CULTURE | 2023/03/04

「台湾武力侵攻のメリット」が極小なのに中国が戦争に突き進んでしまうワケと「日本が果たすべき役割」 倉本圭造×福島香織対談(2)

連載「あたらしい意識高い系をはじめよう」特別編

聞き手・構成:神保勇揮(FINDERS編集部)

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FINDERSで連載「あたらしい意識高い系をはじめよう」を執筆する経営コンサルタントの倉本圭造氏と、中国政治・経済にまつわる著作を数多く有するジャーナリストの福島香織氏との全3回の対談をお届けする。

第2回は、長らく噂される「中国による台湾侵攻」は中国国民にとってどんな影響が生じうるのか、政府に異を唱えられないまま戦争になだれ込んでしまうメカニズム、そして「アメリカ嫌いの国」とも交流できる日本が取るべき立場について語っていただいた。

※本記事は2022年11月10日に行った対談を加筆・修正のうえ掲載しております

福島香織

大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『新型コロナ、香港、台湾、世界は習近平を許さない』(ワニブックス、2020)、『習近平の敗北 紅い帝国・中国の危機』(ワニブックス、2020)、『中国絶望工場の若者たち』(PHP研究所、2013)、『潜入ルポ 中国の女』(文藝春秋、2011)などがある。メルマガ「中国趣聞(チャイナ・ゴシップス)」はこちら
Wikipedia
◎Twitter:@kaori0516kaori

倉本圭造

経営コンサルタント・経済思想家

1978年生まれ。京都大学経済学部卒業後、マッキンゼー入社。国内大企業や日本政府、国際的外資企業等のプロジェクトにおいて「グローバリズム的思考法」と「日本社会の現実」との大きな矛盾に直面することで、両者を相乗効果的関係に持ち込む『新しい経済思想』の必要性を痛感。その探求のため、いわゆる「ブラック企業」や肉体労働現場、カルト宗教団体やホストクラブにまで潜入して働く、社会の「上から下まで全部見る」フィールドワークの後、船井総研を経て独立。企業単位のコンサルティングで『10年で150万円平均給与を上げる』などの成果をだす一方、文通を通じた「個人の人生戦略コンサルティング」の中で幅広い「個人の奥底からの変革」を支援。著書に『日本人のための議論と対話の教科書(ワニブックスPLUS新書)』『みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか(アマゾンKDP)』など多数。

台湾侵攻が起きたら、中国人は「悲願の統一が叶った」と喜ぶのか?

倉本圭造氏(写真左)、福島香織氏(写真右)

倉本:次は台湾問題に行きたいと思います。武力侵攻をしたがっているのは習近平だけで、軍人も経済人も、ロシアに対する欧米からの経済制裁が強すぎて二の足を踏んでいるんじゃないかという話もある中で、実際どうなりそうなのかなと。

福島:これは私の個人的な見立てで、しかも過去何度も外しているので一つの参考程度に聞いてもらいたいんですが、普通に考えれば台湾と戦争してもほとんどの中国人に利益はないんですね。

倉本:そうですよね。

福島:ここで言う「利益」というのは主に経済的な利益で、台湾は半導体産業も盛んだし、経済的なポテンシャルも高い。だから中国としてはそれを破壊せず、経済圏ごと飲み込むことが理想的だったわけです。

でも、習近平にそのロジックは通用しなかった。香港だって、国際金融都市だからこそ価値があるということを皆わかっていたから「香港の民主的・市場経済的な部分を弱めるようなことはしないだろう」と誰もが考えていました。ですが習近平は香港の自由主義的な部分に締め付けを行い、結果多くの中国人が損をしてビジネスチャンスも失っているけれども、文句が言えない。

ただ、先ほど「習近平の対抗馬になりそうな人がいなさそうだ」という話をしましたが、習近平はおかしいと堂々と言っている人は共産党内部にすら結構いるわけです。

例えば陶斯亮(とうすーりゃん)という女性がいるんですが、お父さんが元副首相の陶鋳(とうちゅう)でいわゆる紅二代(共産党革命に参加した経験のある党幹部や軍人の子弟)です。こういう人がSNSで堂々と「ゼロコロナ政策、おかしすぎるでしょう」と自分の体験を交えて言っています。

倉本:2022年は新疆ウイグル自治区で起こった大規模火災をきっかけに、中国国内でも日本含む国外でも大規模な「反ゼロコロナデモ」まで行われました。

福島:2022年11月24日にウルムチの集合住宅でコンセントの漏電を原因とした大火災が起き、大勢が亡くなった事件がありました。ウルムチはすでに100日以上、ゼロコロナ政策でロックダウンは続き、あちこちに人が自由に移動できないように囲いなどが作られ、消防車が出火点に近づけず、消火活動が遅れたことが犠牲者を増やしたと言われています。死者は公表されているだけで10人ですが、本当はもっと多いのだと噂になりました。

ウイグル人に限らず大勢の中国人が自分のことのように怒りました。みんな不条理なゼロコロナ政策に我慢の限界がきていたからです。あちこちで既に集団抗議がおきていましたが、警察や白い防護服を着た「大白」と呼ばれる職員らに暴力的に鎮圧されたりしていました。

そういう状況で、南京の大学のキャンパス内で、一人の女子大学生が白紙を掲げて黙って立つという抗議パフォーマンスをした。その様子がネット動画であっという間に拡散され、全国各地で、白紙を持って立つ抗議が起きました。それが「白紙革命」です。11月28日までに270以上の大学で、白紙革命が起きました。上海のウルムチ中路というところで起きた「白紙革命」デモは「共産党下台」(共産党やめろ)、「習近平下台」(習近平やめろ)といったシュプレヒコールまで起きました。1989年の天安門事件の時ですら、そういったシュプレヒコールはなかったと思います。

実は白紙革命の前から、こうした反体制的な声をあげる人たちはいました。2022年10月13日に北京市海淀区の四通橋というところで、「独裁者で売国奴の習近平を罷免せよ」という横断幕を掲げた人もいます。

横断幕を掲げた人間はすぐに拘束されましたが、中産階級の普通の人で、恐怖政治の最中であんな横断幕を堂々と出す市民がいるほど不満は燻っている。それを習近平もわかっているので、香港をイギリスから返還させた鄧小平、国を作った毛沢東と同等以上のレガシーとなるような絶対的功績を残したいと考えているのです。

また中国では対外戦争が権力の掌握には重要だという考え方があり、鄧小平もベトナムとの戦争(1979年の中越戦争)を通じて軍を強くできたという事例もあります。となると「やはり戦争だ」と思っている可能性がある。少なくとも、事あるごとにそういう風に見せかけていますよね。

倉本:実際、台湾に侵攻したら中国の人たちは「これで悲願の統一が叶うぞ」と喜ぶんですかね?そこがよくわからなくて。

福島:どれだけの人が喜ぶかはわかりませんが、人口が14億人いる国なので数億人単位でいるかもしれません。例えば月収1000元(約1万9000円)以下の人が6億人と言われているんですね。そうした人たちは「台湾侵攻による経済的デメリット」が生じない、またはそういうデメリットが生じうると理解していない可能性があります。

倉本:それはむしろ「台湾侵攻なんかしたってデメリットしかないぞ」と言っているような国内の中産階級やインテリに対してこそムカついているというような話ですか?しゃらくせえインテリどもの言うことなんて…みたいな。

福島:中国は貧富の格差がかなりまだ大きく、特権階級の超富裕層はもう海外脱出したりしているわけですが、だからこそ今は中産階級的な人たちの立場がかなり危うくなっているかもなと。文化大革命時代にも似たようなことが起こってしまった歴史もありますし。

倉本:それは難しい問題ですね。

福島:文革では高邁な理想があって「造反有理」と叫んでいたわけではなくて、あれは毛沢東による権力闘争の一環として大衆運動を利用しようとしたわけですが、今まで抑えられたものがコントロールを失い、法律などで「やってはいけない」とされていたどんな無茶、不条理なことでもやって良いということになってしまったわけです。

例えば親を殴るとか学校の先生をつるし上げるとか、そういうことをやってもいいよと。上司がいつも食べているようなおいしいものを食べてやろうとか、きれいな嫁さんを俺も欲しいみたいな、力づくで奪っていいんだという集団ヒステリー的な雰囲気が巻き起こってしまいました。持たざる者たちに対し「敵はあいつらだ、奪ってしまえ」と独裁者が言えば、本来独裁者に向かいかねなかった矛先が、中産階級だとか、台湾だとか米国だとかに向くということです。

「集団ヒステリーのように見えて意外と冷静」でも戦争へ突き進んでしまうメカニズム

Photo by Shutterstock

倉本:なるほど。中産階級同士でのある種の合意的なもの自体が、下層の人からするとしゃらくさく見えるというか、そうした既存の体制をブチ壊していく「英雄」に喝采を送っちゃうような人が数億人はいてもおかしくないという事なんですね。そういう国内の経済的分断が習近平の権力や、台湾への武力侵攻策を支えてしまう可能性があるということですか。

福島:そういう部分もありますよね。文革の評価も知識人から言うと「二度と起こしてはいけない歴史的な厄災」だけれども、田舎の農村で話を聞くと「楽しい思い出だった」と言う人もいるわけです。

下放(下郷運動)で都会からイケてるお兄さんお姉さんがやってきて自分たちの下で働いてくれる、毛沢東は太陽だと書いたら拍手されて大学に入学できる。列車に乗って北京に毛沢東に会いに行くみたいな大修学旅行もできたりする。

倉本:なるほど。農村の人にとっては良いことずくめだったと。

福島:ただ、今も同じかというと必ずしもそうではないと思っていて、農村でも皆スマホを持っていますから、情報格差はそこまで大きくないはずなんですね。農村でもこれだけ物価が上がっているとか、俺たちが貧しいままなのは政治が悪いんじゃないかとか、そう思っている人も結構いるんじゃないかなと。

倉本:その辺り、話をうかがっているとアメリカでトランプ支持者が増える構造に結構近いんじゃないかという気がしてきました。

福島:そういう部分もあるかもしれませんが、ただ「大衆の意思」的なものがアメリカ人ほどはっきりしていないかもなという気もします。それぞれの行動をどこまで自分の意思で行っているのかというか。「今、自分はどこに行って何をすればより安全か」ということを瞬間的に肌感覚で判断できる人が多いと言えるかもしれません。

2010年代初頭に、尖閣問題などを巡って中国で反日デモが盛り上がったことがあったじゃないですか。こういうデモにも普段は日本のアニメが大好きな若い子が参加していたりするわけですが、取材してなぜ参加したのかと聞くと「その場の雰囲気ですかね」みたいなことを言うわけです。

何らかの方向性が示された時に、みんなでそっちに行かないと自分の身の安全が保証されないかもしれない。なので「集団ヒステリー的」に見えても各人は意外と冷静だったりもする。ただ、そうしてとりあえずムードに乗ってわーっと行ってしまうと、実際に戦争が始まってしまうこともあり得るかもしれません。

倉本:今から思えば9.11直後のアメリカもそんな雰囲気だった気がします。今後いかに戦争を起こさないかということを考えていくと、まず軍事的な拮抗状態を保ち穴を作らないようにしていくことが大事だと思うんです。そのためには軍事費を増やすのもまあある程度は仕方がない。「キーウなんか3日で落とせる」とプーチンが誤解しちゃったような情勢には断固行かないようにすることが第一に必要ですよね。

その上で、さらに輪をかけて、「戦争が決断されてしまう空気」に行かないようにするために必要なことは何だと思われますか?

福島:それを考えるうえで、やはりプーチンのウクライナ侵攻のことが頭によぎってしまいますよね。そんなバカげたことはしないだろうと誰もが思っていても、いざ決断されると誰も止められなくなってしまう。

倉本:それを言わせる前に、空気で止めないといけないと。唯一、ちょっと希望があるとすれば、今回のウクライナ侵攻を通じて「戦争はどんなに優位に見えるかたちでスタートしても、ここまで負けが込むこともあるんだ」ということを習近平が学んでくれないかというところでしょうか。

軍事的な均衡状態をちゃんと作れるように、日本もアメリカもオーストラリアも、ひょっとしたインドもという感じで連合して対抗されると、これはちょっとしんどいかもしれないなという印象を振りまくことを、団結してちゃんとやっていくことが第一条件としては重要かなと思いますね。

福島:そうですね。ただ厳しい経済制裁などを通じて中国が、そして習近平政権が一定以上追い込まれてしまうと……。

倉本:やってしまうかもしれない。

「アメリカの株価」と「世界の安定」は連動している?その中で日本の果たすべき役割は

福島:逆ギレする可能性はあるかなと。経済運営を見ていても、戦時経済を想定しているのか?と思えてしまう動きがいくつもあります。例えば「供銷合作社(供銷社)」という日本で言うところの生協のような組織の再活性化を図っていたり、国営食堂なんかも増やしている。民営のプラットフォーム企業も、全部国営化していこうみたいな動きが出ているわけですね。計画経済に回帰している、という言い方もできると思うんです。

なぜかというと、その方が資源・エネルギーや食料などをコントロールしやすいからなんですね。アメリカの対中方針がこのまま続くようであればますますデカップリング(2国間の経済が連動しない状態。相手国の商品やサービス、技術などを利用しない・させない姿勢を取り関係を断つこと)が進んでいくし、特に半導体とかハイテク分野は分かれていきますよね。そうなると計画経済に戻らざるを得なくなるし、同時に戦時状態を想定していると私には思えてきます。最終的には昔の米ソ・キューバ危機的な厳しい状況が想定されているのかなと。

倉本:なるほど。米ソの話で言うと、以前noteで発表した「映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』から考えるアメリカ株最強伝説の今後と、そこで日本が取るべき道について」という記事で、アメリカの株価が伸びている時期と伸びていない時期は歴史上二分されているという話を書いたんです。

例えば1982年、

・世界中でMTVが見られるようになる中でマイケル・ジャクソンが「スリラー」を発表

・レーガン大統領が諜報分析に基づいてソ連がついてこれないことを見越して徹底的な軍拡競争をしかけ、後ソ連の崩壊につながった

というタイミングからアメリカの株価は40年ほど右肩上がりが続いていました。

逆に1968年、国内的には人種差別の問題、対外的にはベトナム戦争が泥沼化しキューバ危機などもあって第二次大戦終了以後続いた「米国黄金時代」の雲行きが怪しくなった頃から株価が横ばい状態になり、その後82年まで停滞が続いています。

macrotrends.netより、S&P500の価格チャート(https://www.macrotrends.net/2324/sp-500-historical-chart-data)

1982年以後の人類の歴史というのは、「世界が再び“アメリカ的なるもの”に飲み込まれていく」時代だったというか、まずはポップカルチャーと軍拡競争によって、そして後にIT技術によって、再度アメリカ文化が人類社会を一個にまとめあげるムーブメントがあった時代と言えるのではないかと思っています。

この上昇・下降が今後も続くと仮定した際、「習近平の野望を砕く」というのは、つまり世界をある程度アメリカ的な秩序の中で、もう一度やっていけるようにしていくみたいなことを意味するのかなと個人的に思うんです。

そのためには戦争をするなんてもってのほかですし、いわゆるベタな正義同士のぶつかり合いを避け、メタな正義としてまとめていくような発想で動いていく人が必要じゃないかということを考えています。

第一条件としては軍事的な均衡と「矛を交えたらとんでもないことになる」という印象を常に与えていくこと、そして第二条件としては分断する二つの世界を溶け合わせるような新しい発想やビジョンを出していくこと。この両面において日本が戦争抑止のためにできることがあると思っています。そのために具体的に何が必要なのかということを、福島さんにもう少し詳しくお聞きしたいです。

中国がより強大になり、アメリカが今後グラつくかもしれない未来で改めて考えたい「台湾の狡猾さ」

福島:私の考えをお話しすると、まず2005年ぐらいまで、鄧小平政権の終わりまでは「中国はいずれ民主化され、グローバル陣営の一員に加わるだろう」という希望的観測があったんですよね。

ただ、実際の歴史はご覧の通りですし、西側でもグローバル化が唯一解であると進めていくことが本当に良いのか、倉本さんもよくおっしゃるようにローカルとグローバルの新しいすり合わせみたいなものが必要だという考え方に変わってきていると思うんです。

習近平は「中国がアメリカに代わるルールメイカーとなり、新しい国際社会を作る」とハッキリ打ち出していますし、上海協力機構やAPECなど国際機関も用いて国外にも積極的に働きかけている。国連でも「アメリカはG7とかの金持ちクラブ代表だけど、俺たち中国は新興国・途上国の利益を代表する。そうした国にとっての民主化というものを中国が定義する」と言い出しているわけです。

もしその枠組みが実現すれば、日本も中国に支配されることになりますし、「それはイヤだからアメリカの価値観についていこう」となると分断が生じ、下手をすれば戦争になってしまう。台湾も同様です。

最も希望的なシナリオを言えば、習近平体制が政変その他で倒れるなり今の方向性を諦めるなどして、もう一度アメリカと関係改善を図るというものです。ですが中国がこのままアメリカと同等、またはそれ以上の手強い帝国に成長してしまった場合、台湾危機が10年、20年先送りになってもその先で国際社会を飲み込もうとしてしまうかもしれない。

もし日本がこのまま対立路線で行く場合、重要なのは米中の間に立って、この対立を緩和できる存在になれるかどうかということです。私は習近平政権がズルズル続く中国ではアメリカに取って代わる一極体制にはなれないと思っていますが、一方でアメリカも強そうに見えて脆弱な部分がかなりあり、今の立ち位置を維持できるかはわからない。となると結局、多極時代になる。不安定な多極時代がある程度の時間、ダラダラと続く時代が始まるかなと思っています。

では、日本の政治家がアメリカと中国の対立を緩和できるような、新たな極になれるかどうか。残念ながら現状、期待することは難しいと思っています。

倉本:なるほど。

福島:ただひとつのヒントとして、台湾の狡猾さをもっと勉強すべきではないでしょうか。

国際社会で長年のけ者にされ続け、非常に危うい立場でずっと生きてきた国家なのにもかかわらず、世界有数の半導体6割のシェアを取る大企業の拠点があったりする。コロナ対策でも、台湾の考え方は中国のゼロコロナ政策とよく似ているんですね。でも、中国はボロボロになったのに台湾はそうなっていないし、GDPも落ちていないどころか最近まで上昇基調にあった。

もちろん飲食・観光業などは大きなダメージを負っていますが、半導体と加工業の部分で成績が良いからかろうじてバランスが取れているし、キツいコロナ政策を実施しても国民は肯定的だったりする。そのための方法論は参考になると思います。

倉本:習近平サイドの大義名分としては、アメリカの横暴に対抗して新興国側をまとめ、自分たちは別の世界観を持っているんだと主張するとか、あるいはグローバリズムがローカルの紐帯を引きちぎって社会不安になってしまうことに対して対抗するといったものがあると言えますよね。

その結果として、やっていることに賛同は一切できないけれども、そこに必然性があること自体は否定できない事実として、世界中の少なくない人たちが思っているんじゃないかと個人的には思っているんです。僕がたびたび言う「メタ正義感覚」というのは、相手側の大義名分が成り立つ根本の課題を解決に向かわせることによってこそ、相手の存在意義を消滅させられる、つまり「倒せる」ということです。規模は違いすぎますが、普段やっている中小企業のコンサルの現場でそのことをいつも痛感しています。最大限のアンチ習近平ウィルス、いやアンチ習近平ワクチンというか。

習近平の大義名分を支えている、「だって米国や欧州が描いているビジョンだって全然俺たちのためになってないじゃん」という世界中の人々の不満自体を解消し、ローカル社会側の気持ちや意地や経済的事情と、欧米的理想や国際社会のシステムが、対立関係にならないように「メタ正義」的に調整する役割の人が必要で、それこそが日本がやるべきことなんじゃないかと。

福島:おっしゃる通りで、「本来それが日本のやるべき役割ではないか」と展開したいところなんですよね。例えば日本とイスラム諸国の関係とか、あるいは太平洋島嶼国(オーストラリア、ニュージーランド、フィジーなど)との関係の歴史があるわけです。中にはアメリカ嫌いの国であっても、日本ならオッケーという国がある。

倉本:確かにそうですね。

福島:そういうところから考えると、日本がアジアの新興国・途上国の利益代表として、アメリカや中国の間に立って存在感を発揮することができたかもしれない。現状、中国がその位置にいるということになっているのはチャイナマネーの力であり、かなり無茶なバラマキ方をしたことで、色々な問題も引き起こしましたし「一帯一路」にも悪いイメージが付いていて上手くいっているとは言い難いです。でも、アメリカも嫌いの国々からすれば「それでも中国の方がまだマシ」というような選択肢を取ってしまう。

具体例を挙げると、例えば2022年4月にソロモン諸島は中国と安全保障協定を結びました。人民解放軍がソロモン諸島に駐留できる口実を与えてしまったわけです。ソガバレ首相のインタビューを読むと、本当にアメリカが嫌いというか、要するに「白人の傲慢さ」を嫌っているのだなとわかります。

それでも自国を守れる警察力ないし軍事力がないという国は他国を頼らざるを得ない。海賊などの反社勢力を取り締まらなきゃいけないけど、沿岸警備隊だけでは無理という国もあります。そこに日本の自衛隊が選択肢に上る可能性もあったはずなんですよ。自衛隊が軍であるならば、日本にそういうことができる法的な根拠があれば。ただ、それを実行するにはそれなりのお金と軍事力も必要になりますし、そもそもそういう発想に至らなかったところもあります。


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