CULTURE | 2023/02/28

ニセ議員バッジで国会議事堂に侵入、警視庁に何度も侵入し逮捕…犯人の若者は一体何がしたかったのか

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阿曽山大噴火
芸人/裁判ウォッチャー
月曜日から金曜日の9時~5時...

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阿曽山大噴火

芸人/裁判ウォッチャー

月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。

※編集部注:本連載は被告人の名前をすべて本名と関連しないアルファベット表記(Aから順に使用し、Zまで到達した際は再びAに戻して表記)で掲載しております

【連載】阿曽山大噴火のクレイジー裁判傍聴(46)

ニセの議員バッジで国会議事堂に潜入、警視庁では放置された腕章を盗む

罪名 建造物侵入、窃盗
M被告人 無職の男性(22)

今回扱うのは「ニセの議員バッジを着用し国会議事堂や官公庁、議員会館などに侵入した男」の裁判です。まずは2022年12月14日に行われた初公判。

逮捕時にはメディアでも多数報道され、注目の裁判ということで傍聴券の抽選が行われましたが、傍聴券34枚に対して傍聴希望者が28人で定員割れ。もう世間では忘れられた事件のようです。

起訴されたのは3件です。

1件目は、2022年8月24日17時18分に霞ヶ関にある外務省にM被告人が衆議院議員を装って侵入した件。

2件目は、2022年8月25日16時55分に厚生労働省が入っている中央合同庁舎第5号館にM被告人が衆議院議員を装って侵入した件。

3件目は、2022年6月上旬に霞ヶ関にある警視庁庁舎にM被告人が正面入口から侵入し、8階の国際犯罪対策課で組対2課の腕章2個を盗んだ件。

M被告人は罪状認否で「間違いありません」と罪を認めていました。

検察官の冒頭陳述によると、M被告人は福岡県内の高校を卒業後に東京の大学に進学し、犯行当時は大学生だったそうです。2022年6月に中央省庁が見たいと思って侵入するようになったとのこと。

取り調べに対してM被告人は「8月中旬にネットで偽物の議員バッジを購入した。バッジを付けると敬礼されたりして、普段入れない所に入って承認欲求を満たしていた。8月24日は国会議事堂に侵入してから外務省に侵入した。25日は中を見たいと思って5号館に入った。警視庁にはこれまで何度も入ったことがあって、段ボールの中に組対2課と書かれた腕章が入っていたので盗んだ。本物を触って満足したいと思った」と述べているようです。

偽物の議員バッジなんか売ってるんですね。どこに需要があるのやら。M被告人は警視庁内のコンビニで電子マネーを使って何度か買い物をしているらしく、その記録から6月上旬と特定したそうです。余罪は多そう。検察官としても追起訴が多数あるということで、初公判は数分で閉廷でした。

続いて、2023年1月23日に行われた第2回公判。

追起訴の内容は、2022年8月25日15時24分に永田町にある自民党本部にM被告人が衆議院議員を装って侵入したという内容。

取り調べに対してM被告人は「この日は法務省、外務省、経済産業省に侵入をして、自民党本部の空気も味わいたいと思った。会議をやっていたので有名な人はいないかと写真を撮った」と供述しているそうです。

初公判では追起訴多数、取り調べ調書でも他の庁舎への侵入を述べていますが、起訴はこれでおしまい。全部で4件が罪に問われることになり、第2回公判はこれで閉廷です。

コロナ流行で大学に行かなくなり、議員事務所バイトも退職

そして、2月14日の第3回公判。

まずは被告人の母親が情状証人として証言台に立ち証人尋問が行われました。

弁護人「息子さんが一人暮らしを始めたのはいつですか?」
母親「大学2年生になった時なので2020年4月からです」
弁護人「政治には興味があったんでしょうか?」
母親「中学生の頃から国会中継を見たり、政治関連の新聞記事の切り抜きをしたりしてました」
弁護人「警察に興味はあったんでしょうか?」
母親「私が公務員になって欲しいと言っていたのもあって、警察官になりたがっていたと思います」
弁護人「被告人の自宅にはピーポくん人形が置かれてましたけど、あなたが買ってあげた物ですか?」
母親「はい。8才か9才の頃に私があげた物です」

14年前に母親から貰ったピーポくんのぬいぐるみを一人暮らしの今も部屋に大切に飾っていたとは。

弁護人「息子さんは大学に行かなくなったと?」
母親「コロナ禍になって授業がリモートになって、それから学校に行かなくなったのをきっかけに生活が乱れてきたかなと」
弁護人「注意しましたか?」
母親「深夜のアルバイトは辞めて欲しいと告げました。もし留年するのであれば学費は自分で払って欲しいと」

コロナ前までは真面目に大学通ってたけど、徐々に生活態度に乱れがあったとのこと。コロナ禍は様々な変化をもたらしているんですね。

今後の監督を約束して母親への証人尋問は終了。

そして被告人質問です。まずは弁護人から。

弁護人「大学ではどんな勉強をしてたんですか?」
M被告人「中学の頃から政策や法律に興味があったので、政治学や教職関係などを学んでいました」
弁護人「学校に行かなくなったのは?」
M被告人「コロナが流行って、リモートになってからおろそかになってしまいました」
弁護人「政治に興味があったと。政治活動してたんですか?」
M被告人「議員事務所でインターンシップとして2020年1月〜11月までアルバイトをしてました」
弁護人「どんな仕事内容ですか?」
M被告人「議員会館では書類を整理して国会議事堂に出入りしたり、議員事務所では来客の対応やポスター貼りなどです」
弁護人「永田町や霞ヶ関の省庁に入ることはありましたか?」
M被告人「自民党本部には入ることがありました」

犯行の2年前に、仕事として正当に自民党本部に入ってたようです。

弁護人「議員事務所のバイトを辞めたのは何故ですか?」
M被告人「リモートになって出勤する回数が減ったので、居酒屋の深夜のバイトを増やしたからです」

時を同じくして大学に行かなくなっただけじゃなく、議員事務所のバイトにも行かなくなっていたようです。

弁護人「警察にも興味があったんですか?」
M被告人「警察官になりたいと思って大学でも公務員全般の授業を受けていました」
弁護人「警視庁に入って腕章2個を盗んだのは何故ですか?」
M被告人「廊下に段ボールが山積みになっていて、捨てる物だろうなと」
弁護人「何故捨てる物だと思ったんですか?」
M被告人「腕章には『組織対策2課』と書いてあって、2022年4月にその部署が無くなるとニュースでやってたので」

捨てる物だからいらないはずなのでもらったという理屈です。警視庁も廊下に2カ月間も置きっぱなしにしてないでさっさと処分すればいいのに。

そもそも簡単に侵入できすぎでは…?

弁護人「腕章は何に使おうと思ってました?」
M被告人「手に取ってみたいなと。部屋に置いてました」
弁護人「盗んだ腕章はどのように保管してました?」
M被告人「1つはリビングの床に置いたまま、もう1つはぬいぐるみに掛けてました」 

なんと、母親からのプレゼントであるピーポくん人形に組織対策2課の腕章を掛けていたようです。警視庁の公式マスコット用だから無罪とはなりませんが、警察官になりすまして悪用するつもりはなかったようです。

弁護人「偽物の議員バッジを購入したのは何故ですか?」
M被告人「元々政治家になりたいとは思っていました。それで2022年7月に友人と会ったら、周りはみんな就職が決まってて。大学行かなくなって失敗したなぁと劣等感を感じ、バッジを持って頑張ろうと」

お守りみたいな感覚だったのかも知れませんね。

弁護人「議員バッジを着けて外を歩いたことはありますか?」
M被告人「8月21日は有楽町近辺を歩きまして、翌日の22日は永田町の辺りを歩きました」
弁護人「周りの反応はどうでした?」
M被告人「有楽町では何もなかったんですが、永田町では警備員とかに敬礼されて、それで議員会館に入りました」
弁護人「取り調べでは“敬礼されて嬉しかった”と答えてますけど、なんで議員会館に入ったんですか?」
M被告人「インターンシップの時に数回入ってたので今はどうなってるかな、中の空気感を味わいたいなと」

何かを盗むとかテロ行為を計画してたというわけではなく、単純に懐かしんだ後にすぐに出たそうです。

この後は2度とやらないと約束して質問終了。

続いて検察官から。

検察官「警視庁以外に他の警察署にも入ってるんですか?」
M被告人「はい、愛宕警察署です」
検察官「取り調べでは何回か警視庁に侵入してると。腕章はすぐに盗みました?」
M被告人「1〜2回目の時にたまたま見掛けて、3回目以降の時には置きっ放しで廃棄するんだろうなと思って」

他の警察署にも侵入してるし、警視庁本部には複数回入っちゃってるんですよ。しかもM被告人が議員バッジを購入しているのは8月なので、6月の時点では身分を偽ったりせずに堂々侵入しちゃってるんです。警視庁のセキュリティのガバガバ具合は問題のような…。廊下に腕章を置きっぱなしにしてる時点で組織の乱れっぷりが表れている気もしますが。

検察官「敬礼されて嬉しいだけなら庁舎内に入らなくていいのではないですか?」
M被告人「中が見たかったからです。入って、また頑張ろうと」
検察官「正式に入れるように頑張ろうと?」
M被告人「はい」

この後検察官はM被告人の犯行は幼稚で酌量の余地が無いと指摘し、懲役2年6月を求刑。

一方弁護人は弁論で、ニセの議員バッジで敬礼されたのが嬉しくなって、普段は入れない建物に入っただけで目的がない。警視庁に入って腕章を盗んだのは非難に値するが、警察官を装うわけではなくピーポくんに飾っていただけとして執行猶予を求めていました。

初犯なので執行猶予付きの判決になるんだろうけど、もう警備が厳しくなってることでしょう。M被告人に目的が無かったからこれだけで済んでますけど、悪いことを企んでたとしたら…。もう警視庁とか霞ヶ関省庁には簡単に入れないので変なことを計画してる方は残念。時間切れでした。


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