CULTURE | 2023/03/30

3000社の就活ウェブテスト「替え玉受験」をして逮捕された男性に有罪判決。就活生も罪に問われるので絶対使っちゃダメ

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阿曽山大噴火
芸人/裁判ウォッチャー
月曜日から金曜日の9時~5時...

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阿曽山大噴火

芸人/裁判ウォッチャー

月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。

※編集部注:本連載は被告人の名前をすべて本名と関連しないアルファベット表記(Aから順に使用し、Zまで到達した際は再びAに戻して表記)で掲載しております

【連載】阿曽山大噴火のクレイジー裁判傍聴(47)

本題に入る前に、前回記事で書いた「ニセの議員バッジで国会議事堂に潜入、警視庁では放置された腕章を盗んだ」M被告人への判決が3月2日に言い渡されました。結果は懲役2年6月未決勾留日数110日算入、執行猶予4年。

経済的価値の低い腕章のドロボーで、しかも初犯なのに執行猶予4年とはなかなか重めな印象でしょうか。裁判所からの「霞ヶ関とか永田町の官庁街をナメるなよ」というメッセージにも思えてきますね。裁判官が判決理由で「警視庁の腕章が廃棄予定であってもシンセイなもの」と読み上げてたくらいなので。真正なのか神聖なのか、聞いてるだけでは判別できませんでしたが、どちらにせよ汚れのない窃盗行為とは程遠いものだったようです。

さて、今回の傍聴記。

替え玉受験の斡旋会社から仕事を請け、後に独立して個人で営業

罪名 私電磁的記録不正作出・同供用
N被告人 アルバイトの男性(28)

起訴されたのは4件。1〜4件目まで被害会社と共犯者が違うだけでほぼ同じなのでざっくりまとめると、2022年3月1日〜4月7日の間にN被告人が共犯者(依頼人)と共謀して、被害会社の新卒採用の適正検査で使用するパソコンに虚偽回答を送信して記録させ(つまりウェブテストの替え玉受験)、電磁的記録を不正に作り利用したという内容。

N被告人は「間違いございません」と罪を認めていました。

検察官の冒頭陳述によると、2020年に大学院を卒業し、外資系の企業を経て、犯行当時は電力関係の会社に勤務。前科前歴は無し。

N被告人は2019年3月から、企業が新卒採用の適性検査で行うウェブテストを就活生に代わって受ける替え玉受験を友人の誘いで始めるようになったそうです。斡旋業者からの依頼を受けて代行を続け、2020年8月からは斡旋業者を介さずに直接就活生から依頼を受けた方が稼げると考えて、Twitterのアカウントを作成して募集を始めたとのこと。プロフィール欄にはN被告人の学歴と職歴、そして2科目4000円などの料金を記載していたらしいです。

2020年11月〜2022年7月までの間、N被告人は約300人の替え玉をし、3000社のウェブテストを受けて400万円を得ていたとのこと。

N被告人は起訴された4回だけ替え玉受験をしたのではなく、3年以上ずーっとやり続けてたんですね。違法行為なのに斡旋業者がいて、依頼する就活生が絶えない現実も驚きですけど。

N被告人の場合はTwitterで宣伝してたので、警視庁のサイバー犯罪対策課に見つかったということになります。

法廷にはN被告人の父親が情状証人として出廷。N被告人が1人暮らしをしていることもあって、犯罪を行っているとは全く気付かなかったそうです。N被告人の子供時代は、褒められたりすると舞い上がって有頂天になるところがあったそうです。今後はコミュニケーションを密に取って監督すると約束していました。

そして被告人質問。まずは弁護人から。

弁護人「被害会社にはどんな被害があったと思いますか?」
N被告人「公正な採用を害してしまったと思います」
弁護人「ウェブテストを受諾した企業に対しては?」
N被告人「信頼を損ねることをしてしまいました」
弁護人「取り調べの調書では『替え玉はグレーだと思っていた』と。どういう意味ですか?」
N被告人「悪いけど法には触れない、と」
弁護人「やめずに続けてたのは何故ですか?」
N被告人「元々友達の紹介で、ウェブテストで苦労している方がいると分かりました。優秀な方がそこで足切りされるのを防ぐという、人のためと思ってしまっていました」
弁護人「依頼者からは、ありがとうとか感謝の言葉は言われました?」
N被告人「はい」
弁護人「これは人のためになるんですか?今振り返ってどうです?」
N被告人「ためにならないです。完全に間違っています。入社したとしても企業が困るのは明らかですし、犯罪に巻き込むことにもなるので、人助けという考えが間違ってました」

犯行当時は就活生のためを思って、替え玉受験を人助けと思ってやってたようです。しかも収入もあったらやめようは考えなかったでしょうね。

弁護人「収入は何に使ってました?」
N被告人「外食やUber Eatsに使ったり、ネコを飼ったり、服や靴やレコードを買ったり、タクシーを使ったり…」
弁護人「贅沢な暮らしのために続けたと?」
N被告人「人助けの気持ちが強くて、金儲けとは意識してなかったですが、否定は出来ないです」
弁護人「他に投資とかギャンブルとかは?」
N被告人「たまに競馬はありましたが、投資はしてません。ほとんど食べ歩き。残ったのはネコと靴とバッグです」

本性を隠すという意味では替え玉受験は猫かぶりなわけで、それで稼いだ金でネコを飼うというのもなかなかですね。手元に残ったバッグなどは売却して、そのお金を贖罪寄付したそうです。

弁護人「勤務先に対しては?」
N被告人「こういう形で辞めて、会社の信用を傷付けました。お伺いして謝罪させて頂きたいです」
弁護人「今仕事は何をしてるんですか?」
N被告人「飲食のアルバイトをしています」
弁護人「家族に対してはどう思ってますか?」
N被告人「ホントに申し訳ないと思っています。相談すべきだったと思います。そして少しずつでも恩返し出来たら、と」
弁護人「再犯しないために今後どうしますか?」
N被告人「私の判断が正しいのか?という観点を持ちたいと思います。そうした中で社会に償いをしたいと思います」

と述べて質問終了。続いて検察官から。

検察官「Twitterのプロフィールに学歴や職歴を書いたのは何故ですか?」
N被告人「安心して依頼出来るようにするためです」
検察官「その方がより多くの依頼があると思ったんじゃないですか?」
N被告人「人助けと思ってましたので、はい…。より多くの人に…」
検察官「グレーの人助けって何ですか?」
N被告人「ん〜…感謝の言葉を受けて、グレーという感情も無くなり続けていました」

自分の中では人のためにと思ってるし、何回やっても逮捕されないんだから当たり前になってたんでしょう。

検察官「調書には『摘発例がなかった』と。これ、ウェブテストじゃなく実際に面接会場に行って罪に問われたというのは?」
N被告人「聞いたことなかったので…」
検察官「もしあなたが代わりに行ってたら?」
N被告人「私文書偽造に当たるのかなぁとは思いますけど」
検察官「本質的にはどちらも変わらないのではないですか?」
N被告人「法律はもっと細かいものだと思っていて、(ウェブテストの方は)法に触れないのかなぁと」
検察官「でもグレーとは思っていたと?」
N被告人「はい」

ぼんやりとでも違法行為という認識があったことを確認する検察官。

検察官「新卒の人が後で会社にバレてクビになるとは思いませんでした?」
N被告人「考えが至っておりませんでした。感謝されると喜んでしまうので。人助けと思ってやっていました」
検察官「採用試験は何段階かあって、ウェブテストだけでは採用は決まらず、最初の段階だから甘く見てたという部分もあったんですか?」
N被告人「それだけで足切りされて落とされるのが可哀想とは思っていました」

法廷で何度も繰り返して言ってましたが「人のため」というのが本心のようです。

検察官「あなたが代わりに受けたウェブテストはどれくらいの合格率だったんですか?」
N被告人「大体合格でした。エントリーシートを見ながらの企業ですと不合格があったと思います」

この人に頼めばほぼ合格ですよ!3年も続けてた実績は違いますね。

「グレーじゃない方法で人助けできたらいいんじゃないですか?」

最後は裁判官からの質問。

裁判官「今から振り返ってどうすれば良かったですか?」
N被告人「友人に誘われた時点で家族に相談して、自分の行動を決めれば良かったと思います」
裁判官「ん〜、今後人助けしたい時にね、グレーじゃない方法はないんですか?」
N被告人「就活でですか?」
裁判官「はい。身代わりで受験しない方法」
N被告人「考えてはいなかったですけど、以前は塾講師をやっていたのでそういう所で教えるとか…」
裁判官「そういう頭の使い方をちょっと考えてもらって。グレーじゃない方法で人助けできたらいいんじゃないですか?」
N被告人「考えていくしかないと思ってますし、1人で判断せずに相談してやっていこうと思います」

と、合法なやり方で続けるべきじゃないかと裁判官からのアドバイスです。合格率を聞いて、N被告人だからこそ出来る社会貢献だと思ったんでしょうね。逮捕歴と前科が宣伝になっちゃうほどですから。

被告人質問はこれにて終了で、この後は検察官からの求刑。共犯者はいずれも採用には至らなかったけど人事採用の公正さが歪められる犯行と指摘して、懲役2年6月を求刑しました。

そして、初公判から20日後の3月28日。N被告人に判決が言い渡されました。

結果は、懲役2年6月執行猶予4年。執行猶予が付いた理由は、今後は違法なことはしないと述べて更生の意欲も認められることと前科前歴がないこと。初犯の割には執行猶予4年とちょい長めですかね。判決理由を朗読し終えると

裁判官「4年という期間は長いですよ。前回法廷で誓ってくれた生活をしていれば(再犯は)無いと思います」

と説諭をして閉廷でした。

斡旋業者が存在するならN被告人以外にも手を染めてる人は多そうですね。ちなみに裁判では全く話に出ませんでしたが、報道によると依頼人は書類送検されたと報じられており、依頼する側も犯罪になるので就活生はご注意を。お金払って、採用されなくて、逮捕されて。バレると別の企業も採用されにくくなりそう。


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