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日本企業は「バカバカしい夢」を持たなければ生き残れない。指数関数的なテクノロジー進化が続く世界でビジネスパーソンが抑えるべき大前提
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  • 2021.04.12
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日本企業は「バカバカしい夢」を持たなければ生き残れない。指数関数的なテクノロジー進化が続く世界でビジネスパーソンが抑えるべき大前提

毎日のように「GAFA」という言葉がニュースに並び、Airbnb、Uber、テスラ、アリババ、テンセントなどそれに続く新興企業の躍進が話題に上るが、これは「しがらみのない若い企業がたまたま当たった」「昔と比べてスタートアップの資金調達環境も変わってきたしね」といったことで済ませてしまって良い事象なのだろうか。

そうではなく、ビジネス環境が根本的に変わりつつあるのではないか。それはどのような背景で起こっており、これから日本企業はどう生き残るべきか。それを非常にわかりやすく解説するのが、今回ご紹介する一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)フェローの齋藤和紀氏によるビデオ講演「エクスポネンシャル思考による新価値創造」である。

金融庁、日立製作所、デルとキャリアを歩みつつ、シリコンバレーに飛び込み最先端のスタートアップ文化を吸収した後、スタートアップ支援やエンジェル投資家として活躍する齋藤氏は、テクノロジー進化が指数関数的(エクスポネンシャル)に進み、これまでであれば夢物語としか思えなかったようなことも実現できる時代になった以上、ビジネスパーソンも「夢みたいな話」こそ語ることが求められる時代になったのだと語る。

文・構成:神保勇揮

齋藤和紀

エクスポネンシャル・ジャパン 代表取締役
アキュリアス 代表取締役
一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ) フェロー

元金融庁職員(企業開示課・国際会計基準IFRS・EDINET担当)、日立製作所、デルにて経営企画・データ分析、世界最大手石油化学メーカー、ダウ・ケミカルのグループ経理部長を務めた後、ベンチャーのサポートへ。
成長期にあるベンチャー企業の成長戦略や資金調達をハンズオンでサポート。起業家を発掘し、自らイノベーションを仕掛けることに注力。戦略策定や事業開発から携わることによりシリコンバレーVCや事業会社などからの資金調達を数々成功させたり、ファンドの立ち上げに参画したりするなど、成長期にあるベンチャーを財務経理のスペシャリストとして支える。
また、自らの事業も数多く立ち上げており、エンジェル投資やスタートアップ・スカウティングに関しても積極的に行う傍ら、エクスポネンシャル思考のプログラムやコンサルティング等を通して、企業の新規事業創造等の支援も実施。

なぜテスラの時価総額はトヨタに勝ったのか

本日は、「エクスポネンシャル思考による新価値創造」ということについてお話しします。私は金融庁職員、日立製作所、デルというキャリアで主に財務畑を歩みながら独立し、10年前ぐらいからベンチャー企業のサポート事業を行っております。そうした中でシリコンバレーでは実際に何が話されているのかということをよく詳しく知るべく、シンギュラリティ・ユニバーシティという、シリコンバレーにある民間教育機関に2015年に飛び込みました。

そこで話された内容があまりにも衝撃的だったこともあり、『シンギュラリティ・ビジネス』『エクスポネンシャル思考』という本も出版し、皆さんにお伝えしたいことがあるのです。

最近、デジタル・トランスフォーメーションという言葉をよく聞きます。ですが、この言葉、ちゃんと理解されていますでしょうか?1つの象徴として、日本で一番時価総額の高い会社であるトヨタの時価総額は2021年4月現在で27兆円ほどですが、それを2020年の7月にテスラが超えてしまったということがございました。今は65兆円とぐらいの規模になっています。21年年初にはテスラ株が11連騰していたのですが、この間だけでトヨタと同じぐらいの時価総額が上がったということが起こっています。

ここで非常に重要なのは、これは世界中の大きな自動車会社をほとんど全部足した総額よりもテスラの方が大きくなってしまったということだけでなく、テスラは自身を自動車会社と位置付けていないということです。彼らはあくまでもエネルギーに革新を起こす会社、そしてテクノロジーを使って世の中を変える会社だと定義している。

そして、既存の自動車業界がなかなかやろうと思っても安全性の問題や各種規制の問題でできなかった「自動運転車を実際に公道上で走らせてしまう」ということを、新参者であるテスラがいち早くやってしまう。そのデータを集めてさらに強者になってしまうというようなことが同社のさらなる評価につながっているということを考えていいのかなというふうに思います。

ビジネス環境が指数関数的に進化するということ

テスラが巻き起こしたビジネスのイノベーション、そして時価総額の急速な伸びのような事象を理解するためのキーワードが「エクスポネンシャル」、指数関数的に伸びるということです。1、2、3、4、5と物事が進むのではなく、1、2、4、8、16と倍々になっていく、そういうような考え方です。

ただ、これはテスラの例に限らず現在当たり前のように起こっている一方、直感に反する、どうしても感覚的に理解しにくいという部分があります。これを説明するために『ドラえもん』で非常に良いたとえ話になる「バイバイン」というひみつ道具の話をしたいと思います。

この薬を振りかけたモノは5分ごとに倍増していきます。のび太くんは栗まんじゅうを食べ続けたかったので、バイバインを振りかけてしまうんですね。のび太くんも最初は良かったと思うわけですが、ドラえもんが来て言います。

「この勢いで増え続けたらどれだけの量になるか分かる?」

1時間後には5000個を超えて、そして2時間とちょっとで1億個を超えるスピードになるんだよと言います。結果、のび太君は慌てて、しずかちゃんとかジャイアンとかみんなを呼び出して、すごい勢いで食べ始めるんですけど、最後に1個だけ残してしまうんですね。その後にどうなってしまったかというのは、皆さんも想像に難くないかなと思います。

まさにそのような、人間がなかなか想像できないということがあちこちで起こっています。デジタル社会になってからは、ほとんどの技術・産業がエクスポネンシャルに進化するわけです。最初は何も起きていないように見えてしまう。けれどあるポイントで進化スピードが我々の想像力を超えてきます。その瞬間、ありとあらゆるものを変えてしまうという出来事が起きるわけです。

・デジタル化(Degitized)
・潜在的(Deceptive)
・破壊的(Disruptive)
・非収益化(Demonetizing)
・非物質化(Dematerializing)
・大衆化(Democratizing)

からなる、「6つのD」という考え方がございますが、これがありとあらゆるところで起きています。

この「6つのD」とはつまりデジタル化、いわゆるDXもそうですけれども、デジタル化が進むにつれてビジネスやプロダクトが、この先エクスポネンシャルカーブに乗るということです。

もう一つ、重要なポイントがあります。こういうスピードで物事が進み始めると、シンギュラリティ・ユニバーシティの共同創立者でもあるレイ・カーツワイルが提唱した「収穫加速の法則」が起こる、つまりインパクトのある事象が起こる期間がどんどん短くなってきます。これは産業革命に関しても言えることでして、例えば第一次産業革命の機械化から第二次産業革命に至るまで200年以上かかっているわけですが、第三次産業革命=情報化革命に至るまでは100年足らずで、そこから今度は第四次産業革命=IoT革命、AI革命とか言われていますけれども、そこまで50年足らずです。つまり、どんどん加速しているということです。

一方で、エクスポネンシャルなカーブの反対側、裏側ではコストが劇的に下がるということが起きます。例えばデータストレージコストの下落、これは皆さんもご存じですね。10年前は何万円もかけて手に入れていたSDカードや外付けハードディスクの容量が、10年足らずで数千円程度になるということが繰り返されています。

ポイントは今この時点がすごいということではなくて、ここから先このスピードがさらに加速するということを理解してビジネスを進めなければいけませんよということです。こうしたエクスポネンシャルなスピード感がちゃんと理解できていれば、例えば日本政府が2050年までに脱炭素実行計画をつくるぞと宣言する、東京都が2030年までにEV以外は売らないようにするぞというような目標設定が冗談でも何でもなく本気であるということが理解できるはずです。

人類史上初めて、地球規模の課題解決にトライできる時代

こうしたテーマではよく「シンギュラリティ」という用語が出てきます。シンギュラリティというのもいろいろな捉え方がされて、例えば新聞の一面でシンギュラリティが取り上げられる時は「AIが人間を超えるのはいつか」みたいなことが言われます。

ですが、ちゃんと理解してほしいのは、レイ・カーツワイルさんという人が2005年に『The Singularity Is Near(邦訳版タイトルは『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』)』という本を書いているのはAIの話だけではないんです。進化の話で、人類自身の話です。

ここから先、我々は進化の分岐点にいて、そして2045年ぐらいに進化の分岐点(シンギュラリティ)がいよいよ訪れようとしているという話です。それが実際に2045年に来るのかどうなのか、ということを考えるのは言ってしまえばSF領域の話で、ビジネスパーソンが考えるべきは「いつそれが来るか」ではなく「それが実現した時に何をするか」です。

あらゆるテクノロジーがここから先、コモディティ化していくという時代に入っています。進化がどんどん加速しているし、今も最新テクノロジーを開発している人たちが世界中にいる。それを踏まえた新事業を考えている人たちがいる。我々が思っているようなことは、どんなに突飛なものでも、世界で何万人かは同じことを考えている人たちがいて、そしてそのうちの何百人、何千人かは既に始めているということです。そうした荒波の中で、起業はどこで差別化していくのかということも考えなければいけないと思います。

今までの日本企業、特に昭和に創業された企業は、社会の欠乏や顧客の根源的ニーズ、例えば「お腹が空いている人たちをどうやって満たしてあげよう」「電気や水がない地域の人たちにどうやって届けようか」ということを真剣に考えるということが創業の思いだと思うんですけれども、今起こっているのは「その組織の存在意義が失われつつある」ということなのです。

メガバンクA、B、C、それぞれどこへ行ってもサービスとしてはほぼ同じ水準で提供できていますよね。コンビニもそうですよね。根源的なニーズはどこもかしこも高次に充足しています。この状況を「アバンダンス(豊富な、豊かな)」という表現をします。「若者が昔のようなハングリー精神をなくしている」とよく言われますけど、根源的ニーズが高次に充足しているので、「お金があってもやることがなくなっている」みたいなことが起きているわけです。企業も同じです。

そうであれば、今何をすべきなのか。今は人類史上初めて、エクスポネンシャルに進化するテクノロジーを用い、地球規模の課題解決にトライできる時代が訪れています。これこそが差別化になると思いますし、そこを目指してほしいと思います。例えば地球環境の変化を予測するということでもいいですし、予測した変化を受けて人の流れをコントロールすることも今はテクノロジーを使ってできますし、地球環境そのものを変えてしまうこともあと数年、数十年するとできるようになってくるかと思います。そのようなテクノロジーの波の中に我々は生きているのです。

35歳以上が「自然に反する」と感じるテクノロジーこそが正しい

我々は会社の上司、先輩から「このまま行くと山の頂上に行けるぞ」ということを教わってきたわけです。ただ、霧が晴れた時に、「もっと高い山があっち側にあるよね」ということがわかってきたし、既にそれを登っている人たちがいるということもわかってきた。トヨタにとって、おそらくテスラは「あっちの山を登っている人たち」なんですね。僕らも行きたいと思うんだけど、その山は今の尾根伝い、つまり今までやってきたことの延長線上には、もしかしたらないかもしれないよというのが今起きていることです。

個々人のキャリア形成もそうですね。我々4、50代半ば以上の方々というのは先輩たちから、「お前は我々と同じことをやっていけば偉くなれるよ」と言われてきたかもしれないですが、それとはちょっと違ったことを求められ始めている。

一つご紹介したいのは、ダグラス・アダムズというイギリスのSF作家がいて、彼が法則として「人は自分が生まれた時に既に存在したテクノロジーを自然な一部と感じる」と言っています。例えば私が生まれた時に既にテレビがあったので、それは自然なものとして育ちました。そうして育っていく中で、自分が15~35歳ぐらいまでに発明されたテクノロジーはエキサイティングだと感じる一方、35歳以降になってから発明されたテクノロジーは直感に反する、自然に反するものだと感じるということが起きるとも言っています。

例えば我々の世代は、「zoomでオンラインミーティングをしよう」と言われた時になぜか自然に反するようなイメージを持ってしまう。「なんで対面で名刺交換できないんだろう」ということを思ってしまった人もいるかと思います。

ですが、今我々がやらなければいけないのは、「違和感のあるやり方の方がもしかすると正しいかもしれない」ということを理解するということです。2020年に社会人になった人たちは、オンラインでリモートワークをすることが普通なんですね。そして、それが常識であるということからスタートするわけです。私が「テレビが存在するのは自然なことだ」と思ってきたのと同じだということです。

日本企業は「プラン」ではなく「夢」を語れ!

最後に「日本企業がこれからの新価値を創造するためには?」という話をしたいと思います。私がスタートアップの方々によく言うのは「日本人は相手に対してプランを説明するということがすごく得意だけれど、それをやってもしょうがない」ということです。

営業活動では、相手の良い心証を形成することが非常に重要です。今までと同じようにプランを説明だけしていても、同じようなものがあちこちにあるので刺さらない。相手の中に「これはイケるぞ!」という心証が形成する必要がある。そのためには何が必要かというと「納得できるストーリー」というものが必要になるわけです。

そこでは会社の存在意義や担当者の内発的動機というものが非常に重要になります。個人レベルで言えば怒りとかこだわりとか、あとは原体験です。ですが、残念ながらこれが弱い会社が非常に多いです。新規事業をやっているけど、DXをやっているけど、何のためにやっているかということが共有されていないということがあります。

新規事業は責任者が「自分がやりたいからやらせてください!」と言っているもの以外は絶対に失敗します。最後までやりきらないからですね。それを踏まえて会社の存在意義についても、もう一度深掘りして考えてほしいなと思います。この会社はなんで存在しているのかというのを、もう一度社員全員で話をしてもいいのかなと思います。その存在意義そのものに立脚した事業計画でなければ、それは実現できないのです。

例えば、他人を引き込むストーリーというのは大体2種類に分かれます。一つは「あるべき姿と現実との葛藤」ですね。内なる葛藤を克服していく。私はこんなはずじゃない、もっとできるはずだという、その葛藤を克服していくというストーリー。もう一つは「冒険と挫折と成長、大きな敵との戦い」で、例えばGAFAに挑むぞ、日本をもっと大きな国にするぞというような非常に強い思いですね。この複合型もあるかと思います。

多くの日本人、日本企業は「I have a plan」もしくは「I have a proposal(提案がある)」ということしか言わないんですよ。でも、今我々に足りないのは「I have a dream」です。今までのビジネスパーソンは、このドリームを押し殺されてきたということがあります。そうでなければ出世できなかったということがあります。ですが、これだけテクノロジーの進化が早い時代になった以上、「俺は太平洋上を飛んでみたいんだよ!」というような、強い夢に立脚すべき時代が到来したということなのです。

今までとこれからは連続しない、新しい時代へ突入しています。経産省は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の定義を「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位を確立すること」としています。デジタル化のエクスポネンシャルな進化によって既存市場がどんどん破壊されていく流れに対抗し、日本企業は自律的に最適化し続けるモデルへ転換していかなければいけません。そのためこそ「I have a dream」が必要なんです。その強い思いがあるならば声に出していきましょう。それによって世の中はどんどん変わっていくと思っています。

未来の可能性は我々の手の中に既にあります。我々の手で、世の中を良くしていきたいと強く思っています。


一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)

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