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EVENT | 2023/03/29

産業界に必須の接合・分離を極め「究極のリサイクル」を目指す 大阪大学 接合科学研究所

文:伊東孝晃
溶接から接合へ。ものづくりの根幹をなす技術を50年にわたって研究

田中学氏
大阪大学 接合科学研...

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文:伊東孝晃

溶接から接合へ。ものづくりの根幹をなす技術を50年にわたって研究

田中学氏

大阪大学 接合科学研究所は1972年、溶接工学研究所の名で大阪大学の独立した部局として創立。日本で唯一、世界でも屈指の規模を誇る溶接・接合技術の総合研究所として接合科学を探究している。1996年には「溶接」から「接合」というものづくりのグローバル化に対応するべく、接合科学研究所に改組・改称された。

同研究所では半世紀の歴史の中でさまざまな技術研究を展開し、中でも電子ビームやレーザーなどを用いた高エネルギービームの研究は高温科学という新たな学問領域を開拓。溶接工学の般化と深化に加え、パイオニア的な取り組みで産業界・工業界など幅広い分野に貢献してきた。

日本におけるトップ機関でありながら、関西の大学らしいユーモアあふれるポスターの制作や気軽に参加できるイベントの開催で接合技術の魅力を広く発信する大阪大学接合科学研究所。その取り組みの概要を所長である田中学教授に語ってもらった。

「当研究所は産業の発展、構造の変革とともに溶接・接合の裾野を広げるために学問としての溶接工学を接合科学へと発展させてきました。自動車や飛行機、ビル、橋など、あらゆるものにおける接合の安全性、信頼性を技術的に評価し、日々、新しい接合技術を見つけるために研究を行っています。製品の製造に溶接・接合は絶対必要ですが、研究者も拠点も不思議なぐらい少ないのが現状です。日本では、ここが唯一の総合研究所ということで、民間企業でも新素材が生まれた際には、新しい接合技術が必要となるため多くの方が相談に来てくださります」(田中氏)

カーボンニュートラルに焦点を合わせた技術革新に挑戦

同研究所では産学連携室を設置して産業界での研究成果の活用、およびニーズの積極的な取り込みを行い、社会実装への取り組みを強化。大阪商工会議所および生産技術振興協会との共催で地域コミュニティに向けた産学連携シンポジウムを毎年開催し、拠点の研究シーズを広く発信している。近年は環境保全を念頭に革新的な技術開発に勤しむ。

「ここ数年、産業界では省エネルギーを視野に入れ、超高強度の鋼板、アルミニウム合金や樹脂など、さまざまな材料=マルチマテリアルを組みあわせる傾向が強まっています。溶接技術では対応できない材料を扱うための新たな接合技術が求められ、当研究所では溶かさず接合する『固相接合』技術の進化に取り組んでいます。これは現在、溶接の歴史におけるパラダムシフトとしてさらなる研究が進められています。そこから発展した摩擦攪拌接合という界面接合の技術は、すでに一部の自動車メーカーで用いられています。そして現在、重点的に研究を重ねているのが、我々が“究極のリサイクル”と呼んでいる分離の技術。これは従来のような破砕・分解してのリサイクルではアルミと鉄が混在して材料が劣化してしまうので、役目を終えた製品を接合部できれいに分離し、純度を保つ技術です。未来における資源の再利用法として30年以内には確立させたいと思っています」(田中氏)

23年度から新たな体制でオープンイノベーションを先導

インダストリー・オン・キャンパス(協働研究所)の枠組みがある大阪大学や同研究所にとってJイノベへの参加は極めて重要な意味合いを持つ。イノベーションの創出により、接合技術がより良い社会を築くことに一端となることに意欲を見せている。

接合科学研究所の外観

「オープンイノベーションについては当研究所が率先して核となり、溶接・接合の観点から2050年のカーボンニュートラル実現に貢献していきます。そのためにも当研究所が長年蓄積してきた技術や経験をフル活用する所存です。我々の研究により究極のリサイクルが実現した際には、ものづくりやエネルギーの概念が確実に変わってきます。それを起点に世界を巻き込んだ新しいイノベーションを作ることができるのではないかと予想しています」(田中氏)

現時点でも産学連携の最先端をゆく拠点として幅広い領域にアプローチしているが、2023年度からはさらにその方向性を加速させていく。

「ニューノーマルものづくりコンソーシアム室を発足させることになり、そこにJFEスチール、日本製鉄、ダイヘンと展開している3つの協働研究所と附属研究施設である多次元造形研究センターが付随してきます。Jイノベ経由でアプローチしていただいた企業をコンソーシアム室にどんどんつなげて横串を刺し、オープンイノベーションを活性化させる仕組みづくりを始めており、新しい形の産学連携をここで成し遂げたいと思っています。また、企業だけでなく市民やお子さんを対象にしたステンドグラス接合体験会なども実施しているので、長い目で見て接合科学のファンや研究者・技術者を増やしていきたいです」(田中氏)

接合科学カフェ

ステンドグラス作りで接合体験


大阪大学 接合科学研究所

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