EVENT | 2023/01/02

多くの日本人が知らない「EUの大激変」日本企業が影響を受けるかもしれない4つのトピック

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【連載】オランダ発スロージャーナリズム(47)
新年あけましておめでとう...

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【連載】オランダ発スロージャーナリズム(47)

新年あけましておめでとうございます。新年はゆっくりお正月気分を満喫できているでしょうか? 日本と比べると新年の始動が早い(通常1/2から始動)ヨーロッパから、2023年の注目トピック4つを、ちょっと先取りしてお伝えしたいと思います。みなさんと一緒に、日本の今年をちょっと予想してみたいと思います。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

食品:「森林破壊に関係する商品販売禁止」法案で食糧危機を実感!?

まずは昨年(2022年)の12月に、ひっそりと発表された「EUで森林破壊に関係した商品の域内販売防止法案が成立」というニュース。ご存知の方はいらっしゃいますでしょうか?日本では海外メディアや通信社の配信をいくつかの新聞が伝えたのみだったようなのですが。

実はこのニュース、欧州ではかなり注目されていまして、環境団体などは大喜び。EU市民も基本的には肯定的に受け入れられた、ビッグニュースでした。

例えばみなさんは、焼き畑などによって森林を伐採、破壊して作る食物と言うと、何が思い浮かびますでしょうか? パームオイル、大豆、チョコレート、牛肉、ココア、コーヒー、その他にも木材、ゴムなどの加工品などなど。これらの商品は森林伐採をしてないところで生産された、という証明書や検証性(トレーサビリティ)が担保されていないと欧州では輸入できないことになりました。

さて、これが果たして、2023年の日本に何か影響があるのでしょうか?

急にではないにしても、徐々に、それもかなり大きな影響が出ると、筆者は考えています。「EUで販売禁止? だったらその分、日本に輸入できるのでは?」と思う方もいるかもしれませんが、そうは問屋が卸さないと思っています。

EUはこれらの食品素材や商品の世界的輸入マーケットですが、おそらく今後は他の地域でも同じ動きになるのではないかと思います。もし、そうならないとしても、グローバル展開する食品流通企業はEUでの対応を、当然求められることになります。

その結果、該当商品の値段が急騰するなどして輸入できなくなるかもしれません。パームオイルなどはありとあらゆる食品に使われていますし、パームオイルに変わる食用油は、生産効率などを考えるとなかなか代替品がないのが現状です。大豆なども、かなりの加工食品で使用されていますし、家畜の餌にもなります。

これらが輸入できない、または価格が高騰するとなると、徐々に日本の食卓へも影響が出てくると思われます。

また、2022年のロシア・ウクライナ紛争の影響で、エネルギーや肥料の価格が大高騰しており、実は今、酪農を含む農業は存続が危機的な状況にあります。加えて、80億人を突破したという人口増の半面、世界的に見ると土壌劣化、気候変動などにより、作物の生産効率が落ちてきていたりもします。日本ではここに、農業従事者の高齢化などの問題もありますよね。

日本のカロリーベースの食料自給率は農林水産省によると38%ですが、世界が食糧危機になったときには、最初に餓死する国と言われていたりします。

とにかく、今は世界的に見ると食糧危機が始まっており、2023年にはこの影響が日本でも顕著に出てくるのでは?と想像しています。長らくデフレが続いていた日本でも、既に食品価格が少しづつ上がっていることに気づいている人も多いのではないでしょうか?

メーカー:大手だけでなくサプライチェーンにもCO2削減が要求される?

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もう一つ、こちらは食品業界には限らないのですが、もし、みなさんが広義のメーカー系業界のサプライチェーンに属しているとしたら、少し注意をしてください。

近年、弊社が担当する日本企業向けのリサーチ案件で増えているのが、自社の所属する業界、あるいはサプライチェーンの情報の透明化。ことに、サステイナブル関係の情報です。分かりやすく言うと、「我が社のサプライチェーンで排出している二酸化炭素の量を調べてください」「サプライチェーン全体でそれをゼロにするにはどうしたら良いのか?」といった類のリサーチです。

少し前のヨーロッパの事例を挙げてみます。このケースではファッション業界でした。ベルリンを拠点とするファッションECの大手プラットフォームが、「2025年までにCO2エミッションなど、環境に配慮したブランドでなければ自社サイトで扱わない」と宣言しました。日本でいえばZOZOのような、大手ファッションECによる突然の宣言でした。

こうしたことが今後、他業界でも起こると予想されます。大手メーカーが生産者や、流通、パッケージ生産企業などの全サプライチェーンに、「二酸化炭素排出が〇〇以下でないと、うちとの取引を停止する」的なことでしょうか。あるいはスーパーなど小売企業がこのような宣言をするかもしれません。

食品業界に限ったことではないと思いますが、農業を含む「食」産業の二酸化炭素排出量が多いと言われている現在、ここにメスが入る可能性は高く、2023年はぼちぼち、そうした傾向が出てくるのでは?と思われます。

建築・不動産:「新しく作った素材」で建設ができなくなる?

日本CLT協会の公式サイトより

(2023年1月8日追記:こちらの項目に加筆修正を加えました)

もう一つ、ひょっとしたら?と思われるのが、建築業界です。ロシア・ウクライナ紛争の影響で、世界的に建築資材の値上がりが続いています。オランダでは、2050年をめどに地球資源から新たな建築資材を作ることを一切やめ、資材利用を100%サーキュラーにするイニシアチブ(構想)が進んでいます。

こうした動きはオランダに留まらない可能性も少なくありません。EUは2050年までに二酸化炭素(CO2)排出量と除去量の差をゼロにする「カーボンニュートラル」の達成を目標に掲げており、そのための規制強化を進めていくと明言しています。記事冒頭で挙げた「森林破壊に関係する商品販売禁止」法案もその一例で、対象となる品目には木材も含まれています。

またカーボンニュートラルの達成と持続的な経済成長を両立すべく、2019年に「欧州グリーンディール戦略」を打ち出していますが、その一環として翌20年には建物のエネルギー効率向上を促進する新戦略「リノべーション・ウェーブ」が発表されています。その背景には建築行為そのものや、建物を利用する際のエネルギー使用量や温室効果ガスの排出量、そしてそれらを削減するための改修などがほとんどなされていないことが大きく問題視されているということがあります。

このリノベーション・ウェーブの方針の1つとして、建築資材のリサイクルを推進するという項目があり、先ほどの「森林破壊に関係する商品販売禁止」法案のドラスティックさと併せて考えると、今後さらなる規制強化が入ることは十分考えられます。

その準備ともいえますが、オランダでは既存の建物に使われている図面や建築資材(新築物件の資材も含む)などの3DCADデータの登録が進んでいます。言ってみれば、建築資材の図書館というか、パスポートのような制度です。スクラップ&ビルドや新築物件の多い日本では、今も戦後に建てた建物の建て替えラッシュが続いています。東京でも大規模な工事が多いと思いますが、これらが新しい素材では建てられなくなるのが2050年のオランダ。EUの多くの都市もこの方向に向かっています。

弊社でも、まちづくり案件や、都市計画案件などに関わらせてもらっていますが、日本では今のところ、こうした動きに対応したアクションはまだないように思えます。資材、原料は、今のところ高値での売買が続いていますが、そのうち売買そのものが禁止される、なんてこともあり得ます。建築デザイン、工法、解体後の処理など全てが抜本的に変わるかもしれません。一方で、日本の釘を使わないで木材を組む木組の技術が注目されていたり、焼杉、茅葺なんかも注目されています。そうなった場合に向けての想定を進めておいた方が良いかもしれません。

そもそも木材建築は、低コスト、建築プロセス全体で温室効果ガスを減らせてエコである、などの理由から、近年かなり需要が高まっています。新開発建材のCLTが登場し、木造でも高層建築ができるようになったことから、日本でも建築基準法の改正などで対応できるようになってきてはいるものの、まだ欧州にかなりの遅れをとっている感は否めません。行政が法改正を主導するなどして進めないと、民間の力だけでは追いつけない状況になってしまっています。

自動車:EV普及で日本車の影が薄くなる?

最後に日本の基幹産業と言っても良い、クルマ業界にも触れておきましょう。もっとも、ちょっと耳の痛い話かもしれません。

おそらく、みなさんすでにご存知かと思いますがEV普及の波が加速度的に増しています。世界的に見ると販売台数では中国が多いようですが、例えばノルウェーなどはすでに6割以上がEVとなっています。筆者が住むオランダでは最近かなり見かけるようになったものの、普及率はまだ3.3%。ただし新車の販売割合で見ると2020年には既に25%にまで上昇しており、2025年にはそれが50%になるという予測もあります(ちなみに日本での新車販売における割合は現在1%程度)。

欧州ではEVの販売実績では、フォルクスワーゲンを筆頭に、テスラなどが多いです。EU内ではおおむね2030年を目処にガソリン車の販売が禁止される国が多く、筆者も次に買う車はEV一択です。となると、残念ながら日本車の雄トヨタは、現時点では選択肢に入ってきません。

日本車メーカーやそのサプライチェーンの方が、これを読んでいるとしたら考えて欲しいのですが、コロナ禍を経て欧州ではグッと、いやサラッと?日本車の存在感が薄くなっています。一方でEV含め躍進し始めているのが韓国車です。ちなみに中国車は乗用車の影は感じませんが、業務車ではすでに広がり始めているかもしれません。

これはかなり由々しき事態です。筆者はかつて学生時代にバックパッカーで世界を周った先々で日本車を見かけました。荷物一つで世界を彷徨う学生にとって、世界各地で見かける日本車は、なんというか安心感というか、鼻が高いというか、ちょっと誇らしくもありました。

しかし、おそらくあと数年後には、世界のどこでも見かけた日本車が、「あー、そういえばあったねえ」と言われるものになってしまうかもしれないのです。しかも、この話は、ちょっとデジャブを感じないでしょうか? 家電、パソコン、TV、そしてケータイ…。うーん。車がこの二の舞になってしまうのは避けたいのですが…。2023年、海の向こうでは、ひっそりと日本車が終焉を迎えるかもしれないのです。

新年早々、やや暗い話に終始してしまい非常に恐縮ですが、2023年の予測をしてみました。多少、誇張している部分があれど、どれもこれも壮大にハズレて、来年には「去年の新年に、バカな話を書いているヤツがいたなあ」となってくれることを願ってやみません。

ということで、今年もよろしくお願いいたします。


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