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「幼少期の感動値を忘れないでほしい」長編アニメデビュー作の監督が語る『ペンギン・ハイウェイ』の見どころ|石田祐康(映画監督)
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  • 2018.08.17
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「幼少期の感動値を忘れないでほしい」長編アニメデビュー作の監督が語る『ペンギン・ハイウェイ』の見どころ|石田祐康(映画監督)

宮崎駿監督が『風立ちぬ』(13)で長編映画監督の引退を発表してから5年。夏休み興行を中心に展開されてきたスタジオジブリの新作が製作されなくなったことから、これまでも<ポスト・ジブリ>を巡るトピックスは尽きることがなかった。その紆余曲折を経て2017年には宮崎駿監督自身が引退を撤回。新作映画の制作に復帰することで、<ポスト・ジブリ>の議論は混迷に至っている。

このような“ジブリ作品の不在”という現状の中、2018年の夏休み興行において注目すべき長編アニメーション映画がある。それが、8月17日から公開される石田祐康監督の『ペンギン・ハイウェイ』だ。人気作家・森見登美彦の小説を映画化した本作が長編初監督となる石田監督は、京都精華大学在学中に自主映画として製作した短編アニメーション『フミコの告白』(09)で一躍注目を浴びた人物である。

好きな男子に告白したフミコがあえなくフラれてしまい、その悲しみから泣きながら丘を駆け下りてゆく、というだけの内容。わずか2分22秒の尺しかない『フミコの告白』は、想像を超えるフミコのアクションとスピード感に、多くの観客が当時度肝を抜かれた。そして、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞をはじめとする、国内外のアワードで受賞を果たしたという経歴を持っている。

現在は、2011年に設立されたスタジオコロリドに在籍。石田監督や、スタジオジブリ出身の新井陽次郎氏を中心に20代の若手クリエイターが集まり、デジタル作画アニメーションによる繊細かつ温かみのある映像表現を目指している。

今回は、そんな石田監督にインタビューを敢行。予想外の展開と感動で、今夏興行の台風の目とも期待される映画『ペンギン・ハイウェイ』についてお聞きした。

聞き手・構成・文:松崎健夫 写真:木原基行

石田祐康(いしだ・ひろやす)

映画監督

1988年生まれ、愛知県出身。愛知県立旭丘高等学校美術科に入学。在学中にアニメーション制作を始め、2年生の時に処女作『愛のあいさつ〜Greeting of love』を発表。京都精華大学マンガ学部アニメーション学科に進学し、2009年に発表した自主制作作品『フミコの告白』は圧倒的なクオリティで話題となり、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞など数々の賞を受賞。2011年に同大学の卒業制作として発表した『rain town』も第15回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞などを受賞し、2年連続の受賞となった。
2013年、劇場デビュー作となる『陽なたのアオシグレ』を発表。監督・脚本・作画を務めた本作は、シンプルなストーリーながら疾走感あふれる映像が話題となり、第17回文化庁メディア芸術祭にてアニメーション部門の審査員会推薦作品に選出された。2018年の『ペンギン・ハイウェイ』で劇場長編作品の監督デビューを飾る。

大学卒業後は、もっと修行を積むつもりでいた

―― 石田監督は、学生時代に『フミコの告白』が評価されたことで、卒業後は引く手数多だったのではないですか?

石田監督が初めて制作した『フミコの告白』。YouTubeでは8月17日時点で約490万回再生されている。

石田:確かに『フミコの告白』は良い評価を頂いたのですが、このままの手法でやっていこうとは思っていなくて、どこかで修行をしようと思っていました。それで、大学を卒業した後も研究生として半年以上は残って勉強していたんです。大学には杉井ギサブロー先生(※1)がいて、『グスコーブドリの伝記』(12)のお手伝いをしました。まさに修業期間でしたね。

ただ、前田庸生先生(※2)は「お前はもっと他でやった方がいい。そこで身につけたことを持って、また何十年後かに一緒にやればいいんだから」と言って下さったんです。

(※1)杉井ギサブロー:中心メンバーのひとりとして「鉄腕アトム」の演出を手掛け、「どろろ」や「タッチ」の演出、『銀河鉄道の夜』(85)の監督として知られる。

(※2)前田庸生:『グスコーブドリの伝説』には“アニメーション監督”のクレジットで参加。『ノエルの不思議な冒険』(83)や、テレビアニメ版「三丁目の夕日」の演出で知られる。

―― 先生の助言があったんですね。その中で、自身の所属先としてスタジオコロリドを選択した経緯を教えて下さい。

石田:ちょうどその時、できたばかりで社員もいなかったスタジオコロリドから「あなたのオリジナルで、好きな作品を作ってみないか?」と誘われて、第一号社員として思う存分やらせてもらうことになりました。タイミングが合致したという感じですね。

―― 自分をいちプレイヤーとして評価してもらうことと、会社立ち上げメンバーの一人としてビジネス面も担っていくことと、どちらを志向されたのでしょうか?

石田:ビジネス的なことは全然わからないので、ほとんど考えたことがないですね。漠然とですが、ただ「作れる場があればいい」という感じで、あまり後先考えないんです(笑)。

スタジオコロリド内の石田監督のデスク。気分に応じて立ったままでも作業ができるよう、可動式の机を導入した。

―― 石田監督が在籍しているスタジオコロリドの“コロリド”には、どのような意味があるのでしょうか?

石田:この言葉には「色彩に富む」とか「色彩が豊か」といった意味があります。

―― ちなみにアニメーションの現場を目指す若い学生たちに対して、「いま、こうしておけ」というアドバイスをするとすれば、どんなお話をされますか?

石田:アニメをやる前は美術系の高校に行っていたので、よくあるデッサンの勉強をやっていました。どうしても基礎からは逃げたくなってしまうものですが、基礎を軽んずると転ばされるような感じがありましたね。それと、僕がこの仕事をやっている理由のひとつは、子どもの頃に観たものへ対する感動値が高かったことにあるんです。

例えば、子供の頃に『天空の城ラピュタ』(86)が大好きで何度も観ていたのですが、その時間、感動は今も忘れられない。それが原動力にもなっている。その時々の「感動した気持ちを忘れないで欲しい」ということはありますね。技術力が足りなくても感動値が高いと、そのイメージだけは頭の中で再現できるんです。技術力があったとしても、感動値が低ければ作り上げるものに宿る感動値はなくなる。当初志していたものから本末転倒になっていく。逆に感動値だけ高く持っていて、再現する技術がなければ私的な妄想に終わる…先程言った基礎とこの両方を持っていないと続けられないんでしょうね。

スタジオの人たちに薦められ、森見登美彦作品と出会った。

© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

―― 森見登美彦さんの原作とは、どのように出会ったのでしょうか?

石田:森見先生の他の作品は学生時代からよく読んでいましたが、直接のきっかけとしては周囲の人に薦められたことが大きいですね。スタジオコロリドの人たちも「石田が映画化するのに向いているんじゃないか」と思っていたようです。ただ、まさか本当にやることになるとは思ってもみませんでした(笑)。

―― どのように話が進んでいったのでしょうか?

石田:実はオリジナルや他の原作も含め可能性を検討していたのですが、その中でも『ペンギン・ハイウェイ』に最も惹かれたんです。

ただ、同時に(映像化するのは)難しいとも思いました。原作を読むと判るのですが、とても情報量が多い。いろんなことが日記形式で書かれていて、酸いも甘いもあり、さらには奥深なSF要素もある。それを全部描ききれるかどうかという懸念がありました。

―― 劇団「ヨーロッパ企画」を主宰している上田誠さんが脚本を担当されていますが、森見さんとは『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』でも組んでいますよね。

石田:森見さんと上田さんは親交があって、森見さんは上田さんに大きな信頼を置いています。これまでの作品で実績がありますし、物腰がとても柔らかく、明晰に物事を考えておられる方でもある。かつ、森見さんの成分を自分の中に吸収して“森見さん節”を本人に代わって書くことができる。他にも多くのことを察してくださる。なので一緒にお仕事をしていてとてもやりやすかったです。

―― 石田監督は脚本にどの程度関わったのでしょうか?

石田:大枠から台詞の細かい部分まで、考えたことは忌憚なく全部お伝えしました。上田さんは京都にお住まいなのでメールでのやりとりと、定期的に東京に来ていただいて直接打ち合わせもしました。その時、ホワイトボードにユーモア溢れる図式を描きながら、構成の提案をされていたのが印象的でしたね。

「ノートの文字の大きさ」で主人公の気持ちを表現

―― 劇中、主人公のアオヤマ君が研究の詳細を記しているノートが登場します。そこでは“小学生が鉛筆で書いたような記述”によってページがめくられるという難易度の高い作画が成されています。

石田:アオヤマ君にとってノートが重要なアイテムであることははっきりわかっていました。もちろん、アニメーションの表現として大変な部類に入ることもわかっていました。

さらに脚本作業が進むうち、映画では原作の一人称視点によるモノローグを多用できないということがだんだんとわかってきたんですね。それなら、それを代弁する形で「ノートを使わずしてどうする」と考えたんです。アオヤマ君が考えることは大体ノートに書かれていくので。

もっと踏み込んで自分は、ノートの存在は『四畳半神話大系』の主人公“私”にとっての“四畳半の部屋”のようなもの、と仮定していました。アオヤマ君の使う方眼用紙も四畳半も、美しい正方形ですしね。

―― アオヤマ君は“お姉さん”に対する研究もノートに記していますよね。

石田:まず、アオヤマ君の性格だと、方眼用紙のマス目ひとつひとつにかっちりと文字をはめ込んで書いてゆくのが癖ではないかと想像しました。彼にとって世界を測る尺度が、このマス目なんです。『四畳半』の“私”の尺度が四畳半であったように。アオヤマ君は見聞きしたことをマス目にはめ込み、分節することで、初めて咀嚼したり吸収したりできる。

一方で理解できない、あるいはこれから経験したり知らなくてはならないような物事もある。そのマス目に収まらないようなものの代表として“お姉さん”という存在があるんです。

―― “お姉さん”の部屋でアオヤマ君が彼女の顔を間近で見た時「その感情をうまく描くことができなかった」というくだりがありますよね。

石田:だからアオヤマ君はその記述を(自分の世界である)マス目に収めることができないんです。ノートに書いてあるその時の驚きやうれしさに関しては、あえてマス目の中に収まらないように描いています。よく見ると、いつものアオヤマ君らしからぬ文字の大きさと配列になっているんですよ。

―― アオヤマ君の持つ理論的な思考よりも感情が勝ったと。

石田:勝ったからはみ出しちゃったんですね(笑)。そういうアオヤマ君の気持ちを象徴するのがノートなんです。上田さんも明確に「この作品の柱はアオヤマ君がお姉さんに対して抱く恋慕の気持ち」と仰っていました。それを経糸にしながら、クラスメイトのハマモトさんとの三角関係や友情を緯糸になるような図式を、上田さんがホワイトボードに描いて下さったんです。

森見さんが重要視したと思えるものは逃さずなるべく拾うようにして、原作の豊穣なエピソードを取捨選択しながら、構成をなるべくシンプルにしていきました。

蒼井優さんの声には“生感”がある。

『ペンギン・ハイウェイ』の主人公であるアオヤマ君。郊外の街に住む小学四年生で、頭がよく、探究心旺盛。少し大人びていて、生意気なところもある。毎日発見したことをノートに記録し研究しており、“お姉さん”と“ペンギン”についても調べている。
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

―― アオヤマ君の声を演じた北香那さんはもともと女優で、声優としては初の作品となりますが、起用した理由を教えて下さい。

石田:声優さんや子役など色んな選択肢がありましたが、頭脳明晰な少年ではあるけれど「いざ行動してしゃべってみるとやっぱり子供だ!」というツッコミが生じるようなウブさが欲しかったんですね。そういう意味では若手のフレッシュな女優さんの方がいいのではと考えました。

そこでオーディションをしたところ、北さんは僕が求めるそれらの要素にプラスして“真っ直ぐな少年像”を体現できていた。アオヤマ君の“変さ”というのは、ひねくれている“変”ではなくて、ただただ真っ直ぐなだけなんです。真っ直ぐ突き進んでゆく到達点が同級生より先を行っているから、その差分だけ同級生には“変”に見える。その真っ直ぐさを表現した北さんの演技や声質が良かったです。

―― お姉さんの声を演じた蒼井優さんについてはどうですか?

アオヤマ君が通う歯科医院に勤めるお姉さん。無邪気な明るい一面と、ミステリアスな雰囲気を併せ持つ女性。アオヤマ君のチェスの先生でもある。突如現れたペンギンと関係があるらしい。
© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

石田:お姉さん像に対しても色んな意見がありました。例えば、高原で白いワンピースと麦わら帽子のセットで、透き通るような声で笑ってるようなキャラのイメージだったり、逆に『四畳半』に出てくる羽貫さんのような、若干ヤンキー寄りのイメージだったり。はたまたボブカットのサブカルなイメージだったり。なにせ役名が“お姉さん”です(笑)。象徴的な扱いなんですね。だから、人それぞれの“憧れ”によって姿形が変わるところがあるんです。

蒼井優さんの声には“生感”があるというか、存在感が感じられる。例えば、自分を可愛がってくれる近所のお姉さんのような身近さが欲しかった。蒼井さんの声はちょっと低めでハスキーで飾らない感じがあり、その自然体な感じが“生感”につながって、ナゾのお姉さんの存在感を確かなものにしてくれくれたし、そしてあとは単純に自分の中で、いち女性の声としてツボってしまったんです(笑)。

地理的な高低差を描くことによって生まれる“わくわく感”

―― 石田監督は『フミコの告白』や『陽なたのアオシグレ』といった過去の作品でも、高低差を利用した上下運動を描いています。作品の中で地理的な高低差を描くことでどのような効果が生まれるのでしょうか?

石田:高低差があると何かとドラマが生まれそうな気がしています。さまざまな使い方をしていますが、まず給水塔をてっぺんにして丘の上に広がるのはアオヤマ君が住む新興住宅地。丘の下には古い町が広がっているという区分にしています。作中に出てくる「プロジェクト・アマゾン」を追っていくと分かると思いますが、この対比でアオヤマ君が住む丘の上の街のきらびやかさを強調していますし、アオヤマ君が目にする世界の美しさやコントラストにも貢献したく。

© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

© 2018 森見登美彦・KADOKAWA/「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会

―― 一方で、ポスターのデザインにもなっているペンギンの大群が押し寄せる場面。『陽なたのアオシグレ』の中でも、たくさんの鳥たちが駆け抜けてゆくという同じような描写がありました。

石田:作画泣かせですよね(笑)。原作を読んで最初に描いたイメージボードの中に走るアイデアはなかったんです。でも映画には何かが必要だと思い至り、それならペンギンが歩いているだけではなく、走ったり、飛んだり、あるいは、街並がヘンテコなことになるだとか、先ほど話した上下の高低差を全方位に活かした空間的な遊びが思い浮かんだんです。

―― 作画に関しては、アニメーションの現場がデジタル化された恩恵というのもあるのでしょうか?

石田:紙に描くというこの業界の伝統的な手法に対して、自分の経験値はまだ浅い。一方で、学生の頃から使い慣れているデジタルツールなら、自分の手足にできている感覚があるんです。それが最大限に活かせた場面のひとつです。

実はその場面を主に描いてくれたのが、『フミコの告白』の時にアニメーターとして一緒にやっていた川野達朗君という大学時代の後輩なんです。彼が何年かぶりに「デジタルのチームを作りたい」と言って会社にやって来て、それからずっと一緒にやっているのですが、彼の力を借りられたところも大きいですね。

―― 仲間と力を合わせるという制作背景が、奇しくもこの映画の物語とも重なるのは面白いですね。

石田:意図したことではもちろんないのですが、それはありますね。クライマックスのワクワク感というのは、僕が子どもの時に映画館で観た作品の体験や記憶が結局は基になっていて、そういう“感動値の高い”体験を今度はお客さんに持ち帰って欲しいなという想いはありました。

ポスターにも描かれている、僕たちが「ペンギンパレード」と呼んでいるお祭り場面は、自分が映画でワクワクする光景、映画というのはそういうものを観るために行くものだと、僕は思っています。

今夏、細田守監督率いるスタジオ地図の『未来のミライ』(18)や、『君の名は』(16)の新海誠監督に影響を受けた日本・中国の若手クリエイターによる『詩季織々』(18)など、<ポスト・ジブリ>を狙ったアニメーション作品が続々と公開されている。さらにはピクサーの『インクレディブル・ファミリー』(18)を交えた夏休み興行の行末は、これまでにない混戦が予想される。

そんな中で『ペンギン・ハイウェイ』は、少年の成長譚、躍動感溢れるアクションやモブ(群衆)シーンなど、宮崎駿監督作品が得意としてきた要素が詰まっている。長編アニメーション映画としては、これまで興行の実績がない石田祐康監督だが、そういう意味でもジブリ作品を子供の頃から観て来た世代による作品として、<ポスト・ジブリ>に最も近い作品なのではないかと感じさせるのである。


映画『ペンギン・ハイウェイ』公式サイト

スタジオコロリド

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