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うなだれたPepper、誰も並ばないセルフレジ。小売店舗の誰得テクノロジーはなぜ導入され続けるのか。2020年代を生き残るための3つの提案
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  • 2020.01.17
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うなだれたPepper、誰も並ばないセルフレジ。小売店舗の誰得テクノロジーはなぜ導入され続けるのか。2020年代を生き残るための3つの提案

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竹井慎平

1987年兵庫県生まれ。大学卒業後、総合広告代理店に入社。医療用医薬品やOTC、消費財、テーマパーク、ショッピングモール、自動車などのマーケティングを幅広く担当。その後、IT企業に入社。企業ブランディングを中心に、統合的なコミュニケーション設計を行う。また、クライアントのPR、マーケティング、PoCなども請け負う。2020年より独立し、照應堂にて、企業への統合的なコミュニケーション設計支援を行っている。

「最新テクノロジーを導入しさえすればバラ色の未来」なんて来るわけがない

IoT、AI、デジタルトランスフォーメーション…さまざまなテクノロジーのバズワードが小売・流通企業を賑わせている。今も昔もそういうバズワードに夢を見るのは変わらないが、最近は2025年の崖の問題や少子高齢化による人手不足などの影響もあり、中期経営計画にテクノロジー関連のバズワードを入れて取り組むことを宣言している企業が増えている。しかし一方で、それらの取り組みがうまくいっていると言う話は滅多に聞かない。いや、例えば小売業界では「無人店舗に取り組み始めました!」と言うだけで、その界隈の人で行列になり一世を風靡したし、プレスリリースを出すだけで株価が上がることも往々にしてあるので、PRとしては大成功なのかもしれない。しかし、それって何か違うような気がするのは私だけだろうか。

店舗や市役所、駅などちょっと立ち止まって見回してみてほしい。隅でひっそりと佇むデジタルサイネージを見つけることができるだろう。同じように、スタッフのいるレジは大行列なのに、セルフレジには誰も並んでいなかったり、うなだれたままのPepparが受付にいたりと、日常生活でのいたるところで、失敗と言えるテクノロジー導入の現状を目の当たりにすることができる。あくまで想像だが、企業内部では「このテクノロジーを導入すれば従業員を何人削減できる」「何%の売上アップが見込める」などという合理的な理由とそれを裏付ける根拠のない数字がたくさん書かれた資料が稟議書として作られ、たくさんのハンコをつかれた後、GOサインが出たのだろう。非常に合理的な判断によって導入されたのに、結果は使われもせず、なんならそのテクノロジーのメンテナンスやお客様への案内などでオペレーションが増えただけという非合理的な結果になっていることも多い。

「アフターデジタル」とも言われる現代は、テクノロジーの発展によって、異業種への参入や新規サービスの開発が容易になった。業界間の境界が融けていき境目がますますなくなってきているのだ。特にIT企業がリアル店舗を持ち、リアルとデジタルを融合させた新しい取り組みをどんどん行っている。さらに、効率を考えると、店舗で買わなくてもAmazonで事足りてしまうと言っても過言ではない。だからこそ今、小売企業は自社が提供できる価値を再定義する必要があるのだ。一方で、テクノロジー導入において、特に人が関わる領域での断絶も顕著になっている。境界が融けたからなおさらその問題が浮き彫りになっているように感じる。導入前におけるシステムベンダーと企業担当者の知識の断絶、導入時における部署間のコミュニケーションの断絶、導入後における本社と現場の利害の断絶など、最初から最後まで断絶があり、そこをどうにか乗り越えないとテクノロジー導入はうまくいかないのだ。

悲劇を招く「3つの断絶」

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①知識の断絶
まずは導入前の知識の断絶。最初のITベンダーとの打ち合わせは、夢と希望に満ち溢れている。しかしシステムの要件定義、設計へと進んでいくにつれてだいたいは険悪なムードになっていく。もちろんITベンダー側にも大いに問題はあるのだが、クライアント側にはほとんどITがわからない、にも関わらずいろいろと横槍を入れてくる人は多い。そうすると最初にイメージしている未来とシステムの要件定義にギャップが出始め、さらには詰めておかなければならない要件すら忘れさられていて、受け入れの段階で気づくが時すでに遅し、なんてことになる。最近はやっと現実が見え始めた感もあるが、一時期は「AIなら何でもできる」というような誤解も多かった。筆者も「膨大なデータがあるので」と言われて行ってみると、そもそも使えないものだったり、構造化されていなかったり、教師データとなるものなどもちろんなく…ということがほとんどだった。

②部署間の断絶
次に、部署間の断絶。例えば店舗とECサイトの顧客ID・ポイントを統合するオムニチャネル化において、店舗部門とEC部門は基本的に折り合いが悪い。今でも多くの企業は売上の9割以上を店舗で稼いでいる。そんな店舗部門からすると稼いだお金を利益も生まないデジタルに投資され、しかも忙しい店舗において、「ECで注文したものを店舗で渡す」というオペレーションを追加されるなどあり得ない。そしてECで売って店舗で受け渡す場合の利益に対して、店舗部門とEC部門でどう按分するかでだいたい揉める。アプリ利用を店舗でも勧めることにインセンティブをつけるようにするなどして、ようやく店舗とECは融け始めているのが現状だ。

情報システム部とマーケティング部の断絶も酷い。こちらはお互いが無関心と言った方が良い。本来は、数字を読める合理的思考と生活者の“普通”を読めるセンスを合わせ持つマーケターがこういうテクノロジー導入にも音頭を取らなければならない。しかし現実は導入までの主導権は情報システム部で、運用はマーケティング部であることが多いのではないだろうか。そうすると情報システム部は運用の未来も見据えて機能満載のシステムを構築するが、結局システム音痴のマーケティング部が使いこなせないものが出来上がる。メール配信ツール(本来はもっと高機能だが)であるMAツールも外資系の製品を導入している企業が多いが、「導入してからすでに2年も触っていない(シナリオを変えていない)から身の丈に合ったものをもう一度導入したい」という依頼も多い。こうしたことが起きるのは、導入時にもっと各部署が話し合い、遠慮することなく意見をぶつけ合うことが少ないことに起因する。詳しくないからと他部署に任せっぱなしにしても、結局は自分のためにも会社のためにもならないのだ。

③本社と現場の断絶
そして三つ目の本社と現場の断絶についてだ。企業で使われるテクノロジーの目的のほとんどはコスト削減だ。つまり省力化や省人化で、人手不足の小売業界では非常に注目されている。しかし本社と現場のITリテラシーにもギャップがあるが、それ以上に現場は今のオペレーションを回すことでいっぱいいっぱいだ。なんなら人手不足とはいえ、今のオペレーションでなんとか現場は回せている感覚を持っている。そんなところに本社から現場を無視したテクノロジーを導入されても、適応するのはなかなか難しい。しかもそれは自分たちの仕事を奪うようにも思えるテクノロジーなのだ。そうなると前述したように、導入されたけれど使われていないという状況が出来上がってしまう。

新テクノロジー導入を成功させるための、3つの提案

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では、これからの取り組みにおいてはどのようなことが必要だろうか。筆者は「WTPの促進」「マネジメント層のテクノロジーへの意識を変える」「テクノロジー導入部署・組織を独立させる」の3つを提案したい。

①WTPの促進
一つはテクノロジーはコスト削減の他に、「WTP(Willing to Payness:進んで支払わせる)」に向かう必要がある。これはテクノロジーによって付加価値を上げ、よりお金を支払ってでも行きたくなる・体験したくなるという仕組みを作ることである。小売領域では、スタッフスタートやFACY(フェイシー)などのサービスが注目されている。

スタッフスタートは、店舗のスタッフが商品を着用してEC上に写真を載せ、そのページから購入された場合はそのスタッフにインセンティブが発生するというサービスだ。

「earth music&ecology」などのブランドを擁するストライプインターナショナルは2019年10月にスタッフスタートを導入。同社のECサイト「STRIPE CLUB」で各ショップ店員のコーディネートを提案する

平日日中は人がいない時間の多い店舗だからこそ、その間にECでも営業してしまおうという考えである。スタッフ個人にファンがついている場合も多く、スタッフとしてもそこから売れれば自分の売上になるので積極的に掲載する動機になっている。一方お客さんにとっても店舗に行かなくても、自分の馴染みのスタッフの今のおすすめを定期的に知ることができる。

FACYは、多くの店舗と生活者をつなぐアプリだ。「春に着れるカジュアルなジャケットが欲しい」とユーザーが書き込めば、該当する商品を置いているスタッフがレコメンドしてくれる。そこから商品が売れればもちろん店舗、そしてスタッフの売上となるのだ。ユーザーは自分の欲しい商品イメージを伝えるだけで、いろいろな店舗から提案を受けられる上に、気に入らなければ買わなくても気まずい雰囲気にはならないのだ。

FACYの利用イメージ図

②「マネジメント層のテクノロジーへの意識を変える」
次に、マネジメント層のテクノロジーへの意識を変える必要がある。一時期、カメラによって店舗内で人がどう行動しているかを調べる「人流分析」が流行ったことがあったが、その精度は(条件にもよるが)6割程度だった。マーケティングデータとしては6割でもデータが取れればいろいろなことができるはずだが、多くの利用企業は「なぜ全部のデータが取れないのか」と憤った。テクノロジーとなると途端に100%の完璧を求めるのは間違いなのだ。「テクノロジーを無駄づかいする」くらいでなければうまくいくはずがない。特に導入するテクノロジーについては、ネットワークのある他社に十分ヒアリングを行なったり、テクノロジーをきちんと評価できる企業やコンサルタントに併走してもらうったりすることが重要だ。

行動経済学によって、「人は合理的な存在である」という前提に一石を投じたように、「テクノロジーは100%正確である」という前提を壊さなければ、これからもテクノロジーと人との溝は埋まらないだろう。

③「テクノロジー導入部署・組織を独立させる」
三つ目は、テクノロジーを導入する部署・組織を既存のものからまったく分けてしまうことだ。デジタルトランスフォーメーションには、既存社員の利害に阻まれたり、既存のシステムとつなぐためには膨大な投資が必要だったり、人事制度が合わなかったりと、「既存」「既成概念」との相性が悪い。そのため小さく始めるためにも新しく組織を立ち上げ、システムも1から作った方が良いうえに完成までのスピードが早い場合も多いのである。セブンアンドアイホールディングスがフォーキャストという子会社を作り、中延駅にコンフォートマーケットというセルフレジの新業態を展開したように、別会社を作ってしまうなど、環境として切り離すことが重要なのだ。

小売業界の潮流はオムニチャネルからOMO(online merges with offline)へと変わってきており、さらに店舗とデジタルを融合する流れは加速している。だからと言って、やみくもにテクノロジーを導入すればいいというわけではない。「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損々」とは言うが、バズワードに踊らされることのないようにだけは気をつけたい。


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