CULTURE | 2023/12/27

「女性のための大麻ライフスタイル雑誌」が描く、大麻という存在の再解釈。元『Kinfolk』メンバーが創刊した『Broccoli Magazine』編集長インタビュー

【連載】大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記(10)

大麻博物館

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「日大アメフト部」「大麻グミ」といったスキャンダラスな話題にかき消されがちですが、2023年12月6日、改正大麻取締法が国会で可決、成立したことはご存じでしょうか?報道各社が伝えているように「医療解禁」「使用罪の創設」が主な趣旨となり、2024年から施行される予定です。

長年、このテーマを追いかけてきた私たちとしては国会という場でようやく大麻というテーマが議論されたという事実に感銘を受けると共に、諸外国との小さくない温度差を感じてしまうのも正直なところです。

日本だとどうしてもアンダーグラウンド的、サブカルチャー的なイメージがつきまとう大麻ですが、例えばアメリカでは大企業が次々とこの分野に参入し、コロナ禍の際には大麻の販売薬局であるディスペンサリーがエッセンシャルジョブ(人々が日常生活を送る上でなくてはならない仕事)に指定されるなど、莫大な税収と多くの雇用を生み出す一大産業として確立した感があります。それに伴い、ビジネスやクリエィティブといった側面でも多様な試みが行われています。

アメリカでは女性編集者たちが立ち上げ、女性をターゲットにした人気の大麻専門雑誌『Broccoli Magazine』といった存在もあります。日本にもファンの多いライフスタイル誌『Kinfolk』のアートディレクターが創刊に関わり、クリーンで、明るく、ポップな誌面が受け、Instagramなどで多くのフォロワーを獲得していますが、多くの日本人が「大麻」という言葉から想起されるものと大きく異なるのではないでしょうか。創刊者であるアニヤ・チャーボノーさんにメールインタビューを行いました。

Broccoli Magazine(ブロッコリーマガジン)

上質なライフスタイル誌の代名詞となっている『Kinfolk(キンフォーク)』のアートディレクションを担当していたアニヤ・チャーボノーが2017年に創刊した大麻専門誌。オレゴン州ポートランドを拠点に、多様なアートとライフスタイルを紹介し続けている。
https://broccolimag.com
https://www.instagram.com/broccoli_mag

大麻博物館

日本人の衣食住を支えてきた「農作物としての大麻」に関する私設の小さな博物館。2001年栃木県那須に開館し、2020年一般社団法人化。資料や遺物の収集、様々な形での情報発信を行うほか、各地で講演、麻糸産み後継者養成講座などのワークショップを開催している。著作に「日本人のための大麻の教科書」(イーストプレス)「大麻という農作物 日本人の営みを支えてきた植物とその危機」「麻の葉模様 なぜ、このデザインは、八〇〇年もの間、日本人の感性に訴え続けているのか?」。日本民俗学会員。
https://twitter.com/taimahak
https://www.facebook.com/taimamuseum
https://www.instagram.com/taima_cannabis_museum

ネガティブで怖いものではなく、興味深く、美しく、思慮深いものになりうる

『Broccoli Magazine』の編集部

博物館:世界的に有名なKinfolk誌をはじめ、雑誌のフィールドで活動していたと聞いています。大麻をテーマにしたBroccoli Magazineを創刊したきっかけを教えてください。

アニヤ:アメリカの各州で大麻の合法化が始まった時、大麻という存在を再解釈し、ネガティブで怖いものではなく、興味深く、美しく、思慮深いものになりうるということを示す良いタイミングだと感じました。ファッション、アート、カルチャーなどに対して感度の高い、クリエイティブな女性たちが気軽に手に取れる美しい雑誌が必要だと思ったのです。

雑誌はアイデアと創造的な表現に満ちた特別なもので、可能性がたくさんあります。私は大麻にはさまざまなストーリーがあると信じていますし、そうしたストーリーが語られる場を提供することで、固定観念を壊したいと考えました。

博物館:Broccoli Magazineの編集部は女性だけのチームと聞いています。

アニヤ:それを最初から意図していたわけではありません。幸運なことに、Kinfolkで一緒に働いていた2人の女性と一緒にスタートすることができました。Broccoli Magazineでは性別に関係なく働けますが、コアチームは6年間同じメンバーですね。

以前、「女性特有の健康問題に伴う、痛みや身体的な困難を緩和するために、大麻をどのように利用できるか?」という内容のエッセイを発表した際は大きな反響がありました。このような問題は診断などが難しいため、多くの女性がセルフケアする方法を考えなければなりません。大麻はその方法論の一部になり得るのです。

大麻はもはや、隠す必要があるものではない

博物館:日本ではまだ、大麻というテーマが女性向けの雑誌で特集されるというような状況は想像しづらいです。読者層はどういった方が多いのでしょうか?

アニヤ:当然ですが、大麻を使用する人々といってもそれぞれ全く異なる個性を持っています。私たちは、大麻がある特定のタイプの人間や個性としか結びつかないという思い込みを取り除く手助けをしたいと思っています。私たちの読者はクリエイティブな表現を楽しみ、世界の面白いことを知りたがっている人たちだと言えると思います。

実はBroccoli Magazineに掲載する記事の中で、大麻に関するものは半分だけです。残りの半分は様々なテーマを扱っており、毎回読者を驚かせたいと思っています。最新の18号では、プラシーボ効果についての記事、セラミックパイプ職人についての記事、生物発光についてのエッセイや人工植物の歴史などについて掲載しています。

また、大麻を「美しいもの」として扱い、他の美しいアートやクリエイティブな作品と一緒に紹介しています。私たちの世界や生活の一部であり、音楽、芸術、科学、歴史などとうまく調和していることを示すことが私たちの仕事です。大麻はもはや、隠す必要があるものではないのです。

博物館:今後、取り組んでいきたい企画やテーマはありますか?

アニヤ:2024年秋、「大麻の未来」をテーマにしたフィクションをいくつか発表する予定です。作家たちに短いフィクション作品を送ってくれるよう依頼したのですが、コンピュータやロボット工学から人工記憶、コミュニケーションに至るまで、非常に興味深いストーリーが揃っていて、すべて何らかの形で大麻が関わっています。とても興味深く、楽しい話ばかりで発表するのがとても楽しみです。

また、大麻とは関係ありませんが、最近『Catnip』という猫に関する雑誌をつくりました。私は本当に猫が大好きなんです。自分たちがインスパイアされたテーマに関するプロジェクトをもっともっとつくっていくつもりですが、次に何が来るかはまだ分かりません!

より素晴らしい産業となることを期待していたが…

博物館:改めて、アメリカの大麻を取り巻く状況と日本の状況は想像以上に大きく異なっていますね。

アニヤ:大麻に対する世間の認識を変えることは、非常に難しいことです。それは現在のアメリカでも同様です。私たちが暮らす地域では合法化されているのですが、それでも人々はネガティブな思い込みをしたり、ステレオタイプな見方を信じたりします。しかし、ここ数年は大成功した起業家などであっても、大麻の使用をオープンにする人が増えています。ゆっくりですが変化は起こっています。

一方で、私たちはこの「新しい産業」が既存の産業とは異なり、より素晴らしい産業となることを期待していたのですが、他の産業と同じ道を辿ることが明らかになりつつあります。多くの大企業が参入し、数字の話ばかりになるなど、良いことばかりではありません。

より良い業界になるという夢は叶わないかもしれませんが、この業界で働く女性たちのコミュニティはとても強く、頻繁に協力し合い、支え合っています。大企業のチェーン店ではなく、近所のお店を選ぶようなもので、より直接的にお互いをサポートし合えるのです。それが希望です。私たちの雑誌は、この状況を反映しています。


大麻で町おこし?大麻博物館のとちぎ創生奮闘記