CULTURE | 2020/05/04

ゴールはベルトにあらず。そう遠くない引退に向けて、僕がもっとも恐れていること【連載】青木真也の物語の作り方〜ライフ・イズ・コンテンツ(6)

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15年以上もの間、世界トップクラスの総合格闘家として、国内外のリングに上り続けてきた青木真也。現在...

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15年以上もの間、世界トップクラスの総合格闘家として、国内外のリングに上り続けてきた青木真也。現在はアジア最大の「ONE」を主戦場とし、ライト級の最前線で活躍。さらに単なる格闘家としての枠を超え、自ら会社を立ち上げるなど独自の活動を行う。

そんな青木は、自らの人生を「物語」としてコンテンツ化していると明かす。その真相はいかに? 唯一無二の価値観を貫く異能の格闘家の連載がFINDERSでついに始まる。

聞き手:米田智彦 構成:友清哲 写真:有高唯之

青木真也

総合格闘家

1983年5月9日生まれ。静岡県出身。小学生の頃から柔道を始め、2002年に全日本ジュニア強化選手に選抜される。早稲田大学在学中に、柔道から総合格闘技に転身。「修斗」ミドル級世界王座を獲得。大学卒業後に静岡県警に就職するが、二カ月で退職して再び総合格闘家へ。「DREAM」「ONE FC」の2団体で世界ライト級王者に輝く。著書に『空気を読んではいけない』(幻冬舎)、『ストロング本能 人生を後悔しない「自分だけのものさし」』(KADOKAWA)がある。

揺らぐチャンピオンベルトの価値

戦う目的を考えた時、僕は少なくとも今、チャンピオンになりたい、ベルトが欲しいという目標を最優先には考えていない。それよりも試合に向けたプロセスや、日々の取り組みのクオリティを上げること。僕はここに重きを置いている。

語弊を恐れずに言ってしまえば、チャンピオンベルトやその称号というのは所詮、他人が作った価値にすぎない。自分ではない誰かが作ったニンジンをぶら下げられて、そこに向かって邁進するのは、まるで他人にコントロールされているようでどうにも気持ちが乗らないのだ。

実際、最近のボクシング界では、チャンピオンの地位の低下が顕著だ。認定団体が増えたことでチャンピオンが乱立し、ベルト自体の存在意義ははっきりと薄まりつつある。そのためトップ選手の多くは、チャンピオンベルトを手にすることをスタートラインと捉え、それを切符にいかに大きな試合をこなしていくかを考えている。チャンピオンになることがゴールであった時代を思えば、これは隔世の感がある。

ベルトを持っているか否かよりも、その選手の実力やタレント性で評価される世界は、ある意味健全だ。3年前にフロイド・メイウェザー・ジュニアがコナー・マクレガーとボクシングの試合で対戦し、世界的な話題を集めたことがあったが、巨額のファイトマネーが動いたこの一戦は、タイトルマッチでも何でもない在野のノンタイトル戦に過ぎなかった。これなどは、地位より選手の価値がものを言った好例だろう。

もちろん、チャンピオンになれば少なからず注目を浴びることになるし、周囲からちやほやもされることも多くなる。それは競技で身を立てる上で大切なことなのかもしれない。しかし、僕自身の経験を鑑みても、そういう時期に近付いてくる人間を無闇に信用するのはリスキーだし、どのみちベルトを手放せば去っていく連中だと考えた方が無難だ。

だからこそ、戦うプロセスにおいて、いかにコツコツと己を磨くことができるかを僕は重視したいと考えている。

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