LIFE STYLE | 2022/04/18

不平等な食料配給、物流がストップし工場停止…上海「超厳重ロックダウン」の窮状と影響【連載】中国ウォッチ・ナウ!(5)

上海の各地区に届けられた配給食材(一例)
ゼロコロナ政策が続いている中国において、深セン市に続き2000万人都市の上海...

SHARE

  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • line

上海の各地区に届けられた配給食材(一例)

ゼロコロナ政策が続いている中国において、深セン市に続き2000万人都市の上海も今年3月末からロックダウンに突入したことは大きなニュースとなり物議を醸している。一方でこの封鎖により上海を支える社会の一面や、この都市が日本や世界にとっていかに大事な存在か再認識させられた人も多い。

上海でのロックダウンに関して、現地在住の日本人や親族がいる人などからも「食料がまったく調達できず配給も届かない」といった窮状を訴えるSNS投稿も相次いでいる。今回は知人・友人のつてを辿って現地在住の人への取材を行い、得られた現地の声を紹介したい。

荒木大地

Shenzhen Fan Founder

深セン最大級の日本人情報サイト深セン最大級の日本人情報サイト「深セン ファン」(www.shenzhen-fan.com)管理人。 Webエンジニア兼ライター、また講師として中国・テック関係の情報を発信中。合計3000を超えるメンバーを抱える中国各地の渡航情報共有グループチャットの運営も行っている。
Twitter : @daichiaraki

多種多様な配給食材

小区に届けられた大量の食材(左)、医療物資を運ぶドローン(右)

今回のロックダウンをきっかけに、至るところでそれぞれの小区に住んでいる人たちのグループチャットが作られるようになった。日本人の多く住む場所では日本人同士のグループチャットも誕生し、その中で配給や「団購」と呼ばれる食物・生活用品の団体購入に関する情報共有が行われている。

ロックダウン中に配給される食材は地域によって内容も量もかなり異なるようで、周辺都市から届けられた支援物資を配給に割り当てるところもある。筆者がSNSで配給食材の写真を募ったところ、米・油・ナス・人参・大根・キャベツ・卵など基本的な食材の他にも、太刀魚や茎レタス、中にはアヒルや鶏がまるごと送られてきたり、スパムの缶詰やサラミ、ステーキ肉が送られてたりするエリアもあった。

記事のトップ画像として掲載した写真の通り、配給の内容や量は地区によって千差万別で、これが1人分ではなく「一部屋分」として送られるので平等な配分にもなっていない。週1回程度しか届かない場所も多く、10日に1回程度、そして一切配給が来ていないエリアも存在する。

都心部の富裕層エリア(日本人はこのエリアに住んでいることが多い)は食材の中身もステーキ肉やスパムなどがある一方、郊外の貧困層エリアは中身も貧相だったり新鮮とは言えない野菜だったり、そもそも配給がなかったりと、かなりの差があるようにも見受けられるし、基本的には配給だけで食事をまかなうのは難しい。ロックダウンが解除されても陽性者が出れば一帯は封鎖延長となるため先が見えず、時には食事の回数を減らし、残された食材を大切に使いながらネットスーパーやコミュニティの団購を駆使して必死で食材を手に入れなければならない。

「団購」は、例えば牛乳1リットルを最低300本から注文してくれれば売りますよ、といった具合に商品を大量購入しないと買えないシステムのため、小区内の住人数百人が入っているグループチャット内で購入希望者を募って商品を注文する。商品が届くと仕分けを行い注文者に分配していく。富裕層の多いエリアだとセレブな食品が団購のリストで回ってくるなど個性も出ているようだ。

上海市内在住の日本人主婦はこのように語る。

「団購は、ネットで大量購入のセットを見つけた人がグループチャットに情報を共有するため、いつどのような品がリストに出てくるか全く分かりません。人気の品はすぐに枠が埋まってしまうので、最近は朝から晩まで時間があればスマホの画面を見張っています」

「私が入っているグループチャットには350人ほどのメンバーがいますが、卵や牛乳、ヨーグルト、肉やパン、餃子・肉まんセットなどは特に人気で、団購が始まると10分以内でなくなってしまいます。文字通り一瞬で終わることもあります」

夜中や早朝でも急に団購が始まるため、買い逃してしまわないようにいつも気が気でないという。

比較的経済的に余裕のある上海人や外国人はまだ良い方で、本当に大変なのは地方から上海に出稼ぎに来ている人たちだ。ロックダウン前にカフェ・飲食店・工場などで働きながらギリギリの生活をしていた若者たちは仕事ができず収入が断たれ、家族への仕送りもできなくなる。このような実態も浮き彫りになってしまった。

中国最大のSNS「微博」やコミュニケーションツール「微信」、またショート動画「抖音」などでは「このままでは餓死してしまう」といった窮状を訴える投稿が相次ぎ、その内容は国内外の大手メディアでも連日報じられている。SNSを観察するとネガティブな内容の投稿は運営側によって削除されるのが常だが、人々は削除される前に拡散しようとし、抑え込むことができなくなっているようだ。普段は政府の方針に協力的な住民でも長引くロックダウンの影響で我慢の限界を超え、警察などと衝突している様子もうかがえる。

一方で、デリバリー配達員は大忙し。店舗やネットスーパーからの配達も行われているがまだ数が少なく、需給バランスが崩れているため配送手数料が跳ね上がっている。手数料は時刻や発送場所により変動するが、一度の配送で日本円にして数千円かかることはざらにあり、毎日朝から晩まで稼働する配達員は荒稼ぎ。ある配達員は1日で一万元(約20万円)以上稼いだと話題になっており、ある意味「上海ドリーム」を掴んでいるが、彼らもコロナで一度陽性になってしまったら仕事ができなくなるため体を張っていると言える。

各家庭には漢方薬や抗原検査キットも配られている

次ページ:約3万8000人の日本人が居住する上海市のロックダウン

next