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『麒麟がくる』から考える、「本能寺の変が起きる日本」と「中国・韓国風トップダウンの理想」の違い【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(12)
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  • 2021.02.07
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『麒麟がくる』から考える、「本能寺の変が起きる日本」と「中国・韓国風トップダウンの理想」の違い【連載】あたらしい意識高い系をはじめよう(12)

6:現代の「月にのぼる竹中平蔵」とどう向き合うか?

これを読んでいる読者の中には「何甘いことを言ってるんだ!頭の古い老害どもに新しいチャレンジが全部潰されてしまう国になってしまうぞ!」と思うタイプの人がいるかもしれない。

もちろんそういう危惧はあります。だからこそ、単にグダグダの現状追認に戻れというわけではないわけです。

しかし、「改革派VS抵抗勢力」という分類で騒ぐこと自体が自己目的化してしまって、具体的な細部の調整をちゃんとやっていけばスルスルと進むようなことまで混乱の泥沼に沈んでしまっている現象を私は最近仕事の中でよく見かけるようになりました。

たとえば今、兵庫県養父市というところで、農地を企業が所有できるようにする規制緩和特区が実験されていて、実際に耕作放棄地になっていたところに営農者が多く現れた成功例になっているそうなんですが、その規制緩和を全国に展開するかでモメているんですね。

養父市国家戦略特区パンフレットより

そういう風に聞くと、あなたは、

「頭の古い既得権益の抵抗勢力どもによって、こうやってマトモな改革がすべて頓挫させられるんだ!」

と思うタイプでしょうか? それとも、

「人々にとって最も大事な“食”ですら利益最優先の冷徹な企業体に担わせようとするなんて、そんな強欲さから私たち人間は、どうすれば脱却できるのでしょうか?」

と思うタイプでしょうか?

こういう問題があると、実際にそこで起きている問題をリアルに見るよりも、こういう↑党派争い的な構図で脊髄反射的に罵り合いに発展して、結局何も進まないことが過去20年の日本には多すぎたように思います。

案の定規制を議論する会議で、われらが竹中平蔵先生が「既得権益をぶち壊せ」風の演説を打ったという話を聞きました。

で、この件について私のクライアントの農業者といろいろと議論をしてみたのですが、実は、

実は既に今でもリース契約でなら企業参入にほとんど規制はない

現状の農地価格を考えると農地をわざわざ購入して利益を上げるのは非常に難しく、多くの企業の農業参入はリースで行われている(養父市においても同じ)

「すべてがイデオロギー闘争」に見える団塊の世代が引退に近づくにつれて、現役世代で「企業」を敵視している人はほとんどいない(現実に耕作放棄地が増えまくって何かしなくちゃいけないことは明らかすぎるため)

という状況らしく、つまり養父市で実際に結構企業参入が進んで、耕作放棄地になってしまっていたところに新しい営農者ができたのは確かだそうなんですが、そうなった理由は

・規制緩和をしたから…ではない(もともとリースでなら問題なく企業参入できていたので)

んですよね。そうじゃなくて

・市長が旗振りをしていろんな人の利害を調整して具体的な細部の話を動かした

から実現してるんですよ。

最近、「大阪都構想」も否決されましたし、ネットでは定期的に竹中平蔵氏が「国賊」的にやり玉にあがっています。

で、私のような氷河期世代の人間は、どこかで市場原理主義的というか、「改革フェチ」みたいなところがあって、具体的な細部の改革の議論に熱中するあまり、「ついてきてくれない人たち」に対する憎悪をこじらせがちだったりするんですが。

私がコンサルティングを通じて出会ういろんな事例の中で、昔だったら「敵」だった相手まで、具体的な話をちゃんとやればスルスルと進み始める…みたいなことがチラホラと見られるようになってきています。

養父市の事例でも、「既得権益ガー!」「強欲な資本主義者どもガー!」的な罵り合いに持っていくのではなく、単に

「養父市はこうやって成功したらしいよ」

「そうか、じゃあウチでもやってみるか」

的な「ゆるキャラがいつの間にか全国にあふれている現象」みたいな回路をうまく使っていくことを、「本能寺の変がある国」としてもっと重視していくべき時が来ているのではないでしょうか?

7:竹中平蔵型市場原理主義を「敵は本能寺にあり!」的に討ち取るには?

結局、竹中平蔵型市場原理主義というのは、その逆側にある、なんでもかんでもイデオロギー的に「反対」しか言わない日本社会の無為無策な危機感のなさ…みたいなのと表裏一体なんですよね。

だから、昨年末に書いたnote記事↓(おかげさまでその月で最も”スキ”された記事の一つに選んでいただきました)

「竹中平蔵を排除するためにデービッド・アトキンソンと組む」・・・「血も涙もないネオリベモンスター」を倒すためには「血の通ったネオリベ」を味方にする必要があるという話。

で使った絵を引用すると、

こんな感じで、過去20年、色々と激変する世界の問題に対して、「ちゃんと対応しようと考えて」いるのが竹中平蔵的なネオリベ勢力しかいなかったところがあるんですよ。

あらゆる環境が激変しているのに、ただ単に昭和の栄光にすがって「昔のようにやればいいんだ」って言ってるだけだと本当にどこにもたどり着けないので、結局竹中平蔵型市場原理主義勢力を「止める」ことができずに終わるんですよね。

『麒麟がくる』で信長を討つには、「信長が目指す世界」に対地する「本当の理想の政治」というものを、それぞれなりに考えて語るシーンが沢山挿入されていますよね。

「信長を討つ」には、「それ以上に理想的で、かつそれ以上に現実的」なビジョンを育てていくしかないわけです。

それをしないで、単に「竹中平蔵は国賊だ!」と騒ぐだけでは、より「憎まれっ子世にはばかる」的に彼はさらに勢力を伸ばして暴れまわるようになるでしょう。

日本人の「根底的な共感」を呼び起こして「月にのぼる者」を討つには、単に「相手の裏返しの反論」をするだけじゃなくて、自分たち自身がちゃんと責任感を持って考えることが必要です。

「中韓型のトップダウン的理想」を目指そうとするも、結局自分たちの本能でブレーキを踏んで前に進めなくなるよりも。

むしろ「本能寺の変がある国」として、ちゃんと「遠回りのようで近道」の道を通って理想を語り、そして社会を現実的な問題に対して変化させていく。

「無理やりなトップダウンの市場原理主義的改革」が過去20年の諸外国で経済的発展をもたらすと同時に引き返せないほどの分断を生み出し、民主主義の危機を生み出してしまっている時代においては。

そういう「日本のあり方」が、新しい理想の形として提示していける未来すらありえると私は考えています。

そして、「グローバルな知性と、現地現物的な社会」との間の新しい関係を取り結ぶことさえできれば、例えば【『日本の学術予算は実は簡単に増やせる』という話】というnote記事で書いたように、

これだけ問題になってSNSで学術関係者の呪詛の声を聞かない日はないほどのの問題すら、本来は来年からだって「世界に冠たる」というレベルで日本政府は予算を用意する余力があるはずなのです。

「本能寺の変がある国」としての自分たちの自然なあり方に、目覚めるべき時が来ているのではないでしょうか?

感想やご意見などは、私のウェブサイトのメール投稿フォームからか、私のツイッターにどうぞ。

連載は不定期なので、更新情報は私のツイッターをフォローいただければと思います。

この連載の趣旨に興味を持たれた方は、コロナ以前に書いた本ではありますが、単なる極論同士の罵り合いに陥らず、「みんなで豊かになる」という大目標に向かって適切な社会運営・経済運営を行っていくにはどういうことを考える必要があるのか?という視点から書いた、「みんなで豊かになる社会はどうすれば実現するのか?」をお読みいただければと思います(Kindleアンリミテッド登録者は無料で読めます)。

「経営コンサルタント」的な視点と、「思想家」的な大きな捉え返しを往復することで、無内容な「日本ダメ」VS「日本スゴイ」論的な罵り合いを超えるあたらしい視点を提示する本となっています。


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