CULTURE | 2022/04/09

なぜ「松本人志」は別格なのか。若返りを図るテレビ業界の中で冠番組を量産できる理由【連載】テレビの窓から(14)

イラスト:IKUMA

木村隆志
コラムニスト、コンサルタント、テレビ解説者
「忖度なし」のスタンスで各媒体に毎...

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イラスト:IKUMA

木村隆志

コラムニスト、コンサルタント、テレビ解説者

「忖度なし」のスタンスで各媒体に毎月30本超のコラムを寄稿するほか、テレビ・ウェブ・雑誌などにメディア出演し、制作現場への情報提供もしている。人間関係コンサルタントや著名人専門のインタビュアーとしても活動中。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』『話しかけなくていい!会話術』など。

モノマネ芸人JPがブレイクした意味

コロナ禍に見舞われてからの約2年間、松本人志がさらなる無双状態に入っている。

まず2020年に、『審査員長・松本人志』(TBS系)、『まっちゃんねる』(フジテレビ系)、『まつもtoなかい~マッチングな夜~』(フジテレビ系)がスタート。いずれも冠特番であり、現在までにそれぞれ3回、2回、2回放送されている。

2021年に入ると、新特番の『キングオブコントの会』(TBS系)で20年ぶりの新作コントを披露し、今月9日には第2弾も放送。続いて『FNSラフ&ミュージック~歌と笑いの祭典~』(フジテレビ系)でも事実上のMCである「キャプテン」という役割を務めた。さらにレギュラー番組でも、新たに冠番組の『人志松本の酒のツマミになる話』(フジテレビ系)がスタート。

もちろん『ワイドナショー』(フジテレビ系)、『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)、『IPPONグランプリ』(フジテレビ系)、『M-1グランプリ』(朝日放送・テレビ朝日系)などや、ダウンタウンとしてのレギュラー番組も健在であり、「松本が出演しているだけでネットニュースが量産される」という状態が続いている。

現在58歳にしてさらなる無双状態に突入していることもあって、今年2月に新型コロナウイルスに感染して2週間程度休んだだけで、SNSとネットニュースは大騒ぎ。代役のモノマネ芸人・JPがブレイクしたことも、いかに現在の松本が無双状態であるかを物語っている。

松本のオチを楽しみにするスタッフ

2020年春の視聴率調査リニューアル以降、民放各局はスポンサー受けのいい10~40代をメインターゲットに定めた番組制作にシフト。まさに「一変」というほどの変わりようなのだが、ギャラの安さも含めて出演者の若返りが進み、各局が“第7世代”の若手芸人を重用した。

現在はバラエティへの対応力で上回る千鳥、かまいたち、チョコレートプラネットらアラフォー世代が中心となっているが、だからこそ彼らより20歳近く年上の松本が出演数を増やしたことに驚かされる。

その理由は何なのか。各局のテレビマンと話をしていると必ず話題に挙がるのが、ひと言でオチをつける松本ならではのワードセンスだ。テレビマンたちは1分ごとに算出される毎分視聴率というデータを重視し、グラフの波形を下げないために編集で小刻みに笑いを詰め込んでいる。

その際、頼りになるのが、ひと言でオチをつけて次の話題に移行できるコメント力の高いタレント。テレビマンたちが「大喜利にたとえると、そのほとんどが正解」「すべての発言が『IPPON』に近い」などと評する松本はその最高峰と言える。収録現場を一度でも見たことがある人なら、収録現場の共演者やスタッフが松本の放つオチに向けて動き、その上で松本がしっかり期待に応えていることがわかったはずだ。

しかも松本の凄さは自ら「イマイチかもしれない」と思ったときは、別角度のコメントを続けるなど、手数を打てること。「撮れ高が多すぎてどれを選ぶか迷うことばかりで、足りなくて困ることはない」という存在であり、だから「自分が手がけた企画とVTRに松本がオチをつけることで番組の質を上げてほしい」と考えているテレビマンは多い。さらに言えば、テレビマン自身、「松本がどんなオチをつけてくれるのか楽しみにしている」ようなのだ。

そんな見方はテレビマンだけではなく芸人たちも同じ。事実、3月2日の『水曜日のダウンタウン』(TBS系)で放送された「芸人が今までで一番スゴいと思ったコメント調査」で、さらば青春の光・森田哲矢は、松本の放った「最後の餃子か!」というアドリブツッコミをセレクト。そのクオリティとスピードを称えつつ、「変な空気になっても、あの人のひと言でバンッってオチますから。平場バリ強いやん!」と熱弁していた。

事前に台本を練り上げる漫才やコントと比べても遜色のないほどのクオリティを持つコメント力、またそれを可能にするアドリブ力は、コロナ禍に入ってますます冴えわたっている。還暦が間近に迫ってきた今なお、進化しているのかもしれない。

新たな冠特番は実験的なものばかり

一方、視聴者にとっての松本人志とはどんな存在となっているのか。58歳というベテランでありながら10~20代の若年層に対する強さは特筆モノであり、むしろ彼らにとって唯一無二の大御所芸人となっている。

驚かされるのは、若年層の視聴者ほど松本人志から威圧感を感じ取っていないこと。実際のところ収録現場でも、楽屋の周辺でも、移動のときですら、松本の放つ威圧感は凄まじいものがあり、近づいてはいけないようなムードすら感じてしまう。しかし、若年層の視聴者は松本のことを「頭の回転が速いおじさん芸人」と見ていて、ご意見番のようなポジションであるにもかかわらず、パワハラのようなものを感じていないらしい。

では、なぜ若年層の視聴者は松本から威圧感を抱かないのか。その理由を知人の大学生グループ8人に聞いてみたところ、「若手に自由を与えている印象」「後輩芸人に愛のあるコメントが多い」「テレビ局に忖度するより後輩芸人を守っているように見える」などの声が挙がった。つまり、後輩思いである理想の上司に見えているのだろう。

芸人やバラエティの世界で絶対的な存在でありながら、そのパワーを誇示するようなコメントはしない。そんな好印象は、バラエティのシンボリックな存在がほしい制作サイドにとっても都合がよく、「松本人志の冠番組を作りたい」という発想につながっていく。

冒頭に挙げた新特番の数々は、実験的な内容を含むものばかりであり、「松本さんの名前を借りることでバラエティの可能性を広げていきたい」というテレビマンの熱い思いが感じられる。とかく「面白くなくなった」と言われがちなバラエティの再浮上を狙う上で、松本人志はますます欠かせない存在になっているということだろう。