EVENT | 2019/08/22

「クリエイション」×「テック・サイエンス」×「ファイナンス・ビジネス」の融合で世界を変える男、田崎佑樹氏【FINDERS SESSION VOL.6】

「クリエイティブ×ビジネス」をテーマに新たなイノベーションを生むためのウェブメディア「FINDERS」では、...

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「クリエイティブ×ビジネス」をテーマに新たなイノベーションを生むためのウェブメディア「FINDERS」では、定期的にトークイベントを開催。

2月に開催したFINDERS SESSION VOL.6では、「KANDO(カンド)」CEOの田崎佑樹氏をゲストにお招きした。

ビジュアルデザインスタジオ「WOW」に所属しながら、器用でパワフルな手を持つ世界初のアバターロボット「MELTANT-α」を発表したサイボーグベンチャー「MELTIN」ではCCOを務めるほか、地球外生命の探査計画にも参画するという多才な活躍ぶりで知られる田崎氏。

今後、グローバル基準で世界を変えるテクノロジーとビジネスプランの融合について多いに語っていただいた。当日のセミナーの模様をレポートしたい。

聞き手:米田智彦 文・構成:庄司真美 写真:神保勇揮

田崎佑樹

KANDO Founder&CEO、MELTIN CCO、REAL TECH FUND Envision Manager、WOWコンセプター

クリエイション/リベラルアーツ x テクノロジー/サイエンス x ファイナンス/ビジネスを三位一体にする「Envision Design」を提唱し、テクノロジーのクリエイティブな社会実装と、人文科学を融合させる次世代文化創造を担う。Envision Design実践例として、REAL TECH FUND投資先であるサイボーグベンチャー「MELTIN」、人工培養肉ベンチャー「インテグリカルチャー」担当。そのほか、パーソナルモビリティ「WHILL」のMaaSビジョンムービーなども手掛ける。アートプロジェクトとしては、彫刻家|名和晃平氏との共同作品「洸庭」、HYUNDAIアートコミッションワーク「UNITY of MOTION」、東京工業大学地球生命研究所リサーチワーク「Enceladus」、荒木飛呂彦原画展「AURA」などがある。

田崎氏がCCOを務めるサイボーグベンチャー「MELTIN」は、器用でパワフルな手を持つ世界初のアバターロボット「MELTANT-α」を発表し、話題となった。

ビジョンを持って世界を作ることが重要な時代へ

さまざまな分野でクリエイティブを駆使してグローバルに活躍する田崎氏。子どもの頃は映画『インディ・ジョーンズ』に憧れ、考古学者や冒険家を目指していたという。そこからマヤやアステカといった古代文明に興味を持ち、やがてアメリカ・ボストンの大学に留学し、人類学を学んだという。考古学と同時に、空間デザインにも興味を持ったことから、9.11をきっかけに帰国。東京でインテリアや建築、プロダクトデザインを学ぶことに。

田崎氏がコンセプター、クリエイティブ・ディレクターを務めるビジュアルデザインスタジオ「WOW」は、テクノロジーを駆使した空間インスタレーションを展開する先鋭的なクリエイティブ集団だ。日本テレビの報道番組『NEWS ZERO』のオープニング映像をはじめ、2016年のグラミー賞授賞式でデビッド・ボウイの追悼パフォーマンスをしたレディー・ガガの顔面に映像を投影するなど、数多くの話題の作品を手がけている。

KANDO代表の田崎佑樹氏

――田崎さんは人類学や考古学、インテリアデザインや建築といったベースがあって、過去記事でも伺いましたが、ゴーギャンの絵のタイトルが活動テーマなんですよね。

田崎:はい。ポール・ゴーギャンの絵のタイトルにある通り、「我々はどこから来たのか? 我々は何者か? 我々はどこへ行くのか?」が僕の活動におけるテーマです。

人類の行く先を常にリードしてきたのは、個々人の好奇心、想像力、創造力だと考えており、特に想像力と創造力に関心があります。ベストセラーにもなった書籍『サピエンス全史』でも解説されていますが、人間社会を形成できたのは人間に想像力があり、そこから「概念」が作られたことから始まります。物質的価値がない紙幣に価値があって流通し、運用できるのは、「紙幣に経済価値がある」という概念を共有できているからです。

想像力は初期段階の人類にとってはサバイバルの手段でしたが、農業革命以降に形成されたヒエラルキー社会では、集団生活と社会自体を成り立たせる基盤でした。そして想像力は約500年前に「科学革命」に至り、劇的な変化を創り出していきます。それまで地球上の有限な資源を運用していた人類は、想像力で仮説を立て思考実験から実証実験を繰り返していくことで、未知なるエネルギーを発見したり、物質を作り出したりするようになります。つまりは「想像力」が概念だけでなく、未来を作り出す「創造力」になっていったのだと思います。

科学革命以降、人類は未来を創り出せる「科学」の基礎となる知識を貪欲に求めていきます。知識の追求にはお金がかかるため、科学と帝国主義と資本主義が、過去500年にわたり歴史を動かす最大のエンジンとなり、1500年からの500年間で、人口は14倍、生産量は240倍、エネルギー消費量は115倍にまで成長します。

この成長発展には、「個人個人が自分の利益を追求することによって、神の見えざる手に導かれるかのように社会全体の利益にもなっている」と提唱したアダム・スミスの影響が大きいですが、企業利益を追求した結果、人類は温暖化など大変な危機に直面しています。SDGs含めて「企業利益の追求」ではなく、「社会課題解決」と「経済性」を結びつける動きが世界中で活発になっていて、これはビジネスにおいても、新たなスタンダードになると思います。これまでの「企業利益の追及」から「社会課題解決型のポスト資本主義」へのシフトは大きな転換点だと考えています。

「ポスト資本主義社会」に必要な「想像」と「創造」

社会課題には、環境問題ひとつとってもさまざまな視点と知識が必要です。社会課題に取り組むには、創造力、知識、科学、テクノロジー、投資、ビジネスなどを総合的に考えを巡らせる「想像力と創造力」が必要だからです。

整理して考えると、人類の発展の根幹には「想像力と創造力」が深く関わり続けていて、「我々はどこから来たのか? 我々は何者か? 我々はどこへ行くのか?」へのひとつの回答が、「想像力と創造力」に関係していると思います。

僕自身は、WOWも含めて「表現」に活動の軸を置いてきましたが、表現と経済性を両立させるのはなかなか至難です。これは資本主義が作り上げてきた「持つもの」「持たざるもの」の二項対立であり、白か黒かを明確化させようとする「ロジック思考」にほかなりません。

脱線しますが、ロジックの語源は「ロゴス」で、「同一律」「矛盾律」「排中律」という3つの基本ルールによって働きます。同一なものしか認めない、矛盾するものや曖昧なものを認めないという、二元論をものすごく増長しやすいルールによってまとめられています。トランプ現象、ブリグジットに見る近代西洋社会の脆さは、ロゴスが持つ二元論の脆弱性がネットワーク化されたことによってポピュリズムにつながり、ギリシャ末期のデマゴーグ(扇動者)が社会を混乱に突き落とした時代に酷似しています。

でも、この世界は三次元ですし、三本の矢、三角形の構造的な丈夫さなどからもわかるように、二元論は非常に脆弱で、本当の複雑さや本質は取り出しにくい。文化かお金か?という二元論ではなく、もう一次元足すことによって、相反すると思われてきたことを同時に実現できる可能性が、ポスト資本主義にあるのではないかと考えます。そのもう一次元が、「想像力と創造力」だと思うのです。その可能性を信じられるきっかけが、リアルテックファンドとの出会いでした。

――ミドリムシのユーグレナという会社の副社長で、リアルテックファンド代表の永田暁彦さんですね。『FINDERS』の過去記事でインタビューさせていただいています。

田崎:リアルテックファンドは人類課題の解決のために、新しいテクノロジーに投資するだけでなく、メンバーそれぞれがベンチャーに入り込み、一体となってハンズオンをしてきました。そんな実装力の塊のような人たちに対して、デザインは一体何ができるのかと考えました。たとえば名和晃平さんとコラボレーションした時に感じましたが、アーティストはこれからの人のあり方や過去からの人類の英知を引き継いで更新できる力を持っていると思いますし、サイエンスにもそうした力がある。

―― KANDOとリアルテックファンドが共有するビジョンについて詳しく教えてください。

田崎:リアルテックファンドは、永田さんだけでなく構成メンバー全員が「想像力と創造力」に溢れているし、大きなビジョンを持っている。違うのはメンバーのスキルセットで、たとえば投資に強い人もいるし、ビジネス構築に強い人もいるし、サイエンスやエンジニアリングに強い人もいる。「想像力と創造力」というとアートやデザインやサイエンスの専売特許と思われがちですが、ファイナンスには未来を見通す想像力とセンスが必要だし、ビジネスには未来を作り上げていく創造力が必要で、ポスト資本主義社会においては「クリエイションと人文知」「テクノロジーとサイエンス」「ファイナンスとビジネス」が混ざり合った三位一体の世界に突入していると思います。

だからこそ、KANDOは「ENVISION Design」という「クリエイションと人文知」「テクノロジーとサイエンス」「ファイナンスとビジネス」を三位一体にして、テクノロジーの社会実装と、そのテクノロジーが受け入れられる社会提言を促す文化育成を同時に実現するために活動しています。

AIの進歩により重要視されるテクノロジーの「思考実験」

「ENVISION Design」は、サービスのプロセスとして1.思考実験、2.包括的クリエイティブ支援、3.継続的ハンズオン支援、を段階的に行います。もっとも特徴的なのは、「思考実験」というプロセスを導入していることです。

――思考実験とはなんですか?

田崎:背景にあるのは、たとえばAIが進歩する近年、アート界隈でも、いいことも悪いことも含め、AIをテーマにした議論が盛り上がりました。これはAIの社会的重要性が高まり、生活にまで定着するレベルで現実性が出てきたことにより、社会的インパクトだけでなく、人間のあり方が問われる文化的インパクトをAIが持ち得るからです。

AIとの付き合い方を考えるということは、ライフスタイルや新しい文化を考えることであり、歴史的に社会の発展段階で言えば、経済→文化→文明という発展スケールに当てはまってきます。経済的に充足すると、次に文化を作るフェイズになります。司馬遼太郎さんは、文化は地域の独自性であって、ターバンみたいに他文化に共有できないもの、文明はジーパンみたいに文化を超えて共有できるものと言っていました。

テクノロジーの行き先として、技術がもたらす社会的インパクトと、その先にある技術自体が定着した社会文化を考えていくことは、社会への浸透度を考えていくことにほかなりません。社会への浸透度を事前に考えることがなぜ重要かというと、大変な情熱と努力と資金をつぎ込んで確立した技術であっても、社会がその技術を許容できなければ、その技術は絶えてしまうからです。たとえば「遺伝子組換え表示」については、遺伝子組み換えの技術自体は変革技術であっても、組み替えた食品を食べ続けるのはいかがなものか?という懐疑的な見方が定着してしまいました。

革命的なテクノロジーであればあるほど、社会的インパクトが大きくなるので、社会側の受け入れ体制を考えておく必要がある。つまり、テクノロジーカンパニーは、「技術確立」と「社会合意形成」の両方を進める必要があり、「社会合意形成」のためには社会学、心理学、哲学を含めた「人文知=Leberal Arts」が必要なので、KANDOのサービスプロセスの一環である「思考実験」では「人文知」を融合することを提唱しています。

――具体的にはどんな順序、工程を辿るのですか?

田崎:エクセル的に事業計画を立てるのではなく、ビジョンの世界を想像力によって明らかにするところから始めます。思考実験参加者はENVISION Designに基づくクリエイション担当、人文知研究者、投資家、事業開発者、サイエンティスト、エンジニアなどです。

ビジョンの世界観はベンチャーの創設者も含めて、解像度がそんなに高い状態ではないことがほとんどです。具体的にはベンチャーが持っている革新的な技術が実際に社会実装されたときに僕らのライフスタイルはどう変わるのか?というレベルまでの解像度がなかなか高められない。この解像度を高めるのに漫画や映画や哲学など人間研究をしてきた人文知を掛け合わせることで、実際どういった社会現象や生活の変化が起こるのかを想像できるようになります。

この作業がないと、たとえばビジョンの世界観をビジュアライズするにしても具体的なシーンが描けません。一般的な事業計画やビジョンは言葉やプレゼンでは説明できても、社会実装されたときの人間の感情的な動きまでは想像できていないことがほとんです、しかし、小説やSFなど人文知はずっと思考実験の中で人間の感情にどういった揺さぶりがあるかということまで想像しきって描かれてきた。その未来世界の中で、技術がもたらすポジティブな効果と同時に、倫理的障壁や技術転用の危険性まで思考することで、ベンチャーだけでなく関わる人たち全員の未来意識が高まりチームとしての一体感を生みます。

このビジョンへの解像度が上がった状態から、バックキャストで具体的な時系列も含めて事業計画を考えます。たとえば、サイボーグベンチャー「MELTIN」の場合、実際にサイボーグ社会が実現された世界を彼らの技術をベースにして思考しました。その時、キュレーター、サイエンスメディエーター、ライターなどの人文知チームを組織して、その世界観をワークショップ的なプログラムとして実践しています。

そこでの議論は、サイボーグ化すると無限に生きられるが、最終的に人間に残るモチベーションは何か?ということでした。好奇心かもしれないとか、サイボーグ化すると脳も繋がり合う状態となって自分と他人の境界が揺らぐので、人のアイデンティティはどこに向かうのか?といった議論が交わされました。最初は抽象的な議論から始まり、それから具体的に技術開発のプロセスはどうしようとか、最大化したビジョンからバックキャストで事業計画を詰めていくイメージです。

――逆転の歴史年表のような発想ですね。

田崎:そうですね。ベンチャーが持つコアテクノロジーによりますが、長期的には20年ぐらいのタイムラインで、年ごとのTo Doをシミュレーションしていく作業ですね。20年をどういうマイルストーンで走っていくか、そのとき技術開発計画はどういった発展経路なのか? 技術と事業の発展に必要な人材はいつ確保するか? 資金調達はどのタイミングがいいのか? など、クリエイション&人文知、サイエンス&テック、ファイナンスのパワーが一箇所に揃って事業計画を立てることで、ビジョンから具体的な技術開発の発展経路や資金調達計画、事業発展の可能性が可視化できていきます。これを「右脳的事業計画」と呼んでいますが、みんなの想像力を起点にして事業計画を立てられるのです。

このビジョンを明確化し、事業構想化することで初めてベンチャーの本質的な価値が明文化され、その本質性を元に包括的なクリエイティブディレクションと実制作を行います。本質的な価値からビジョンのビジュアライズやプロダクト化を行い、結果、資金調達が加速し、さらなる研究開発、事業連携が進んで社会実装に近づいていきます。サイボーグベンチャー「MELTIN」では、20.2億円の資金調達をチーム一丸となって達成できました。

しかし、KANDOを始めた2018年から、思考実験からクリエイティブ支援まで、一貫したコンサル的業務を行ってきました。MELTINのほかにもリアルテックの投資先には、人工培養肉ベンチャー「IntegriCulture」やKANDOの案件としてパーソナルモビリティ「WHILL」などの実績ができましたが、同時に、自分自身が主体となって実際に社会を変えたいと思うようになりました。

以前のFINDERSのインタビューでも少し触れましたが、KANDOのベンチャー化を現在進めています。ビジョンは「創造力社会を作る」で、創造力は環境と人間の良き掛け合わせから生まれるという仮説のもと、環境テクノロジーと人間研究を組み合わせた研究開発機能と、ENVISION Designのコンサル機能、人文と科学を融合させる社会提言機能の三位一体によってビジョン実現を目指すべく、チームアップと構想を固めています。今年年末か年始には発表したいと考えていますので、ご興味ある方はぜひご連絡ください。

――そのときは、FINDERSでもぜひ取材させてください。今日はご登壇いただき、ありがとうございました。


KANDO