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ヒプマイは20年代に世界を制するコンテンツになる!?西寺郷太が語るヒプノシスマイクという「スタイル」の魅力【連載】西寺郷太のPop’n Soulを探して(17)
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  • 2020.01.29
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ヒプマイは20年代に世界を制するコンテンツになる!?西寺郷太が語るヒプノシスマイクという「スタイル」の魅力【連載】西寺郷太のPop’n Soulを探して(17)

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いま最も勢いのある二次元コンテンツのひとつ「ヒプノシスマイク」。

全18名の有名声優たちが、渋谷や新宿、大阪や名古屋など各地域に別れた6つのディビジョン(チーム)に分かれてラップバトルを繰り広げるという内容で、CD・ライブでの展開を中心にコミカライズ、アニメ・ゲーム・舞台など今後展開予定のコンテンツも含めてメディアミックスも多彩。楽曲提供陣はZeebra、Creepy Nuts、サイプレス上野などなど、現役で活躍するヒップホップアーティストを多数起用。リリックやキャラ設定などにも国内外のヒップホップ名盤や有名ラッパーからの引用がてんこ盛りで、元ネタを辿っていくうちにヒップホップそのものも好きになっていく…という仕掛けが満載です。

そんなヒプノシスマイクになんと西寺郷太さんが楽曲を提供。昨年12月25日にリリースされた、イケブクロ・ディビジョンBuster Bros!!!の新作『Buster Bros!!! -Before The 2nd D.R.B-』の1曲目「Break the wall」として収録され、オリコンチャート1位を獲得。今語るならこのテーマしかない!ということで、郷太さんに「ミュージシャンから見たヒプノシスマイクの魅力」を語っていただきました。

聞き手:米田智彦 構成:久保田泰平 写真:有高唯之

西寺郷太(にしでらごうた)

1973年、東京生まれ京都育ち。早稲田大学在学時に結成し、2017年にメジャー・デビュー20周年を迎えたノーナ・リーヴスのシンガーにして、バンドの大半の楽曲を担当。作詞・作曲家、プロデューサーなどとしてSMAP、V6、岡村靖幸、YUKI、鈴木雅之、私立恵比寿中学ほかアイドルの作品にも数多く携わっている。音楽研究家としても知られ、少年期に体験した80年代の洋楽に詳しく、これまで数多くのライナーノーツを手掛けている。文筆家としては「新しい「マイケル・ジャクソン」の教科書」「ウィ・アー・ザ・ワールドの呪い」「プリンス論」「ジャネット・ジャクソンと80’sディーバたち」「伝わるノートマジック」などを上梓。TV、ラジオ、雑誌の連載などでも精力的に活動し、現在、NHK-FM「ディスカバー・マイケル」にレギュラー出演中。小説「90's ナインティーズ 」を文藝春秋digitalにて開始。

自分のツイートでさえ相当な反響

米田:昨年暮れに、郷太さん作曲のヒプノシスマイクの新作が出ましたね。Buster Bros!!! のアルバム(『Buster Bross!!! -Before The 2nd D.R.B-』)は、2020年代最初のオリコンアルバムウィークリー(1月6日付)1位にもなりました。すごい!

西寺:僕が書いた「Break the wall」が1曲目だし、素直に喜んでます(笑)。

米田:郷太さんにとっては初の1位……ではないですよね。

西寺:アルバムチャートということでは中島美嘉さんの『LØVE』(西寺郷太作曲「You send me love」収録)がありますけど、今回のBuster Bros!!!はアルバムと言いながら全4曲なのでシングルっぽくて。

米田:ドラマのトラックが入っているので尺はアルバムですけど、純粋な収録曲ということでは3曲ですからね。

西寺:シングルでは2位とか3位が多かったんですよね。V6の「Sexy.Honey.Bunny!」だとAKB48の「フライングゲット」と発売日が同じだったりとか。なので、今回のBuster Bros!!!を変則的にシングルと捉えるなら、初めての1位ですね。だから、実際に今まで僕が関わってきたものの中でも、最大の影響が自分に返ってきてますよ。

米田:やはり!そうでしたか。

西寺:たとえば、チャートが発表されてすぐに「来た!2020年代最初のオリコンアルバムウィークリー首位」っていうのをツイートしたら、3日で1669リツイート、7754いいねされてるんですよ。

ツイートアクティビティも77万4500で、エンゲージメントが7万2576っていう、僕の中でも結構デカくて。ジャニーズの仕事でも1000ぐらいいくんですけど、ジャニーズ楽曲はネットで拡散できないものも多いのでもったいないなと思うこともあって。「Break the wall」はYouTubeにリリックビデオが上がっていて、ティザーで120万再生とかいってるし、ストリーミング・サービスにも入ってるから、世界中に聴かれてる……っていうことを考えると、少なくとも自分がシングル的に作った曲の中では、今までで一番のインパクトだなって思うし、ヒプノシスマイクに関して言うと、まだ全然スタート地点もいいところっていうか。

ヒプマイは2020年代にグラミー賞を獲れる!?

米田:そんな感じですね。世間的にもいよいよ今年からさらにブレイクっていう感じじゃないですか。

西寺:マラソンで言ったらスタート直後のトラックを勢いよく走ってるみたいな、その時点でぶっちぎってるみたいな感じなので、だから、僕がどうこうっていうより、いいタイミングで山田一郎(Buster Bros!!!のリーダー)に関わられたっていうのはうれしいです。3月にはメットライフドーム2デイズって。レーベルの人たちがいろんなこと考えてると思うんで、僕が言うのもなんですけど(笑)、2020年代半ばまでにグラミー賞も獲れるコンテンツじゃないかなって真面目に思ってて。

米田:可能性として、ないこともないんじゃないですか。クールジャパンの最先端としてぜひ獲ってほしいですね。

西寺:ビリー・アイリッシュも18歳になったばかりでグラミー賞主要4部問独占ですからね。ネットやストリーミングありきのスピード感ですもんね。そして、どんなことだって1年、2年で劇的に、あっという間に変わることを示した結果だと思ってます。

その昔、白人がラップするっていうことが否定されていた時代があって、その中でアイドル的なニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックや、一発屋ヴァニラ・アイスが出て大ヒットしたり。「ヒップホップ」の始まった歴史的経緯、ニューヨーク周辺の黒人文化発祥だということにこだわる人たちをも納得させたのは、本格派エミネムの登場が決定打になったんでしょうか。その後は、白人がラップをするのもいまでは当たり前のようになって……っていうところで、音楽ジャーナリストの宇野維正さんは、ヒップホップをラップ・ミュージックって呼ぼうって言ってるんですよね。

米田:ルーツから考えると、アメリカの黒人以外のラップ・ミュージックをヒップホップと呼ぶべきか否かという議論もありますもんね。

ヒプノシスマイク世界展開の可能性

西寺:もちろん「ヒップホップ」という文化が素晴らしいことはわかるんだけど、それはブルックリンだったりニューヨーク近辺の黒人たちから始まったもので。90年代はLAの「ヒップホップ」は邪道だみたいなバトルがあったり、南部のアトランタからアウトキャストやTLCやジャーメイン・デュプリなんかが出てきて。

でまあ、たとえば日本とかアジア、アラブとかヨーロッパでは、ヒップホップっていう言い方じゃなく「ラップ・ミュージック」って呼び方でいいんじゃないか、と。もうすでに何十年もそれぞれの地に根付いてますし。アラブの人はアラブのやり方で、日本人は日本のやり方で成熟してきた、それでいいと思うんです。で、僕が思うに、日本人の武器を使って世界を制しようと思ったら、「ヒプノシスマイク」の形は相当強いんじゃないか、と。トラック、ラップ、そして「アニメーション的」な世界観の融合。

米田:そうなんですよね。日本のコンテンツを世界で戦わせるには今のところ、このやり方がベストだなって気がしますね。

西寺:「Break the wall」でも“見てみたいと思わないか? その先にある未開の地 ユートピア”って山田一郎が言うんですが、このキャラクターがいれば、それぞれの国の言葉でラップ部分が変わっていくのもアリだと思うんですよ。あくまでも個人的な感想ですけどね。

山田一郎の声を担当する木村昴君は「ジャイアン」の声でも知られた日本を代表する声優さんですけど、英語もしゃべれるので強い。そういう意味でいうと、木村君であれば本人が世界と対峙出来る。広げ方のパターンが無限。

米田:メディアミックスの可能性という部分でもヒプノシスマイクは如何様にもできますよね。アニメもできるし、映画にもゲームにもできるし、舞台もできる。

西寺:もちろんそれぞれの声優さんに熱いファンがついているんですが。だからこそ、10年経っても山田一郎は山田一郎であり続けられる強みも大きい、ある種ディズニー的に、永久的に持っていける。ミッキーマウスみたいなものを日本から世界に発信できる可能性があるんですよね。まあ、ポケモンやドラえもんみたいなものもあるんですけど、ヒプノシスマイクは音楽と連動しているものだし。

僕は今までも「ユーリ!!! on ICE」のエンディングテーマ(You Only Live Once)で作詞をしたりとか、尾崎由香さんや花澤香菜さんだったり、アルバムの中の一曲として声優さんとの仕事もあったんですけど、それらと「Break the wall」の最大の違いは、演奏がノーナってことなんですよ。

米田:ですよね!聴いた時、そうなんじゃないかと思いました(笑)。

西寺:曲を依頼されたとき「ノーナの『今夜はローリング・ストーン』みたいなことがやりたいんです」って言われて。

米田:RHYMESTERとやってる曲ですね。

西寺:あの曲は去年の2月に配信して、3月に出した『未来』っていうアルバムにも入ってるんですけど、冨田謙さんにバンジョーを弾いてもらってて。僕が出したアイデアなんですけど、宇多丸さんも「それおもしろいね!」ってノッてくれて。

カントリーとヒップホップの融合(をいち早く取り入れた「今夜はローリング・ストーン」)

米田:カントリーとヒップホップの融合!!

西寺:そう。それで、また今年のグラミーの話になりますけど、リル・ナズ・Xの「Old Town Road」っていう曲がレコード・オブ・ジ・イヤーにノミネートされていて。結局、ビリー・アイリッシュに負けてしまいましたが。

米田:TikTokでもバズった曲ですよね。

西寺:そう、みんなカウボーイとかカウガールの格好してね。で、当時19歳だった若者が書いたこの曲の新しさっていうのは、ヒップホップとカントリーを混ぜたところにもあって。カントリーチャートをものすごい勢いで上がっていったんですけど、ビルボードの人が「こいつは黒人だし、ヒップホップじゃねえか」って言い始めて、一回カントリーチャートから外したんですよ。

米田:それは保守的すぎますね。

西寺:そこで登場したのが、カントリーミュージック界のスターであり、マイリー・サイラスの親父さんであるビリー・レイ・サイラスで。「これがカントリーじゃないって言うんならオレが歌ってあげるよ」って。それでまあ、彼をフィーチャーしたリミックスを出したら、当然のごとく本物のカントリー・シンガーが歌うわけでカントリーチャートに戻さざるを得ない。今のネットの空気ってそういう「権威の横暴」に立ち向かう物語が好きじゃないですか。救世主が現れた、みたいな話。それも含めて勢いが増して結果的にビルボードのHot100では4月から8月までずーっと1位。

米田:ものすごいヒットですよね。

西寺:カントリーって、グラミー賞の中継を観てても、正直、僕ら日本人からしたら一番興味がないところじゃないですか?仮に集中して観ていたとしても、カントリーの時間帯になったらトイレ行こうかとか、コーヒー淹れようかって(笑)。今回は、カントリーチャートとヒップホップの、いわば白人のおじさんおばさんが好きなものと、黒人中心に若者が好きなものが合体したわけですよね。

米田:なかなか相容れないところをやったと。

西寺:とはいえ、こうやってジャンルでファン層を分けて語るのもこれからはナンセンスなのかなとも。まさにマイケル・ジャクソンはその点に怒りを感じて「キング・オブ・ポップ」と名乗ったわけで。R&Bとか、ラップとか、アーバンとかってジャンルを黒人や有色人種のために別に作って受賞させている、タイラー・ザ・クリエイターもこの現状自体が「Nワード」と同じなんだってコメントしていましたね。「ポップ」でいいじゃないか、と。ライターの池城美菜子さんがツイートされていて知りましたが。

あと黒人の中にも、隠れカントリー・ファンって多かったと思うんですよ。っていうのは、ちっちゃい頃に聴いてた音楽ってみんな好きじゃないですか。僕だっていわゆる1980年代のアメリカやイギリスのポップソングが好きなのはまったく同じ理由です。たとえばマイケル・ジャクソンのお母さんとかの世代になると、黒人もカントリーが好きなんですよ。なんでかっていうと……。

米田:黒人の音楽を流すようなラジオ局とかテレビがなかったからですよね。

西寺:そうなんですよ!ロックンロールをエルヴィス・プレスリーが黒人から学んだように、カントリーもね、そもそも黒人も一緒に作った文化なはずがなぜか白人だけのもののように思わされてきたという歴史があって。アメリカで生まれた音楽は黒人と白人の音楽の融合が最大のポイントですから。なのに、これまで黒人がカントリー好きだとか黒人ミュージシャンが衒いなくカントリーを導入すると「白人に魂を売ったのか」って。

それが、リル・ナズ・Xぐらいの2000年前後生まれの世代になると、そういうのどうでもいいよ、みたいな。で、4月から1位を続ける大ヒットになるんですけど、僕が言いたいのは、そのヒットの前にカントリーとヒップホップの融合を「今夜はローリング・ストーン」で俺も果たしていたよっていう話で(笑)。

米田:いや〜長い前ふりでしたね(笑)。

西寺:自分にとって大切な2019年の流れなんで。ヒプノシスマイクの最初の段階で「『今夜はローリング・ストーン』をやってください」っていうふうに頼まれたので、意図的にこれまで確立したノーナ・サウンドを再構築する楽曲作りをしたっていうことなんです。

ヒップホップはファンクやディスコ含めたパーティ・ミュージックから突然変異的に生まれたわけです。主人公的存在である山田一郎=木村昴君がこのお正月の休みを使ってニューヨークに行ってて、ヒップホップが始まったっていう場所、聖地巡礼みたいのをツイッターに上げてたんで、それ見て「そうなんだよ、木村君!」って。そういう彼が「Break the wall」とラップするからこそ説得力が高まるわけで。

「黒人がカントリー?」ってことと同じで、ヒプノシスマイクは「日本人がヒップホップ? 日本人がラップ?」っていう意識を変えていくだろうし、ウソだろ?ってことがここ1、2年のあいだに起こればいいな、と真剣に思ってますね。`

おじさんたちが考えている以上に、みんな「良い音楽」を求めている

米田:そもそも、ヒプノシスマイクの企画を聞いたときはどういう感想を持ちました?

西寺:逆に聞こえるしれないですけど、映像の時代が一回終わるのかなっていう気もしてて。なにもかもYouTubeだっていう時代が2010年代に続いてたじゃないですか。絶対に“動く画”がないとダメだみたいな。でも、「Break the wall」にしても、YouTubeで公開してるヒプノシスマイクの画って、リリックビデオだから、キャラクターが動いてるわけじゃないんですよね。静止画が多い。あくまでも声優さんの「声」を中心として人気が出てる。もちろん、ライブで生身の声優さんがステージに出て行って盛り上がるっていうのはあるんだけど、それは副次的なもので、結局一番大切なのが“音”なんだという世界、それが凄いなと。

原点回帰とまでは言わないけど、“画”が絶対ないとダメって言ってたものに比べても、長続きするんじゃないかな。これからアニメも作られるし、それもパワーを増幅させることは間違いないんだけど、それが主じゃないっていう、それがヒプノシスマイクの強さだと思います。

米田:ファンの子たちも、単純にヒプノシスマイクにハマるだけじゃなくて、楽曲提供したアーティストを好きになったり、ヒップホップ自体にハマったりするっていう傾向も多いみたいですね。「フリースタイルダンジョン」が支持され続けているっていうのもありますし。

西寺:ヒプノシスマイクをきっかけにラッパ我リヤとかZEEBRAさん、Creepy Nutsを好きになる若者たちがかなりいるそうです。ノーナも聴いてみようっていう人も出てくると嬉しいですね。「Break the wall」はスタジアムでやることを前提に作りましたしね。そういう意味で、若い子たちに対してレベルを下げない、ナメちゃいけない、というか。僕は最初は歌謡曲、9歳ぐらいでいわゆる洋楽が好きになりましたけど、脳ミソがやわらかい、そういう若い世代が「Break the wall」およびヒプノシスマイクというこの入り口から、日本のヒップホップだけじゃなくいろんな音楽を知れるだろうなって感じてますね。


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