ちでないともったいないと思いますね。
―― 逆に、御社に相談に来る方々はどういうフェーズの方が多いですか。
竹村:多種多様ですね。初めて出展するのでゼロから教えてくださいという方が全体の3、4割ぐらいでしょうか。残りは「今まで他社さんにお願いしてきたんですが、ちょっと納得いかないところがありスーパーペンギンに問い合わせました」という方です。
ただ、当社が提示する料金は、正直同業他社より高いです。なので「初めて出展します」という方は、どこかのタイミングで他社への依頼に切り替えられてしまうことも多い。でも、そこからさらに出戻りで指名をいただくことも少なくありません。
そうした会社の方々が総じておっしゃるのが「他の会社も良いと思っています。ただ言われたことは完璧にやってくれても、提案をいただけないんですよね」ということです。
―― 逆に展示会で出す商品が「こういう段階だとまだ早いんじゃないか」という目安はあるのでしょうか?
竹村:当たり前かもしれませんが、商品それ自体の魅力が展示会の場で伝わりにくいものは難しいです。もちろん我々がブースデザインの力で盛り上げようとはしますが、「新製品ができたのでちょっと出してみようかと」では難しいですね。展示会に関わらず「どうPRするか」という目線は絶対に必要です。
逆に、我々が展示会のブースを綺麗に整え、来場者が商品に興味を持ってくれて会社に行ってみたところ、オフィスや店舗がその世界観とは異なる、「ちょっと残念」な感じで販売チャンスを逃してしまったという声を聞いたことがあります。それも含めて「準備」なんだということです。
ギフトショーでの石川県ブースは通路に背を向けるレイアウトとし、中央に出展者待機用のカウンターを設置。各社の商品陳列には引出しを設け「滞留時間」を長くする工夫をしている
ーー 御社がデザインしたブースの画像を見ていると、とにかく「シンプルだからこそ目立つ」という印象を受けるのですが、それだけにプロダクトのデザインや写真、キャッチコピーなどがしっかりしていないと、見掛け倒しになってしまうリスクもあるということですよね。素材の味を引き立たせるというか。
竹村:そうなんですよ。白をベースにしたシンプルなブースではあるんですけど、文言の配置ひとつとっても「どうするのが集客にとってベターか」という観点で全て計算しており、「戦略的シンプルブース」と呼んでいます。つまり「アーティスティックなブースづくり」が目的ではないということです。
よくある勘違いとして「隙間を作るな。どうにかして埋めろ」という考え方があります。それをやってしまうと、来場者は何に着目すれば良いかわかりにくいので自社の魅力が十分に伝わらない。また壁にグラフィックを印刷しようとすると普通の壁よりコストが7、8倍アップして無駄な費用になってしまいます。コストは下がる、でも目立って集客に有利と良いことづくめなので、もっと色々な会社が「戦略的シンプルブース」にトライすればいいのにと思っています。
具体的に我々が何で目立たせているかというと、まず照明で明るくしているんです。よく「スーパーペンギンが担当したブースは会場で一番明るい」と言われます。明るくてシンプルで余白が多い中でドンと「当社はこれを扱っています」と表示する。20メートル離れていてもわかるようになるので、自然と覗いてみたくなる。それが戦略的という意味だと思うんですね。
3つの「絶対NG行為」
竹村尚久氏
―― ブースデザイン、展示内容、接客方法などに関して、「ダメなあるあるパターン」はあるのでしょうか。
竹村:「出展失敗パターンのあるある」として最も挙げられるNG行為が3つあります。
第1位は「ブースの前で何も言わず、笑顔もなくじーっと待ち構えてしまう」です。ブース近くだろうが少し離れていようがどちらもダメです。アパレル業界では「動的待機」と言いますが、「いらっしゃいませ」と呼びかける、ものを配るでも何でも良いですが、とにかく動いていなければいけません。
第2位は「一番目立つ文字が会社名」です。会社名だけでどんなビジネス、商品展開をしているのかひと目でわかるなら良いですが、それこそ当社の「スーパーペンギン株式会社」とだけ書かれていても、一体何屋さんかさっぱり分からない。なので書籍では「集客 得意 スーパーペンギン」といった例を挙げましたが、何を扱っている会社なのかを一番大きく、20メートル前から気づくようにドカンと書いちゃいましょうと毎回提案しています。
第3位は「手にとってほしい商品をブースの奥に配置する」です。これも絶対に失敗します。そして人が集まらないからスタッフが待ち構えてしまう、負のループに陥ってしまうのです。来場者は基本的に「出展者につかまりたくない」「1つのブースにあまり時間をかけすぎたくない(たくさん見て回りたい)」と思っています。だからこそ、通路際(ブースと通路に面した場所)に手に取れる賑やかしのアイテムを配置すれば人だかりができ、そうなると来場者から「このブースは注目を集める商品・会社なんだろう」と思われるのが群集心理じゃないですか。ブースの奥に入ってもらうのは、しっかりと興味を持ってくれた見込み客だけで良いはずです。
書籍の中ではこれらの反対となる
・「何を扱っているか」をわかりやすく
・「通路際」を活用する
・「立ち方・待ち方」を工夫する
というポイントを「基本3原則」と称し、「全ての出展者が意識すべきこと」として紹介しています。
9つの「よくある間違い」
竹村:他にも細かな「やってはいけないこと」を、準備期間・開催中・開催後の順番でお話ししていきます。
①「来場者のペルソナ」なんて複雑に考えるな!
準備段階だと、よく「来て欲しい来場者のペルソナを作りましょう」というアドバイスをする人がいますが、僕は不要だと思います。
もっとイメージしやすいのは「この会社の、この部署の、このポジションの人」という具体例ではないでしょうか。ご自身の業務を通じてなんとなく想像できるはずですから、何十社分か挙げてみましょう。そして会期後、実際にどれだけ名刺を獲得できたかと振り返るのが良いと思います。
②「獲得名刺の数」だけをKPIにするな!
展示会に出展する最終目標はあくまで「会社の売上・利益」です。名刺の枚数だけではどれだけの売上・利益につながるか定かではないですよね。
名刺を集めると言っても新規顧客の獲得だけが目的というわけではなく、
・今回の出展で直接的な顧客にならなかったとしても、次回の出展時にもブースに来てもらえるかもしれないから良い印象を与えよう
・既存顧客に来てもらって交流する機会として活用しよう
・来年発売する新商品のマーケティングリサーチをしよう
といったさまざまな目的がありえるはずです。会社の売上・利益を高めるために、何を目標に据えれば良いのか、社内で議論してみてください。
③ブースデザイン相談は遅くても開催3〜4カ月前に!
当社にブースデザインの依頼が寄せられるのは、大抵開催の3〜4カ月前、会場内での小間位置が決まった段階です。たださすがに1カ月前になってしまうと「100%こちらのプランニングで実施し、希望は受け付けられません」というかたちになってしまいます。
当社としてはいくらでも早くて構いません。小間位置どころか何を展示するか決まってない、もっと言えば出展するかどうかすら決まっていない段階でも結構です。現在の会社の状況や、売っていきたい商品のイメージを教えていただければ、「こういった方向性で打ち出すのはいかがでしょうか?」という提案もできます。ここはデザイン会社によってスタンスが異なるでしょうが、当社は積極的に提案をしていくタイプですのでどしどしご相談ください。
④展示会入場券を「主催企業が用意した封筒」で送るな!
透明封筒に入れるDMの例
会社に来る自分宛ての郵便物をイメージして欲しいんですが、日々いろんな業界の展示会入場チケットが届きますよね。残念ながらその多くは開封もせず捨てられてしまう。送るにしても別途透明ビニールの封筒を用意して、招待券と一緒に「当社は◯◯展示会にこの商品で出展します!」とPRするチラシを同封しましょう。そうすればたとえ来場が叶わなくても、商品の存在や展示会に出展するという情報だけは相手に伝わります。
プラスアルファで言うと、封筒内に小物を入れておくことも有効です。ちょっとしたカードでもいいですし、とにかく封筒を開きたくなる何かを入れておくと開封率が一気に上がりますし、それが入っていることを伝えるための透明封筒でもあります。
⑤照明は「床」を照らすな!
展示会業界ではものすごくざっくり言うと「1つ5000円以内の安い照明」と「1万円程度の高いが強い照明」の2種類があります。大抵は安い方を壁の上に設置して(床を照らして)暗い暗いと問題になり、数を増やす方向に向かいがちなのですが、これは誤りです。
ポイントは以下の2つです。
・来場者が商品を見ている方向と同じ方向から、商品を照らす
・壁面から離れた位置から、壁面に向かって照らす
スーパーペンギンが手掛けたブースデザイン事例。小間上部の梁の部分に照明が設置され、壁面を照らすことでブース全体が明るく感じられる効果を生む
こちらは照明を壁面に設置したパターン
日本ではよく天井にシーリングライトを付けるじゃないですか。部屋全体を明るくして、部屋を明るくしようというのを無意識に持っているのでそうやりたがるんですけど、そうすると大抵上が暗くなっちゃうんですね。壁の上半分に影ができないように狙うと、壁全体が真っ白だから遠目から見たときに「何かあそこに明るいものがある」というふうになるんです。
⑥「文字ぎっしり」のパネルを貼るな!
キャッチコピーの「「放射冷却」という技術とは?」、そしてパネルも図がメインになっており簡潔でわかりやすい
どれだけ一生懸命ぎっしり書き込んでも「読むのは買うと決めている人」だけです。あとはブース内で読もうとしても、大抵20秒ぐらい読んでいたらもうスタッフから声をかけられますよね。つまり物理的にも読みきれない。
なので当社は「10秒以内に理解できる内容に留めてください」と提案しています。来場者が最初にパネルに気づくのはブースから5メートルぐらい離れた場所ですから、そこから「何が書かれているのか」がわかるようにするというのが最低条件です。
「だけどもっと言いたいことがあるんだ」という方は、いつも使っている営業資料をクリアファイルなどに入れて、開いた状態で置いておいてください。その場でそれを使って説明もできますよね。もちろん印刷して配布しても、展示会用のパンフレットを新たに用意しても良いわけです。
営業用資料の設置例
⑦「高額商品」を雑に陳列するな!
ブース前方に製品を綺麗に陳列しつつも、実際に手に取ることができる例
「商品の陳列」というと、雑貨や食品系の企業だけがこだわれば良いと思っている人も時々見かけますが、当然そんなことはありません。
例えば雑に並べられている輪島塗が「1つ5万円なんです」と説明されても「えっ、高すぎる!」としか感じられませんよね。でもこういうケースが本当に多いんです。横に1000円の商品と一緒に並べられていたりもする。高額商品を扱うときにはちゃんと周りに余白を作り、説明書きを添えてしっかり照明を当てて、まるで博物館のように陳列しないと、お客さんは食いついてくれません。
とはいえ「商品が全てガラスケースに入っていて、1つも手に取れない」のも問題です。手に取れる、触ってみる、匂いを嗅いでみる、音を聞いてみるとか、五感で感じられる体験がないと人は実感が湧きません。「客に触らせたらいちいち直さなきゃいけないじゃないか」と思った方、いちいち直してください。ブース内の整理整頓も先ほどお話しした「動的待機」でやるべきことの一つです。アパレル店の店員も常に服を畳み直していますよね。
⑧商談席は必ずしも「低い椅子とテーブルのセット」でなくてもいい!
中央のテーブルを商談スペースにするスタイル。ちなみにスーパーペンギンのデザイン事例ではテーブルや展示台の中も収納スペースとして活用するケースが多い
最近、大手の展示会運営会社から、商談席の設置を義務付ける動きがあります。でも3m×3mの1小間で出展するブースにまで椅子とテーブルを置いたら大半のスペースが埋まってしまいますよね。それでいて大半の来場者が座らない。
商談席の設置自体が悪いというわけではないんです。確かに来場者にブースに長居してもらった方が商談の成功率が上がります。なので机だけ設置して立って会話するスタイルでも全く問題ないですし、展示台の片隅を多目的カウンターに見立て、近くに荷物も置ける箱椅子を用意して「ちょっと荷物を置いていただいて、弊社の説明をお聞きいただけませんか?」でも全然OKです。
⑨重要顧客にまで「一斉お礼メール」を送るな!
これも意外な「あるある」なんですが、展示会でお客さんがすごく集まり、名刺も100枚以上獲得できましたという顧客にその後を聞いてみたところ「結果が出ませんでした」と言うんです。後追い連絡を全くしていなかったんですね。展示会が終わった瞬間に本業のしわ寄せが来ちゃって時間が取れないと。こういうクライアントも非常に多いです。
そうした際、僕がいつもオススメしているのは、お客さんのカテゴリー分けを名刺獲得時にしてしまうことです。S、A、B、Cでも何でも良いですが、最重要顧客は必ず会期中に連絡を済ませるべきです。見込み客でも「商談成立確率が高そうだから個別の連絡をしよう」「ここは一斉メールで大丈夫だろう」と寄り分けておきましょう。後回しにすると絶対できません。
もっと言えば、一斉お礼メールの雛形も会期前に作っておくべきです。個別メールはそれをベースに加筆修正すればいいですしね。個別メールでもそこまで気負う必要はなくて「今日はありがとうございました。お話しした際、このことについて気にかけていらっしゃいましたよね。当社には関連するこんな商品・セミナーがあるのでよろしければご覧になってください」程度で問題ありません。より重要なのは「早さ」です。
展示会ノウハウは商業施設や都市観光にも活かせる
―― 書籍の後半では、展示会を東京ビッグサイトや幕張メッセといった大規模会場以外で開催することの可能性が記されています。本のタイトルにも「店舗への活用」が入っていますよね。
竹村:はい。方向性としては「都市を活用した展示会開催」「既存商業施設へのノウハウ展開」の2つを考えています。
まず「都市を活用した展示会開催」については、日本でも既に実例はありますが、個別に開くと規模が小さくどうしても集客面で苦戦するという弱点があります。ただ、大規模展示会の開催をフックとして、もっと同時多発的に周辺地域でも関連イベントを開催するようにすれば、もっと大きな経済的インパクトが生み出せるようになると思うんです。
例えばイタリアのミラノでは、インテリア関連の展示会が行われる際、会場とは別の市内のショールームで一斉にインテリアの展示会が開催される一大イベントとなり、ホテル価格も高騰します。こうした取り組みは国や行政も交えながら日本でもできるはずです。日本では「展示会業界」自体がマイナーで、まだまだ認知度が低いというところもありますので、そこは業界挙げて頑張っていくしかないですね。
ーー コロナ禍で導入が進んだオンライン開催についてはどう見ていますか?
竹村:僕はアリだと思っていますが、「リアル開催の代わり」と捉えてしまうと上手くいきません。オンラインをリアルより一段低いものと捉えるのではなく、共存する存在だと考えるべきです。「距離の問題をなくしてしまう」というのは圧倒的なアドバンテージですからね。
オンライン活用でよく提案していたのは「リアルの展示会場に、ビデオ通話を接続したPCやタブレットを設置する」です。会場に来られない専門家に待機しておいてもらって、詳しい質問をその場で回答する。あとは工場などをモニターで大画面で見せるのも良いですね。カメラを移動させて簡易的な案内もできますし。加えて時差の問題だけ解決できれば海外のバイヤーと会話をしたり、自社の海外拠点の担当者が出席したりすることが可能です。
ーー 現実と見分けがつかないほどフォトリアルな、しかも現実空間に近い状況をシミュレーションしてくれるデジタルツインの開発も進んでいますし、今後会場にVRヘッドセットを置いて「ここで体験できます」となっていく可能性もありそうですね。
竹村:そうですね。今の展示会でも特に機械系の会社などは何百万円もかけて機材を会場まで運んでいるので、それを簡略化できるとすれば大きなメリットがあるはずです。
また「既存商業施設へのノウハウ展開」の話をすると、多くの商業施設が抱える「常に集客が大変」「空きテナントも目立つしどこも似たような店舗ばかりになる」を解決する一助になれるんじゃないかと思っています。
『集客できる展示会ブースづくり』ではこの辺りの話も結構ページを割いて書いているんですが、大幅に簡略化して言うと、現在の小売店舗では「設計・デザイン」と「日々の運営」が一体化していないところがどうしても生じてしまっていると感じます。
どういうことかというと、別に誰かが悪いというわけではないですが、設計・デザインを行う「空間デザイン」の領域では「アート的観点からの美麗さ」「顧客の居心地の良さ(必ずしも売上に直結するとは限らない)」を重視する視点があり、また日々の運営において業界では「VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)」という考えがある一方、あくまで「商品の魅せ方」にフォーカスした思想ですし、また実践する人たちにデザイン・設計を学んでいない人も多いです。
僕はアート系空間デザインを否定したいのではなく、商業施設に必要な「集客・売上につながる空間づくり」の統合的な思考を作り上げることができないかと長年考え続け、書籍では「ビジネス空間デザイン」という概念を紹介しています。そしてビジネス展示会の空間づくりで行っている、我々やこの業界のノウハウが「ビジネス空間デザイン」として商業施設でも大いに応用できるはずだということを訴えたいんです。
加えて展示会業界が外部から驚かれるノウハウのひとつが、設営のスピード感です。通常、ブース設営は2日間で行われるんですが、基本的な設営はすべて1日で終わらせ、残りの1日で出展者が展示品を持ち込んで飾り付けます。壁紙なども通常のフローでは職人がパテを塗って乾燥させて…という工程で2日ほどかけてやる作業を、大抵30分で終わらせます。
そこではもちろん多くの「割り切り判断」が行われていますが、これを商業施設で実践すれば、週末の土日と翌週の月曜で全く違う店舗が多数立ち並ぶということも全然可能なんです。一部に偏るキラーテナントだけに頼るのではなく、フロアや施設全体をキラーコンテンツにする考え方です。
そういう意味でも、展示会業界のビジネス空間デザインの力と、施工会社が持っているスピードは、小売業界に革命をもたらすぐらいのポテンシャルを持っていると僕は思っているんです。実際、当社にも商業施設のポップアップストアデザインの相談が急増していますし、スーパーペンギンとしてもこうした分野により積極的に進出したいと考えています。