LIFE STYLE | 2020/07/21

日本人の「正解が欲しい病」を克服する「教えない」という教育方法【連載】オランダ発スロージャーナリズム(26)

最近、移転したユトレヒトの図書館。歴史のある古い建物をリノベして市民に開かれた場所にするのはオランダの最も得意とするとこ...

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最近、移転したユトレヒトの図書館。歴史のある古い建物をリノベして市民に開かれた場所にするのはオランダの最も得意とするところ

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昨年、若くしてお亡くなりになった京都大学の客員准教授だった瀧本哲史さん。『武器としての決断思考』(星海社)『ミライの授業』(講談社)など数々の名著があり、麻布高校から東大に進学し、マッキンゼーに就職し、多くの企業再建に携わり、投資家としても活躍していた、文字通り日本の知能そのものである瀧本さんが東大で20代以下を対象に行ったという伝説の講義というのがあります。

2012年6月30日、東京大学の伊藤謝恩ホールにて行われた、その講義は、生徒の参加資格を29歳以下に限定したもの。当時すでに20歳代ではない筆者は、当然、この講義のことを知る由もなく、実はこの講義のことを知ったのもごく最近のことでした。

筆者の理解では、この講義は将来に大きな可能性を秘めた若者向けに、彼らが中心となっていかにして良い日本を作れるのか? 若者がどういう考え方で生きていくと、日本が良くなるのか?といったことが話された内容で、若い世代の力で日本の未来を作るために参加者には「宿題」が託されました。そして、その答えを持ち寄るのが、この講義のあった8年後の2020年6月30日で同じ場所での再会を期して締められたのでした。

しかし瀧本さんがお亡くなりになってしまい、またコロナ禍であったこともあり、実際に同じ場所での再会は実施されなかったようです。その代わり当時の講義を再現した書籍『2020年6月30日にまたここで会おう』(星海社)とそのオーディオブックが発売されるにあたり、期間限定で全文を無料公開、また6月30日限定でYouTubeにてオーディオブック音声も無料公開されました。それ故に、筆者もその内容を知ることになりました。

吉田和充(ヨシダ カズミツ)

ニューロマジック アムステルダム Co-funder&CEO/Creative Director

1997年博報堂入社。キャンペーン/CM制作本数400本。イベント、商品開発、企業の海外進出業務や店舗デザインなど入社以来一貫してクリエイティブ担当。ACCグランプリなど受賞歴多数。2016年退社後、家族の教育環境を考えてオランダへ拠点を移す。日本企業のみならず、オランダ企業のクリエイティブディレクションや、日欧横断プロジェクト、Web制作やサービスデザイン業務など多数担当。保育士資格も有する。海外子育てを綴ったブログ「おとよん」は、子育てパパママのみならず学生にも大人気。
http://otoyon.com/

奴隷とは「ものを言う道具」

この講義の中で、古代ギリシャの哲学者であり、西洋で最大の哲学者の一人であるアリストテレスが「奴隷とは何か?」と聞かれて、その答えとして「ものを言う道具」と言った、という話が紹介されます。

そして現代は「ものを言う道具」の人が多いのではないか?「ものを言う人間の形」をしているものの、自分の頭で考えない人が多いのではないか?と続きます。

瀧本さんは、講義の中で「自分の頭で考えてない人があまりに多いので、そういう人を人間にしなきゃいけないという問題意識が強くある」、「現代社会では、しっかり自分の頭で考えられない人間は、コモディティ(替えのきく人材)として買い叩かれる」とも言っていました。

さてさて、この言葉を胸に昨今のコロナ・パンデミックにおける世界の対応を見てみると、いろいろと思うところがあります。

世界は今、COVID-19という人類が初めて直面する未曾有の危機の真っ只中にいます。これは文字通り前例がない事態で、とにかく我々人間は、今与えられたこの試練に対して何とかして打ち勝たなければならないのす。

人類は英知を集結して、これ以上、感染が広がらないように各国がロックダウンを行い、医療従事者の献身的な看護やワクチンの開発が行われています。またみんなが、コロナに対応すべく、マスクやフェイスガードを身につけたり、こまめな手の消毒などを行っています。

とはいえ、ワクチンの開発もまだ時間がかかる見込みの上、国よっては第二波に見舞われていたり、そもそもまだまだ第一波で感染拡大中という国もあります。

こうした時、我々一人一人が、自分の頭を使って考えなければ、感染拡大は一向に収まらないでしょう。とにかく、人に言われたことをそのまま鵜呑みにするのではなく、自分で調べたり、確認したりしながら、最適な方法を取らなければなりません。

もちろん、専門家が科学的根拠に基づいたアドバイスをしてくれたり、専門家会議が開かれて対策が練られたりもします。こういうことは各国当然行っていますが、しかし最終的にそうした情報を判断するのも、また自分です。自分で判断するためには、考えなければならないのです。

子どもの時から「考える」癖がつけられるオランダの教育

昔ながらのサッカーゲームに真剣に興じる子どもたち

さて、オランダに住んでいて実感するのは、人々の「考える力」の高さです。これはおそらく、子どもの時から、学校で繰り返し繰り返し行われているからだと思います。というより、こちらの学校では、ほとんどこれしかやりません。

日本のように「与えられた正解」を「覚える」という形の勉強が極端に少ないのです。

日本でも最近はプロジェクト学習の導入などで変わってきているかもしれませんが、当時と今の学校のスタイルが大して変わっていない、ということもよく聞きます。このコロナ禍で、日本ではなかなかオンライン学習に移行できなかった理由として、制度やシステム、そしてハード面の話もありますが、結局「チョーク&トーク」スタイルの移行ができないから、という理由もよく聞きました。

この「チョーク&トーク」では、全く「考える力」は身につかないのです。オランダの学校は、極端にいろいろなスタイルがあるため一括りにするのは難しいのですが、それでも多くの学校ではあまり「チョーク&トーク」は行われていないのではないか?と思います。

では、実際どんな授業が行われているのか?というと、自由研究的なことが非常に多いのです。それこそ、日本では夏休みにやるような自由研究スタイルです。例えば「食」というテーマであれば、食材について調べる子もいれば、料理、例えば「寿司」について調べて、発表して、ついでにみんなで一緒に作って、試食もする、みたいな感じでしょうか。

もちろん、全部の授業がこういうスタイルというわけではありませんが、それでも非常に多くの時間が、こうしたプロジェクト学習に割かれています。

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