2020年3月、『マリフアナ青春治療』(KKベストセラーズ)という本が出版された。
著者の工藤悠平氏はコンサルティング会社出身で公認会計士を目指していた、大麻カルチャーとは無縁のいわば「ふつうの人」だ。同氏が試験直前のある日、頚椎ヘルニアの激痛に苛まれ、大量の薬を服用するも効果は薄く、日常生活すら困難になってしまった。ところが藁にもすがる思いで渡米し大麻を使用したところ、嘘のように痛みが引いたことから、治療も兼ねて同じく大麻が合法なカナダに移住するまでを描いたルポ本である。
日本ではカルチャー的、あるいは合法化された国のビジネス的な側面で大麻を描いた本・雑誌は数多く存在するが、医療的な側面を描いた本は医者・学者によるものが数冊存在するだけ。まさに“異色の1冊”である。
大麻は世界中で医療用の研究すら禁止だった時期も長く、研究はまだまだ発展途上である(日本でもようやくこの数年で研究自体は可能になってきた)。大麻由来の成分が緑内障やてんかんなどの治療に効果があったという人も少なからずいるが、科学的には「この病気に効くと書かれた論文がある」「いやこの論文だと既存の薬以上の効果を得られたとは書かれていない」などの議論が今なお激しく交わされている。
ただ日本の場合、「ダメ。ゼッタイ。」のかけ声のもと、覚醒剤やヘロインなど危険性の高い薬物と一緒くたにしてシャットアウトしてきた経緯があり、「そもそも大麻とはどんなものなのか」ということが全くと言っていいほど知られていない。
今回のインタビューでは「工藤氏にとっての大麻とは何だったのか」という話をうかがった。
聞き手・文:神保勇揮
工藤悠平
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1986年生まれ。青森県むつ市出身。実業家。投資家。 早稲田大学大学院会計研究科(英文学位: MBA) 修了後、事業再生コンサルタントを経てカナダへ移住。カナダ政府、難民保護課。Decision Maker(Member) 『マリフアナ青春治療』が初著書。
医療大麻とはなにか
工藤氏が医療大麻を使用する前に服用していた薬の数々。糖尿病薬はこのうちの1つのみで、それ以外はすべてヘルニアのための薬だった
―― 工藤さんが医療大麻を使うようになったきっかけを教えてください。
工藤:3年前、事業再生コンサルタントの仕事を辞め、公認会計士を目指して勉強していたんですが、試験直前になって身体に違和感があり、すぐに動けなくなってしまいました。病院に行ったら頚椎ヘルニアだろうと。その後の検査でさらに糖尿病、大腸の悪性ポリープ、腰椎ヘルニアも見つかり、糖尿病で入院することになりました。
特に痛みが酷かったヘルニアは日本で利用できる薬・治療ではどうしても治らず、またアメリカなどで中毒が社会問題になっているオピオイド系の薬が多く処方されていたという不安もあり、他の治療方法を調べていたところ、医療大麻の存在を知りました。医者に聞くと「合法の国で使う分にはOK」とのことでしたので、すぐに行く準備を始めました。
工藤氏が足を運んだラスベガスの大麻販売店(ディスペンサリーと呼ばれる)
―― 書中ではまず短期滞在のアメリカで、そしてカナダのバンクーバーに語学留学をしていた際のエピソードが記されています。医療大麻は外国人でも普通に買えるものなのでしょうか?
工藤:私が2018年にアメリカのラスベガス(17年に解禁済。それ以前から医療目的の利用は解禁されていた)に行った際は、日本で英訳してもらった診断書を持参したんですけど、アメリカ国民でなければ保険適用はされなくて。ただ嗜好用大麻と比べて効果に違いがあるわけではなく、私も嗜好用のものを購入しました。その時は1グラムのジョイントで15ドルでしたね。カナダでも保険適用がされれば3分の1ぐらいの値段で買えるらしいのですが、やはり外国人には適用されないようです。
あと、最初にお伝えしておくと、「医療大麻」というのは薬として存在するのではなく、「病や痛みの治癒・緩和を目的として大麻を利用する」という行為を指すものなのです。最近アメリカやカナダでは「医療大麻」という言葉自体が使われなくなりつつあります。
―― それはどういうことですか?
工藤:日本でも「セルフメディケーション(自主服薬。軽微な不調は自身で症状を判断し、市販の医療製品を使用して手当てすること)」という言葉が広がりつつありますが、簡単に言ってしまえば健康食品を使った民間療法のようなものです。
例えばオロナインのような痛み止めクリームがあります。ドラッグストアではなく大麻関連ショップで売っているもので、陶酔作用の無いものはデパートなどでも売っています。陶酔作用がある製品でも「塗りすぎると酔っ払ってしまう」という程度であり、「これは薬物なのか」と聞くと笑われてしまいます。