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地方共通の悲願「若者に観光してほしい」「移住・起業してほしい」を達成するために必要なこと【連載】「ビジネス」としての地域×アート。BEPPU PROJECT解体新書(5)
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  • 2020.01.22
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地方共通の悲願「若者に観光してほしい」「移住・起業してほしい」を達成するために必要なこと【連載】「ビジネス」としての地域×アート。BEPPU PROJECT解体新書(5)

2010年から16年まで継続的に開催された巡行型ダンス公演『踊りに行くぜ!! vol.9別府市中心市街地』で、観客が商店街を回遊する模様

構成:田島怜子(BEPPU PROJECT)

山出淳也

NPO法人 BEPPU PROJECT 代表理事 / アーティスト

国内外でのアーティストとしての活動を経て、2005年に地域や多様な団体との連携による国際展開催を目指しBEPPU PROJECTを立ち上げる。別府現代芸術フェスティバル「混浴温泉世界」総合プロデューサー(2009、2012、2015年)、「国東半島芸術祭」総合ディレクター(2014年)、「in BEPPU」総合プロデューサー(2016年~)、文化庁 第14期~16期文化政策部会 文化審議会委員、グッドデザイン賞審査委員・フォーカス・イシューディレクター (2019年~)。
平成20年度 芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞(芸術振興部門)。

中高年・男性・団体客ばかりの別府になぜ若者が訪れるようになったのか

海と山に囲まれた扇状地に無数の温泉が湧く別府の街には、戦前の建物が数多く残されています。その間を縫うように古い路地が網状に伸び、いつのまにか街の奥深くへと誘われていく。僕はそこで出会う風景と超個性的な人々に魅力を感じ、それをいつからか別府らしさと感じるようになっていきました。

BEPPU PROJECTの活動は、この街の魅力がなければ始まりませんでした。

2005年、BEPPU PROJECTは資金ゼロ、経験も人的ネットワークもまったくない状態で活動を開始しました。発足後まもなく、僕らは別府の街を紹介する小冊子を作りたいと考えました。まずはステレオタイプな別府のイメージを変え、僕らの感じた街の魅力をアーティストやそのファン層に伝えることが必要だと考えたのです。

その制作費を得るために挑戦した補助金申請のプレゼンテーションで、僕は審査員の1人に印象的なご意見をいただきました。

「アーティストや、アートファンにあたる若年層・女性・個人客は、そもそも別府の主要なターゲットになり得ないのではないでしょうか」

確かに、別府市旅館ホテル組合連合会の調査によると、当時別府を訪れていた観光客の大半は中高年・男性・団体客でした。しかし、その層に向けてはすでに十分別府のイメージは浸透していました。さらに5年・10年先を見据えると、若い層や女性にも別府の魅力を発信することが大切ではないか。であれば、別府の未来にとって必要なのは、これまでとは異なる手法での情報発信や、新たな市場開拓ではないかと考えたのです。

前回お話しした「platform」は、この考え方を加速するために重要な役割を担った事業の1つでした。

商店街の元菓子店をリノベーションしたplatform02は、アートギャラリーとして活用しました。地域の若手アーティストの発表の場となるよう、後にレンタルスペースとして安価に貸し出すと、地元アーティストによる展覧会や、県内工芸作家の展示即売会などが開催され、県内外のアートファンや若い女性客が訪れました。

platform03は、当初は大学の研究室が運営するコミュニティカフェ兼就労支援施設でした。その後、別府にある立命館アジア太平洋大学のゼミの分室として引き継ぎ、ブックカフェとして一般に解放し、地域の方々にも親しまれていました。

platform04は「別府の町のミュージアムショップ」というコンセプトのセレクトショップです。BEPPU PROJECTが関わるアーティストのグッズや、地域の工芸品・食品など、別府らしさが伝わる商品を取り揃え、今も営業を続けています。

「昼間・閑散期のコンテンツ拡充」に注力

platform紹介マップ(2011年時点)

このように、platformはアートスペースや、学生と街との接点、地域の情報発信や交流の拠点など、これまで別府になかった機能を有する場として、それぞれの活動を展開しました。

platformの誕生を境に、別府のイメージが変化しつつあると実感したこともありました。

まず、メディアでの別府の取り上げ方が従来とは明らかに異なってきました。それまでは旅雑誌や温泉の特集以外では取り上げられることの少なかった別府が、女性向けのファッション誌や、若年層が主なターゲットのテレビ番組や情報誌などで紹介されるようになったのです。

また、観光客の行動パターンにも変化が現れました。かつて別府に訪れる人々は、温泉旅館への宿泊を中心に旅程を立てて行動していました。しかし、platformの誕生以降、アートを目的に別府を訪れ、そのついでに街を楽しみ、温泉の魅力を知るというケースが増えてきたのです。

温泉というコンテンツを第一の目的として訪れる観光客は、より多くの体験を求めてあちこちの温泉地を巡ろうとします。つまり、あくまでも温泉の愛好家であり、必ずしも土地に根付くファンではないのです。そうではなく、まず別府のファンになってもらい、そこに温泉という強力な魅力があることを知ったなら、その価値はより強固なものになるのではないかと考えたのです。

platformが目指していたのは、歓楽街として認識されていた別府で、昼間の時間帯にいかに回遊してもらうかということでした。料飲店の多くは夕方からの営業です。夜は賑わう通りも、昼間はシャッターが閉じ、閑散としています。その時間を活用し、これまでと異なる街の楽しみ方を提供し、別府の魅力に触れるきっかけとすることがplatformの狙いでした。

platform01で開催した、アーティストが作ったおもちゃで遊べる「おもちゃの部屋」は、小さな子ども連れの女性やファミリー層で賑わった

現在、別府の旅館・ホテルの多くは個人客を対象としています。かつては閑散期とされていた2月・3月にも、卒業旅行らしい学生や、カートを引いた若い旅行客を多く見かけるようになりました。platform04としてスタートしたセレクトショップ「SELECT BEPPU」もまた、このシーズンは女性の個人旅行客で賑わいます。

2019年、別府の路線価は上昇しました。上昇地点も148地点と多く、その上昇率は県内一でした。その理由として観光業が好調であることが挙げられており、旅館・ホテルの新規開業が相次ぐなど、町の姿が変わり始めています。

今、別府の観光業における主要なターゲットは、15年前のあの審査員が想定していた層とは異なっているでしょう。あの日、あの言葉にヒントをいただいたからこそ、取り組むべき姿が見えてきたと考えています。

ただスペースを用意すれば上手くいくわけじゃない

platformの誕生からまもなく、民間もアートや文化の活動・発信のための拠点を作るようになりました。その代表的な事例が、2012年に生まれた「PUNTO PRECOG」です。

「PUNTO PRECOG」外観

ここは、東京でダンスや演劇などパフォーミングアーツのマネジメントやプロデュースをしているprecog代表の中村茜さんらが立ちあげたフリースペースです。期間限定で店舗を貸し出し、あるときはエスニック料理屋やカレー屋や喫茶店、あるときは洋服屋や帽子屋、またあるときは焙煎コーヒーの専門店やパン屋と、数カ月単位で次々に店主も業態も入れ替わります。出店者の多くが、その後別府で開業していることも大きな特徴です。

「PUNTO PRECOG」の出店者は、いつも街に新鮮な魅力や美味しいという感動をもたらします。それは中村さんたちが出店者の人選や、別府における経営や商品・サービスのアドバイスをすることで、体験をキュレーションしているからです。これまでに「青い鳥」「TANE」「バサラハウス」など、スパイスカレーを提供する人気店が「PUNTO PRECOG」から多く輩出されたことから、近年別府はカレーの街としてフィーチャーされることが増えてきました。

「PUNTO PRECOG」で出店し、のちに独立した「バサラハウス」のカレー

一般的にチャレンジショップは、商店街の活性化事業として公金を活用するものが多く、無料または安価な家賃で気軽にお試し出店ができます。しかし、全国的な事例をみても、チャレンジショップを活用して始まったビジネスが地域に根付くのは難しいのです。その大きな理由は、安価な家賃で出店を試みた人々にとって、期間満了後に通常額の家賃を払うことが困難だからです。

一方、「PUNTO PRECOG」の賃料は、別府の周辺相場と大差ありません。開業から7年が経ち、「PUNTO PRECOG」には、スペースそのものに感度の高いファンがついています。賃料をいかに抑えるかということよりも、そのお客様を対象にモニタリングができるということこそが、このスペースを活用する大きなメリットなのではないでしょうか。

出店者には県外の方も多く、移住も視野に入れながら、別府でビジネスを始めることに勝機があるか否かを見極めるために利用しているのです。

同様の事例は海外にもあります。その1つはポートランドのフードカートです。これはいわゆる屋台村のようなものですが、美食の街ポートランドの有名レストランの多くは、このフードカートから始まったとも言われています。いつもフードカートを利用している舌の肥えた地域住民が認める人気店となれば、どこで店を構えても大丈夫だと確信できます。

ポートランドのフードカート

もう1つ、海外の事例として東ロンドンの「トランペリー」をご紹介します。

1990年頃、僕はロンドンに住んでいたのですが、当時の東ロンドンは治安が悪いエリアでした。しかし、往々にしてそういう場所は、なにかのきっかけで面白くなる可能性を持っています。東ロンドンの場合は、地価の安さに着目した若い起業家やテック系企業がオフィスを構え始めていたのですが、2010年以降、ロンドンオリンピックの開幕に向けた整備計画によって、街の変化がますます加速していきました。

トランペリーは、いわゆるシェアオフィスです。2015年に大分県知事や経済団体とともに視察に行き、代表のチャールズ・アームストロングさんにお話を聞きました。

一般的なシェアオフィスは、シェアエコノミーの代表的な事例です。家賃を安く抑えることを目的に、1つの不動産を複数の人と共有します。この手法は起業まもない方々が利用することが多く、非常に合理的な考え方です。しかし、トランペリーのデスク使用料は1カ月あたり400ポンド(約5万7000円)と日本のシェアオフィスと比較しても高く設定されているにも関わらず、常にウエイティングを抱えているという状況です。これはなぜかと尋ねると、チャールズさんは2つのポイントを教えてくれました。

写真右手前がトランペリー代表のチャールズ・アームストロングさん

1つ目のポイントは、ビジョンへの共感です。トランペリーは「クリエイティビティが世界を変える」というビジョンを掲げており、それに共感していることが入居条件の1つなのだそうです。

2つめのポイントは、交流の場を上手く運営できていることです。トランペリーでは、共用スペースで毎週末にイベントを開催しています。アートパフォーマンスやDJイベントなど、トランペリーが選ぶ魅力的なイベントには、東ロンドン・ショーディッチ界隈の感度の高い若手起業家が集まります。起業家たちの交流の場に注目するのは投資家です。この場で投資家に見出され、資金面でのサポートを受けながら大きく成長した企業も多くあります。アメリカで非常に高いシェア率を誇るITを活用した教育プログラムも、トランペリーから生み出されたと聞きました。

これは、多くの人々とつながる交流の場であることに価値を見出せば、家賃以上のベネフィットを得ることができるという好例です。トランペリーは複数の不動産を同様の考え方で運営しています。

これらの国内外の事例を見ていると、重要なのは場所ではなく、いかにマネジメントするかであると改めて感じます。そこで求められるのは、「PUNTO PRECOG」を例に取るならば、目利きができ、かつその目利き能力自体にもファンがつくような人材が遊休物件と起業家の卵をマッチングして、地域に根ざすビジネスとして育てていくような、何かと何かをつなぐ編集能力と、何かを発見してキャスティングしていくキュレーション能力です。また、トランペリーのようにビジョンを語り、より良い未来を想像させる力も重要です。

BEPPU PROJECTは、別府市で見出した課題に向き合うことで、その解決策を考え、プロトタイプであったとしても、可能な限りスピード感を持って実施し、世の中に発信することを心がけています。

そして、そこから改善を重ね、真に目指すべきあり方を定めて磨きをかけていく取り組みを続けています。そこで自分たちの活動の意義や立ち位置を見つめ直すために、国内外の事例を視察することは重要だと考えています。

どこかのモデルをコピーして当てはめていくのではなく、独自に考え出した課題解決策を実践し、その結果にどのような意味があったのかをしっかり検証し、ブラッシュアップしていく。こうしてBEPPU PROJECTは別府市内にさまざまな活動のための場を生み出してきたのです。

次回は、platformを活用して開催したアートフェスティバル「混浴温泉世界」についてご紹介し、そのプロセスをより具体的にお伝えしたいと思います。


【BEPPU PROJECTからのおしらせ】

「CREATIVE PLATFORM OITA」報告会

大分でビジネスにクリエイティブを取り入れるお手伝いをする「CREATIVE PLATFORM OITA」では、これまでともに学び、交流する場を作ることで、県内の企業とクリエイターの出会いを促進してきました。

報告会ではこの事業がきっかけで生まれたプロジェクトを紹介するとともに、これからのビジネスとクリエイティブの関係性のあり方を考えるトークイベントなども開催します。

トークイベント『CREATIVE PLATFORM CAFÉ vol.13』
2020年3月6日(金) 16:00-17:30
会場:iichiko総合文化センター アトリウムプラザ(大分県大分市高砂町2-33)
参加費:無料
ゲスト:石川俊祐(株式会社 kesiki/Founding Partner)、井上裕太(quantum 最高投資責任者[CIO]/quantum GLOBAL Inc. CEO)
モデレーター:山出淳也 (CREATIVE PLATFORM OITA 編集長)
そのほか関連イベントを多数開催します。

詳細はこちら

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