文:赤井大祐(FINDERS編集部) 写真提供:BACKSTAGE
ビジネスにおいて「イベントの開催」は非常に大きな役割を果たす。コストや手間はかかるが、うまくハマれば潜在顧客の可視化やコミュニティの形成など、心強い武器になる。
2月9日、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで開催された体験型マーケティングのカンファレンス「BACKSTAGE 2023」で行われたトークセッション「スタートアップの決断 — 自社イベントに踏み出すタイミングと、成功に導く組織の作り方」のレポートをお届けする。
自社イベントの開催は“合理的な判断”
登壇したのは、データ統合自動化サービス「trocco(トロッコ)」などを提供する株式会社primeNumberのCEO田邊雄樹氏。聞き役は、同社の社外取締役であり、元AWSマーケティング本部長、現在はStill Day One合同会社のパラレルマーケター・エバンジェリストである小島英揮氏だ。
田邊雄樹氏
小島英揮氏
primeNumber社は、2022年の3月に「あらゆるデータを、ビジネスの力に」をテーマに据え、トークセッションなどを行うオンラインイベント「01(zeroONE)」の第1回を開催。そして同年11月には1年を待たずして2回目となる「01(zeroONE)2022 Autumn」を開催した。
田邊氏はイベントを「我々の実績を解釈していただくための自社企画イベント」と説明。「データ活用全体の流れを捉え、考えている人」を登壇者として集め、データエンジニアやアナリストだけでなく、ビジネスサイドで働く人も含め、データに関わるステークスホルダー全体に向けたものとしたという。
ここで小島氏から「そもそもなんで自社イベントですか?お金かかりませんか?」と質問。同氏の言う通り、オンラインのみとはいえ、イベントの運営は少なくない金額がかかる上に、準備に必要な時間や手間も非常に大きい。自社開催ならばなおさらだ。
これに対して「我々としては非常に合理的なタイミングでした」と田邊氏。2018年の「trocco」ローンチ以降、あらゆるマーケティングチャネルでのアプローチを試したが、なかなか思うような成果が出ず、結果としてたどり着いたのが、自社イベントの開催であったと答えた。
「社内のベクトルが一つに向く」イベントの効用
「イベントの対象とする参加者や、イベント全体が見据えるテーマを広く設定していたため、登壇者のアサインにかなり苦戦した」と田邊氏。依頼しても出てくれるかわからないうえに、運営メンバーは既存業務もあるのでしっかりと回していけるかが不安だった、と本音を漏らす。
しかし結果的に出演者の出演をほぼすべて取り付け、初回から1000人程度の参加者を集めるにいたり、成功を収めた。
「イベントって絶対納期があって、そこに発表やアクティビティが集約されるので、社内のベクトルが一方向に向く良い仕組みなんじゃないかと思うんです」と小島氏。田邊氏も、「一つの目標があることで業務が増幅化していくというか、足し算ではなく掛け算になっていくイメージがありました」と同意する。
ひとまずイベントを終え、通常であればホッと胸をなでおろすタイミングだろうが、なんとすぐに次のイベントへ向けて着手を始めたという。先述の通り2回目の開催は初回から8カ月後。「普通であれば打ち上げをしがちなところを、記憶がフレッシュなうちに反省点を洗い出していて次の日には改善リストを作ってましたもんね」と、そのストイックな姿勢に小島氏も驚いたという。
しかし田邊氏に言わせてみれば、これも合理的な判断によるものだという。「3月というのは、数多くの企業にとって期が締まり翌期の予算取りも終わっていたタイミング。イベントを企画・開催していく負荷からは年一回の開催想定であったため、そのタイミング変更を考慮すると次の開催が2023年以降になってしまう。であれば、ここも合理的な判断として2回目を年内に、そして集客をざっくり2000人に設定しました」「これだけ反省点が見つかった状態で1000人集められたので、大きな目標というよりは、現実的な目標としての設定です」と説明する。
成果が出る以上に「やってよかった」と感じた理由
そんな短期間での開催となった2回目だが、集客はなんと1回目の2.6倍の約2800人にまで増加する結果になったという。
見事と言うほかない大成功。主な要因は「リーダーを決めたこと」と「データの活用」だという。
初回では田邊氏を中心に社員みんなで取り組んでいたが、どうしても役割分担などがはっきりせず、時間にもやり取りにもロスがあったという。そこに現場のリーダーを一人立てることで対応。
そしてデータ分析「これは1回目のデータがありましたからね」と自信を持って話す田邊氏。それもそのはず、primeNumberはデータ活用を支援する企業。「CPAをはじめとした集客のパフォーマンスを分析し、効果的だった訴求方法や訴求先のメディアなどを洗い直したことが非常に効果的でした」と田邊氏は分析する。
そして「自分もリーダーも忙しいので、データの編集作業に時間をかけていられません。troccoを活用して、ダッシュボードを作り、そこにさまざまデータが表示されるような形にし、メンバーが確認できるようにしました」とデータ統合サービスを提供する企業としての本領発揮ぶりを語った。
小島氏も「やっぱりデータはメンバー同士の共通言語になりますよね」とダッシュボードの重要性に言及。どれだけ貴重なデータでも利用しなければまさに宝の持ち腐れ。プロジェクトに関わるメンバーが読み取れる形にしたことで社内の意思決定をスムーズにし、これも集客を大きく伸ばした要因の一つになったということだ。
そしてトークは2回のイベントを経ての総括に。
「やっぱり成果が出たという以上に、“やってよかった”というのが大きかったんです。一つの催しをみんなで取り組むのは事業の拡大だけでなく、組織の成熟、ビルドアップにつながったんじゃないかと思います」と、対外的な成果以上に、社内の成長につながったことを振り返る田邊氏。
また副次的な効果として、イベント開催前後でprimeNumberが開催するスモールセミナーの集客も100名以上が前提になるほどの伸びを見せているという。
最後、小島氏からの「来年のイベントはどのような目標ですか?」という質問に、「集客は5000を目指してます」と田邊氏は強気の回答。しかし不思議なことに田邊氏が口にすると難なくクリアしそうですらある。
自社イベントの開催を考えている企業や、データ領域でビジネスを行う企業は、今後のprimeNumberの動きに注目だろう。
FINDERSでは「BACKSTAGE 2023」全体のイベントレポートも公開中。是非こちらもご覧いただきたい。