EVENT | 2022/01/19

創業2年で約10億円を調達する自動車整備のスタートアップ企業「Seibii」が目指す自動車アフターマーケットの変革

文:赤井大祐(FINDERS編集部)
毎週だいたい1社ずつ、気になるスタートアップ企業や、そのサービスをザクッと紹介し...

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文:赤井大祐(FINDERS編集部)

毎週だいたい1社ずつ、気になるスタートアップ企業や、そのサービスをザクッと紹介していく「スタートアップ・ディグ」。第12回は、自動車の出張修理、整備、パーツ取り付けサービス「Seibii (セイビー)」の開発・運営を行う株式会社Seibiiを紹介する。

Seibii inc.
創業 2019年1月
調達総額 約10億円

高齢化する自動車?

今まさに大変革期にあると言われる自動車産業。テスラをはじめとするEVへの注目によって日本のお家芸が窮地に立たされたかと思うと、トヨタ自動車は2030年までに350万台のEV販売を目指すと、昨年末に16種もの新モデルを同時発表。業界の話題をさらった。

他にも変革の中心となるキーワードの頭文字を取る「CASE(コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)」や、ITを活用することで移動そのものをサービスとしてパッケージングする「MaaS(Mobility as a Service)」といった言葉の空中戦が繰り広げられる中で、佐川悠氏、千村真希氏らによってスタートしたSeibiiが目をつけたのは、自動車のメンテナンス市場だ。

まずは日本の自動車業界に起きている変化について、Seibiiが公開する資料から抜粋しよう。自動車検査登録情報協会によると、大きな傾向として「平均車齢(新車登録からの使用年数)の上昇」があり、令和2年3月末時点で、26年連続で増加しているという。それだけ長く乗れる自動車が増えていることは、個人の金銭的な負担や、地球規模で見た環境への負荷を考えると決して悪いことではないだろう。

しかし一方で問題として立ち上がるのが、整備士人口の減少、そして高齢化だ。国土交通省が整備工場に行ったアンケートによると、およそ半数の工場が自動車整備士が「不足」もしくは「やや不足」していると回答している。また平成15年度時点で39.7歳だった整備士の平均年齢は、平成30年度には45.3歳まで上昇。整備士を目指す若者の減少を示した。

さらに近年のEVなどの普及や車種の増加によって、整備技術自体が高度化。自動車の整備・修理の需要は(直接的な相関関係は示されていないものの)平均車齢の上昇と共に増加するウェブにおける検索数から見て取れるにも関わらず、以前よりも整備・修理のハードルが上がっているのだ。

「デジタル化」ではない「DX」

これらの問題に加え、「自動車の整備・修理はやたらと時間もかかるし工賃も不透明」といった利用者の不満。「営業都合のノルマが課せられ、低賃金で、顧客からの評価が見えない」といった整備業界が抱える課題に対して、セイビーは登録制の整備士派遣とオンラインのシステムを用いて取り組んでいる。

Seibiiのチーフメカニック杉村朋大氏 Seibiiマガジンより

事前の相談はLINEを通じて整備士と直接やり取り。決済もウェブ上。必要部品等のリサーチ、発注及び支払い、アフターサポートといった事務的な作業はセイビー内にて引き受けることで、整備士は利用者へのヒアリングと実作業に集中することができる。利用者は自宅やオフィスでいつもどおり過ごしながら、作業が終わるのを待てば良い。

レビューシステムもセイビーに対するものと整備士に対するものとで分けられており、整備士が自らの評価を確認することができる。また工賃を時給換算3000円以上を保証、と業界内では比較的高い“ディーラー整備士以上”を約束している点も注目すべきだろう。

「Seibii for Mechanic」より

2021年7月時点では、対応メニュー数を50以上に拡充、対応エリアを40都道府県へ拡大、セイビーで活躍する整備士も200名を超える体制となり、作業実施台数は累計1万台を達成したという。

日本の実質賃金が年々下降の一途をたどる一方で、都市部以外の地域では自動車は生活必需品であることに変わりはない。購入費や維持費も決して安くはなく、場合によっては生活に支障をきたす可能性もあるだろう。

そんな中でセイビーは整備・修理のDX(いわゆる「デジタル化」ではなく、整備士を含める利用者視点に立った変革)によって、自動車業界を取り巻く課題に対して解決の緒を見出そうとしている。

2019年創業とまだまだ走り出したばかりの企業だが、すでに10億円もの資金調達を行い着々と実績と経験を積んでいる。生まれ変わる日本の自動車業界を支える新たな柱となることを期待したい。


『スタートアップ・ディグ』