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「インターネットはすべてをフラットにする」はウソだった。ネットビジネスの不都合な真実を暴く『デジタルエコノミーの罠』【連載】高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」(10)
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  • 2021.03.16
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「インターネットはすべてをフラットにする」はウソだった。ネットビジネスの不都合な真実を暴く『デジタルエコノミーの罠』【連載】高須正和の「テクノロジーから見える社会の変化」(10)

Photo by Shutterstock

高須正和

Nico-Tech Shenzhen Co-Founder / スイッチサイエンス Global Business Development

テクノロジー愛好家を中心に中国広東省の深圳でNico-Tech Shenzhenコミュニティを立ち上げ(2014年)。以後、経済研究者・投資家・起業家、そして中国側のインキュベータなどが参加する、複数の専門性が共同して問題を解くコミュニティとして活動している。
早稲田ビジネススクール「深圳の産業集積とマスイノベーション」担当非常勤講師。
著書に「メイカーズのエコシステム」(2016年)訳書に「ハードウェアハッカー」(2018年)
共著に「東アジアのイノベーション」(2019年)など
Twitter:@tks

技術の進歩によりインターネットは寡占化され、小メディアに未来はない

マシュー・ハインドマン『デジタルエコノミーの罠』

昨年12月に日本語訳が出版されたマシュー・ハインドマンの『デジタルエコノミーの罠』は衝撃的すぎる内容の書籍で、僕はこの本の内容をよりきちんと理解するため、本書の翻訳を担当した山形浩生氏を招くオンライントークイベントを2度行った。

本書の主張はシンプルだ。「ネット上で大きいサイトと小さいサイトの差はどんどん開いている」。結果として小さいサイト、この記事が掲載されるFINDERSのようなメディアは風前の灯だ。

かつては違った。大きいサイトはマスをとり、小さいサイトはキャラクターを立ててコアファンを掴む専門性で勝負していた。運営を支える広告費は、サイトの専門性が増すほど、ページあたり/一人あたりの単価が高かった。新聞や雑誌では今もその構造が続いている。

今のインターネットは、新聞や雑誌とはまったく違う。表示が早いサイトと遅いサイトの差は残酷なまでにつく。人間はいつも使っているサイトをまた使おうとする。最初の1日は少しの差でも、表示が早いサイトは着実にユーザーを増やしていき、遅いサイトからは人が徐々に減っていく。

表示速度だけではない。サイトのユーザビリティ、スマホをはじめ、さまざまなプラットフォームに対応しているかなどなど。記事で同じ話題を扱っていたとしても、ユーザー数の差が日々広がっていく。本や新聞では、マイナーな媒体でも極端に読みづらいレイアウトになっていることは少ないが、ウェブではそれ以上の差がつき、その差は複利で広がっていく。

更新速度も同様に重要だ。いつ来れば更新されているかわからないサイトよりも、日々新しいコンテンツが集まるサイトにユーザーは引かれていく。この差も複利で広がっていく。

結果として今のインターネットは、自前の強力なサーバと回線を持ち、毎日コンテンツを更新できる編集チームを持ち、迅速なデザイン調整や新デバイス対応が可能な巨大プラットフォームが、小さいサイトを圧倒してしまった。さらに近年のAIやレコメンデーション技術が広範なユーザーに対してそれぞれ最適なコンテンツや広告を配信する。結果として今の大手サイト、FacebookやGoogleなどの1PVや一人あたりの広告単価は小さいサイトよりも高い。

結果として今の巨大サイトは、小さいサイトよりも圧倒的なPV数があり、かつPVあたりの広告単価が高い。その売上は再投資され、さらに差を広げていく。

ネット上でPVが最も多い大手10社は、ここ10年以上ほとんど動いていない。ニコラス・ネグロポンテやマーク・アンドリーセンが説いた、そしてこのFINDERSでも思想の中に入っているであろう、「大小関係ないフラットなインターネット」というのはついになくなってしまった。

1974年生まれの筆者は、インターネットが徐々に社会に広まってくる様子と伴走して仕事をしてきた。インターネットは各国政府の意向から自由な、フラットでコスモポリタンな空間であるべきだと唱えたジョン・ペリー・バーロウの「サイバースペース独立宣言」的なロマンを今も持っている。ところが本の中でバーロウ自身が、現在ではそれが通じず、インターネットが限られたプレイヤーの空間になったことを語っている。

精緻に立証される「インターネットの夢」の崩壊

ネットビジネスの方が実空間のビジネスよりもWinner Takes All(勝者総取り)が起こりやすいという話は元々あった。本書は様々なデータでそれを精緻に立証したこと、そして原因が個々の会社が独占を狙っていることではなく、技術が進化することでインターネットは成立しており、技術の本質として勝ち負けがハッキリついてしまうことが原因であることを立証したことで、稀有な一冊になっている。

その貴重さは、「創造する自由が実は知的財産保護のシステム的な不徹底にあり、インターネット時代はそういう隙間を意図的に作らなければならない」とフェアユースの思想に基づいたクリエイティブ・コモンズ制度の確立を主張したアメリカの法学者、ローレンス・レッシグの一連の書籍に一部重なる。また、経済成長よりも資本の蓄積のスピードの方が早い、つまり金持ちがますます金持ちになることを立証したトマ・ピケティの著作『21世紀の資本』にも通じるところがある。

このネット世界で意味のあることをやるには

本書、そして先述のレッシグ、ピケティも翻訳を担当した山形浩生氏を中心に、本の内容について確認し、より深堀りするイベントを行った。1回目はまさに日本の代表的な小メディアの『デイリーポータルZ』林雄司編集長を招いたものだ。

林さんを招いたイベント

林さんからも、本書の内容については異存ない。デイリーポータルZのようにキャラクターのあるサイトこそ、固定ファンよりむしろGoogle Chromeのスマホアプリに出てくるDiscovery(ブラウザがサイト横断的に表示させるおすすめ記事)からの流入の影響が増しているなど、本の内容を裏付ける話が多く出てきた。デイリーポータルZは有料の「はげます会」などの取り組みを通じて収益とPVを増やしているが、そもそもサイト分析などもGoogleアナリティクスを使っているなど、プラットフォームであるGoogleとデイリーポータルZを同じ「ネットのメディア」として捉えると、ますます同じテーブルに乗っていると思えない事態になりつつある。

メディアアーティストの八谷さんと、ドワンゴの伊予柑を招いたイベント

第2回のイベントでは、第1回の内容を踏まえて話がさらに深まり、「これまでのコンテンツビジネスでは見捨てられていた、現時点で一般受けがしないコンテンツを大量に揃えることの意味」について突っ込んだ議論がされた。

「デジタルエコノミーの罠」とはあくまでプラットフォームの寡占が進むという話で、人々が見るコンテンツが一色になるという話ではない。メディアにしろYouTuberにしろ、むしろこれまではニッチすぎて人が少なかったコンテンツがヒットする可能性は上がっている。

サロンビジネスとデジタルエコノミーの罠

もう一つ重要なテーマは、人間へのアテンションだ。インターネットの世界では一度ファンがつくと、プラットフォームをまたいでもファンがついてくることが多い。そこでコンテンツを出し続けることで、他のコンテンツでなく同じ人間を見続ける、というビジネスが成り立つ。

今のインターネットはそういう形で人を集め、サロンや有料コンテンツで稼ぐインフルエンサービジネスが増えている。コンテンツをより多くの人に触れさせる方向でメディアを運営することが、巨大プラットフォームとの勝ち目のない戦いに向かう営みだとすると、ファン心理を拠り所にするこうしたビジネスが出てくるのも「デジタルエコノミーの罠」の延長線上にあるのだろう。

狭い範囲の人たちで頻繁に交流し、コミュニケーションの密度で粘着性を担保するのは、デジタルエコノミーの罠を避ける一つの方法である。インターネットはまた、コミュニティの姿を進化させた。マスの反対側にあるのは、ニッチではなくコミュニティになりつつある。

本書は、僕たちが「マス」「独占」「フラット」と思っていたものが、実は違う姿をとっていたことをありありと描き出す点で、他の本にない魅力がある。FINDERSのようなサイトを見る人は、ぜひ一読をおすすめする。


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