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600円ナポリタンが美味。絶妙なバランスの“祖父母のリビング”が広がる「銀の匙(荻窪)」【連載】印南敦史の「キになる食堂」(5)
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  • 2021.07.16
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600円ナポリタンが美味。絶妙なバランスの“祖父母のリビング”が広がる「銀の匙(荻窪)」【連載】印南敦史の「キになる食堂」(5)

印南敦史

作家、書評家

1962年東京生まれ。 広告代理店勤務時代に音楽ライターとなり、 音楽雑誌の編集長を経て独立。一般誌を中心に活動したのち、2012年8月より書評を書き始める。現在は「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「ニューズウィーク日本版」「マイナビニュース」「サライ.JP」「ニュースクランチ」など複数のメディアに、月間40本以上の書評を寄稿。
著書は新刊『音楽の記憶 僕をつくったポップ・ミュージックの話』(自由国民社)。他にも『読書に学んだライフハック』(サンガ)、『書評の仕事』(ワニブックスplus新書)、『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』 (星海社新書)など著書多数。

駅から徒歩約20分、キになる住宅地ど真ん中の喫茶店

東京・荻窪に住む筆者が、日常的に自転車で通り過ぎている道なのである。ビール(売ってる店が意外と少ない「よなよなエール」)を買いにクイーンズ伊勢丹へ行く時とか、図書館へ本を借りに行く時とか。

だが、そこは明らかな住宅地。しかも実際のところ、最寄駅はないに等しい。

距離的にいえばJR荻窪駅がいちばん近いということになるのだが、もし歩いたとすればゆうに20分はかかる。駅からバスに乗って3つ目の「八丁」停留所で降り、そこから青梅街道を渡って歩いて2、3分といったところか。

しかも、その青梅街道から何本か奥に入った場所にあり、人通りも決して多くない。

そんな場所にぽつんと、「銀の匙」という名のその店はあるのだ。

小綺麗ではあるが古い建物で、店頭には発泡スチロールでつくられた「喫茶」という手製の看板が出ている。

どう考えても入りづらく、失礼ながら、あまり繁盛しているようにも見えない。けれど、いつ通っても営業はしている様子だ。それに、よく見れば窓に「ランチやってます」という手書きのポスターも貼ってある。

つまり“キになる食堂”と解釈することも可能ではあるようなのだ。いろいろ気になって仕方がなかったのは事実なんだし。

そこで、気になり始めてから早くも数年が経過したある平日の午後、勇気を出して尋ねてみることにしたのだった。

期待を裏切らないふつうの家、ふつうのメニュー

「いらっしゃいませ……」

格子ガラス窓のついた白い扉を開けると、70代くらいの奥様が声をかけてくださった。足が悪そうで声も少し聞き取りづらい。どうしても、なんだか申し訳ないような気持ちになってくる。

ご主人らしき男性の姿が見える厨房の向かいはカウンターになっており、その手前には4人掛けのテーブルと椅子。

だが、そちら側にはおふたりの世界というような雰囲気が漂っていたので、ドアを入って右側の2人用席に座ることにする。

すぐにご主人が、お冷やとメニューを持ってきてくださる。妙に情報量の多いメニューには、リラックマとかちびまる子ちゃんなどの切り抜きがたくさん貼ってある。

その中から、「スパゲティナポリタン(ミニサラダ・スープ付)」を選ぶ。実は入る前から決めていたのだ。表のポスターに「喫茶店によくあるナポリタン」と書かれていて、なんとなく惹かれたから。飲み物はアイスコーヒーをお願いした。

午後12時すぎの店内に客の姿はなく、オルゴールの音が小さく流れている。

どこの家庭にもあるようなカラーボックスが積み上げられていたり、カウンターに生活用品のような小物がたくさん置いてあったり、僕の座った席のすぐ横の壁には、たくさんのぬいぐるみが乱雑に吊り下げられていたりもする。

カウンター席にいた奥様が、「〜〜が〜〜なんですって、お父さん」と新聞の記事を指差しながらご主人に声をかけている。

なんとなく、突如として普通の家のリビングにお邪魔してしまったような気分である。だからちょっと気まずい。でも、おふたりは気にしている様子でもなかったので(商売でやっている喫茶店なのだから当然だけど)、余計なことを考えずに本を読んで過ごすことにする。

次ページ:アルデンテで適度な歯応えが心地よいナポリタン

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