アソビルの外観
© Akatsuki Live Entertainment Inc.
取材・文:6PAC
山岡大介
株式会社アカツキライブエンターテインメントマーケティング本部長
横浜駅直通の複合型体験エンターテインメント施設「アソビル」などを運営する株式会社アカツキライブエンターテインメント(以下、ALE)のPR・マーケティング責任者。前職はIT系ニュースサイトのアイティメディア株式会社で製造業向けメディア企画室長を担当。副業で友人とともにサバイバルゲームフィールドを運営する株式会社ASOBIBAを創業し、2018年にALEへと社名変更後、本業と副業を入れ替えて現在に至る。
モバイルゲームの開発会社がビル1棟をエンタメ施設に
メディアでは「うんこミュージアム」の話題ばかりがクローズアップされがちだが、アソビルの魅力はここだけに留まらない
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2019年3月15日、横浜駅みなみ東口通路直通の複合型体験エンターテインメントビル「アソビル」が誕生した。横浜中央郵便局別館をリノベーションしたアソビルは、日本郵政から暫定利用として建物を借り受けたアカツキライブエンターテインメント(ALE)が運営する。
屋上にはバスケやフットサルなどができるマルチスポーツコート、4階には屋内キッズテーマパークの「PuChu!」、3階にはものづくり体験ワークショップを毎日開催する「MONOTORY」とイベントスペース「STAMP HALL」、2階にはエンタメ体験のセレクトショップをテーマにした体験型コンテンツフロア「ALE-BOX」、1階にはグルメストリートの「横浜駅東口 POST STREET」、地下1階にはアミューズメントカフェ&バーラウンジの「PITCH CLUB」と、全6フロアで構成されている。中でも、2階でオープン当初から開催されていた「うんこミュージアム YOKOHAMA」は、当初予定していた7月15日までの開催期間が9月30日まで延長になるなど好評だ。
アソビル3階にある、陶芸、アクセサリー、革小物、キャンドル作りなどの「ものづくりワークショップ」が毎日行われるハンドメイド体験フロア「MONOTORY」。フロア内にはハンドメイド業界を代表する材料・道具などのメーカーによるショップも併設。同じく3階にはアート展、展示会、イベントなどを開催する多目的スペース「STAMP HALL」もある
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アカツキライブエンターテインメント(ALE)は、モバイルゲームを主力事業とする株式会社アカツキの子会社である。
アカツキグループのメイン事業は大きく分けて2つ。『八月のシンデレラナイン』や『ロマンシング サガ リ・ユニバース』といったモバイルゲームの開発・運営を手がけるモバイルゲーム事業と、アウトドアレジャーの予約サイト、サバゲーフィールド、チーズレストラン、ケータリングサービス、オーダーメイドのパーティ企画・運営など、「リアル空間でのエンタメ」という共通点以外は多種多様なサービスを展開するライブエクスペリエンス事業である。親会社であるアカツキの子会社として後者のライブエクスペリエンス事業の一翼を担っているのがALEという位置づけになる。今回はアソビルのPR・マーケティング責任者で、ALEマーケティング本部長の山岡大介氏に詳しく話を伺った。
初年度の目標来館者数200万人をたった半年で突破
2階の「ALE-BOX」は「厳選されたエンタメ体験のセレクトショップ」をコンセプトとして、常時複数の展示や体験型イベントを実施している。話題の「うんこミュージアム」もここで行われていた
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まず、ライブエクスペリエンス事業におけるアソビルの立ち位置について訊いてみたところ、「アカツキグループはエンターテインメントを提供する企業として、心を動かす体験を通じて人の心を幸せにすることを目的に、デジタル・リアル問わず人の心を動かす体験を提供しています。アソビルは、駅近で都市型の商業施設です。そのため、より気軽にエンタメに触れられる場所となっています。ALEでは、人の心を動かす体験=エンタメが、世の中にはまだまだ足りないと思っています。“ここでしか出来ない”というリアルならではの五感を使った体験を都市部で提供し、知的好奇心をくすぐることで、人々の人生をより豊かにできるのではないかと考えております。ライブエクスペリエンス事業の中においては、より身近な場所で良質なエンタメを提供したいという想いのもと、ビル丸々一棟を企画運営するという、今までにない規模でのチャレンジに取り組んでいるプロジェクトです」と、都市型エンタメの新しい形を模索する実験的要素も兼ね備えていることが伺える答えが返ってきた。
アソビルは初年度の目標来館者数200万人を目指していたが、オープンからの約半年で早くも達成している。現在も順調に推移しており、想定の2倍のペースだという。前述の「うんこミュージアム YOKOHAMA」は、当初のターゲットである若い女性層はもちろん、ファミリー層にも人気を博しており、オープンから約6カ月の間に来場者数は累計で30万人を突破している。
「うんこミュージアム」はALEと面白法人カヤックの共同企画。巨大オブジェからうんこが飛び出す「うんこ広場」、可愛くてキラキラしたうんこが並ぶ中でSNS映えする写真が撮れる「ウンスタジェニックエリア」、うんこの歴史や世界のうんこ事情を知ることができる「ウンテリジェンスエリア」、文字通りの“クソゲー”が楽しめる「ウンタラクティブエリア」という4つの空間で構成されている
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その人気から9月30日まで延長された「うんこミュージアム YOKOHAMA」だが、終了後の10月11日からは「OCEAN BY NAKED 光の深海展」を開催している。「アソビルに何度もご来場いただいても楽しんでもらえるように、コンテンツは順次入れ替わってまいります。今後も“アソビルでしかできない体験”を計画中です。3階にもイベント・アートスペースができ、より幅広い体験を提供することができるようになりました」と同氏は話す。
ALEはアソビル以外にも、秋葉原や池袋などで都市型サバゲーフィールドの「ASOBIBA」という施設を運営している。アソビルはファミリー層向け、ASOBIBAは大人向けの施設といった感じで棲み分けをしているように思える。同氏によれば、「アソビルは老若男女どんな方でも楽しめるようになっています。フロアごとにまったく異なる体験ができるため、ターゲットは年齢というよりも趣味嗜好で変わると考えています。一方、サバイバルゲームフィールドのASOBIBAは、エアガンを使用する関係上、原則として18歳未満は利用できないように設定しています。ただ、こちらも親子で楽しみたいという要望も多く、条件を設定した上で10歳以上でのゲームを企画することもあります」とのこと。
他企業や他施設とのコラボにも意欲的。クリエイターとユーザーをつなぐプラットフォームに
10月11日から2020年1月27日まで開催する「光の深海展」は、極彩色で彩られた海の中を探検し、光の海に住む生き物たちと触れ合うことによって、水族館でも海でも出会うことのできない不思議な「光の深海世界」に出会い、体験できる没入型デジタルアート展。日本に先駆けて同イベントが開催された中国・上海では、全ての大手チケット販売サイトの展覧会・演出カテゴリの人気ランキングで1位をキープしている。企画・演出・制作は遊園地やリゾートなどでのデジタルアート制作実績が豊富なネイキッド。
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インドアの複合レジャー施設という切り口で見ると、アソビルの競合として頭に浮かんだのが「ラウンドワン」だ。この点について訊ねてみると、「個別のコンテンツとしては競合する部分もありますが、アソビル全体としては競合する複合型施設があるとは考えておりません。また、アソビルはお客様に向けて体験を提供するだけではなく、クリエイターとお客様をつなぐプラットフォームとしての役割もあると考えています。ALEはクリエイターや企画者のアイデアを実現するためのプロデュースを手がける立ち位置としても取り組んでおり、その点が既存の施設とは異なると考えております」という明確な違いを語ってくれた。
先述の通り、アソビルは恒久的に運営される施設ではなく、あくまでも暫定利用(具体的な期間は非公表だが、報道発表には「事業化に支障のない期間での暫定活用」とあり、少なくとも数年は続くと思われる)である。こうした築古の建物を比較的安い値段で借り上げ、シェアオフィスや多目的コミュニティスペースなどのチャレンジングな運用を行うケースは全国的に増えているが、オフィスビルやマンションといった誰もが必要に駆られて使う用途でなく、不要不急で流行り廃りも激しいエンタメビジネスのみで一定以上の成果(売上)を上げ続けるのは簡単ではない。
アソビルの場合、結果としてうんこミュージアムのスマッシュヒットもあり、好調な滑り出しをみせているが、ALEはどんな勝算を見据えているのか。この疑問をそのまま同氏にぶつけてみると、「まさに、この課題にチャレンジしている施設になります。不動産会社のビジネスは月額いくらで貸し出す坪収益で考えるのが基本で、プラスアルファの利益を出すためには自社運営でモノやサービスを売るしかありません。でも、街全体やビル全体が“安定して稼げる事業”を狙って同じようなものばかりになってしまうと、街の構成要素に彩りがなくなってしまいます。アソビルはその課題を感じ、体験を提供するエンターテインメントビルを都市部に作ろう!という熱意を持って始めたプロジェクトです。アソビルは体験を商品に、コト消費を中核に据えた日本で初めての商業ビルです。遊休不動産となっていた空きビルを借り受け、完全自社で企画から運営までを担当していることによって実現している壮大な実験場だと考えています」と説明してくれた。
ちなみに、現在アソビルがある場所は横浜市のまちづくり計画「エキサイトよこはま22」に沿って、「ステーションオアシス地区」として再開発される予定なのだが、横浜中央郵便局別館のリノベーションなどにかかった費用や運営費用などを回収することを前提として、「再開発を想定した事業計画を立てております」とのことだ。
事業はアソビル単体で完結しない。コンテンツの横展開や他企業とのコラボにも積極姿勢
「うんこミュージアム YOKOHAMA」のヒットに伴い、8月9日にはお台場のダイバーシティ東京プラザ2階に「うんこミュージアム TOKYO」がオープンした。10月19日からは第3弾として「上海静安大悦城(上海ジョイシティ)」にもオープンし海外進出も果たす(2020年1月まで)。
個別のコンテンツだけでなく、アソビルというパッケージを他の場所でも展開する予定はないのか質問してみた。すると、「そういった展開もできるよう検討しておりますが、まずはコンテンツやフロアを横展開していくのが先行すると考えています。アソビルは複合型エンターテインメントビルとして、新しく生まれた存在だと考えており、この中でさまざまなコンテンツの企画開発やプロデュースを実験する場所として捉えています。これは当社のみが開発をしていくのではなく、他企業もエンタメコンテンツビジネスに乗り出し、様々な場所で多くの方々に“ここでしか出来ないリアルな体験”が展開されることを理想としています。また、アソビルのみならずうんこミュージアムのように、ここでしか出来ないリアルな体験コンテンツのプロデュースや横展開、もしくは人気コンテンツを横浜へカスタマイズして集約するなど、各地方の商業施設とも連携して、地域活性や遊休不動産の利活用にもつながればと考えております」という展望を語ってくれた。
同氏からは何度も「人の心を動かす体験=エンターテインメントであれば、デジタルもリアルも関係ない」という言葉が出てきた。「デジタルをリアルに、という一方通行のような考え方ではなく、その逆や融合によって、未知なるワクワクをお客様に提供すること」を目指している同社は、次にどういう一手を打ってくるのだろうか。