CULTURE | 2020/03/24

週刊文春にリークするぞと、卓球・水谷隼を恐喝!逮捕された大学生が突然、共犯女性に愛の告白【連載】阿曽山大噴火のクレイジー裁判傍聴(11)

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阿曽山大噴火
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阿曽山大噴火

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月曜日から金曜日の9時~5時で、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。パチスロもすでにプロの域に達している。また、ファッションにも独自のポリシーを持ち、“男のスカート”にこだわっている。

被告人がニヤニヤ笑っていた理由

今回は、卓球日本代表の水谷隼選手が女性AとLINEのやりとりをしていることを理由に、男子大学生のH被告とI被告がAの交際相手を名乗って、週刊文春にリークすると脅し、金銭を要求した恐喝未遂事件の裁判レポートの後半戦。Aは被告人たちの共犯者であるにも関わらず、名前を明かさずに進行すると決定したはずだったが、I被告が思わずAの苗字を口走ってしまった。それを見ていたH被告はニヤニヤ。では、早速、前回の続きから。

検察官「弁護人からの質問中、ニヤニヤしてたのはなぜですか?」
H被告人「〇〇〇さんと言ってしまったので」

ん? この被告人、わざとやっているのか?「Aさんの苗字を言ってしまったので……」ではなく、またここで名前を言うなんて。匿名で審理すると決めているのに、うっかり口に出してしまったら恥ずかしくて笑ってしまう気持ちはわかるけど、こうなってくると共犯者の名前も出してやったぜという満足げな笑みにも思えてきますね。

検察官「I被告人の力になりたかったと。それは善意なんですか?」
H被告人「最終的にはお金を要求したので、善意とは言えないと思います」
検察官「I被告人の方からリークして欲しいって言われたんですか?」
H被告人「話が進んでいくうちに、そういうことに……」
検察官「お金取れるのか? というのは?」
H被告人「話の流れからですね」
検察官「どっちから言い出したの?」
H被告人「取調でも詳しく憶えていないと言いました」

2人でしゃべっている間に盛り上がったんでしょうかね。言葉に出さなくとも、「これは金になる」という共通認識。期待値と共に気持ちも高まってたのかもしれませんね。余談だけど、週刊誌の記者の人の話だと、基本的にネタをお金で買うということはないって言ってたけどなぁ。大ネタだと話は違うのかもしれないけど。なんだろうか、ネタが高額で売れるという妄想は。

検察官「弁護士と電話した後に、週刊誌の方に行ったり、I被告人と相談したり、いろいろ動いてますよね?」
H被告人「はい」
検察官「恐喝になるって言われて、やめようとは思わなかったんですか?」
H被告人「力になりたい、自分のプライドで最後までやりたいと」
検察官「プライドを満たすため?」
H被告人「お金を取るのは難しいとわかり、それならリークした方がましではないかと」

世に知ってもらうべきと考えたってことですかね。当時の被告人の正義感というか。

検察官「振り返って、どう思いますか?」
H被告人「水谷さんには申し訳ないし、自分の行動が信じられないです」
検察官「信じられないって言ってるけど、こういうことやるのホント初めて?」
H被告人「初めてです」
検察官「弁護士と話したり、マスコミと話したりしてるけど、すぐできた?」
H被告人「はい」

これ以上の追及はなかったけど、検察官としては手馴れてるよねぇと匂わせて質問終了。

誘導尋問に流されまくるも、共犯女性への想いは一途

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次は、I被告人への質問。まずは弁護人から。

弁護人「なぜやったんですか?」
I被告人「怒りだったり、お金欲しさです」
弁護人「怒りって?」
I被告人「水谷さんとAさんの関係です」
弁護人「他に手段あったのではないですか? Aさんに店を辞めてもらうとか、関わりをやめてもらうとか」
I被告人「そこまで思いつきませんでした」

先に考えそうなことだけど、それより恐喝の方が頭に浮かんだんですね。

弁護人「やってしまった原因って何でしょう?」
I被告人「人に頼って何もできないところがあって、そこから来ていると思います」
弁護人「流されやすい性格なのかな?」
I被告人「人生、ダメなところを見極めていきたいです」

質問と答えがちょっとかみ合ってないんだけど、H被告人のアイデアに流されてしまったということでしょうかね。

弁護人「被害者に対して、どう思っていますか?」
I被告人「水谷さんに対して精神的ダメージを与えてしまったという気持ちがあります」
弁護人「示談の方は?」
I被告人「ダメでした……」

相当怒っているってことなんでしょう。

弁護人「ちなみに今、大学は?」
I被告人「裁判の結果が出てから、処分を受けることになります」
弁護人「辞めるの? 続けるの?」
I被告人「辞める方向で考えています」

処分を待たずに自主的に大学には行っていないそうです。そこはH被告人と真逆ですね。

続いて、検察官からの質問。

検察官「H被告人とね、大学の対応というか状況が違う理由って、わかります?」
I被告人「大学と話し込めているかどうかです」
検察官「今、大学には行ってないんだよね?」
I被告人「岐阜に帰っているので行ってません」
検察官「大学と話はしました?」
I被告人「はい。電話でも、直接大学行っても」

主犯であるH被告人の処分の方が軽いので、検察官としては納得いってないみたいですね。

検察官「事件の確認だけど、週刊誌に持っていくって言いだしたのはどっち?」
I被告人「憶えてないです」
検察官「お金取れるって言いだしたのは?」
I被告人「憶えてないです」
検察官「警察での取り調べだと“Hから”って答えてるみたいだけど」
I被告人「あぁ、そうかもしれないです」

やっぱり流されやすい性格なんですね。検察官の誘導する方へ素直に流れていきます。

検察官「Aとの関係は?」
I被告人「んー、今のところ、関わるのは考えてないです」
検察官「じゃ、別れてそのままにすると?」
I被告人「……えー……、そう、考えー……てます……」

明らかに流されてしゃべっている感じ。すかさず、検察官「言い澱んでるんですけど?」

I被告人「ボク自身、気持ちが残ってて……」
検察官「要するに……好きってこと?」
I被告人「はい、好きです」

と、この場にいない共犯者に愛の告白です。この事件で動いてたのは確かにH被告人なんだけど、元々の発端は、I被告人のAに対する嫉妬心が火種ですからね。Aを想う気持ちはそう簡単には忘れられるものではないんでしょう。

差が出た被告人2人の判決

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そして、最後に、

検察官「ことの真相はさておき、あなたが水谷さんからお金を取れる立場にないってわかりましたね?」
I被告人「はい」

Aとよりを戻すことが前提の質問でしょ。また付き合うことになっても悪いことするなよという意味でしょうかね。

裁判官からは、

裁判官「大学辞めるってのは、保釈されてから考えたんですか?」
I被告人「はい」
裁判官「両親は了解してくれてるの?」
I被告人「はい」

と、大学のことを確認して質問終了でした。

この後、検察官の論告。H被告人が立案した首謀者で、I被告人は共犯者を引き込むのに重要な役割だったと指摘して、H被告人には懲役2年を求刑。I被告人には懲役1年6月を求刑していました。2人とも同じ求刑じゃなく、差をつけるという判断。

一方、弁護人は、2人とも若くて前科もなく、反省しているし、実名報道によって社会的制裁も受けているということで執行猶予付きの判決をお願いしていました。

この初公判から約3週間後の2月27日。2人に判決が言い渡されました。結果は、H被告人が懲役2年執行猶予4年で、I被告人が懲役1年6月執行猶予4年。初犯ということもあって実刑は免れました。それにしても、執行猶予が切れるのは次のオリンピックの年なのか。なんとも皮肉な判決だな。