© 2019 Kapok Knot
取材・文:6PAC
深井喜翔
Kapok Knot 代表
1日に10回以上「カポック」と発する自称カポック伝道師。2014年慶應義塾大学卒業後、ベンチャー不動産、大手繊維メーカーを経て、家業である創業72年のアパレルメーカー双葉商事株式会社に入社。
現在の大量生産、大量廃棄を前提としたアパレル業界に疑問を持っていたところ、2018年末、カポックと出会い運命を確信。KAPOK KNOT (カポックノット)のブランド構想を始める。
ありそうでなかなか無い「軽くて暖かい」アウターが新登場
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地球温暖化の影響で、夏はより一層暑く、冬はより一層寒くなっていくと言われている昨今。冬場の服装は、「何を着てもとにかく肩が凝りやすい服ばかり」と悩む人も多いだろう。「軽くて暖かい」を両立している冬場の上着は、ありそうでなかなかないものだ。筆者などは、「インナー1着+アウター1着」で済む冬服を毎年探しているのだが、どちらもまだ見つかっていない。
「たった5mmの薄さのコートにダウン並みの暖かさ」、「暖かくて着ぶくれしない新世代のコート」というキャッチコピーがやたら眩しい商品を、Makuakeというクラウドファンディングサービスで見つけた。筆者の求める「軽くて暖かい」というコンセプトも謳っている。おまけに「冬場の肩こりが気になる方にも安心」ときた。これはもう詳しい話を訊くしかないだろう。早速、自称カポック伝道師を名乗る双葉商事株式会社の深井喜翔氏に話を訊いてみた。
機能・デザイン・サステナビリティの3つからなる「オンリーワン」
深井喜翔氏
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―― カポックノットのコートは、Makuakeでの目標金額が50万円のところ、最終的に1700万円以上のサポートが集まっています。これだけ反響があったのはなぜなのでしょうか?
深井:予想以上の反響があったのは、私たちのチームにしか出来ない、機能・デザイン・サステナビリティの3つからなる「オンリーワン」のものづくりが出来たからだと思います。
カポックという素材は、木の実からとれるコットンです。木を伐採する必要がなく、カポックが生産されればされるほど、環境負荷を軽減することができる持続可能性のある素材を使用しました。また、カポックは、湿気を吸って熱を放出する吸湿発熱という機能があり、「呼吸するダウン」とも呼ばれています。この機能が、「軽くて暖かいコート」を実現しています。このサステナブルでエコなカポックを使って、北海道に工場を構えるこの道60年の職人さん率いるチームが、丁寧にコートとして仕上げてくれています。単に一つの要素でなく、これらの要素を重ね合わせたことでカポックノットはオンリーワンになりました。
―― カポックとはどんな経緯で出会ったのでしょうか?
深井:新素材についてリサーチしている時にカポックに出会い、その優れた機能を知って衝撃を受けました。しかし、リサーチを重ねると、カポックはコットンの1/8という軽さを持ちながら、その繊維の短さから糸を作ることが難しく、これまでの商品化が難航していたことも同時にわかりました。それでも、サステナビリティと機能性を兼ね備えたこの素材に惚れ込んでしまい、いてもたってもいられず、商品化の道を探ることになりました。
―― 御社がカポック事業に参入した背景にはどういった理由があるのでしょうか?
深井:双葉商事は70年以上、社会性と事業性の両立を目指していたからです。アパレルは大量生産大量廃棄を前提としたビジネスモデルになっており、コスト増にもかかわらず市場価格は変わらないという歪な構造でした。4代目として私が戻ると同時に、改めて社会性と事業性の両立を目指した事業モデルを模索していたところに、カポックとの出会いがあり運命を感じました。
―― 「エシカルダウンカポック」というシートは、大手企業と共同開発されたそうですが、このシートは御社および共同開発先の独占的事業なのでしょうか?
深井:今後は、第三者へカポックシートを販売する事業を立ち上げる予定です。カポック綿自体は東南アジアにどこにでもあるのですが、私たちのエシカルダウンカポックは独自の基準を有します。まず、シート加工技術について独自技術があること、次にカポック農家との直接の繋がりがあること、そして独自の品質基準を有すること、これら3つの点から差別化されたシートを「エシカルダウンカポック」と呼びます。
―― カポックノットのコートには「中わた:ポリエステル60%、植物繊維(カポック)40%」という表記があります。カポック100%でないのは、どういった理由からですか?
深井:カポック100%では、その繊維の軽さと短さから、シートとして成型が出来ません。シートにしなければ、綿布団でいう打ち直し(布団の中綿を取り外し、綿をほぐしたりゴミなどを取り除いたりすることで、新品同様の状態に再生させる作業)のような作業が必要になります。リサイクルPETとカポックを混ぜ、今の技術で出来るだけカポック混率を上げたものが、ポリエステル60%:カポック40%という現状です。
―― カポックノットの「たった5mmのうすさで、ダウンの暖かさ」というキャッチコピーのように、高機能を全面に押し出した競合製品は多いかと思います、ライバルたちと比較した際、カポックノットの優位点はどこにあるのでしょうか?
深井:カポックノットの優位点は、原料にあります。今回のクラウドファンディングでは、「カポック」という素材の価値を広めるフェーズでした。今後もこのカポックが機能的で環境問題にも貢献できる素材であることを発信していきたいと思います。また繰り返しになりますが、機能・デザイン・サステナビリティの3つからくる「オンリーワン」のものづくりというポジショニングも優位点だと認識しております。
「人にも地球にも優しいブランド」を目指す
© 2019 Kapok Knot
―― ファストファッションと比べると、価格的にはブランド力が求められるのがカポックノットだと思います。ブランド化させていく上では、何を前面に出していくのでしょうか?
深井:カポックノットは「人にも地球にも優しいブランド」を目指していて、「ファッションを楽しむことがあなたの心も身体もエンパワーすることであってほしい」という願いを掲げて運営しています。
カポックという素材は冒頭でもお伝えした通り、機能面で優れていながら、環境負荷を抑えるサステナブルな素材としても非常に優れています。また、カポックのコートはアニマルフリーでもあります。
ダウンには通常、水鳥の羽が使用されています。近年では「ライブハンドピッキング」と呼ばれる、生きた水鳥から採取する非人道的な方法を行わないと表明する企業もありますが、それを表明していない企業もあります。カポックのコートはそのことを心配することもありません。それに加え、現在カポックノットは、カポックが現生するインドネシアに訪れ、現地で働く人々にも無理を強いないものづくりのできる方法を模索しています。今後はそうした企業と取引をしていこうと考えています。
大手ブランドもカポックを使用する世の中になること望んでいる
―― THE NORTH FACE、Patagonia、Columbiaといったアウトドアメーカーも、自然と共生するカポックのような素材には注目していると思います。大手ブランドがカポックを活用した商品を出してきた場合、どう対応していく予定ですか?
深井:大手ブランドがカポックを使用する世の中になることを、私も望んでいます。ただ、我々はインドネシア現地との強固な繋がりを持っており、インドネシア領事館からの支援も受けています。カポックという小さな一歩から、循環型社会を作るべく我々独自のカポック中綿を作ります。我々の目指す世界に共感していただける企業には、中綿での販売も構想にあります。我々だけでカポックを独占することが目的ではなく、世界がより良くなるための手段としてカポックが愛されると嬉しいと思っています。
―― クラウドファンディングで大成功となったカポックノットのコートの次はどういった商品展開を予定されているのでしょう?
深井:今後もカポックを使用したインナーベストやコーチジャケット、防風パーカーなどカポックの魅力や機能性を表現できる商品を予定しています。