約3万8000人の日本人が居住する上海市のロックダウン
今年3月1日から4月17日までの中国本土の新規感染者数と上海市の新規感染者数
巨大都市・上海市の2020年末時点の人口は2487万人。東京都の人口の2倍近くとなる。
外務省によると、2021年時点の国外在留邦人は中国が米国に次ぐ2位の10万7715人で、うち上海市は3万7968人。コロナ前は4万人を超えていたが現在はビザ発給の制限もあり減少している。
それでもJETROによると日系企業の都市別進出拠点数はぶっちぎりでナンバーワン(リンク先PDF)であり、上海市と日本の貿易総額は年間550億ドルを超えるため、依然として日本経済にとって最重要都市の一つである。
海外における日系企業進出数(上)、在留邦人数(下)
今まではその特性上、経済へのダメージを考えてロックダウンを行わない方針を示していた上海市だったが、3月13日を境に感染者がじわじわと増え始める。当時は1日あたり100〜200人ほどで推移していたが、24日に1600人を超えると、25日は2200人超、26日2600人超、27日3500人と急激に増加していったため、3月28日に市内を東西2つに分割したロックダウン施策を突如発表、即日施行となった。
期間中も1日1000人ほどのペースで新規感染者は増加し続け、ロックダウン最終日としていた4月4日の感染者数はなんと1万3354人。当初は東側(浦東)を4日間封鎖、続いて4月1日より西側(浦西)を4日間封鎖という2段階方式で始まったが、一万人の大台を超えてしまい結局上海市は一部を除きロックダウンを延長。期限を決めない延長通達で終わりが見えなくなってしまったため不安を感じる住民が増えていく。
深セン市で3月14日から20日にかけて実施されたロックダウンでは、一週間のうちに一部屋あたり3枚ほどの「外出券」が配られ、数日に一度家族の代表者が外に出てスーパーなどで買い出しができるという方式がほとんどのエリアで取られていたが、今回の上海におけるロックダウンはそれよりはるかに厳しいものとなっている。
中国ではこの時期「清明節」という先祖の墓参りに出かける伝統行事があるが、人の流れを抑えるため控えるよう通達があり、代わりにアプリを用いた「オンライン墓参り」が奨励されるといった動きも見られた。
4月9日、当局は今後のPCR検査結果に基づいて段階的に行動制限を緩めていくと発表。陽性者の出ている地域は引き続き封鎖管理を行い、一方で一定期間陽性者がいない地域では外出も可能となる。しかし4月7日から14日まで市内の新規感染者は1日2万人を超えたままで、5月以降も封鎖が続くエリアは多い。
ロックダウン下で奔走する各国領事館
道路に積まれた配給物資(普育東路 2022/3/31撮影)
海外でトラブルが起きたときに助けとなるのが、自国民の保護を目的とする領事館。ドイツ人やフランス人、ロシア人などのコミュニティもそれぞれの領事館に働きかけて陳情を出したそうだ。ヨーロッパの人々は人権意識が強く、今回のロックダウン措置には反発の声が多い。中には「チーズとワインを配給してくれ」「お手伝いさんが来られないからなんとかしてくれ」「帰国の飛行機を手配してくれ」という声も聞こえてくる。米国政府は上海の領事館職員などに現地からの退避命令を出したが、今後上海在住の外国人はさらに減少することが考えられる。
在上海日本国総領事館(以下、上海領事館)は上海市、江蘇省、浙江省、安徽省、江西省を管轄エリアとしており、エリア内には実に5万人を超える在留邦人が住んでいる。ロックダウン期間中は上海領事館のスタッフも在宅勤務で思うように動けない中24時間の電話対応を行い、特にロックダウンで日本に帰国できないという相談や、緊急時の医療支援、食料や生活用品の不足といった相談を受けている。
中国の都市部は「小区」と呼ばれるマンション・集合住宅で成り立っていることが多く、最小の行政単位(コミュニティ)を「社区」と呼ぶ。今回のロックダウンではそのコミュニティである社区とそれを運営する居民委員会がフル稼働している。組織階層としてはその上に「街道」そして「区」と続き、最後が「市」となるのだが、食料の不足といった問題の解決にはこの居民委員会との意思疎通が重要。上海領事館は対象の日本人コミュニティが所属する居民委員会にコンタクトを取り、時には上海市政府にも働きかけを行っているようだ。
上海領事館公式ホームページには、上述の取組に関する詳細に加え、封鎖管理下で日本に帰国するための方法、日本語対応のオンライン医療相談案内などをロックダウン以降次々と公開している。約3万8000人の在留邦人が必要とする物資を個別に届けられれば理想的だが、人手も物資も足りない現状では不可能なため領事館側でも苦慮している様子がうかがえる。ホームページやホットライン、またコミュニティなどを駆使して声を上げ続けるのがこの状況における現実解なのかもしれない。
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