EVENT | 2022/02/09

大麻取締法の改正で光が当たる「古くて新しい農作物」。地方創生の可能性を探りたい【連載】大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記(1)

大麻博物館の外観
はじめまして。この度、連載を始めさせていただくこととなった大麻博物館です。
自己紹介などで「大麻博...

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大麻博物館の外観

はじめまして。この度、連載を始めさせていただくこととなった大麻博物館です。

自己紹介などで「大麻博物館をやっています」と言うと、これまで何度も何度も、それこそ数えきれないほど「え、大麻!?大丈夫?」と言われてきました。現在の日本では「違法な薬物」「ダメ。ゼッタイ。」と忌避感ばかりが先行する大麻ですが、大麻はほんの70年ほど前まで、日本人の衣食住をさまざまな形で支え、私たちのアイデンティティとも深く関係する「農作物」です。厚生労働省がHPに掲載している資料「大麻栽培者数の推移」を見ても、大麻の繊維「精麻」は衣類や漁具などに利用され、昭和29年(1954年)の時点では約3万7000人の栽培者がいたと記されています。

化学繊維の台頭による需要の減少などにより、その数は減少しましたが、栃木県などでは現在も大麻取扱者免許を取得した大麻農家が、神事用途・伝統文化用途の大麻の栽培を続けています。私たちは主に、そういった多くの日本人が忘れ去った歴史的な事実を伝える施設です。

大麻博物館

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日本人の衣食住を支えてきた「農作物としての大麻」に関する私設の小さな博物館。2001年栃木県那須に開館し、2020年一般社団法人化。資料や遺物の収集、様々な形での情報発信を行うほか、各地で講演、麻糸産み後継者養成講座などのワークショップを開催している。著作に「日本人のための大麻の教科書」(イーストプレス)「大麻という農作物 日本人の営みを支えてきた植物とその危機」「麻の葉模様 なぜ、このデザインは、八〇〇年もの間、日本人の感性に訴え続けているのか?」。日本民俗学会員。
https://twitter.com/taimahak
https://www.facebook.com/taimamuseum/
https://www.instagram.com/taima_cannabis_museum

使用罪創設だけじゃない?実は大きな大麻取締法の「改正」部分

近年、海外では大麻に関する状況が大きく変化しています。北米を中心に、マリファナ合法化、医療用大麻の解禁、ヘンプ(向精神作用がほとんどない産業用大麻)製品の研究・開発など「グリーンラッシュ」と呼ばれるほどの大きな潮流になっています。企業や投資家の注目を集め、すでに2兆円を越える市場となり、約24万人のフルタイムの雇用や莫大な税収を生み出しているのです。

一見、この世界の潮流と全く無縁であるかのように思える日本ですが、実はそうではありません。2021年、厚生労働省により「大麻等の薬物対策のあり方検討会」が計8回に渡り開催され、すでに「とりまとめ」も行われました。1948年に制定されて以来、70年以上の時を経て大麻取締法は初めて大幅に改正されるのです。 改正される内容は使用罪の創設(現行法は大麻の所持と栽培、譲渡などを禁じている)という、この潮流と逆行したものも含まれるものの、注目すべき変更点がいくつかあります。

1点目は「カンナビノイド医薬品の解禁」。大麻に含まれる成分である「カンナビノイド」から製造される医薬品はG7諸国において、日本のみ承認されていませんでした。今回の見直しにより、難治性てんかん薬「エピディオレックス」をはじめとしたカンナビノイド医薬品の施用や製造、および治験の実施までもが可能となりそうです。

2点目は「日本の麻文化を守る」と明言とした点。厚生労働省はこれまで、薬用型の大麻と繊維型の大麻を一括りにした啓蒙を行い、新規就農のハードルを高くし、既存の農家には不合理とも思える管理体制を求めてきました。しかし、「栽培に対する合理的ではない通知の見直しや指導の弾力化を図ることが適当である。また、現在、都道府県ごとに策定している大麻取扱者の免許基準についても、 全国で統一的な見解を共有することが適当である」とし、2021年9月、各都道府県に大麻栽培者に関する過剰な規制の見直しや規制緩和を通達しました 。

そして、3点目は「部位規制から成分規制への移行」。現在の植物の部位による規制(成熟した茎と種子は合法、花と葉といったその他の部分は違法)から、向精神作用をもたらす成分「THC」の有無による規制への移行が検討されています。しかし、植物から特定の成分を文字通りゼロにするというのは現実的な話ではありません。

例えば、現在も栃木県で栽培されており、「無毒大麻」として知られる「とちぎしろ」という品種もTHCの含有が厳密にはゼロではありません。行政の検査によれば、0.24%という値でもゼロとみなしています。海外では、大麻に含まれる THC 濃度が一定基準以下の品種(欧州、カナダ、米国、中国では 0.3%以下、オーストラリア、スイス、タイは 1.0%以下)をヘンプ(産業用大麻)と定義しています。

成分規制への移行に伴い、明確な基準が設置されれば、それはイコール、日本における産業用大麻の定義を設けるという一大転換になると言えます。改正内容について、詳しくは私たちが去年寄稿した記事「日本の「大麻政策」がここへきて激変中…来年の春から始まる「これだけの変化」」もご覧ください。

法改正のスケジュールは、厚労省が新型コロナ対応などに追われており、当初より遅れていると聞きますが、日本の大麻産業がようやく始動できるのでは、というほどの大きな変更です。まずはこの事実を知って頂きたいと思います。

「大麻で町おこし」を本気で考えています

前置きが長くなりました。私たちは、ここまで述べてきたような海外の急速な変化や大麻取締法の改正を受け、あるプロジェクトをスタートしたいと考えています。それは「大麻で町おこし」を行うというものです。突飛に聞こえるでしょうが、大真面目です。「大麻を活用する」となると、現状ではどうしてもアンダーグラウンドな、あるいはサブカルチャー的なイメージも抱かれてしまいがちですが、そうしたコミュニティに向けたものではなく、地域と向き合ったプロジェクトにしたい。

栃木県は何代も続く大麻農家が残る全国一の大麻の生産地です。現在は高齢化や後継者不足などにも悩まされてはいますが、大正時代には主力産業として県をあげて調査し、品種改良などもどんどん進めていました。2020年の都道府県魅力度ランキングでは、残念ながら最下位となってしまった我らが栃木県を、大麻で盛り上げられないものか。

具体的にはごく小さな規模かもしれませんが、栃木県内で農地を探しており(ご協力いただける方はぜひ大麻博物館までご連絡ください)、大麻取扱者免許を取得した上で、まず神事用途・伝統文化用途の大麻の栽培を行いたいと考えています。この伝統を次の世代にもつなぎたい。同時に、地域や行政などの理解を得ながら、現在は行われていない新たな試みにもチャレンジしたいと思います。

例えば、種の利用・販売。大麻の種と聞くと驚かれる方もいると思いますが、七味唐辛子の中にも入っている「麻の実」のことで、近年はスーパーフードの一つとして注目を集めています。

また、ヘンプ製品の研究・開発。ヘンプはサステイナブルな社会づくりが求められる中、環境境負荷の少ない生物資源として注目されており、繊維としてはもちろん住宅建材などの工業製品原料などに利用されています。著名な企業をあげると、繊維としてはリーバイスやパタゴニア、化粧品としてはbodyshopが熱心にヘンプ製品の研究開発・販売しており、それらの商品はもちろん日本でも流通しています。しかし、製品や原料を海外からの輸入に頼っているのです。ここをなんとかしたい。

そしてCBD。CBDとは「カンナビジオール」の略称で、大麻に含まれる成分の一つです。向精神作用がほとんどなく、近年では日本でも100社以上が参入するほどの人気となり、伊勢丹やドンキホーテといった大手小売でも販売されています。こちらもヘンプ製品と同様に、製品や原料を海外からの輸入に頼っていますが、初の国産CBDにも取り組みたい。

あるいはグリーンツーリズム。農山漁村に滞在し、農漁業体験を楽しみ、地域の人々との交流を図るグリーンツーリズムは日本でも徐々に普及しています。大麻農業をテーマにすれば、当然、注目を集めることでしょう。

これらは現在、主に法律の「運用」が理由で制限されています。しかし、法律が改正され地域・行政との丁寧な対話を経ることで、決して実現不可能ではないと私たちは考えています。大麻という「古くて新しい農作物」による地方創生モデルを構築し、さらに産官学連携などにも取り組み、栃木から日本社会へこのモデルを訴求していきたい。そして「大麻」という二文字にどうしてもつきまとう「忌避感」を少しでも軽減させたいと思っています。

確かに、現時点では不確定なことは多いです。大枠は示されているものの、大麻取締法がいつ、どのように変わるか。大麻取扱者免許は本当に取得できるか。法律を運用していく上での弾力性はどの程度か。地域や行政などの理解は得られるのか。当然、多くのハードルがあり、プロジェクトが何事もなくスムーズに進むことはないでしょうが、チャレンジする価値はあると考えます。この連載を通じて、私たちが試行錯誤する様子などをお伝えできれば幸いです。


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