EVENT | 2022/11/24

安倍元首相も参加した「大麻活用の勉強会」とは。法改正で今後どう変わる?

鈴木英敬議員
【連載】大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記(6)
この連載でも繰り返し書いていますが、大麻取...

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鈴木英敬議員

【連載】大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記(6)

この連載でも繰り返し書いていますが、大麻取締法が制定以来70年以上の時を経て、初めて大幅に改正されます。この改正に伴い、政治の場でもさまざまな動きが出てきています。

中でも今年4月、故・安倍元首相の声がけにより、「産業や文化等への麻の活用に関する勉強会」(会長:森山裕衆議院議員)が発足したとの報道は、長年このテーマを追いかけている私たちにとって、大きなインパクトがありました。この勉強会で事務局長を務める、鈴木英敬衆議院議員に話を伺うことができました。

鈴木英敬

衆議院議員(前・三重県知事)現 内閣府大臣政務官

[担務]経済再生、新しい資本主義、スタートアップ支援、新型コロナ・健康危機管理対応、全世代型社会保障改革、金融庁。
昭和49年8月15日生まれ。兵庫県出身(本籍地菰野町)、東京大学卒業後、通商産業省(現経済産業省)に。
平成21年衆院選で三重2区から自民党公認で出馬も落選。
平成23年、当時全国最年少36歳で三重県知事就任(3期)。
令和3年9月12日、10年務めた三重県知事を退任。
令和3年10月の衆院選で初当選、衆議院議員となる。
https://eikei.jp/

大麻博物館

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日本人の衣食住を支えてきた「農作物としての大麻」に関する私設の小さな博物館。2001年栃木県那須に開館し、2020年一般社団法人化。資料や遺物の収集、様々な形での情報発信を行うほか、各地で講演、麻糸産み後継者養成講座などのワークショップを開催している。著作に「日本人のための大麻の教科書」(イーストプレス)「大麻という農作物 日本人の営みを支えてきた植物とその危機」「麻の葉模様 なぜ、このデザインは、八〇〇年もの間、日本人の感性に訴え続けているのか?」。日本民俗学会員。
https://twitter.com/taimahak
https://www.facebook.com/taimamuseum/
https://www.instagram.com/taima_cannabis_museum

「大麻の合法的活用」を後押しする目的で勉強会を設置

今年4月29日に開催された勉強会の模様

大麻博物館:「産業や文化等への麻の活用に関する勉強会」が発足した経緯と活動内容を教えてください。

鈴木:勉強会が発足したのは今年4月ですが、実はそれ以前から「神事や伝統文化維持のため大麻の栽培を拡大すべきでは」という趣旨の勉強会が非公式な形で行われていました。そんな折、厚生労働省の主導で大麻取締法の改正を検討を開始という動きがありました。そこで法改正を後押しすると共に、さまざまな議論を行う場として「産業や文化等への麻の活用に関する勉強会」はスタートしています。

活動としては、初回の勉強会を4月、第二回を8月に開催し、厚生労働省の報告を受けながら、「違法なもの」の取り締りはしっかり行っていくという大前提のもと、規制のあり方と農業振興をどういったバランスで進めていくか、あるいは需要をどうやって作っていくか、そういった議論を行っています。また、先日発表された「骨太の方針」(※)には大麻に関する一文が盛り込まれましたが、一定の方針を明文化できるように働きかけたりもしました。

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※骨太の方針:政権の重要課題や翌年度予算編成の方向性を示す方針。2022年6月に発表された方針には「大麻に関する制度を見直し、大麻由来医薬品の利用等に向けた必要な環境整備を進める」という一文も掲載された

私自身の話をすると、国会議員として国政に携わる前の三重県知事時代(2011年4月〜2021年9月)、神事に用いるための大麻の栽培をしたいと要望していた伊勢麻振興協会さんに、栽培者免許を交付したことがあります。その際の知識やネットワークがあったため、勉強会の事務局長を務めることとなりました。大麻は伝統文化や神事にとって、重要な存在です。知事時代には20年に一度行われる伊勢神宮の式年遷宮を経験しており、伝統文化や神事を維持していくためにも、しっかり関わろうと思っています。

適正な管理、適正な流通、適正な市場の育成

大麻博物館:大麻取締法の改正や勉強会の立ち上げといった動きは、世界中で続いている大麻に関する大きな変革を受けてのものだと感じました。一方、国内ではまだまだ忌避感が強いテーマだと感じますが、党内などからネガティブな反応はありませんか?

鈴木:その点は、知事時代の方が気にしていたかもしれません。インターネット経由で三重県民のみなさんの声が届く仕組みがあったのですが、大麻栽培を認可しようとした際、「本当に大丈夫か?」「危険だ」「絶対に反対」といった反応がたくさんありました。しかし今回は、違法なものの取締りはしっかり行うことが大前提であることや「使用罪」の新設なども議論されていることから、闇雲に「ダメだ!」「大麻とは何事だ!」といったような意見がたくさんあるという状況ではありません。ただし、勉強会の名称を「大麻」でなく「麻」としたのは、そういったバイアスを若干気にしているのかもしれませんね。

立法府の人間としては「違法なもの」はきちんと取り締り、「合法なもの」は適正に管理し、栽培すればいいというスタンスです。同時に「合法なもの」のあり方を冷静に考える必要があると考えています。

最近の話でいえば、アメリカのバイデン大統領が大麻の単純所持に恩赦を与える動きや、ドイツが少量の娯楽目的の大麻を合法化する動きもありますが、基本的に行政や立法の在り方というものは、「他国がこうしたから同じようにする」というものではありません。例えば、大麻の生涯経験率(リンク先PDF)についていえば、欧米は20%以上となっていますが、日本では1.4%に留まっています。日本の薬物規制は他国より成功しているという認識です。そういった前提のもと、難病の皆さんに効果がある医薬品としての利用、あるいは伝統文化を守る人たちが国産の大麻を利用できるようにしたい。大麻取締法が制定された昭和23年ではなく、現在のテクノロジーからできる手法を考え、適正な管理、適正な流通を行い、適正な市場を育成していくということです。それをしっかりと申し上げていくしかない、と思っています。

日本で「薬草としての大麻」は利用できるようになるのか?

大麻博物館:もう一歩、踏み込んだ質問をさせてください。予定されている法改正では、神事や伝統文化の領域、バイオマスとしてのヘンプ(産業用大麻)の領域、医師が管理する製剤の領域については規制緩和される一方で、「医療大麻」と呼ばれる薬草=代替医療の領域については使用罪が追加され、規制が強化される方針が示されています。

この薬草=代替医療としての使用とは、いわゆるマリファナ喫煙と行為としては本質的には同じですが、北米やタイなどでは合法化されました。さらにいえば、新たな産業という意味においてこの薬草=代替医療としての領域が、最も多くの税収や雇用を生み出しているのが実態です。この辺りはどのようにお考えでしょうか?

鈴木:行政のプロセス論から考えれば、当然一足飛びにはいきません。議論をしっかり積み重ねて、用途の拡大や国民の理解が少しづつ進む中で、ステップバイステップで進んでいく必要があると考えます。

まずはカーボンニュートラルの観点から産業用大麻の利用や難治性てんかんの方に向けた医師管理の製剤、あるいは神事や伝統文化への利用といった、一般的に理解がしやすい「大義があるところ」をしっかりやっていくことが重要だと思います。以前、「CBDX」というCBD(※)の配合を売りにしたドリンクをつくっている清涼飲料メーカー、チェリオの社長と話したことがあります。私も地元の自販機で買って飲んだことがありますが、こういったものが身近に増えていく、という意味での環境づくりも大切だと思います。

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※CBD:カンナビジオール。カンナビノイドの一種だが精神作用をもたらさない。日本でも流通しており、近年では100社以上が参入するほどの人気となっている

その上で、もし日本が薬草=代替医療としての大麻の利用を進めるのであれば、他国の規制の動向などを見ながら考えることが必要です。例えばドイツは少量の娯楽目的の大麻を合法化しますが、薬局など認可された店舗での規制付き流通を認めるという形です。非合法な流通を規制し、適正な流通とセットで議論していくことが重要ではないでしょうか。

「地方の在り方」「農業としてのあり方」を考える

大麻博物館:今後の大麻に関する制度・政策の展望を聞かせていただけますでしょうか。

鈴木:法改正を行った後にやらなければいけない点は、大きく二つだと思っています。

一つは「自治体との関係性の改善」。大麻の栽培許可は都道府県知事の裁量となっていますが、その許可基準が統一されていない点は問題です。私も県知事時代に経験がありますが、地方自治体は基本的にリスクを取りづらいため、一部は過剰とも思えるガチガチな規制をせざるを得なかったという現実がありました。地方自治体がリスクを意識しすぎなくてもいいように説明をしっかり行った上で、栽培許可の統一基準を設けるなど、基準を適正にしていきたいと考えています。そうすることで、農家は増えていくでしょう。

もう一つは「農業として成立させる」ということです。コストに見合うように、経済的にやっていけるようにする方策を考える。来年度にいきなり大きな予算がつく、ということはないかもしれません。しかし国には、例えば薬用植物の栽培を振興する予算というものもあったりします。こういった予算の活用をはじめ、モデル事業を行ったりと、さまざまな事例を増やしていくことは考えられます。実は勉強会でも「収穫量は?フランスやオランダではどういう収穫をしているのか?連作障害はあるのか?」といった具体的な質問が多く、厚生労働省よりも農林水産省の担当者が答弁していることが多いかもしれません。今後は法律のあり方に加えて、地方の在り方、農業としてのあり方を考えることが不可欠だと考えています。

繰り返しますが、行政や立法の在り方というものは各国それぞれが独自に考えるべきものだと考えています。一方で、他国事例のメリット・デメリットをきちんと検証しながら、参考にしていくのは重要だと思います。また、ルールはそれぞれですが、マーケットは世界に広がっています。マーケットに繋がっていくことは大切です。勉強会としては、これまでの日本の薬物行政を前提とした上で、伝統保持と新たな産業の振興に道を開くべく、努力しているという感じでしょうか。

* * *

率直な感想として、まずはご多忙の中、「大麻」という名前を掲げて活動している私たちの取材依頼を、与党自民党の国会議員という立場で受け止めてくれたこと、そしてデリケートなテーマに関して、率直に発言いただいたことに非常に感謝しています。数年前であれば、このような場が実現することは非常に困難だったのではないでしょうか。日本も少しづつ変わっていることが実感できた取材となりました。


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