Epic vs Appleという構図が今話題です。
事の発端は今年の8月13日、Epic GamesがiOS版『フォートナイト』にApp Storeを介さない決済手段を導入したことで、Appleが『フォートナイト』をApp Storeから削除した日まで遡ります。Epic GamesはわざとAppleを挑発するような動画を配信し、Appleが定める手数料30%という額や、審査などすべて一社で決めるのは「反競争的」だと主張。それに対してAppleもApp Storeのおかげで今の『フォートナイト』があるのではないかと反論したのです。
SNSのタイムラインやニュースフィードを見るに、この誰もが知る2大テック企業のステゴロに世界中の注目が集まっています。何ならヤジを入れつつポップコーン片手に楽しんで観戦しているような節さえあります。
TBSラジオや自分のnoteでこの衝突について色々発信する自分もまた、そのヤジを飛ばす無数の観客の1人だと思うのですが、思うに皆さんあまりにこの問題を矮小化して考えてはいないでしょうか。
皆さんにとっては、企業同士がお互いを非難しあうなど、川辺で学生同士がケンカしているようなものを、ちょっと意識高めに解釈してみているだけかもしれないのですが、実はこれ、今後のコンテンツ産業を左右する極めて重要なタームポイントではないか、と私は考えています。
Jini
ゲームジャーナリスト
はてなブログ「ゲーマー日日新聞」やnote「ゲームゼミ」を中心に、カルチャー視点からビデオゲームを読み解く批評を展開。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラー、今年5月に著書『好きなものを「推す」だけ。』(KADOKAWA)を上梓。
「Apple vs Epic」という認識はピントがずれている
最初に申し上げると、「Epic vs Apple」という構図そのものからして間違っています。確かに現状、目に見える形としてEpicとAppleがお互い非難しあっているというのは事実。ですが、EpicがApple以外のプラットフォームビジネスを批判していなかったり、AppleがEpic以外から喧嘩をふっかけられなかったかといえば、まったくそんなことはないのです。
まずEpic。彼らは2018年頃から本格的にプラットフォームビジネスの在り方について、四方で模索していました。例えば、PCゲームジャンルでは、Valveという会社が運営する「Steam」という最大手プラットフォームが存在しますが、Epicはこれに対抗して「Epic Game Store」を立ち上げています。「Epic Game Store」では、ゲームを販売する企業への還元率を88%まで高める、つまり手数料を12%にするという、思い切った姿勢を打ち出しています。こうした流れの中でSteamは、ゲーム売上が1000万ドルを突破すると手数料が30%から段階的に下がっていく仕組みを2018年に採用しました。
「『フォートナイト』とマーベルがコラボした新シーズン『ネクサス・ウォー』ビジュアル」(C) 2020, Epic Games, Inc
こうした「Epic Game Store」のやり方には、ユーザー側からは「タイトルを囲い込むな」といった批判もありましたが、EpicのCEO、ティム・スウィーニーは一貫して反独占的プラットフォームの姿勢を打ち出し「もっとディベロッパー(開発者)にお金を還元しよう」という主張もしていました。ある日突然、Appleに食って掛ったというわけでもなく、Epicはここ数年一貫したプラットフォームビジネスに対する抵抗の意志を示していました。
Appleにしたって非難されたのはこれが初めてではありません。2016年にはすでに、音楽配信プラットフォーム最大手「Spotify」がAppleのプラットフォームに対して独占禁止法に反するものと欧州議会に訴え、2019年には「Time to Play Fair(そろそろフェアにプレイしようぜ)」と専用サイトまで立ち上げてAppleのビジネスを非難。それに対して、お約束のように「誰がお前たちを育ててやっているんだ」とAppleも反論するという、どこかで見た光景がすでにあったのです。
またSpotifyのように正面から堂々と非難せずとも、NetflixやAmazonはApp Storeによる手数料、巷では「Apple税」と呼ばれていますが、この徴収を回避するために自社で課金するルート(iOSアプリ上では課金・購入できない)を用意していますし、企業のみならずEUのような国家レベルにおいても、やはりAppleのビジネスモデルには問題があるのではないかという議論が進んでいるわけです。
総じて、Appleの「App Store」を巡る一連の係争を、単なる2社の対立というのは無理がある。かたやもっと自由にソフトを売りたい、かたやもっと独占的な見せ場を維持したい、双方の立場も意見も完全に食い違っていて、われわれが想像する以上にこの問題は複雑なわけです。どちらが勝った、負けたが問題ではないんですね。