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「地元企業とのコラボ60件」の実績から振り返る、アーティストの移住・定住が地域にもたらすものとは【連載】「ビジネス」としての地域×アート。BEPPU PROJECT解体新書(13)
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  • 2021.08.20
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「地元企業とのコラボ60件」の実績から振り返る、アーティストの移住・定住が地域にもたらすものとは【連載】「ビジネス」としての地域×アート。BEPPU PROJECT解体新書(13)

構成:田島怜子(BEPPU PROJECT)

山出淳也

NPO法人 BEPPU PROJECT 代表理事 / アーティスト

国内外でのアーティストとしての活動を経て、2005年に地域や多様な団体との連携による国際展開催を目指しBEPPU PROJECTを立ち上げる。別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」総合プロデューサー(2009、2012、2015年)、「国東半島芸術祭」総合ディレクター(2014年)、「in BEPPU」総合プロデューサー(2016年~)、文化庁 第14期~16期文化政策部会 文化審議会委員、グッドデザイン賞審査委員・フォーカス・イシューディレクター (2019年~)。
平成20年度 芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞(芸術振興部門)。

日本の近代化とともに成長を続けた別府は、近代の曲がり角の縮図とも言える課題が山積しています。事業承継の課題に着目すると、企業や店舗の跡取り問題はもちろんですが、別府の場合は地域の温泉が番台さんの担い手不足によって運営が継続できないという例も珍しくありません。また観光業は、昨年から続く新型コロナウイルス感染症の影響で大きなダメージを受けています。

老朽化した町や制度を見つめ直し、これまでとは異なる価値を見出したり、創出したりするためには、創造的な力やアイデアが必要です。そうした時に、異なる視点や考え方を提案できるクリエイターやアーティストが地域に多く住んでいるということは非常に重要だと思っています。

そのように考え、BEPPU PROJECTでは2009年からクリエイター、アーティストの移住支援を積極的に手掛け、120人以上が実際に移住してきてくれました。これは別府市の人口の約0.1%に相当します。その全員がアートを本業としているわけではありませんが、徐々にアートやクリエイティブに関わる活動をする人たちが全国から集まってきていると実感しています。

また、これまで大分県内150社近くの企業課題の相談を受け、クリエイターと共に解決を図ってきました。

これまでに相談をいただいた企業のひとつで、大分県臼杵市の後藤製菓は、創業100年を超える老舗企業です。現在別府市内に拠点を構えているクリエイティブディレクター・神鳥兼孝さんと協働し、次の100年を見据えた新たなブランド「IKUSU ATIO(イクス・アティオ)」を2018年に開発しました。歴史や伝統を活かしながらも、これまでのイメージを刷新する新商品をリリースすると、わずか4カ月で売上は前年度比140%、新規雇用が6名増えたといいます。

創業100年を迎えた後藤製菓の新たなブランド「IKUSU ATIO」

大分県別府市で2020年12月に開業したアートホテル「GALLERIA MIDOBARU(ガレリア御堂原)」では、宿泊者が自由な時間を過ごし、自分好みに滞在をカスタマイズできる旅館・ホテル業の新しいサービスの実現を目指し、建築家やクリエイティブディレクターと協働しました。館内には、国内外で活躍するアーティストから別府在住の若手アーティストまで、別府から着想を得たアート作品が至る所に点在しています。

「GALLERIA MIDOBARU」のロビーに設置された大巻伸嗣氏の作品
写真提供:GALLERIA MIDOBARU 写真:浅野 豪

「ガレリア御堂原」のみならず、別府ではコロナ禍以前から旅館・ホテルの建設が相次いでいます。この数年間で客室が2000部屋も増えたと言います。そこに地域の人が雇用されることもありますが、就職を機に引っ越してくる人もいるでしょう。そうした時に、働く場所としてだけでなく、住環境としての別府独自の魅力を感じてもらうことができたなならば、移住促進に拍車をかけることになるのではないでしょうか。

町の中にクリエイティブを取り戻す

地方都市の利点は、町に「隙間」が多いところです。空き家や空き店舗を閉ざされた場所とみるか、町の中に自由に活用できる余白があるとみるか。見方を変えれば、「隙間」は町にとって大きな可能性になりえると考え、2008年から商店街に多数点在する空き物件を極力安価にリノベーションし、さまざまな市民活動の拠点にする『platform制作事業』を展開しました。

建築家・青木淳さんは著書『原っぱと遊園地: 建築にとってその場の質とは何か』の中で、このような趣旨のことを語っています。

遊園地は「人がどうすれば楽しくなるか」を出発点として設計されています。これと同様に、現在の生活環境では飲食店では飲食する、カラオケ屋は歌を歌って楽しむ、ボウリング場はボウリングをするというように、場所の楽しみ方があらかじめ決められています。そして我々は消費社会の中で、それらを享受しています。しかし、かつて町の中にあった空き地では、土管が1つあれば、ある時はガキ大将のステージに、またある時は隠れ場所にと変わっていきます。

つまり、その場をどのように変化させていくかは、住民のクリエイティビティに依存しているのです。町の中にクリエイティブを取り戻したいと願うならば、町に存在する余白との付き合い方が大事なのだと思います。

もしもアーティストやクリエイターをはじめ、さまざまな視点を持つ住民が町の余白に向き合うならば、その可能性は無限に広がっていくでしょう。例えば、アーティスト・クリエイターや外国人居住者と連携し、個性のある教育機関やプログラムを造成するなど、さまざまな要因をつなげていくことで、別府ならではの魅力を形成していけるのではないかと考えています。

次ページ:調査によって見えてきた空き家とアーティスト移住の課題

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