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「日本の伝統が破壊される」「なぜ反対か意味不明」噛み合わない夫婦別姓問題、改革派にあと一歩「アップデート」して欲しい理由【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(22)
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  • 2021.09.24
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「日本の伝統が破壊される」「なぜ反対か意味不明」噛み合わない夫婦別姓問題、改革派にあと一歩「アップデート」して欲しい理由【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(22)

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実質的に次の「首相」を決める争いである自民党総裁選において、4候補のうち河野氏・野田氏は賛成であり、岸田氏も「検討する」、反対派の高市氏も旧姓の通称使用において不都合がないような法律改正を徹底してやる…と表明している中、いよいよ日本社会は、“少なくとも実質レベルにおいては”すでに「選択的夫婦別姓容認」の方向に舵を切ろうとしているように見えます。

とはいえ、高市氏および保守派が目指す「戸籍上は夫婦同姓だが通称使用を徹底的に認める」案と、「戸籍上も完全に夫婦別姓となる」案との間の違いは、この課題を重視する人からするとまだ大きく、岸田氏が総裁になった場合も含めて情勢は流動的です。

この課題について、いずれまとまった記事を書くと宣言しておいたんですが、そうすると、保守派・改革派含めていろいろな方から、この記事を読め、この動画を見ろ…と私のツイッターに提案(いろいろと取り上げるテーマのご提案&フォローお待ちしています)していただく例があって、ここ最近多くの記事や動画を観ました。

それらを見ていて痛感したことは、いろんなメディアでこの話が「議論」されているんですが、

「保守派の言っていることが改革派からすると意味不明すぎる」

…ということに尽きます。全然コミュニケーションが成立していない。

たとえば離婚その他で親と名字が違う家庭で育った人など普通にいる時代に、

「別姓になると親子の一体感がなくなるからダメだ」

とか言われて、今まさに結婚にあたって改姓しようか悩んでいる当事者の人が納得できるわけがないですよね。

「え?じゃあウチには一体感がないってことなの?」ということになる。

万事この調子で全然コミュニケーションが成立しないので、この話題について話せば話すほど相互憎悪が募って仕方がない。

「別姓賛成or容認派」の人から見れば、今の日本政府や自民党政治家の対応が、全く意味不明なことにこだわって無理やり古い制度を押し付けている…ように見えるのはよくわかる。

しかし、私は外資系コンサルティング会社でキャリアを始めたあと、こんなことばかりやっていると世界が「都会のインテリ階層とソレ以外」に徹底的に分断されていってしまう(結果としてアメリカはトランプ派とそれ以外で完全に分裂してしまっていますよね)…という問題意識からいろんな日本社会の「現場レベル」に潜入して働いてきた人間なんですが、そういう立場からすると、

「都会の恵まれたインテリ階層」からはなかなか想像もできない「切実な事情」が、この「保守派が心底こだわっている点」の背後には隠れていて、それを死守するための警戒感ゆえに過剰に議論をシャットアウトしてしまいがちな事情がある

と感じているんですよね。

そこで、まずは「保守派側の懸念」を「改革派側も理解できる言葉」に翻訳した上で、その上で相互に尊重しあえる点を模索していくことが必要なのだ…という話をしたいと思っています。

その視点から、この問題を解決するために必要な「社会に変革を求める側のアップデート」とは何なのか?という話をします。

倉本圭造

経営コンサルタント・経済思想家

1978年神戸市生まれ。兵庫県立神戸高校、京都大学経済学部卒業後、マッキンゼー入社。国内大企業や日本政府、国際的外資企業等のプロジェクトにおいて「グローバリズム的思考法」と「日本社会の現実」との大きな矛盾に直面することで、両者を相乗効果的関係に持ち込む『新しい経済思想』の必要性を痛感、その探求を単身スタートさせる。まずは「今を生きる日本人の全体像」を過不足なく体験として知るため、いわゆる「ブラック企業」や肉体労働現場、時にはカルト宗教団体やホストクラブにまで潜入して働くフィールドワークを実行後、船井総研を経て独立。企業単位のコンサルティングプロジェクトのかたわら、「個人の人生戦略コンサルティング」の中で、当初は誰もに不可能と言われたエコ系技術新事業創成や、ニートの社会再参加、元小学校教員がはじめた塾がキャンセル待ちが続出する大盛況となるなど、幅広い「個人の奥底からの変革」を支援。アマゾンKDPより「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」、星海社新書より『21世紀の薩長同盟を結べ』、晶文社より『日本がアメリカに勝つ方法』発売中。

1:夫婦別姓の背後にある「戸籍制度」に対する保守派の思いの集積

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今回ツイッターに寄せられたいろいろな「この記事を読め、この動画を観ろ」の中で一番「保守派側の懸念がどういうところにあるのか」がわかりやすかったのは、NewsPicksというメディアにおける自民党の片山さつき氏と、元AERA・Business Insider Japan編集長の浜田敬子氏の対談でした。

これ、YouTubeにも無料部分として冒頭20分が公開されているんですが、そこの部分はなんだかべらんめえ調で高圧的な片山氏が物凄く時代錯誤なことを言っている…みたいな印象がコメント欄にも並んでいたんですよね。

でも最後まで聞くと、特に戸籍制度の維持の重要性…みたいな部分の話は、非常に「なるほど」と思いました。

「戸籍」という仕組みをちゃんと維持している国はもう珍しいらしく、結果として、自分の「ルーツ」的なものを調べられるのは有名人だけ…みたいになっている国が多いらしい。

しかし日本人なら「戸籍」制度がしっかりしているので、どんな庶民でもちゃんと自分のルーツを辿ることができる。保守派はそういう「連綿と受け継がれているもの」的な要素を重視したいのだ…という話でした。

折しも私の父親が、定年退職後の趣味と実益を兼ねて、最近あっちこっちの役所から戸籍謄本を取り寄せて家系図を作っていましたが、私の家のような「どうということのない庶民の家」でも、確実に和歌山県の高野山近辺の山村で暮らしていた先祖の人々のリストにたどり着けるというのは、たしかにものすごいことだと思いました。

では、「夫婦別姓と、この「戸籍制度」の維持は両立できないのか?」と聞かれると、これは可能なはずなんですよね。番組内ではそこの現実的な折衷案のようなものも片山氏が話していました(余談ですが片山氏がこんなにいろんな制度や法律の仕組みに詳しく細部の議論がきっちりできる人であることを初めて知って驚く気持ちにもなりました)。

ただ、この「保守派が一番大事にしたいコア」の部分までなし崩しに壊されるのではないか?という警戒心があるから、はるか手前の「選択的夫婦別姓」的な話ごとハネツケられる結果になっているんですね。

番組中の片山氏の発言をそのまま抜き書きしますが(傍線筆者)、

片山:戸籍の意味っていうのは、これが、改革派の人は嫌いな人が多いんですけども両親がおっかけられるんですよ。
だから明治以降、日本人てよく、ほらよくルーツ探しの番組があるでしょう?あれがすごい人気なんですよね。
あれが「どんな人でも」できるんですよね。あれは他の国では「身分の高い人しか」できないんですよ。だから私は日本の戸籍って素晴らしい、あの1800年代にこれを考えた、日本人ってすごいと思うんですけど。
その戸籍をやめたいのかな?と思わせるような言動が変えたい側の人にあるので、ますますそこに、さっきおっしゃったような、なんとなくこう、イデオロギー的なギャップのことになっちゃうんですよ。
(司会の加藤浩次氏)そこでぶつかっちゃうと全く意味のない論争になっちゃうわけだと。
片山:戸籍は維持しましょう、その範囲で便利にしましょう…ということだったら私と浜田さん(対談相手の浜田氏)は折り合えるんですね。

この動画全体で見ると、後半はかなり改革派の人にも納得感があって、対談相手の浜田氏(冒頭で「別姓制度が無いので事実婚を選んでいる」と公表している)も

片山さんが通姓使用の拡大、そこまでやるって言うなら私も入籍するかも

と言っていました。無料登録期間もあるそうなので、ご興味ある方はNewsPicks版の方をどうぞ。

2:「相手側の懸念を自分たちのやり方で」解決する「メタ正義」的社会変革について

これは最近あちこちで書いていることなんですが、経営コンサルタントの私のクライアントの企業で、ここ10年で平均給与を150万円ほど引き上げることができた事例があります。その「改革」の成功要因の一番大事なコアは、「保守派に敬意を払う」ってことなんですよ。

事業というのは常に「利益=売上ーコスト」であり、「売上=単価✕顧客数」であるという方程式から逃れられないので、150万円も平均給与をあげようと思ったら単にもっと頑張れというだけじゃない、明確なビジネスモデルの転換が必要です。

でもそういうのは、「古い世代の社員」から反対されがちですよね。でもその「反対」には究極的には一応理由があるわけです。

何らかの「効率化」が、下の世代への社員教育的なものが疎かになったり、顧客への対応がおざなりになったりする可能性を常に孕んでいる。

過去30年間の「平成時代」の日本でよくあった事例は、そこで「抵抗勢力をぶっつぶせ!」的に押し込んで行くことで、その組織が、ひいては社会全体が2つに分断され、いずれほんのちょっとしたことでも二派に分かれて紛糾し、何もできない状態になっていくことです。

「抵抗勢力」を完全に排除できた少数部分はそれなりに成功しますが、それが「押しのけた残り」の怨念は社会の中に滞留し、いずれ強烈なバックラッシュを巻き起こしてしまいます。

そのクライアントの会社では「守旧派」的な役員をすぐには辞めさせず、ちゃんと遇して適材適所で使っていき、「社員教育や顧客対応の丁寧さ」を失わないような目配りをしながら、しかし「昔は通用したパワハラ的な態度は許容できない」という一点については譲らない態度を貫いたことで、徐々に「方針転換」が進み、最終的に完全に「方向転換」が終わって以降急激に業績を伸ばすことができました。

要するに「改革」を「平成時代よりもあと一歩丁寧に」やることが重要な時代になっているのだと私は考えています。

これは私の著書で使った図ですが、「敵」がいる時に「それが社会で少なからず支持され必要とされている理由」にまで遡って解決する、つまり「各勢力が掲げる正義同士の落とし所を模索する(これを私は「メタ正義」と呼んでいます)」ようにすれば、延々と怨念がくすぶっていつ反撃されるかわからない不安定さを抱えずに済むようになります。

次ページ 3:なんでそんな面倒なことを!と思うかもしれないが…

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